命にかかわるの?家庭崩壊?過食症が重症化すると起こる問題

命にかかわるの?家庭崩壊?過食症が重症化すると起こる問題

摂食障害は、極端な食事制限によって著しく体重が減少してしまう拒食症(神経性やせ症)と、むちゃ喰いと体重増加を防ぐための代償行為(嘔吐や下剤の乱用など)を繰り返す過食症(神経性過食症)の2つに大きく分けられます。

拒食症は“重症化すると命の危険がある”ということは、多くの方がご存知でしょう。 しかし、過食症が重症化するとどんなことが起こるのか、はっきり答えられられる方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。

今回は、拒食症の重症化に比べて、あまり注目されていない過食症の重症化にスポットをあててお話します。

過食症が進行する(重症に向かう)ことで起こる問題

過食をコントロールすることに心が支配されてしまい、日常生活に支障が出る

過食症は、むちゃ喰いしたい衝動との闘いに負けてしまっている状態です。
そして、むちゃ喰いしてしまった後、その行動を深く後悔し、下剤を乱用したり、無理やり嘔吐したり、たくさん食べてしまったことを何とか帳消しにしようと代償行為をやめられない場合が多くあります。

むちゃ喰いの衝動は何度も何度も押し寄せてくるので、食べては吐いてのループをご本人の意思で断ち切ることはとても難しいのです。

「本当はこの負のループから抜け出したい・・でもやめられない・・・」
「どうしても食べたい、食べないとどうにかなってしまいそう・・・」
「今日もたくさん食べちゃった・・今すぐ吐かないと!」

このような気持ちに四六時中支配されてしまうと、学校や職場、友人関係や家族とのコミュニケーションなど、以前は普通にできていたことが煩わしく思えてきて、日常生活の歯車がどんどん噛み合わなくなっていってしまうのです。

鬱(うつ)

過食をやめたいのにやめられない・学校や職場、友人などの人間関係がうまくいかないなど、理由は様々ですが、過食症に悩む方の中にはうつ症状を訴える方も少なくありません。

「やる気が起こらない」
「予定を立てても間際になって急に面倒になってしまう・・・」

特に過食した翌日などはやる気が起きず、とにかく憂鬱で、自己否定も強くなる方が多くおられます。抗うつ剤などの薬を服用することで、ある程度うつ症状を抑えることはできるかもしれませんが、特に、摂食障害に伴ううつ症状の場合は、薬のみでの完治は難しいと言えます。

止められない過食への罪悪感と闘いながら、鬱々とした灰色の日々を過ごすのは、想像もできないほどに辛いことでしょう。

万引き・クレプトマニア(窃盗症)

摂食障害(主に過食症)に悩む方の中には、万引き(窃盗)がやめられなくなってしまうクレプトマニア(窃盗症)を合併する場合があります。

なぜ摂食障害がクレプトマニアに繋がるのかは、科学的には明らかになっていないようです。

「高額に膨らんでしまった食費の工面に疲れてしまって・・・」 「過食への罪悪感から解放されるため・・・」

万引きに至ってしまう理由は様々あると思いますが、当センターでは、主に2つのパターンに分けられると考えています。

パターン1:食べ物が身の回りにないと不安で仕方がなくなってしまい、万引きをしてでも食べ物を溜め込もうとする

パターン2:自分でも訳がわからないうちに万引きをしてしまっていた

パターン2で万引きを繰り返している方の場合、万引きをしているときのことを聞いても思い出せない場合が多く、「捕まらないように慎重に行動しよう」というような意識がほとんどないということも特徴の1つです。

実は、当センターに寄せられるご相談の多くが、上記2つのパターンのうち、パターン2に該当しており、ご本人も深く悩まれておられます。

おそらく、食欲のコントロールが異常な状態の中で「どうしても食べ物を手に入れたい!」という強い気持ちが、無意識のうちに行動として出てしまっているのではないでしょうか。

過食と万引き、行為自体は別物ですが、
衝動を我慢できないという点では似ている部分があるのかもしれないと、筆者は感じました。

自傷行為(リストカットなど)

リストカットは、もう頑張れないほど疲れ切っているのに、それでもなお、ご自身の限界を超えて頑張ろうとする方たちによく見られる症状です。 摂食障害の人の中にも、そういう方は一定数おられます。

食をコントロールできない自分にイライラしたり、落ち込んでいる自分を許せなかったり、そんなストレスから無意識に自分を追い詰めていってしまう中でリストカットが起こるのです。

万引き同様、「自分でも訳がわからないうちに自傷行為をしてしまっていた」というケースも非常に多く、ご本人の努力のみでリストカットを克服するのはなかなか難しいのです。しかし、お子さんの親御さんに対する不信感がひどくなく、親御さんのご協力が得られる状況であれば、カウンセラーの指導のもと、脱出できる可能性は十分あります。

過食症が重症化するとどうなってしまうのか?

過食症が重症化するとどうなってしまうのか?

過食症から生まれる、親御さんへの過度な依存

過食症がひどくなると親子関係がどんどん拗れていってしまいます。適切に対処できないままでいると、親子関係が壊れてしまう場合もあります。

原因は、お子さんのイライラや食のコントロールの失敗による落ち込み、うつ症状の悪化、万引き・自傷行為・人間関係の不和などさまざまな問題からくるご本人の自己肯定感や生き甲斐の喪失など多岐にわたります。

過食がどうしてもやめられない、他にも問題を抱えている・・・
そんな自分が嫌になってしまって家に引きこもる時間が増えたり、過食をやめられない理由を自分以外に求めようとして、その責任を親御さんに押し付けたりする中で、親御さんへの過度な依存が生まれます。

親御さんへの過度な依存とはどのようなものなのか、例を見ていきましょう。

例1:
過食症のお子さんが「パンを買ってきて」と言うので、
お子さんの好きそうな菓子パンを買ってきたお母さん。お子さんにパンを渡すと・・・

お子さん:「なんでこんなの買ってきたの!?(特定のパンの名前を出して)あのパンじゃないとダメなのに!」
お母さん:「ごめんね。あのパンは今日売り切れていたの。これも好きでしょ?」
お子さん:「あれじゃないとだめなの!今日はあれを食べたかったのに、なんで違うのを買ってくるのよ!」

口論の末、お母さんはお子さんの指定するパンを、遠くの店まで探しに行くことになってしまいました。

お子さんの気持ちや要求に一生懸命答えてあげようとするお母さんですが、
お子さんにとって、お母さんは自分のこと(気持ちや好み)をよく知っているべき存在で、自分の言うことをきくのが当たり前になってしまっているので、少しでも自分の意思と違うことをしてしまうと、許すことができません。

例2:
普段は、お子さんの目の届く範囲に食べ物を置かないように徹底しているお母さんですが、その日は来客があり、隠しておいたお菓子をこっそり出しました。
お客さんを見送った後に片付けようと部屋を不在にした隙に、お子さんがお菓子を見つけてしまい、お菓子を全て食べられてしまいます・・・

お子さん:「俺が苦しんでるのわかってるくせに、どうしてこんなところに菓子置いておいたんだよ!」
お母さん:「ごめんね・・すぐに片付けようと思っていたんだけど・・・」
お子さん:「お前のせいでまた過食した!やめられないのは全部お前のせいだ!どうしてくれるんだよ!?」
お母さん:「本当にごめんね・・」
お子さん:「お前には俺の辛さなんてわからないんだ!!!」

その後しばらく、お子さんはお母さんと口を聞かず、堰を切ったように大量の食べ物を買い込み、過食嘔吐を繰り返しました。

普段は徹底してお子さんが過食しないように協力しているお母さんですが、そのうっかりミスさえも、どうしても許せないお子さん。
自分のために小さなミスさえもしないのが当然で、失敗したら大暴れするというような様子は、お子さんが親御さんに対して過度の依存が生まれているご家庭でよく起こるトラブルです。

過食症が重症化すると、ご本人の心を蝕み親子関係を壊す

過食症が重症化すると、ご本人の心を蝕み親子関係を壊す

親御さんへの過度な依存は、特に、お子さんを助けたい一心の親御さんと、自信をなくしているお子さんとの間でおこりやすいことです。

例1.2のようなやり取りが頻繁でないのなら、バランスを崩してしまった親子関係の修復は難しくないのですが、このやりとりが頻繁に繰り返され、お子さんの中の親御さんへの不満や要求が膨れ上がり過ぎてしまうと、修復するのが困難になってしまいます。

当センターでは、親子が力を合わせて過食症を乗り切るのが最も効果的と考えておりますが、親子関係が拗れすぎると治療に時間がかかり過ぎてしまう場合も出てきます。 拗れすぎないためには、早めに手を打たなければなりません。

また、ただでさえ食のコントロールができない自分を許せないのに、うつ・クレプトマニア・自傷行為・人間関係の不和など様々な問題が起こることで、ご本人の自己肯定感や生き甲斐などはどんどん失われていきます。 自信を失い、これからの人生に光を見出せないことへの不安はどんどん膨れ上がり、ご本人の憤りや不安などが極限にまで達してしまった場合、命を絶つことを選んでしまう方もおられます。

過食症は、心が蝕まれていく病気と言っても過言ではないでしょう。

過食症を治すには何が必要か

精神科医師・所長:福田俊一、臨床心理士:福田俊介

過食症は、薬だけで治せる病ではありません。
治療のための長い時間とご本人の性格にぴたりと合った対応、過食症で悩むご本人を心から支えたいというご家族の強い気持ちがなければ、本当の意味での過食症の解決はできないと当センターでは考えています。

どのようにお子さんに接していけば過食症は治っていくのか。
何が効果的で、何が問題なのかは、お子さんひとり一人に答えが異なります。
当センターでは、そんなお子さんひとり一人の性格に合った治療方法を、親御さんにお伝えできるように日々努力を重ねております。

また、定期的に開催しております親御さん向け過食症治療説明会では、当センターで回復された事例をご紹介しながら、過食症治療をする上で大切なことや、お子さんの性格に合った治療方法とは何なのか、親御さんはどうすればいいのかをお伝えしています。

先ほどもお伝えしたとおり、お子さんひとり一人に治療方法は異なりますので、残念ながら、過食症治療説明会のみでお子さんひとり一人の過食症完治までの道筋をお伝えすることはできません。
ですが、少しでも親御さんの不安な気持ちが軽くなるように、お子さんのためにできることを何か一つでもお伝えできるようにカウンセラーとスタッフで日々試行錯誤しております!

大切なお子さんのために、何をしてあげられるのか。
私たちと一緒に考えてみませんか?

過食症治療説明会にご興味のある方はこちらをチェック

次回の過食症治療説明会は、
2024年2月16日に開催を予定しております。
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◆ 関連記事はこちらをチェック ◆

摂食障害(過食症・拒食症)
摂食障害になったのは頑張り屋の優しい女の子でした1【実話 小説】
リストカットの意外な治し方
昔は手のかからない良い子? 過食症になる人・ならない人
うつ・摂食障害の治療法「薬を使わずに治す」という選択肢

◆ 【摂食障害】著書のご紹介 ◆

淀屋橋心理療法センターの所長であり、医師の福田俊一の著書をご紹介します。数多くの臨床経験から、摂食障害を克服するヒントをお伝えしています。治療説明会に来られる方からも「本を読みました」と、嬉しいご感想などもいただいています。

母と子で克服できる摂食障害―過食症・拒食症からの解放
あらすじ

摂食障害(過食症・拒食症)の背景には、母と娘の愛憎ドラマが多く見られます。二人がカウンセラーの導きや父親のサポートを得て葛藤を乗り越え、分かりあい支えあう関係に生まれ変わることで、驚くほど症状は良くなっていきます。
本書では、こじれる前の初期段階の事例から始まり、早く手を打てば良くなる段階の事例、そして長期化していても克服できることを示す事例を紹介し、症状レベルに合わせた適切な対応やアドバイスをまとめています。長い年月摂食障害にかかっていても、治る可能性は十分にあるのです。

克服できる過食症・拒食症 こじれて長期化した過食症・拒食症でも治る道はある
あらすじ

「あきらめたらあかん!過食症・拒食症にかかったことは、自分の本質に気づき、能力を伸ばすチャンス!」。あくまで前向きに、本人の可能性や家族の力を信頼し、治療を進めていくセラピストたち。「両親のみでも治療をスタートできる」という画期的な治療を行ない、重症化した数多くの患者を快方へと向かわせている。新たな治療の可能性を示した、本人、家族、治療関係者必読の書。

過食・拒食の家族療法
あらすじ

「子どもがやせ衰えていく」「娘がかくれて盗み食いを」「食べ出したら自分でも止められない」。過食症・拒食症を抱える本人とその家族の悩みは深い。一見簡単にコントロールできそうなこの問題は、実は本人の生きづらさ・自分さがしというこころの深層に根を張る、成長の節目に待ち受ける落とし穴。本人と家族がともにその節目を乗り越え、新しい自分になって歩き出すために、本人と家族のもつ力を信じ、支える家族療法。

2024.02.03  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》原田友美

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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