お子さんの性格を認め、小さな変化を見逃さない

2023年3月28日(火)第22回「不登校を乗り越えるための親御さん向け勉強会」
~春休みを有効に過ごすために~

かけがえのないお子さんが不登校になってしまったら・・・

「どうしてこんな事になってしまったんだろう?」
「私の育て方に問題があったのだろうか?」
「本人も、どうしたら良いのか分からないようだ・・・」

不安と疑問でいっぱいになり、いろいろ情報を集めてはみるものの、何が正しいか分からない。霧の中を手探りで進まれているような感じかもしれません。

不登校に対処するには色々なポイントがありますが、今回は、「子どもの性格を認める」「小さな変化を見逃さない」という視点からお伝えしたいと思います。

中学2年生のAさんは成績優秀で学級委員を務め、友達が多い社交的な子でしたが、ある日突然、不登校になってしまいました。Aさんは「なぜか体が動かない」「自分でもどうして良いか分からない」と言います。

困り果てたお母さんが当センターに来所されました。しかし、カウンセリングが始まって3ヶ月経っても、Aさんに大きな変化が見られません。お母さんは焦りを募らせ、「本当にこれで大丈夫なんでしょうか?」と繰り返し訴えられます。最初の3ヶ月間は、目に見える大きな変化が無い場合も多く、正念場なのです。お母さんは不安に耐え、辛抱強くお子さんと向き合い続けました。

すると、徐々にですが、Aさんの会話が増えてきたのです。以前は表情が暗かったのに、家の中がパアッと明るくなる位に笑うことも。
「お母さん、ギューッとして」と甘えてきたり、「学校では学級委員とか色々やってたけど、実は緊張してたんだ」などと、自分の弱い部分を見せるようにもなってきました。

一方、性格的な事ですが、テキパキと行動し、前もってキッチリやりたいタイプのお母さんは、何事もギリギリになってしまうAさんの性格を認められずにいました。しかし、Aさんに大きな変化が見られるようになると「まだ学校に行けてないけど、この方向で良さそうだな・・・」 と思えるようになり、不安が減って楽になってきました。そうすると「自分と娘は違うんだ」と、子どもの性格を認める事ができるようになったのです。
Aさんも「私ってなんでいつもギリギリになって慌てるんだろう」と言っていたのが、「私ってこんな性格やねん」と自分を肯定できるようになってきました。

とはいうものの、Aさんは右肩上がりに良くなったわけではありません。波はありました。「なんで私、学校に行かれへんのやろ!」「学校なんてもう絶対に行かない!」などと言って親に八つ当たりしてくることもありました。しかし、お母さんは、Aさんの小さな良い変化を見逃していませんでした。

「嫌な事があっても引きずらないようになってきたな」
「自分の部屋にこもっても、割と早く出てくる・・・」
「ケンカした後、謝って仲直りを求めてきた」

不安や心配で心がいっぱいだと、小さな良い変化を見逃してしまいます。カウンセリングを継続する事で気持ちに余裕ができたお母さんは、冷静に現状を把握することができるようになっていました。

所長のQ&Aコーナーから

Q1:中学生の息子が、あまり勉強せず、ゲームばかりしています。自分から漫画やゲームの話をする事はありますが、不安に思っている事は口に出しにくいようです。ついつい「困っている事はないの?」と答えを求めるような声掛けをしてしまいますが、本人の口から不安に思っている事を上手く引き出す方法を教えて下さい。

A1:親は目先の不安に駆られて、ついつい「どうしたの?」「ちょっとは勉強した?」などと言ってしまいがちです。しかし、そうすると子供はどうしても受け身になってしまいます。これを能動的な形にもっていくのは大事業ですが、これができれば大きな成果が得られます。
努力のポイントは日常の親子の関りの中にあります。まずは「好きな事」を喋れるようにしましょう。それらをしっかり喋れるようにしていくと、登校の不安なども話せるようになってくるでしょう。
「うちの子供は良く喋るけど、不安は言えないんです」そのような場合は専門家にご相談ください。当センターでは、治療的に効果が上がる親子の対話方法についてトレーニングしています。

Q2:中2の息子が不登校で、家で勉強しています。息子は、「一度不登校になり同級生と顔を合わせづらいので、3学期は行けないが、クラス替えのある4月から行きたい」と言っていますが、これで良いのか悩んでいます。また、春休み中はどのように子供に接すれば良いでしょうか。

A2:不登校の子は、登校できない事に罪悪感を持っているものですが、休み中は罪悪感を持たずに外出しやすいので、これを活用すべきです。とにかくお子さんの話に付き合って、イベントなどを設け、ネタを作り、話が盛り上がるようにします。お子さんがある程度喋れるなら、本人のペースを崩さないように「返答の仕方」や「タイミング」を工夫してみて下さい。
4月から登校できれば良いですが、登校できなくても「行こうと思ったんだけど気持ちがついてこなかったんだね」などという会話ができれば、お子さんの罪悪感もだいぶ減るでしょう。喋りを上手く伸ばせば「学校に行こうという理性と、行きたくないという気持ちの両輪」が「学校に行こうという理性と、行きたいという気持ちの両輪」に変わり、再登校の可能性が高まるでしょう。

Q3:娘が中2になってから徐々に学校を休むようになり、友達ともやりとりが減って、あまり遊ばなくなりました。春休み中に友達と連絡を取ってくれたらと思うのですが、そのような声掛けをしても良いでしょうか。

A3:お子さんによって声掛けに対する反応は異なるので、パターンを掴むために「子供が渋る小さな頼み事を、強くお願いしてみる」とどうなるか、試されては如何でしょうか。例えば「タオルはいつもここにかけてね」とか。お願いしてみたら険悪になるのか、そうではないのか。少しずつ試してみて、子どもの特徴を掴むことはとても大事な事です。
普段は、お子さんの話題に上手く付き合い、乗った時の波を高める努力が必要です。大きく高めるためには、専門家のアドバイスもあった方が良いかもしれません。我々はお子さんの情報を元に精密なアドバイスをします。もし上手くいかなかったら、そういうことも考えてみて下さい。

最後に、参加者の皆様から頂いた感想をご紹介させて頂きます。

不登校について、自分で色々調べたりしていましたが、情報量が多くて、どれが正解か分からないままでした。説明会に参加して、本当に必要な事は何なのか、そこに至るステップまで腑に落ちる形で教えて頂いて、すごく助かりました。ケース紹介も、最初は「うちの子と違う例を聞いてもな・・・」と思っていたのですが、実際は共通するポイントが多々あって勉強になりました。
先生は「自主性を育てる」「心の成長を促す」という事を強調しておられ、子どもに対する接し方として非常に参考になりました。
お話を聴いてハッとさせられる事がありました。子どもがたくさん話をすること、話せるようになることが大切なのだと気づきました。親子の会話が大事なんだと改めて思いました。

子どもの不登校は、親にとっても非常につらいものです。しかし、正しい知識を得て、お子さんに対する適切な接し方を身につけることで、この問題に対処することができます。
今回の勉強会が、お子さんの不登校に悩まれている皆様の一助となりましたら幸いです。

2023.04.18  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》公認心理師 益子玄一郎

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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