2.「過食嘔吐の回数を減らすヒントが見つかったの」

過食が止まらなくて、一日3~4回食べ吐きを繰り返している人がいる。大学三年の美佳子さん。高校時代にダイエットしたのがきっかけで、過食症に陥ってかれこれ5年になる。「食べ吐きを止めたい、けど止められない」。そんな思いに追いかけられる気がして、気持ちが安まる時がない5年間だった。

5回目のカウンセリングのとき、「私、過食嘔吐の回数をなんとか減らせないものかと考えてやってみたんですけど、それが意外によかったんです。話していいですか?」と、美佳子さんはうれしそう。

「私、お昼ごはん食べたあとだらだら過食してしまってたの。この過食をなんとか止められないものかと考えて『お昼ごはん、抜いてみようかな』って思いついたんです。そしたらお昼の過食にストップがかけられたんです。ついこないだまで一日3~4回過食嘔吐していたでしょ。もう追われて追われて、なんにもできないって感じで。お昼ごはんと過食を止めてから『えー、こんなにゆとりがあるの。あー、なんだか時間が味方になったような気がするな』って思えだしたの。こんな感じはじめて。だけどうれしい」。

「え、過食の回数減らすって、そんな口で言うほどやさしいことではないですよ。それを美佳子さんはやってるんですか。なんとえらいなー。食べたいの我慢するってつらいでしょう」と、セラピストはほめながら聞いていた。「はい、もう食べたくて、食べたくて。できるだけ食べ物を見ないようにしてます。つらい反面時間ができるうれしさもわかってきたし、お母さんも応援してくれるからなんとか続けてみようと思ってます」と、美佳子さんは笑顔で話した。

過食症の人がこんな話しをしだしたら、治る道筋を歩みだしたと言える。「時間ができるうれしさもわかってきた」と思えるのは、食べること以外に関心を寄せる余裕ができてきたという証でもある。

過食嘔吐の回数が減ってきて、お母さんも喜んでいる。「美佳子、よっくがんばってるね。お母さんでできることあったらいつでも言ってね」と、応戦してくれる。美佳子さんはそんなお母さんの対応がうれしくて、その後も頑張って昼ごはんをぬくことで過食の回数をおさえる努力を続けている。

すべての過食症の人がこのやり方で過食嘔吐を減らせるとは限らない。美佳子さんは自分でこの方法を見つけてやってみたところ、たまたまあっていたということだ。自分にあった方法を、自分で見つけていくことが過食嘔吐を減らしていくきっかけにつながることがよくある。また食べることだけを問題にして過食症を治そうとすると、なかなか難しい。他のところも変わってきて次第によくなっていくということにつながることが多い。美佳子さんの場合は母親の応援を受けて、コミュニケーションを取りながら治していったというのが改善につながったと言えよう。

2011.09.17  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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2.2.「過食嘔吐の回数を減らすヒントが見つかったの」

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