事例から紐解く
~カウンセラーと一緒に解決していく子どもの不登校~

2022年11月25日開催 不登校を乗り越えるためのカウンセリング説明会

今回の説明会でお話させていただいたのは、当センター臨床心理士の福田俊介が10か月ほど受け持っていた、不登校の高校生の男の子の事例です。

この事例を追いながら、親御さんとカウンセラーが、どのようにしてお子さんの不登校を解決していったのか、いくつかのポイントをお伝えしたいと思います。

ゆうじ君 【不登校】 高校1年生の男の子

※ゆうじ君は仮名です

母 「ゆうじ、ゲームばかりしてないで、少しは勉強しないと」
ゆうじ 「・・・」
母 「中間テスト、もう一週間切ってるよ」

ゆうじ 「うーーん・・」「生きている意味がわからない・・・」

ゆうじ君は高校に入ってしばらくすると、遅刻や欠席が目立つようになりました。

「このままだと留年になってしまいますよ」
お母さんはゆうじ君の担任の先生から、このように告げられました。

「無理やりにでも学校に行かせる」ほうがいいの?
それとも「何もせずに見守る」ほうがいいの・・・?
お母さんはゆうじ君への対応に悩みました。

「無理やりにでも学校に行かせる」ほうがいいの? それとも「何もせずに見守る」ほうがいいの・・・?

ポイント1
「見守りましょう」は解決策になるのでしょうか?

ポイント

不登校に関する記事や書籍などでは「見守りましょう」というアドバイスが書かれているものをよく目にします。
好きな事を自由にやらせていたら、やがて自然と元気になり、学校へ行けるようになるお子さんも、中にはいるでしょう。

しかし、見守っていても一向に良くなる気配がなく、そのままズルズルと休み続け、不登校を克服できないお子さんのケースが多くあります。

「見守りましょう」で学校に行ける子・行けない子 その差はなんでしょうか。
それは、お子さんの「自主性」が育っているかいないかの違いだと、当センターでは考えます。

お母さんが優しく見守っているにも関わらず、いつまでたっても学校に行けないのは、お子さんの自主性が育っていないまま年を重ねている可能性があるのです。

では、お子さんの自主性はどのようにして育ててあげたらよいのでしょうか?

母 「勉強しないなら、もうゲーム禁止だからね」

お母さんは、ゆうじ君からゲーム機を取り上げました。
ゆうじ君は何も言いません。
怒った感じで部屋に戻り、バタン!とドアを閉めました。

すると翌日、ゆうじ君はお母さんのお財布からこっそりお金を抜き、勝手に新しいゲーム機を買ってきてしまったのです。

本来は心が優しいゆうじ君です。しかし頑固なところもあり、親の言う事は全く聞きません。
家族との会話はどんどん減っていき、目に輝きがなくなりました。
そして、お母さんがあれこれ話しかけても「うん…」「いや…」など、一言二言返事をするくらいになっていました。

家の中で無気力に過ごし、自分の興味のあることしかやらないゆうじ君に、親御さん達はお手上げ状態でした。
そしてこの頃、親御さん達は当センターにアドバイスを求めて、カウンセリングを受けにやって来られました。

家の中で無気力に過ごし、自分の興味のあることしかやらないゆうじ君に、親御さん達はお 手上げ状態でした。

ポイント2
今回の説明会で会場に来られた親御さん方に、
こんな質問をさせていただきました。

ポイント

Q お子さんは家でよく喋りますか?

A 喋る・喋らない、半数くらいに分かれました

Q お子さんは喋るのが上手ですか?

A 多くの方が「いや…上手ではないかなぁ…」

Q お子さんは文句や批判を言いますか?

A 「あまり言いません」
「学校や友達の文句は言いません。家族やTVの文句は言うけれど…」
という方が多かったです

喋りはするけれど、上手には話せない、批判や文句は言わない・・・
今回、参加された方々のお子さんは、そのような子が多い印象でした。

一見、不登校の解決にはあまり関係ない質問に感じるかもしれません。
しかし、この「喋り」が、先ほど触れた「自主性を育てること」において、実はとても重要な役割を果たしているのです。

カウンセリングを元に、カウンセラーはゆうじ君の性格や行動、持ち味について細かく書き出し、どうすればこじれるのか、どうすれば伸びるのか、分析しました。
そして親御さんに対し、いくつかお願いをしました。
その一つが、このような事です。

「ゆうじ君の場合、指示をしたり正論を言う事を減らしてください」

「本当は勉強しなさいって言いたい…」「本当は先にお風呂入りなさいって言いたい…」
お母さんはそんな気持ちをぐっと抑え、別のアプローチの仕方で、ゆうじ君に接することを心がけました。

そのような日々を続けていくと、すこしずつ、小さな変化が表れます。
徐々にゆうじ君の表情に険しさがなくなってきました。
そしてある日・・・

ゆうじ 「このアイドル、絶対に売名のために○○(芸人)と付き合ったよな。普通なら絶対ないよな。腹黒いわ。自分が売れたらすぐに○○と別れるで」

携帯を見ながら、こんなことを言いました。どこかのYouTuberの発言を鵜呑みにしている感じです。

(えー、そんなことないやろ。○○はイケメンではないけど優しそうやし。それに売名行為をしたいなら、もっと売れてる芸人のほうに行くはず・・・)
お母さんはそう言いかけましたが…

「えー!そうなん?そのアイドル怖いなぁ」
お母さんはゆうじ君に話を合わせました。

・・・あぶないあぶない!正論でゆうじを否定しない!

あぶないあぶない!正論でゆうじを否定しない!

ポイント3
子どもに正論を言ってはいけないの?

ポイント

さて、会場に話を戻しましょう。

参加された親御さんから、このような質問がありました。

正論を言う事が必ずしも間違っているわけではありません。
大切なのは「うちの子の場合はどうかな?」という正確な見極めです。

人生の大事な話だけではありません。
例えば「明日は早起きする用事があるのだから今日は早くお風呂を済ませなさい」
親からの、このような小さな正論に対しても、心にグサグサと刺さってしまうお子さんもいます。

なにが大丈夫で、なにが大丈夫ではないのかは、人それぞれです。
些細な会話の中で、お子さんとの関係作りを失敗してはいないでしょうか?

カウンセラーからのアドバイスを元に、ゆうじ君への対応を変えていったお母さんは、 少しずつ自信がついてきました。

あまり喋らなかったゆうじ君が、お母さんを追いかけ、あれこれと喋りかけてくることが増えてきたからです。

「ボク、さみしがりやだから…」
そんな冗談をふざけて言う事もあります。

勉強を進んですることはまだありませんが(お母さんは内心ヒヤヒヤ…)
自分からお風呂の掃除をしたり、ごみ出しをしたりと、小さな自主性が育ち始めました。

そしてこの頃から、学校を休む回数が減ってきたのです。
徐々に部活にも顔を出せるようになりました。

カウンセラーからのアドバイスを元に、ゆうじ君への対応を変えていったお母さんは、少しずつ自信がついてきました。

ポイント4
“最初の3か月”の壁

ポイント

当センターでは、最初の3か月がカウンセリングの勝負であり、また壁でもあると考えています。

最初の3か月くらいまでは、見に見えるような大きな変化が出にくく、小さな変化があったとしても、親御さんはそれに気付けないことがほとんどです。

親御さんが小さな変化を見落としてしまうと、「効果がないのかな」「続ける意味あるのかな」などと不安になってしまい、お子さんのために頑張ろうという意欲が続かなくなってしまいます。
せっかく良い芽が出始めていても、更に伸ばすことができなければ、とてももったいないことです。

しかしカウンセラーはこのような変化を見逃しません。
小さな変化にいち早く気が付き、次の一手を考えることも、カウンセラーの役割になります。

ポイント5
自主性を育てるためのステップ

ポイント

自主性を育てるための親子の関わり方や会話の方法があります。
先ほど、参加者の親御さん方にした質問
「喋るのが上手ですか?」「批判・文句を言いますか?」
まさにこれです。
ただ、親子の会話があれば自主性が育つわけではありません。
会話の中に自主性を育てるための大切なパターンやコツがあるのです。

一か月ぶりにカウンセリングにやってきたお母さんに、なんと笑顔はありませんでした。
とても落ち込んだ様子です。
ゆうじ君の様子は、順調だったはずでは・・・?

「最近順調に学校に行けていましたが、急に無断欠席しました」

ゆうじ君は今、すっと部屋に閉じこもっているそうです。
なぜ、ゆうじ君は調子を崩してしまったのでしょうか。

すっと部屋に閉じこもっているそうです。

ポイント6
チャンスを掴む親御さん・掴めない親御さん

ポイント

お子さんが学校に行けるようになったり、調子が良くなってくると、
「もうこの子は大丈夫だな」と、とたんに油断してしまう親御さんは多いです。

一見、お子さんは元気になっているように見えますが、実はまだ成長途中の段階です。
調子は天気のように急にコロコロ変わりますし、再び学校に行けなくなることもあります。
お子さんが「元気」になっただけでは、まだまだ油断はできないのです。

親御さんは、せっかく身に着けたお子さんへの対応方法を、油断によって以前のように戻してはいけません。
お子さんと真剣に向き合う機会は、今後10年の間にまだまだあるでしょうか。
おそらく、今しかないと思います。

このタイミングにお子さんと真剣に向き合い、お子さんの力を伸ばせるだけ伸ばしておくことは、とても大切な事だと思われませんか?

チャンスを掴む・掴めないの差・・・それは、お子さんと根気強く向き合うことができるかどうかの差だと思います。

その後、親御さんたちは、緩んだ気持ちを引き締め直し、ゆうじ君との関わりを続けました。

ゆうじ君がたまに部屋からでてくる少ないチャンスを見逃さず、カウンセラーからのアドバイスを実践します。
次第にゆうじ君は、リビングに顔を出すことも多くなり、少しずつまた笑顔を見せるようになりました。

そしてある時、ゆうじ君の口から、こんな言葉も出てきました。

「お母さんもお父さんも、ちゃんと俺の話を聞いてくれる。俺は恵まれているね」

すっと部屋に閉じこもっているそうです。

現在、ゆうじ君のご家庭は当センターのカウンセリングを卒業し、ゆうじ君は元気に学校に通われているようです。

元気と不調の波の繰り返した事、お母さんの葛藤など、この事例発表では伝えきれなかったエピソードはまだまだたくさんあります。
この記事はそのほんの一部を切り取ったものではありますが、すこしでも皆様に、カウンセリングの様子をお伝えすることができれば幸いです。

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2023.02.06  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》湯浅愛美

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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