家族の力で摂食障害(拒食症、過食症)をきれいに治す

~今、家族にできること~

『摂食障害(拒食症、過食症)を治す』と聞いてイメージするのは何でしょうか?今、思い浮かんだイメージは、当事者であるご本人がカウンセリングを受けたり、病院で様々な治療を頑張ったりされるものでしたか?もちろん、それは間違いではありません。ご本人に働きかけることで道が開ける場合があります。

しかし、私たち淀屋橋心理療法センターは違います。
『摂食障害を治す』と考えると、私たちの頭に浮かぶものは『家族の力』です。
家族の、特に親御さんの力が、摂食障害を治すためには何より大切だと考えています。

一人でも多くの親御さんに、そのことを知っていただきたい。
そんな思いから、私たちは勉強会を開催しています。

暦の上では立秋を過ぎていましたが、まだまだ夏の厳しい暑さ感じる8月31日(火)に「摂食障害を乗り越える親御さん向け勉強会」を開催しました。

勉強会はまず、当センター所長で医師の福田俊一の話から始まりました。
摂食障害の内容に入る前にプロローグとして、所長の福田が精神科の世界へ飛び込み、もがき葛藤する中で、『家族療法』に出会い、非常に感銘を受けた頃の話を聞いていただきました。

痩せたい気持ちのケア

続いて、本編である摂食障害の話に進みました。
摂食障害の当事者にとって、人生の第一義的なものが痩せていることです。『痩せていない自分には価値がない』と思い、何が何でも痩せることに執着してしまう。その『痩せたい気持ち』をどうケアしていくのか。そこに治癒の鍵があるとお伝えしました。

過去を遡りますと、摂食障害(特に拒食症)は、命の危険と隣り合わせの病気でした。5人に1人が亡くなってしまう、そんな時代がありました。しかし現代では、入院治療の技術が進み、栄養療法や行動療法によって、命を落としてしまう人の数は大きく減りました。けれども、ご本人の痩せたい気持ちのケア(心のケア)までは、まだまだ十分に出来ていないことが多いのです。

では、痩せたい気持ちにどう向き合っていくのか。そのために必要なのは『家族の力』であり、特にご本人の持ち味を輝かせるために、親御さんにはご本人との関わり方を工夫していただきたいのです、と所長の福田は話しました。そして、普段の生活でご本人とどう接していけば良いのか、そのポイントについてお伝えしました。

続けて、臨床心理士の福田俊介から、当センターのカウンセリングによって摂食障害を治すことができた2つのケースが紹介されました。

どちらのケースも、親御さんのみのカウンセリングで、最後までご本人は当センターに来られることなく、摂食障害がきれいに治っています。

《ケース① 過食でうつ。仕事にかろうじて行けている20代女性》

ほぼ毎日過食してしまう社会人のAさん。毎朝辛そうな表情で出勤しますが、仕事の悩みはあまり話してくれません。当センターのカウンセリングを受けた母親が、Aさんの性格に合った対応をして下さるようになると、次第にAさんの状況に変化が現れます。職場の人間関係の悩みも少しずつ語ってくれるようになり、笑顔も増えました。しかし、その変化を見て、Aさんの過食症が治ったと安心した母親が気を抜いてしまい、再びピンチが訪れますが・・・といった内容です。

《ケース② 自分に自信が出てきて拒食症を克服した大学生》

ダイエットをきっかけに、拒食症になってしまったBさん。ご両親がカウンセリングを受け、Bさんの性格に合った対応をして下さるようになると、Bさんに変化が現れます。「私は自分を好きになれない」と言っていたBさんに、少しずつ自己肯定感が芽生え始め、失敗をあまり引きずらなくなったり、授業中に意見を言えるようになっていったのです。しかし、体重が増えるまでにはもうひと踏ん張り。親御さんが諦めてしまわないために、カウンセラーのアドバイスは・・・といった内容です。

親御さんと二人三脚で

紹介した2つのケースには、どちらも難しい局面がありました。
摂食障害を治すことは一朝一夕には出来ません。
親御さんには根気を持って、ご本人に対応いただく必要があります。

時間が経ていくなかで、親御さんに諦めの気持ちが現れてしまうこともあるでしょう。 しかし、私たちカウンセラーは親御さんと二人三脚(時には三人四脚)で、共に摂食障害の治療に向き合うパートナーである。そのことをケース紹介の最後に、臨床心理士の福田俊介からお伝えしました。

勉強会の最後には、参加された皆様から様々なご質問をいただきました。その一部をご紹介します。

《質問① 本人が他のクリニック等でカウンセリングや治療を受けている場合でも、親がカウンセリングを受けてもいいのですか?》

この質問に対しては、一般的には複数のカウンセリングを受けることは良くないとされていますが、お子さんご本人しか診ていないクリニック等であれば、当センターで親御さんがカウンセリングを受けられてもバッティングしないため、問題ありません、とお答えしました。 お子さんが入院中に、親御さんが当センターに来られているケースも少なくありません。

《質問② 拒食のあとは、過食になるのですか?》

この質問に対しては、痩せたい心のケアがきちんと出来ていたら、過食にはなりません、とお答えしました。

勉強会では親御さんが緊張されている空気が、次第に和み綻んでいく様子が見て取れました。いただいた様々な質問に対して、私たちはもちろんのこと、親御さん同士も耳を傾け考えておられました。それは日常のなかのとても貴重な時間であるように、私には感じられました。

繰り返しになりますが、摂食障害に苦しんでおられるお子さんが、この先、摂食障害に惑わされることなく、生き生き輝ける人生を送るためには、何より『家族の力』が必要です。何とかしてあげたいと悩まれている親御さん。今、お子さんのために出来ることがあります。

ご参加いただきました皆様、誠にありがとうございました。
当センターの勉強会が、皆様のお力になれたなら、大変うれしく思います。

2021.09.22  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》池尾有希子

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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