摂食障害【過食症の治し方】「昔は手のかからない良い子」がなぜ?

更新日:2025.09.01
摂食障害【過食症の治し方】「昔は手のかからない良い子」がなぜ?

「過食症は、なぜこんなに治すことが難しいの?」
「大事に育ててきたつもりなのに、どうして親のことを恨むようになったの?」

淀屋橋心理療法センターに来所された親御さんの中には、このように行き詰まり、悩みを抱えている方も多くおられます。

過食症は、それを患っているお子さん本人ですら、自分のことがわからないまま苦しんでいることが多いため、親御さんが理解しがたいのも無理はありません。

今回の治療説明会レポートでは、過食症の治療にはなぜ親御さんの理解が必要なのか、また、過食症をどう捉えるかについて、お話したいと思います。

過食症の治療はなぜ親御さんの理解が重要なのか?

治療説明会を第1回目からさかのぼってみると、「過食症の正体とは何か」や、「過食症の治療には、なぜ親御さんのご協力が重要なのか」について、繰り返しお伝えしていることがわかります。

過食症はただの食べ過ぎてしまう病気でも、見た目や体重にこだわるだけの病気でもありません。もっと複雑な、心の問題が絡み合って引き起こされるものです。

淀屋橋心理療法センターでは、過食症の治療を、食生活を改善するだけの簡単なものではなく、

・親御さんの適切な協力のもとに治療をおこなえば、とてもきれいに治る可能性が高い病気である

・しかし、治すのには専門的なコツがある

このように考えています。

過食症の正体を理解する

では、なぜご家族の方に「過食症の正体」を理解してもらうことが、それほど重要なのでしょうか。

精神科医・福田俊一
精神科医・福田俊一

過食症からの回復過程では、ご本人が一人で変化していくわけではなく、最も身近な人間関係、とりわけ、家族との関係性の中で変化していくことが大切だからです。

過食症や拒食症といった摂食障害の根っこは同じ、 「やせることへの強いこだわり」 です。

・「やせてさえいれば、人生が変わる」
・「やせれば一皮むける。その逆は奈落だ」

このように思い込み、普段から食欲を敵視し、本能を抑え込もうとするのです。ところが、1日のうち23時間食欲を抑えても、1時間は食欲に負けてしまう。その1時間を悔やんで悔やんで、落ち込んでいく……これが、過食症(拒食症)の正体です。

 

しかし、根っこを理解しないまま、

・「食べ過ぎないで」
・「もっと食べなさい」
・「食べ物に執着してはダメ」

などの食をコントロールするやり方では完治までの道のりは遠く、再発の可能性もあります。

過食症の治療・対応を理解する

親御さんに求められるのは、考え方を変えさせようとしたり、食欲を止めさせようとすることではありません。

ご本人が「本当に求めているもの」……人生を変えたい・輝かせたいという思いや、本来なりたい自分の姿を、痩せることを通過しなくても見つけられるように援助すること。

それが、解決への一番の道筋です。

その道筋を作るために、淀屋橋心理療法センターでは親御さんにカウンセリングにお越しいただいています。カウンセリングによって過食症の根っこの部分が少しでもわかるようになると、お子さんのことをより身近に考えられるようになります。

すると、親御さんの治療継続のモチベーションにつながり、結果としてカウンセリングの効果も上がると考えています。

過食症をどう捉えたらよいでしょう

過食症をどう捉えたらよいでしょう

ここからは、なぜ「手のかからない良い子」だったお子さんが過食症に陥ってしまうのか、その過程についてお話しします。

【① 過食症になるまでの途中経過は、一般的な成長の通過点と変わらない】

過食症を発症すると、「食」をはじめ、物事に対するこだわりがとても強くなるケースが多く、親御さんはお子さんの事を「気難しい」、「扱うのが大変だ」と感じることがあると思います。

しかし、過食症になったお子さんは、以前からそういう性格だったのでしょうか?

過食症になる前は、

・適応力が高い
→周りに合わせるのが上手で人が何を望んでいるか気付き、相手のことを考えられる(特に家の外で)……など

・育てやすい
→不平・不満をあまり言わず、親子関係がうまくいっている、きょうだいのお世話やお手伝いを積極的にする……など

このような、親御さんにとってわりと育てやすかった性格のお子さんも多いのではないでしょうか。(もちろん、当てはまらないお子さんもいらっしゃると思いますが)

しかし思春期などを境に「自分らしく生きたい!」、「現状を変えたい!」というエネルギーが体の奥から湧き出でくるのです(※これは、成長する上で自然の流れです)。

そのエネルギーが、反抗期として形になる子もいれば、何かに打ち込むという子もいるし、
お子さんによっては、「痩せたい」という気持ちにグッと集中する方もいます。

【② 成長する人、過食症になる人、その分岐点】

自分の殻を破るエネルギーとして、「痩せたい」に打ち込むことは悪くありません。初めは、痩せることによって自分が生まれ変わった気分になり、喜びを感じるでしょう。

過食症(または拒食症)の芽が出かかっていたとしても、その気持ちを利用し、乗り越えて、自分を成長させることができればそれで良いのです。 しかし……。

【③ いつまでたっても穴に詰まって抜け出せない、それが過食症】

「痩せたい」という気持ちは、成長のための起爆剤の一部でしかないはずなのに、いつまでたっても「痩せたい」の場所に執着し、気持ちが止まっていると……。

過食症になる人は、いつまでも思春期の穴に詰まったまま、時間がストップしたようにその場にとどまり続け、成長できません。

穴に詰まっている場所の、その奥に隠れているものは何でしょうか……?

【④ 過食症という詰まった穴から、お子さんを引っ張り出す】

では、詰まっている穴からズルズルと引っ張り出すと、どんなことが起こるでしょう?

「痩せたい」のその先にある、「本当に求めているもの」がでてくるはずです。

それは、本当になりたい自分だったり、やりたい事だったり…痩せることがその方の全てではなかったことが わかるでしょう。

このことから、薬をつかって一時的に食生活や心理状態を改善しても、過食症をきれいに完治させるには、あまり効果を感じられない可能性があることがわかると思います。

食のコントロールや体型の維持だけに焦点をあて、自分自身の欲求と闘い続けていても同様です。

では、どうやって「過食症」という詰まった穴から引っ張り出していくのか、それについては、勉強会などでお会いし直接お伝えさせていただけたらと思います。

【過食症】治るための大切な順番

【過食症】治るための大切な順番

淀屋橋心理療法センター所長で精神科医の福田俊一は言います。

精神科医・福田俊一
精神科医・福田俊一

皆さんが間違えてしまいがちな事……それは順番です。

過食が治ったら……>>>「幸せになれる」「自信が持てる」ようになるわけではありません。先に幸せになり、自信を持つ。そしてその過程の中で、過食が治っていくのです。

ですから、過食克服だけにこだわってはだめなのです。過食を受け入れ、一緒に暮らしつつ、自分の幸せになれる方法を考えていくのです。

そうしているうちに、気づいたら過食がいなくなっている…そのようにして、過食症をきれいに治していきます。

「過食症になったから、自分の幸せを考え、成長できる機会を持てた。過食症になったことにも、意味があったと思える」

そこまでくることができれば、再発の可能性もなくなるでしょう。

治療説明会では、この内容の他にも臨床心理士・福田俊介による事例紹介や、 Q&Aコーナーなど、たくさんの情報を発信し、少しでも親御さん達のお力になれたら良いなと考えております。皆様、ぜひご参加ください!

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記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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