2024年6月3日(月)
【過食症】
重症の過食症を乗り越えるための親御さん向け治療説明会を開催しました。
国立精神・神経医療研究センターによると、日本で医療機関を受診している摂食障害(拒食症・過食症)患者は、1年間に21〜24万人とされています。さらに、治療を受けたことがない方や治療を中断している方がたくさんいることから、治療が必要な患者数としては、40万人近くいるだろうと考えられています。(参考:国立精神・神経医療研究センターHP)
たくさん食べないと落ち着かない
無心で食べている時は、嫌なことから解放されて楽になれる
けれど、過食した直後、どうしようもない後悔に襲われて、トイレで嘔吐する
しばらくするとまた食べたくなる
本当は痩せてキレイになりたいのに
食べることと吐くことを、どうしてもやめられない…
はじめは軽いダイエットのつもりだったのに、気づいたら食べ吐きを繰り返し、ご本人の意思ではコントロール不可能な状態になってしまっていた(過食症が重症化していた)という例は、後を断ちません。
過食症は、どのような人がなりやすく、重症化してしまった場合、どのような問題が発生してくるのでしょうか。今回の過食症治療説明会では、重症化してしまった過食症に焦点をあててお話しさせていただきました。
過食症と併発しがちな、ご家族を悩ませる6つの問題点
過食症が重症化(深刻化)していくと、2次的な問題が発生してくることが多くあります。 その代表的なものを見ていきましょう。
問題1:過食症と鬱(うつ)
過食がやめられないことは、摂食障害の人たちにとってはとてもとてもプライドが傷つくことなのです。うつ病を併発してしまう方は少なくありません。うつ病とまではいかなくても、気持ちの落ち込みや自己否定感は、過食に悩む方のほとんどが経験されているでしょう。 過食症とうつはとても密接に関係しているのです。
問題2:過食症と万引き
気がつくと万引きしてしまい、警備員に捕まってしまう…というように、無意識的に万引きを繰り返してしまう場合と、食べ物が身の回りにストックされていないと落ち着かなくて万引きをしてしまう場合があります。
問題3:過食症と過度な美容整形
度重なる過食で太ってしまったり、極端に自分の体形(お腹の脂肪など)を気にしたりする方が陥りやすい問題です。美容整形を何度繰り返しても満足できず、歯止めが効かなくなってしまう場合もあります。
問題4:過食症とお金の無心
食べるものの質に強いこだわりがあり高級な食材ばかりを好んで食べていたり、自分では過食費用を賄いきれなくなった方が陥りやすい問題です。 過食費用として月に70万円を使ってしまう方もいます。
問題5:過食症と家庭内暴力
やめられない過食嘔吐や増えてしまった体重への罪悪感やイライラから逃れたい気持ちの強い方が陥りやすい問題です。
問題6:過食症とひきこもり
過食症が深刻化するにつれ、家族関係に歪みが生まれてくることが多くあります(詳細については問題8をご覧ください)。家族に対して心を閉ざし、同じ家に住みながらご家族とは顔を合わせないように部屋にひきこもり、部屋の中で過食する。家族が寝静まったタイミングで部屋から出て、夜中に冷蔵庫を漁る…という方もおられます。
問題7:過食症と自殺企図(じさつきと)
過食嘔吐がやめられないことへの自己否定感の強まりから自暴自棄になったり、うつ病などの精神疾患が原因となったり。自殺という言葉が頭をよぎり、行動にうつしてしまうきっかけや理由はさまざまですが、過食症の重症度が深まるにつれ、このようなリスクの発生も少なからずあります。
問題8:過食症と家庭崩壊
食欲のコントロールがままならないことに、クライアントの人たちはものすごい絶望とイラつきを感じています。その矛先が、同居している親御さんに向いたりするのです。
家族関係の問題ではないのに、家族が壊れてしまう場合もあります。
・「お母さんのせいで私は太った!」
→ 過食症の子どもさんから、「ヘルシーな料理を作ってほしい」と要求されることはよくあることです。お母さんが一生懸命子どもさんの要望通りの料理を作ったとしても、思い通りに痩せることができなければ、「太ったのはお母さんのせいだ!」と一方的に責められてしまうケースも少なくありません。
・「お母さんが食べ物を買ってくるから、私の過食が止まらない!」
→ 子どもさんの目につかないところに家族の食べ物を片付け、過食防止に努めていたとしても、それを見つけて過食してしまった場合、「自分が過食してしまったのは、食べ物を買って来た人のせいだ!」と怒り狂うというケースもあります。
このように、ご家族に対して理不尽にふるまったり、無理難題を言ってきたりする傾向があるのも、過食症の特徴の一つです。過食の衝動をうまくコントロールできないことへの怒りや罪悪感など、自分では抑えきれなくなってしまった感情をぶつけられ、苦しんでおられる親御さんは少なくないのではないでしょうか。
この症状は、過食症が重症化(深刻化)すればするほど理不尽さに拍車がかかってくることが多く、家族の絆に大きな影響を与えます。最悪の場合、家庭が崩壊し、修復不可能な状態になってしまうことさえあります。
【精神科医の視点】どうして無理難題を言ってくるのか?
所長で精神科医の福田俊一によると、過食症になりやすい人は、もともと周囲の人に気を使いすぎて本来の自分を出せない毎日を送って来た人が多いのだそうです。きっと、元は平和主義の優しい性格の人なのでしょう。けれども、そんな優しい性格の人でも心に荒波が立たないわけではありません。
過食を繰り返し、痩せることに失敗し続けているという挫折感や苛立ちで、
心がどんどん荒れてしまう
↓
自分の中のとても辛い気持ちを周囲の人にわかってもらいたいけれども、
もともと自己主張を抑えた生活を送ってきたので、
上手に自分の辛い気持ちを表現することができない
↓
気持ちが伝わらないから余計に心が荒れてしまう
過食もどんどんやめられなくなっていく…
↓
結果、人が変わったように荒れ始めてしまい
親御さんに無理難題を突きつけるようになってしまう
彼女たちは、強く自己主張することに慣れていないために
周りがとても受け止めにくいボールを投げてしまったりするのです
ご本人自身が、望んで荒れているわけではありません。
過食してしまったことへの罪悪感や自分の辛い気持ちを上手に表現できないもどかしさや苛立ちが強いストレスとなって、ご本人がコントロールできないほど心が荒れてしまい、ご家族に対して理不尽な言動や行動となって現れているのです。
【精神科医の視点】心の基盤を育てることで、過食症や併発してしまった問題を解決する
けれど、荒れてしまった心も少しずつケアしていけば、ストレスに上手に対応できるように成長させることは可能です。ストレスに上手に対応できるようになるために何が必要か?
大切なのは、揺るぎない心の基盤を持つ(育てる)こと
右と左、どちらが強い木に見えるでしょう?
※地上に出ている木の部分は全く同じ色・同じ大きさです
人の心を木に例えてみると、心の基盤は根っこの部分にあたります。
根の弱い木は、嵐(強いストレスなど)に耐えきれずに倒れてしまいそうですが、
地中深くにしっかりと根を張った木は、嵐に耐えることができそうですよね?
このように、強いストレスにも対応することができる安定した心の基盤を作ることが、
止められない過食行為によって心が荒れてしまった方には必要不可欠です。
心の基盤がしっかりと育ってくると、自分に自信がついてきます。狭くなっていた視野も、すこしずつ広がってきます。視野が広がると、さまざまな考え方ができるようになり、ストレスに対しても柔軟に考えたり、無理のない解決方法で発散できるようになります。
人間社会で生活している以上、ストレス自体を完全に排除することはできません。
だからこそ、ストレス源を排除することよりも、いかにストレスに上手に対応できるような心の基盤を育ててあげるかが大切なのです。
心の基盤をしっかりと育てるための第一ポイントは
お子さんの中に眠る、強い根に育つ部分を見つけること
その部分にどのように働きかけたら伸びるのかを見つけて実践することです。
当センターでは、親子の何気ない雑談にその糸口があることをしばしば経験しています。
このポイントをしっかりと押さえて実践することができると、お子さんから泥沼のような無理難題を言われる状況だけでなく、前述した問題1〜7についても改善していくことが可能ですし、過食症自体も解決へ向かっていくでしょう。
揺るぎない心の基盤を育てることは、過食症だけでなく、当センターのカウンセリング全体の根本でもあります。
それを踏まえた上で、具体的な過食症の治療方法について見ていきましょう。
カウンセリングで過食症を治療する – 一般的な治療方法 –
一般的な過食症治療の多くは、認知行動療法、対人関係療法などの方法で治療が進められます。
認知行動療法
認知(ものの受け取り方や考え方)に働きかけることで気持ちを楽にする心理療法のひとつ。
ストレスなどで固まって狭くなってしまった考えや行動を、ご本人の考え方のバランスをとってストレスに上手に対応できる心の状態へ導いていく治療方法です。
対人関係療法
対人関係に焦点を絞って治療をしていく心理療法。
過食症治療では、うつ症状を併発する方も少なくありません。そのうつ症状の発症のきっかけとなった対人関係での問題を解消し、ご本人のストレスを軽減させることで前向きな心の状態へもっていく治療方法です。
具体的には、
- 強いストレスを感じた時に、過食にはしるのではなく、散歩や瞑想、ヨガなどの新しい行動習慣を取り入れる。
- 過食を引き起こしている原因(となるストレス)は何かを考え、過食の原因となっているストレスを軽減させていく(原因となるストレスへの対処法を身につける)
などを治療の一環としている場合が多いようです。
カウンセリングで過食症を治療する – 淀屋橋心理療法センターの治療方法 –
独自の家族療法で過食症を治療
淀屋橋心理療法センターでは、悩みを抱えるご本人に直接カウンセリングを受けていただくのではなく、親御さん(もしくは配偶者の方など)に来所していただき、ご本人に対してどのように接していったら問題を解決することができるのかをお伝えしています。
「本人がカウンセリングに来なければ、治療の効果は上がらないのでは?」とおっしゃる親御さんは少なくありません。
ご本人が直接カウンセリングを受けることで効果が発揮される治療方法もあるでしょう。
けれども、当センターの治療方法では、ご本人が来所されない方が治療の効果が発揮されることが多いため、基本的には親御さんだけでカウンセリングを受けていただいています。
親御さんだけのカウンセリングでどのように治していくのか・・・
それは、客観的な視点でご本人の性格や特徴を捉えていくことからはじまります。
過食症になりやすい人の特徴とご本人の性格のクセを捉える
過食症だけでなく、さまざまな問題を解決しようとした時に、問題を抱えておられるご本人の性格の特徴を分析し理解することは、治療の効果を最大限に発揮させるためにとても重要になります。
臨床心理士の福田俊介によると、過食症(摂食障害)になりやすい人には、以下のような特徴があるのだそうです。
◆ 過食症になりやすい人の代表的な特徴 ◆
✅ 周囲の人に気を遣いすぎる(特に家族以外の人に対して)
✅ 上手に断ることができない(特に家族以外の人に対して)
✅ 沈んでしまった気持ちをずっと引きずってしまう
皆さんはどうでしょうか?
3つとも該当するという方は、日々の生活に生きづらさを感じておられませんか?
過食症でなかったとしても、生きづらさを感じながらの毎日はとてもストレスを感じることでしょう。生きづらさを改善することは、日々のストレスを軽減し、自分らしくイキイキと生きていくためにとても大切です。
実は“生きづらさの改善”は過食症治療においても、とても効果的な治療方法の一つなのですが、残念ながら、“生きづらさを改善する”ことで“過食症を治していく”治療方法はあまり知られていません。
生きづらさの改善に着目して、カウンセリングを進めていく治療方法は、当センターの最大の特徴です。
「痩せて綺麗になりたい!」強い成長意欲のエネルギーを“痩せる”以外にも分散させる
また、「“痩せることへの強いこだわり”を持っている過食症の人たちですが、言い換えると、自分を成長させようとする強いエネルギーを持っているとも言えます」と所長の福田は言います。
何かに強い情熱を注ぐことができるエネルギー。
そのエネルギー自体はとても素晴らしいものなのです。
ただ、今は“痩せる”ことへの情熱の向け方が極端になってしまっているだけ。“痩せる”ことだけにこだわりすぎていると、どうしても視野が狭くなってしまう。視野が狭くなると、余計に“痩せる”ことしか見えなくなってしまい、抜け出したくても簡単に抜け出せなくなってしまいます。
「素敵な自分に成長したい!」という強いエネルギーを、痩せることにだけ向けているのはとても勿体無いことだと思いませんか?
痩せることへ極端に向いてしまったエネルギーの注ぎ方を、痩せる以外の他の方向にも分散させていき、自分の中にあるエネルギーの上手な使い方を自然な形で身につけていく。少しずつ痩せる以外のことへも興味を持つことができたなら、狭くなっていた視野も少しずつ広げることができます。
「痩せること以外でも、私(僕)は輝くことができるんだ!」と
小さな自信が少しずつ増えていく(視野が広がる)
↓
痩せること以外で自信がついてくると、
極端に痩せることへこだわらなくなる
(過食嘔吐の回数が減ってくる)
↓
痩せることへのこだわりが弱くなっていき、
ご本人の自信がどんどん増えていくことで
気がついたら過食嘔吐しなくなっていた
当センターの過食症治療では、このような流れで過食症が治っていきます。
カウンセリングで“生きづらさ”と“痩せることへの強いこだわり”を軽減させることで過食症を治していく
「素敵な自分になりたい」と見た目や体型を気にすることは、誰しもが心のどこかには秘めているもの。「痩せたい」と思うこと自体は異常なことではありません。
当センターでは、過食症の完治 = 痩せたい気持ちを全て捨て去ることとは捉えていません。
ご本人の痩せたい気持ちや綺麗になりたい気持ちは尊重しつつ、“生きづらさ”と“痩せることへの強いこだわり”を軽減していくことで、過食症の治療を進めていきます。
過食症治療は決して簡単なものではありません。
文章で書いてしまうと、どうしても簡単なように見えてしまいますが、治療を継続し、完治させるには、ご家族の強い気持ちが必要不可欠です。
どのようにお子さんに接していけば過食症は治っていくのか。
何が効果的で、何が問題なのかは、お子さんひとり一人に答えが異なります。
当センターでは、そんなお子さんひとり一人の性格に合った治療方法を、親御さんにお伝えできるように日々努力を重ねております。
また、定期的に開催しております親御さん向け過食症治療説明会では、当センターで回復された事例をご紹介しながら、過食症治療をする上で大切なことや、お子さんの性格に合った治療方法とは何なのか、親御さんはどうすればいいのかをお伝えしています。
治療説明会には、食事のコントロールや認知行動療法など、さまざまな治療方法を子どもさんに試されてもうまくいかなかった親御さん、子どもさんの過食症を治したいけれど、どんな治療方法が合っているのか悩んでおられる親御さん、さまざまなお悩みを抱えた親御さんにご参加いただいております。
先ほどもお伝えしたとおり、お子さんひとり一人に治療方法は異なりますので、残念ながら、過食症治療説明会のみでお子さんひとり一人の過食症完治までの道筋をお伝えすることはできません。
ですが、少しでも親御さんの不安な気持ちが軽くなるように、お子さんのためにできることを何か一つでもお伝えできるようにカウンセラーとスタッフで日々試行錯誤しております!
大切なお子さんのために、何をしてあげられるのか。
私たちと一緒に考えてみませんか?
過食症を乗り越えるための治療説明会のご案内
『過食症を乗り越えるための治療説明会』は、定期的に開催しています。
開催の日程などの詳しいお知らせは、HPや淀屋橋心理療法センター公式LINEでお知らせいたしますので、登録していただけると便利です。淀屋橋心理療法センター公式LINEでは、その他さまざまな講演会のお知らせや、HP最新記事のお知らせなども配信しております。
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◆ 【摂食障害】著書のご紹介 ◆
淀屋橋心理療法センターの所長であり、医師の福田俊一の著書をご紹介します。数多くの臨床経験から、摂食障害を克服するヒントをお伝えしています。治療説明会に来られる方からも「本を読みました」と、嬉しいご感想などもいただいています。
タイトル
概要
摂食障害(過食症・拒食症)の背景には、母と娘の愛憎ドラマが多く見られます。二人がカウンセラーの導きや父親のサポートを得て葛藤を乗り越え、分かりあい支えあう関係に生まれ変わることで、驚くほど症状は良くなっていきます。 本書では、こじれる前の初期段階の事例から始まり、早く手を打てば良くなる段階の事例、そして長期化していても克服できることを示す事例を紹介し、症状レベルに合わせた適切な対応やアドバイスをまとめています。長い年月摂食障害にかかっていても、治る可能性は十分にあるのです。
タイトル
克服できる過食症・拒食症―こじれて長期化した過食症・拒食症でも治る道はある
概要
「あきらめたらあかん!過食症・拒食症にかかったことは、自分の本質に気づき、能力を伸ばすチャンス!」。あくまで前向きに、本人の可能性や家族の力を信頼し、治療を進めていくセラピストたち。「両親のみでも治療をスタートできる」という画期的な治療を行ない、重症化した数多くの患者を快方へと向かわせている。新たな治療の可能性を示した、本人、家族、治療関係者必読の書。
タイトル
概要
「子どもがやせ衰えていく」「娘がかくれて盗み食いを」「食べ出したら自分でも止められない」。過食症・拒食症を抱える本人とその家族の悩みは深い。一見簡単にコントロールできそうなこの問題は、実は本人の生きづらさ・自分さがしというこころの深層に根を張る、成長の節目に待ち受ける落とし穴。本人と家族がともにその節目を乗り越え、新しい自分になって歩き出すために、本人と家族のもつ力を信じ、支える家族療法。