
淀屋橋心理療法センターでは、不登校やゲーム依存症、癇癪など、さまざまなお子さんの症状について、親御さんとともに理解を深める説明会を定期的に開催しています。
今回は「摂食障害を抱えるわが子にどう接したらいいのかわからない」という悩みを抱えた親御さんが集まりました。
しかし、当日はあいにくの雨模様。 開始時刻になっても参加予定の親御さんはまだ揃わず、「駐車場が見つからず少し遅れます」との連絡が入りました。
会場には、遠方から参加されたお母さんがひとり。
「よかったら、お子さんのことを聞かせてもらえますか」
臨床心理士・福田俊介のそんな一言から、この日の説明会は始まりました。
目次
1年間の入院中、親にできることはないと言われ続けた。でも本当にそうなの?(19歳の娘を持つAさん)
Aさんの娘さんは、かつて競技スポーツに打ち込み、周囲から期待される存在でした。しかし「痩せたら強くなる」というコーチの言葉をきっかけに食事を減らすようになり、いつしか歯止めが利かなくなっていたと言います。
Aさんそんな生活が1年近く続いたころ、娘さんは「寒い」と言い出して学校に行けなくなってしまいます。内科や脳神経内科を受診するものの解決には至らず、最終的に心療内科にたどり着くも診察は2カ月待ち。その間にも娘さんの体重は減り続け、もともと44キロあった体重は気づけば37キロになっていました。
Aさんお母さんは辛い決断を迫られ、娘さんは入院することになりました。
入院中は週1回・15分の面会しかできず、医師や看護師とはほとんどコミュニケーションが取れません。おまけに娘さんからは「心配されるから詳しいことは言いたくない」と言われてしまいます。詳しい状況が分からない中で、お母さんは孤立感を深めていきました。
さらに、医師から衝撃的な言葉をかけられます。
「娘さんのために親ができることはありません」と。
Aさんは耳を疑いました。
娘が苦しんでいるのに、私は何もできないの?私の何が悪かったの?
「一番辛い時に誰からもその答えをもらえなかったことが何より苦しかった」と、Aさんは話してくれました。
計1年の入院を経て、娘さんは大学進学が決まったものの、現在も十分に元気な状態とは言えません。娘さんは家に居場所がないと感じているようで、肝心の本音は話してくれないと言います。
当センターの治療説明会では、申し込み時に親御さんが気になっていることをアンケートでお聞きしています。そこで多かったのは次の事柄でした。

また、「摂食障害になったのは親のせいなのか」「育て方が悪かったのではないか」と、ご自身を責めるような問いも見られました。
しかし、摂食障害は単純に親の接し方だけで起こるものではありません。
臨床心理士・福田俊介からは、こんな視点が示されました。
臨床心理士・福田俊介摂食障害の場合、食べないことに直接アプローチしても、なかなか難しいんです。
なぜならお子さんたちは、痩せることでしか輝けないと思っているから。当センターの所長はよくこう言います。
「摂食障害の人は『痩せたら輝ける』という宗教にはまりこんだような状態です。そんな人に食べようと言っても、体重が増えるほどにはなかなか食べてくれません。」
だから私たちは別のところにアプローチします。
親子のコミュニケーションを変えることで、お子さんが抱える生きづらさに働きかけていくのです。

お子さんは学校や職場で気を使うタイプですか?
なにかを頼まれたときに断ることができますか?
何か嫌なこと、悲しいことがあったとき、気持ちの切り替えは早いほうですか?
きっと、どこかに生きづらさを抱えているのではないでしょうか。
しかし困ったことに、「あなたの生きづらさを克服しませんか」と言っても、それにも興味を持ってくれません。本人が聞きたいのは、痩せる方法、おなかがすかない方法だけです。

だから当センターでは、親子のコミュニケーションを変えることによって、お子さんの生きづらさを克服しようと考えています。
摂食障害の基本的な症状や特徴については、こちらの記事で詳しく解説しています。
拒食症のカウンセリング治療のために大切な3つの理解と4つのポイント前編
拒食症のカウンセリング治療のために大切な3つの理解と4つのポイント後編
「話を聞く」ことを意識しているけれど、アドバイスをしたら拒絶される。どう関わればいいの?(22歳の娘を持つBさん)
Aさんの話が一段落した頃、遅れて参加されたお母さんたちも会場に加わりました。
そのうちのひとり、Bさんの娘さんは22歳。過食とダイエットを繰り返し、1ヵ月の間に体重が10キロ近く変動するといいます。スイーツを大量に食べては落ち込み、落ち着いたかと思えば、お母さんの言葉が気に入らないと言って再び過食に走ってしまう、そんな日々が1年続いていました。

Bさんアドバイスをしても、しなくてもうまくいかない。
そんな行き場のなさがありました。
Bさんこの状況について、臨床心理士・福田俊介はこう説明します。
臨床心理士・福田俊介ここで重要になるのが、親御さんの“聞き方”です。長年の関わりでできた親子の会話のクセが、知らないうちにすれ違いを生んでしまうこともあります。
臨床心理士・福田俊介摂食障害を抱える人は、細かな違和感に敏感です。親の何気ない一言や対応が、子どもとの会話を閉じてしまうことがあります。
では、どう関わればいいのか。
福田は「正しい答えを出そうとする会話」ではなく、雑談を増やすことの重要性を強調します。雑談とは、単なるおしゃべりではありません。コミュニケーションの土台を作り、子どもが安心して言葉を出せるようになるための大切な関わりです。
一見すると遠回りにも思えるアプローチですが、お子さんの生きづらさを克服する入り口はそこにあると、福田は言葉に力を込めました。

雑談が増え、子どもの口数が少しずつ増えていく。
その中で、自分の気持ちや考えが言葉として出てくるようになる。
やがてそれが、主体性や「自分で決める力」につながっていくのです。
体重は戻ったけれど…。段取りを崩されることが大きなストレスになる娘(13歳の娘を持つCさん)
Bさんの話に続いて、もうひとつ別の角度から悩みを語ってくれたのがCさんでした。
Cさんの娘さんは中学1年生。2か月の入院で体重は30キロから40キロに回復し、現在は学校にも通えています。一見すると順調に回復しているように思えますが、Cさんの表情は晴れません。
CさんCさんの抱える戸惑いについて、福田はこう説明します。
臨床心理士・福田俊介摂食障害の場合は、病院とカウンセリングの両輪で支援しながら解決を目指すケースも少なくありません。
Cさんのお話から見えてきたのは、体重が戻ることと心が回復することは別だということでした。

今回の説明会では、福田が過去に担当して拒食症を克服した小学3年生の女の子の事例が紹介されました。その子には、摂食障害の子どもにしばしば見られる特徴がありました。
- 一度言い出したら聞かない
- 自分のやり方に強くこだわる
- 家では感情を出すが、外では気を使う
- いやなことがあっても言い返せず、内に溜め込む
「まるでうちの娘みたいだ」と、Cさんは大きくうなずきました。
Cさん摂食障害の人は、段取りや順番をとても大切にする傾向があります。
そのため、親が良かれと思って動いたことが、本人にとってストレスになることも少なくありません。
例えば、
「あとでやろうと思っていたことを、先にやられてしまう」
「自分のタイミングでやりたかったことを、急かされる」
こうした小さなズレが積み重なることで、関係がぎくしゃくしてしまうのです。
さらに、子どものストレスを減らしてあげたいという思いから、親がルールに合わせて動く場面が増えていくと、家庭の中のペースや判断基準が、次第に子ども中心になっていきます。
その結果、親御さんは「どう動けばいいか」を常に気にしながら過ごすようになり、親子関係の中に緊張が生まれやすくなります。
では、このような場合、親はどう関わればいいのでしょうか。
ここで出てきたのが、「仕切り」と「支配」の違いという考え方でした。
臨床心理士・福田俊介3人のお母さんは深くうなずきました。子どものストレスを減らしてあげようとしていたら、いつのまにか娘が決めたことに合わせて必死に動くようになっていたと言います。
臨床心理士・福田俊介場を仕切ること自体は、主体性のある行動です。
ただし今の状態は、自分が動くというより、周りを自分のルールに従わせる形になっていますね。
これは「仕切り」ではなく「支配」に近い状態です。
たとえば 「私がこれを片づけるから、ママはあれをお願い」と役割を分けるのは、主体的な「仕切り」です。 一方で、周りの人の行動を細かく決めてしまうのは「支配」と言えるでしょう。
大事なのは、人に負担をかけすぎない形で主体性を発揮することです。
子どもに「支配」される状態が続けば、親子の関係は緊張します。会話は必要最低限のやり取りにとどまり、雑談のような余白のあるコミュニケーションは生まれにくくなるでしょう。
反対に親子の雑談が増え、家庭が安心できる環境になると、子どもは少しずつ自分の気持ちを言葉にできるようになります。

自分の気持ちを言葉にできるようになることで、子どもは少しずつ「自分はこうしたい」と考え、行動できるようになっていきます。
【Q&A】親御さんからの具体的な質問が寄せられました
説明会の最後には、淀屋橋心理療法センター所長・精神科医の福田俊一による質疑応答が行われ、親御さんから日々の悩みに関する具体的な質問が寄せられました。ここでは、その一部を紹介します。
Q.娘が決めたルールにどこまで合わせるべき?少しでもズレると機嫌が悪くなってしまいます
「娘が、夜ご飯の時間をきっちり決めてくるんです。少しでも時間がずれると、すごく機嫌が悪くなってしまって…。こういう場合、やっぱり合わせた方がいいのでしょうか」
精神科医・福田俊一の回答Q.怒らせてしまいそうで、娘に気軽に話しかけることができません
「会話の中で私の反応が遅いだけでも娘は怒り出すことがあります。娘を怒らせてしまうのが怖くて、つい言葉を飲み込んでしまいます。」
精神科医・福田俊一の回答そうなると、雑談どころではなくなってしまいますよね。今は無理にお母さんから話をしようとしなくても大丈夫です。その状態で無理に関わろうとすると、かえって親子関係がしんどくなってしまうこともあります。
そのうえで1つの目安になるのが、「命のライン」です。生命に関わる状態であれば、親として止める必要があります。
ただ、それ以外の場面では、すべてを親が何とかしようとするのではなく、ある程度本人のやり方に任せながら関わっていく。まずはそのスタンスを取りながら、関係が途切れないことを大切にしていくことが重要です。それだけでも、十分に意味のある関わりです。
回復の土台は「雑談」にある
摂食障害のお子さんを持つ親御さんは、毎日「食べてくれるだろうか」「体重は減っていないか」という不安の中にいます。親も子も頭の中はそのことでいっぱいで、会話のたびに緊張する。そんな日々が続くと、親子の「何気ない雑談」が少なくなっていきます。
でも実は、その「何気ない雑談」こそが回復の土台なのです。 ただし、ここで言う「雑談」とは、単なるおしゃべりを指しているわけではありません。お子さんが安心して言葉を出せる関係性を育てるための関わりです。
実際の臨床現場では、「うちはよく子どもと会話しています」というご家庭でも、お子さんが主体となって話す雑談は、意外とできていないことがあります。
そう言われても、「そんな遠回りなことをしていて良いのか」「雑談なんかで本当に子どもが変わるのか」と疑問に感じる方もいるでしょう。それほどまでに、目の前の問題が切実だからです。
ただ、会話が減って親子が緊張した状態が続くと、ご家庭の中だけで解決の糸口を見つけることは難しくなっていきます。こうしたとき、第三者である専門家と一緒に関係性を見直していくことで、見えてくるものがあります。
淀屋橋心理療法センターでは、実際の親子のやり取りをもとに「どこで会話がすれ違っているのか」「どんな返し方が子どもに届きやすいのか」を具体的に整理していきます。
短い返答で終わっていた会話が、少しずつやり取りとして続くようになり、子どもが自分の気持ちを言葉にする場面が増えていく。そうした変化を重ねる中で、「どうしたいか」を自分で考え、選ぶ力が育ち、やがて体の回復へとつながっていきます。
「子どもとどう関わればいいのかわからない」「今のままでいいのか不安」
そう感じている方は、一度ご相談いただくことで、次の一歩が見えてくるかもしれません。
こちらの記事では、摂食障害を克服した事例を詳しく紹介しています。
【摂食障害克服】過食症カウンセリング体験手記| vol.1 「またみんなで食事ができるようになりたい!」
【摂食障害克服】過食症カウンセリング体験手記| vol.1 「またみんなで食事ができるようになりたい!」
同事例を担当した臨床心理士・福田俊介と、淀屋橋心理療法センター所長・医師の福田俊一による対談動画も、ぜひご覧ください。

