摂食障害【拒食症】
回復事例から見る治療法(カウンセリングとは?)
〜親御さん向け拒食症治療説明会レポート〜

摂食障害【拒食症】回復事例から見る治療法(カウンセリングとは?)〜親御さん向け拒食症治療説明会レポート〜

令和5年8月29日(火)拒食症治療説明会を開催しました。

・・・勉強会(治療説明会)開始前・・・

まず他の勉強会と違ったのは、
参加される親御さん方、誰一人として遅刻される方がいらっしゃらなかったことです。

シーンと静かな会場。
前方の席に座っていた親御さんが「見えますか?」と後ろの席の方に気を遣っている様子。
この勉強会の3日前に開催された「ゲーム依存治療説明会」の賑やかな雰囲気とは大きく異なります。

今回は参加者の中にお子さんが現在入院中という方が目立ちました。

さて、拒食症治療説明会にて、当センター所長で医師の福田俊一は言います。

「拒食症は食べないことだけが問題」という風に見えがちですが、
拒食症の人達の問題の根底には生きづらさがあります。

例えば、
周りに対して気を遣いすぎてしまう。
Noと断れない。不満を態度で示すことはできても、言葉で表現できない。怒りを長く溜め込んでしまう等々。

その生きづらさが複雑に絡み合って、異常なほど痩せることへ執着してしまった状態が摂食障害なのだと当センターは考えています。

健康のため・命のために、
食事のケアをしっかりとしなければいけないのはもちろんですが、
「なんとかして食べさせよう」という
「食べるという部分」にだけアプローチをしているのでは、
根本的な解決は難しいことがとても多いのです。

所長・医師 福田俊一

勉強会では、実際に解決した事例を発表しながら、どのようなステップを経て、拒食症の女の子が食べられるようになったのかをご説明しました。

臨床心理士福田俊介の事例発表:小学3年生の女の子エリカちゃん(仮名)の事例

<臨床心理士福田俊介の事例発表>
〜小学3年生の女の子エリカちゃん(仮名)の事例〜

エリカちゃんは身長127cm体重20kg。学校にも行けていません。
ガンコな面、気難しさも持っているのですが、
学校の先生方からの評価は「大人しくて、礼儀正しい子」だそうです。

ガンコな面、気難しさも持っている

拒食症の子への対応は簡単には身につかない

拒食症のお子さんと関わる上でコツがあります。
しかし、エリカちゃんのお母さんはそれを身に着けるのに苦労されました。
親御さんのこれまでの癖がなかなか抜けないというのもありますし、
やせ細ったわが子を目の前にして、どうしても冷静ではいられないのです。

何度もカウンセリングを重ねる中で親御さんは少しずつ、
エリカちゃんに合った対応を学んでいかれました。

エリカちゃんは笑顔が増えたり、不機嫌なことが減ってきました。
拒食症になってから、外で遊ぶのを嫌がっていたエリカちゃんが
自分からすすんで公園に出かけるようになりました。

元気になっても、スグに体重は増えない

えりかちゃんは明らかに精神的には元気になってきました。
しかし、なかなか体重が増えません。

「エリカは確かに元気になってきましたが、ご飯は相変わらずあまり食べてくれません。
この治療法で大丈夫なんでしょうか?」
と親御さんは心配になって聞かれます。

明らかに元気になってきたなあという時から3,4ヶ月たった頃、
グルメ番組を見ていて、エリカちゃんが言いました。

美味しそう

美味しそう

まだ、1日2食しか食べませんが、甘い物も食べるようになりました。
食欲を受け入れ始めたようです。

よく食べ始めた

そしてその数カ月後。
えりかちゃんが唐揚げやドーナツを食べるようになり、お母さんはびっくりされました。
20kgだった体重が27kgに戻った時、
通院していた大学病院の先生から、
「次の予約は取らず、今後は気になることがあった時だけ来て下さい」と言われました。

その後

学校にも徐々に登校できるようになりました。

しかし、登校したある日、同級生の女の子に仲間外れにされてしまいます・・・

拒食症の治療中、生きづらさを大きく克服したエリカちゃん。
一旦落ち込んだものの、彼女はここからドラマチックに成長していきます!

勉強会では、エリカちゃんがどのように成長していったのか
詳しくお話ししました。

事例に登場した女の子は小学三年生でしたが、
親御さんの対応の仕方は、
小学生でも大学生でも基本は同じです。

臨床心理士 福田俊介

<Q&Aコーナー>

Q:最近うちの娘が過去の辛かった出来事、トラウマについて語るようになりました。
現在通院している他のクリニックで心理士さんからいい傾向だと言われましたが、
その理解で合っていますか?

臨床心理士 福田俊介

A:お子さんの状況を詳しく知らないと判断しかねますが、おそらく過去の辛かった出来事をお母さんに話せるようになってるというのはいい傾向だと思われます。

2カ月、3カ月経ったときに、同じ出来事の表現が変わってきた。
例えば、怒り狂って表現していたのが、徐々に穏やかに表現するように変わってきたり、怒りを表現しながらも「こんなことに気がついた」というような、少し成長を感じられるような発言をし出したようであればお子さんは前進していると思います。

一方で、2ヶ月3ヶ月経っても、お子さんのトラウマの表現の仕方が変わらないようであれば、親御さんに話の聞き方など対応を工夫してもらう必要があるでしょう。

臨床心理士 福田俊介

最初が一番難しい

勉強会(治療説明会)の帰り際、
何人かの親御さんが、同じようなことをスタッフにおっしゃったそうです。

「現在うちの子との会話がとっても少ないので、
会話が増えたらカウンセリングに来たいと思います」

勉強会後は、スタッフ全員で振り返りの会をします。
そこで皆で話していたのが、

「会話がとても少ない状態から会話を増やす。
実はそこが一番難しいんだけどな」」

当センターの拒食症治療の視点から言わせていただくと、
会話が少ないから、相談を見送るのではなく、
“少ない会話を増やすにはどのようにしたらいいのか”から、相談して欲しいのです。

なぜなら、(治療として効果的な)会話を増やすということが、
拒食症治療で一番難しく、大切なことだからです。

会話の増やし方にも、お子さん一人一人に違ったポイントがあります。
そして、
「お子さんの拒食症をどうしたら治せるのか・・・」
と親御さんが試行錯誤されている間も、
お子さんの体重はどんどん減っていきます。

そんな中で、親御さんだけでポイントを見極めながら冷静にお子さんと接していくのは、
とても大変で難しいことではないでしょうか。

“どのようにして、治療に効果的な会話を増やしていくのか”
そのプロセスや親子の関係づくり
こそ、
当センターの“拒食症の治療”での最重要課題であり、得意とするところなのです。

もし、「会話が少ないから、もう少し子どもとの会話を増やしてからカウンセリングを受けよ う」と親御さんが思っておられるのなら、そのタイミングで1度ご相談ください。

親御さんだけで悩むよりも、解決の道が開けるかもしれません。

また、勉強会後にお答えいただいたアンケートの中から、
勉強会の感想を一部ご紹介させていただきます。

色々考えて、こんがらがっていたのが、少しシンプルになり「治らないのでは」という恐怖が少し薄れました。

お話がうかがえて良かった!です。
色々考えて、こんがらがっていたのが、少しシンプルになり
「治らないのでは」という恐怖が少し薄れました。

臨床心理士福田俊介の感想

不登校やゲーム依存など、他の勉強会(治療説明会)と違い、
拒食症治療説明会では、シーンとした緊張感が漂っています。
特に今回の治療説明会には、お子さんが低体重の為、入院中の方が何名かいらっしゃったこともあり、会場には普段より強い緊張感が漂っているのが印象的でした。

治療説明会が始まり、私が話しだしても
親御さんが「うんうん」と頷いたり、強く反応されることはあまりありませんでした。
その為、【実は、緊張しい】の私は、皆さんにちゃんと伝わってるかな?私の説明に納得がいっていないのかな?と、初めのほうは背中に汗がにじんでいました…💦

【実は、緊張しい】の私は、皆さんにちゃんと伝わってるかな?私の説明に納得がいっていないのかな?と、初めのほうは背中に汗がにじんでいました

しかし開始から5分ほど経ち、少し冷静になった頃。
よく見ると、親御さんたちは必死にメモをとられているのです。
「聞き逃さないぞ」という感じだったので、
私の説明に頷いたりしている暇がなかったのでしょう。
親御さんたちが真剣に私の話を聴いて下さっていると分かると、
落ち着いてお話することができました。

親御さんたちが真剣に私の話を聴いて下さっていると分かると、落ち着いてお話することができました。

治療説明会(勉強会)の中ほどに、休憩時間を設けています。
その際、それまでの緊張感漂う空気とは大きく異なり、
隣に座っている親御さん同士が、にこやかにお話しされていました。
親御さん達の少し安心されたような表情を見させて頂いて、
私もホッとしたり、嬉しくなりました。

治療説明会の後は、スタッフによる振返り会をしています。
「摂食障害とはどのようなものであるかという説明が少ない状態で、
事例に入ったのがあまり良くなかった」
と指摘を受けました。「本当に指摘された通りだ」と思います。
今後、事例の内容をより深く理解していただくためにより工夫していきます。

勉強会(治療説明会)の回数を重ねるごとに、勉強会の内容のレベルは間違いなく上がっていっております。
興味をお持ち頂いている親御さんは、ご参加ください。

拒食症のお子さんに合った親の関わり方というのがあります。
しかし、それは簡単に親御さんに身に付くものではありません。
「頭では分かっている」というレベルではなく、
よし、身に付けるぞ!と、頑張っていただかなくてはいけません。
「なんとか解決したい!」「子供のために何かできるなら頑張りたい」と強く思っておられる、熱心な親御さんとの出会いを、私たちは大事にしております。

「なんとか解決したい!」「子供のために何かできるなら頑張りたい」と強く思っておられる熱心な親御さんとの出会いを、私たちは大事にしております。

2023.10.24  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》臨床心理士 福田俊介

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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