まず荒れる子を落ち着かせ、暴力をおさめることが最優先

圭介(中2父親との葛藤から家庭内暴力に)のケースを紹介しよう。

面接室には母親が一人座っていた。「こんにちは、息子さんのことでお困りと聞きましたが」という問いかけに、母親は「はい、そうなんです」と意外に明るい声で答えた。「ああ、そんなにひどい状態ではないのかな」。セラピストははじめそんな印象を受け、軽い気持ちで話を聞き始めた。

「中学一年くらいから暴力は始まりました。主人が帰ってきて『圭介は?なんやまたTVゲームか。おい、おまえ勉強もせんとなに遊んどんや。宿題はしたんか?まだやと』と、怒りをあらわにぶつけはじめました。息子は黙って下をむいたままだったようです。そしたら主人は突然TVゲームの機械を取り上げると、ぼかっと床へ投げつけたんです」まあ、それからが大変。ふだんは大人しい子なのに、そのときばかりはものすごい荒れようで。「なにするんや。僕のだいじなもん壊して」と、お父さんにかかっていきました。その時はまだ主人のほうが大きかったし、力も負けていませんでしたから、けっきょく組み伏せられて泣きじゃくって」。母親は一気にここまで話すと、大きく肩で息をした。これが圭介君の家庭内暴力の始まりであった。

話が進むに連れはじめ元気そうにみえた母親の表情はだんだん暗く、声はおもーくなってきた。やはりそうか。今大変な状態になってるにちがいない。せめて元気そうにでもしないと、自分が崩れてしまうのだ。そんなぎりぎりの瀬戸際にいる人ほど、表向きは明るい様子をみせることがよくある。「そうですか、その出来事からもう一年半がたっていますね。その間の様子を詳しく聞かせていただけますか。こちらはそういう家庭内暴力でお悩みの方がたくさん来られています。経験も豊富ですから必ずよくなっていただけると思います。安心してお話下さい」。「はい、よろしくお願いします」と、うなずく母親の目から涙がこぼれた。

(以下はその後の面接のようすである。セラピストの言葉は、家庭内暴力の治療における要である。)

母親:それからが悪夢でした。力ではかなわないと思ったのか、圭介は父親の大切な物攻撃にでました。明くる日帰宅時間を見計らって、洋服ダンスから背広をひっぱりだし、玄関に投げ捨てて。そこへ父親が帰ってきて、また一騒動。主人が怒るとその明くる日は仕返しのように、父親の持ち物を壊したり捨てたりしましたね。

セラピスト:やはりお父さんへの怒りが溜まりに溜まってということでしょうか。その他荒れるときはどんなときに?

母親:学校でいやなことがあった時とか、広島カープを応援してるんですけど、そこが負けたときとか。父親以外の理由でも荒れだしました。自分の部屋の壁をたたいたり、ドアをけったりして。

セラピスト:暴力がエスカレートしてきたと?

母親:はい、そうです。自分の部屋だけだったのが、だんだんリビングにあるものにも手を出して。花瓶を投げつけたこともあります。止めるとよけい荒れて。目がキッとなって、なんか正気じゃないみたいで、怖くて。荒れだしたら妹をつれて外へ逃げ出しました。

セラピスト:お母さんや妹さんに暴力はふるいませんでしたか?

母親:直接にはきませんでしたが、怒って物を投げた物がたまたまあたったりはしました。兄が荒れ出すと、妹は恐がって私のそばを離れません。でも必ずと言っていいほど父親のことをぶつぶついいながら暴れていますので、「ああ、やっぱり主人に対して怒りが噴き出しているんだ」と、思いました。一時間くらい外でブラブラして電話をかけるんです。その声で帰ってもだいじょうぶかどうかわかります。家にはいるとリビングは足の踏み場もないくらい、荒れ散らかって。椅子を起こしたり、割れたお皿を袋にいれたりして片づけていると情けなくて涙がでてきます。

セラピスト:そうですか、それはおつらいですね。回数はどれくらい、かなりひんぱんに荒れますか?

母親:一週間に最初は2ー3回ありました。けど今ごろは一回くらいに減ってきてはいます。でも学校にまったく行かなくなってしまって。

セラピスト:お父さんにも来ていただかないといけませんね。

母親:はい、来ると思います。「学校だけは出てもらわないと」というあせりがありますから。

セラピスト:それは順番が違います。まず荒れる子を落ち着かせ暴力をなくすことが最優先です。次は圭介君が好きなことを一生懸命やって、自信がわいてくるのが二番目。学校うんぬんは三番目くらいですね。この順番をまちがうと治るものも治りません。「学校は行くようになりました。しかし父親への暴力はおさまりません」。これでは本当に治ったとは言えないでしょう。

母親:本人のストレスをうまく発散させる方法が見つかって、父親の対応がもうちょっとましになったら、暴力はでないと思うんですけど。

セラピスト:それはそうです。けどそうなるのは、簡単なことではないですよ。客観的な判断を下す人のアドバイスを得ながら、軌道修正を繰り返しぼちぼち進んでいきませんと。子どもの言い分を100%受けて聞いてやっていると、図に乗ってくるでしょう。しかし荒れを抑えるためには、さからわず耳を傾けてやる必要がありますし。子どもの反応を見ながら刻一刻と対応を検討して微妙に変えていきませんと。家庭内暴力の治療は丁々発止の意気込みで。中途半端が一番危険です。

母親:そうですか。帰って父親に相談してみます。父親もかなり強引に自分のやり方を押しつけてきたと、反省はしてるんですけど、実際どう対応していいかわからない状態で。次回は二人で来所したいと思います。

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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