1.リストカットの子をもつ親が自ら気づく大切さ

■ 母親の質問

もうこれで娘のリストカットのカウンセリングも5回目です。おかげさまで最近夜明けごろに突然切ったとかでびっくりするようなことはなくなりました。外から帰ったら「お母さん、あのねこんなことがあったんよ」と、以前よりよく話してくれるようになりました。娘のことがよくわかるようになり、私もホッとしています。

それでもまだまだ不安定なところもあって。こないだも自分の部屋に入るなり大きな音でB’zの曲をかけたりしてびっくりしました。先日も暗い表情で「私いつも一人なんよ。なんかさびしいわ」とぽつんと言ったりして、目がはなせません。部屋にはあいかわらずカミソリもおいていますし。

先生、お願いがあります。こんな状態が続いているんですけど、カウンセリングに娘を連れてきてはだめでしょうか?自分一人であれこれ思い悩んでることがあるんじゃないかと。あの子の話しを聞いてやっていただけると、ホッとしてリストカットに走る気持ちがやわらぐのではと思うのですが?(19才の娘の母親)

■ 所長の答え

リストカットをする子は、一見明るくまじめで頑張りやさんです。「この子に限って間違ったことはしないだろう」と、親御さんは油断しがちです。しかし手首を切る子どもさんの内面は、自己否定感が強くコンプレックスのかたまりみたいなところが根っこにあります。これがどれだけ自己肯定できるようになるか、これが一つの回復の目安です。

もう一つは「娘は頑張りやさんの優秀な子」という親御さんの認識があります。しかしそういう面ばかりでしょうか?子どもはいろんな面をもっています。どこかきつい面、激しい面はないでしょうか?子どもを観察する目をしっかりと磨いてください。一度「あんた、ひょっとしてダバコでも吸ってるんとちがうの?」と聞いてみてください。まさかと思われるかもしれませんが、案外平気な顔して「うん、吸ってるで」と返事が返ってくるかもしれませんよ。それに対し「えー、あんたみたいな良い子が、そんなことして。まだ未成年やないの」と怒るのではなく、娘は「頑張りやさんの優秀な子」という顔だけでなくルールから逸脱する面も持ちあわせてるんやな」と、認識を改めてください。

たしかに娘さんは「なんかさびしいわ」と、お母さんに弱音を吐くようになってこられました。とても大事な前進のサインです。しかしここで娘さんをカウンセリングに連れてこられると、親御さんが「お医者さんに診てもらったから安心だわ」と、自分たちで子どもへの対応のコツを見つけようとする努力を止めてしまうことがよくあります。これが一番心配なことです。

今の所は遠回りしてでも親御さんが今までどおり子どもへの観察の目を光らせて、対応のコツに気づいていかないと。そっちのほうが遠回りしているようですが、より大切だということです。

2011.10.25  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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