子どもの言い分に耳をかたむけて

「お母さんはすぐに自分の考えを押しつけるやろ。だから僕なーんにも話す気なくなるんや」。小五になる真一君はお母さんにこんなことを言いました。「そやけど言わんとあんたなんにもせーへんやないの」。お母さんも負けていません。こんなやりとりで親子げんかになるということがよくありますね。子どもの話を聞いているようで聞けてないお母さんは多いのです。一つ例をあげてみましょう。

真一:お母さんあのね、僕きょうA君ちに遊びに行く約束したんや。行っていいやろ?

母親:え、A君ちへ?だって遊びは宿題すんでからってこないだ約束したやないの。

真一:わかってる。そやけどとなりの康夫君もいっしょに行くんやで。A君な、僕のグループの子、ほとんど集まるねん。ゲームのドラクエ買ってもろたんやて。僕だけ行かへんかったらぶつ悪いねん。行くで。

母親:なにゆうてるの。ゲームはもうええゆうてたやん。もうすぐ六年になるゆうのに。いつまでゲームゲームとさわいでるんや。ええかげんにし。

真一:いかへんかったら、僕仲間からはずされるんやで。

母親:塾にいかないかんのやから、はずされてもええがな。

真一:お母さんのわからずや。そやからきらいなんや。

真一君はランドセルをぶつけるように投げ出し、ドアを思いっきりバタンとしめて出ていってしまいました。

もうすぐ六年生。なんとかゲームを卒業して学校の勉強や塾に気もちを向けさせたいとあせっているお母さんの気持ちが伝わってきます。あせるのも無理はありません。でもちょっと待って。このような会話が明日もあさっても続くと、もっと心配なことにならないかと案じます。真一君の言い分をもう一度よーく聞き直してみましょう。「行かないと仲間はずれになる」と行っています。これはとても大事な言葉です。明くる日学校ではおそらくドラクエの話でもちきりでしょう。その中へ入っていけない真一君の姿が目に浮かびます。仲間はずれにされて、孤立している子どもを何人か見ているのでしょう。「僕はあんなんになりたくない。遊び友だちを失いたくない」。子どもにとって遊び仲間がどれほど大切かわかってあげましょう。

子どもの言い分に耳を傾けることは甘やかしとは違います。「六年生になるんだから、ゲームは卒業。勉強の約束をしたんだから守って当然」というのは親側だけの言い分です。子どもには子どもの言い分があるはずです。その時その時に応じて例外も認めてあげたり、約束の見直しがあったり、柔軟な対応が必要です。ゲームや塾、宿題といったテーマをもとに親子の会話を深めたりする一つのチャンスにしていこうという心構えが大切です。

子どもも成長するにつれて交際範囲も広がり、外での体験も増えてきます。だんだん子どもの姿が見えているようで見えなくなる年頃にさしかかっています。大事なことは「子どもがどんな気もちで、何を言いたいのか」、これにしっかり耳をかたむけてあげることです。「なるほど、そうか。みんな集まるのか。それじゃ行きたいよね。明日話しが合わないと言うのもしんどいもんね。じゃ行っていいよ。でも帰ったら宿題ちゃんとしようね」。こんなふうに例外を認めつつ親側の要求もじんわり出して。

自分の言い分を聞いてもらって、認めてもらった真一君はきっと帰ってからお母さんにゲームの話しを目を輝かせてすることでしょう。宿題もきっと自分からやるに違いありません。お母さんも五年生の男の子たちの様子が手に取るようにわかるし、いろんな貴重な情報が入ってくるでしょう。子どもの言い分に耳をかたむけることで、こんな大切なことがいっぱい返ってくるのです。

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