<摂食障害と万引き>
7月26日(火)に『過食症を乗り越えるための親御さん向け勉強会』が行われましたので、そこで親御さんからいただいた質問を、一つご紹介したいと思います。
「娘がスーパーでお惣菜を万引きしてしまったのですが・・・」
摂食障害と万引き、実は珍しいことではありません。あるマラソン選手が摂食障害に苦しんで万引きを繰り返してしまい、何度も逮捕されたニュースを覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
その選手は「食べて吐くために万引きをした」と語っていました。体重制限が厳しいスポーツ(陸上、体操、フィギュアスケート、バレエ、柔道など)をしている人は、摂食障害を発症しやすくなると言われていて、研究が進められています。
<なぜ万引きしてしまうのか?>
所長の福田俊一が今まで出会ってきた摂食障害の患者さんのなかにも、万引きをしてしまう人達がいました。盗むものはコンビニやスーパーでパン、お弁当、お菓子などの食料品が中心でした。本人に「どうして盗んでしまうのか?」と聞いても、最もらしい答えを言えた人はいなかったそうです。「わからない」と言ったり、「覚えてない」と言ったり、黙り込んでしまったり。
なぜ万引きしてしまうのか?本人達がその理由を語ることはほとんどないため、明確なところは分かりませんが、考えられる理由はいくつかあります。そのうちの一つをご紹介します。摂食障害を発症すれば、拒食症・過食症どちらでも、人間の本能である食欲と闘い続ける状態が、ずっと続きます。特に過食症では、極限まで押さえ込んでいた食欲が、ある時爆発してしまいます。それはどんなに頑張っても止められない衝動のようなものです。
もし、スーパーにいる時に突然そういう衝動が起こってしまったら、無意識のうちに目の前の食べ物をサッと盗ってしまうかもしれません。気づいたら盗んでしまっていた、というような感じです。
その場面での本人には、見つかれば捕まってしまうという意識がないことが多く、隠れて万引きしようという姿勢はあまり見られません。傍から見れば、堂々と商品を盗っている風にも見えるでしょう。そのため、すぐに店員さんに発見される人が多いです。
また、前述のマラソン選手のように、過食嘔吐のために大量の食べ物が必要な場合もあります。『ちょっとだけ食べて終わるはずが、もう○○カロリーも食べてしまった・・・これでは体重が増えてしまう』という恐怖から、『とにかく何としてでも吐かなければならない』と考えてしまう。そして吐きやすくするためには、たくさん食べなければいけないとなり、大量の食べ物を必要としてスーパーに行き、魔が差して万引きしてしまっている。そういったことも考えられます。
<摂食障害の治療が求められる>
現在では、摂食障害の合併症状の一つとして、窃盗症(クレプトマニア)があることが分かっています。万引きをはじめとする窃盗で捕まり、刑罰を科された人のなかには、本当は摂食障害の治療が必要な人がいるのです。
もちろん、万引きは犯罪であり許されるものではありません。しかし、本人に刑罰を科すだけでは、根本的な解決には至らず、また万引きを繰り返してしまう可能性があるということを、私たちは理解しておきたいと思います。
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