不登校とリストカット 親御さんの対応の精度が肝心です

秋も深まり、寒さが身に染みるようになってきたこの頃。皆様いかがお過ごしでしょうか。

「不登校を乗り越えるための親御さん向け勉強会」を10月25日に開催しました。今回の勉強会には、お子さんの不登校とリストカットについて悩まれているお母様が参加されました。様々なご意見を頂きましたので、ここに一部をご紹介させて頂きます。

不登校の相談 ▶︎ 学校のカウンセリングでは…

お母様は「学校のカウンセリングに行きました。すぐに解決しない事は分かっていましたが、せめて心が軽くならないかなと思っていました。しかしカウンセラーの言葉の端々から、親が悪いと責められているような感じがして辛くなり、行けなくなってしまいました。」
「主人は、子どもを追い詰めてはいけない、欲しいものを与えて本人のやりたいようにさせようという考え方で、スマホの使用時間を厳しくせず、SNSなども全て許し、好きなようにさせています。私はそこまでする事はないだろうと思うのですが、主人と喧嘩してはいけないと思い、納得はしていないものの、その状況を受け入れて過ごしています。」
等のお話を涙ぐみながら語られました。

臨床心理士 福田俊介より ▶ 90点の対応が必要

これに対し臨床心理士の福田俊介からは「お子さんにプレッシャーを与えず好きな事をさせていれば調子は良くなるかもしれません。しかし、それだけでは不安定で波があり、当てにはなりません。更にその上の、精神的に成長したというのを目指すべきです。」
「重要なのはお子さんの自主性です。不思議なもので、お子さんの“喋り方”が変わってくると自主性が伸びてきます。当センターは子どもの自主性を伸ばすのが得意です。」 「本などを読んで対応法を知っています、やっています、と仰る親御さんも多いですが、我々専門家の目から見ると、多くは60~70点の対応をしておられます。それでは大きな結果はなかなか出ません。大事なのは精度です。もし本当に80~90点の対応が出来ていれば大きな効果が出る、という事を強調しておきたいです。」
等の回答がありました。

カウンセラーやカウンセリングは「頼りにならない?」

次の質問コーナーでは、お母様から「精神科や心療内科を受診する事をためらう気持ちがあります。ここに来るのも半年かかりました。どんな先生か良く分からないのに、自分の心の問題を話すのは怖いです。」
「主人も仕事上の事でカウンセラーと関わった経験があるのですが、良くならず頼りにならない、と言っていました。」
というお話があり、公認心理師の筆者としては少し残念な気持ちになりました。

医師より ▶ 良い結果が出せるカウンセリングとは?

これに対し所長で医師の福田俊一からは「相手を尊重し、傷つけないようにカウンセリングするのは難しくありませんが、こうすれば良くなる、というのを的確に助言するのはベテランでもかなり技術のいることなのです。」
「なによりも重要なのは、その子の持ち味、性格です。性格を的確に見抜いて助言しなくては良い結果が出ません。当センターでは、カウンセリングを行う前にお子さんをしっかり分析した上で、具体的な対応をアドバイスしています。」
などという回答がありました。

朝起きられない不登校の娘 どうすればいいのでしょうか?

また「朝の起床時に、娘が『行こうと思っていたんだけど起きられなかった、今日は行くのは止めた』などと言う時があります。強く言って起こすべきでしょうか、放っておくべきでしょうか。」というご質問に対し、所長からは「どちらもお勧めしません。強く言うと、反発されこじれる可能性があります。逆に放っておくと、見放されたと思うかもしれません。そうではなくて起きたいんだけれど起きられない、理性と気分の矛盾を話題にすることです。そうする事で、気持ちを分かってくれる、となるかもしれないし、起床の話をしやすくなってくるのです。」
「お子さんの周りは義務だらけです。心配かけてはならん、勉強しなきゃ、などの義務感でがんじがらめになっているはずです。実際には何もしてないかもしれませんが、気持ちは重いのです。」

お子さんの周りは義務だらけです。心配かけてはならん、勉強しなきゃ、などの義務感でがんじがらめになっているはずです。実際には何もしてないかもしれませんが、気持ちは重いのです。

「今は、お子さんの持っている深く考えるという持ち味が上手く発揮されず、考えすぎてしんどくなっています。これを変えなくてはなりません。持ち味を理解し対応を変える事で、この流れを変える事ができるのです。努力は要りますが、これに成功すると、お子さんはとても強くなります。親御さんのここ一番の大勝負だと思って、頑張ってほしいです。」等の回答がありました。

不登校勉強会を終えて

ここに全ては紹介できませんが、今回の勉強会では長時間の質疑応答がありました。筆者は熱心にメモを取られていたお母様の姿が印象的でした。これを契機に、お子様の状況が少しでも改善されますことを心より願っています。

2024.03.05  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》公認心理師 益子玄一郎

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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