
淀屋橋心理療法センターでは、臨床心理士・福田俊介と精神科医・福田俊一とともに、不登校、ゲーム依存症、癇癪といったお子さんのさまざまな症状について親御さんと学ぶ会を定期的に行っております。
今回は11月17日にリストカット・オーバードーズの治療説明会が当センターで行われました。今回の説明会全般を担当するのは、臨床心理士の福田俊介。
福田が担当した、カウンセリングによってリストカットが治まった事例の紹介をはじめ、親御さんから寄せられた疑問に答えるQ&Aコーナーも実施。説明会を通じて、解決の糸口を親御さんと一緒に考えました。
◆ 講師プロフィール ◆

カウンセラー
福田俊介(ふくだ しゅんすけ)
臨床心理士・公認心理師(国家資格)
オレゴン大学卒業(University of Oregon Bachelor of Science)
自動車関連会社勤務後、兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 人間発達専攻 臨床心理学コース卒業
不登校・過食症・リストカット
で高い治療成績を上げています。
大阪府公立学校スクールカウンセラー
【自己紹介】同じ悩みを持つ親同士の出会い
説明会は参加者の自己紹介タイムからスタートしました。そこには、親御さんたちの切実な胸の内がありました。
「学校に行けない日も増えてきていて、このままだと不安」
「リストカットとオーバードーズに加えて拒食症も…入院中の娘を、どう迎えればよいか」
「精神科の処方薬でオーバードーズを繰り返す息子の状態を安定させたい」
中には、子どもがリストカットやオーバードーズに苦しんでいることを誰かに打ち明けたのは初めてという親御さんもいらっしゃいました。
続いて、臨床心理士・福田俊介も自己紹介を行いました。思春期の頃に壁にぶつかった経験、当時の自分に今ならどんな声をかけてやりたいか。自身の経験を交えながら、参加者に語りかけます。そしてこんな言葉で、自己紹介を締めくくりました。

【事例紹介】リストカットを克服したストーリー

続いて、リストカットを克服したご家族の事例をスライドで紹介しました。親御さんの切実な思い、言葉にできない子どもさんの思い。そこには、臨場感あふれるリアルなエピソードがありました。
なお、今回はリストカットの事例を取り上げましたが、オーバードーズで悩むお子さんにも共通する考え方をお伝えします。
関わり方の技術だけでは足りない。カウンセリングで大切にしていること
福田は、事例紹介の中で次のように強調します。
リストカットやオーバードーズに苦しむ子どもさんに対し、「どう声をかければよいのか」「どう話を聞けばよいのか」その答えを求めて多くの親御さんが当センターを訪れます。しかし、そうした関わり方の工夫だけでは、十分な結果につながりにくいのだと言います。
リストカット解決に向けた真のゴールとは
多くの親御さんは「リストカットが止まること」をゴールだと考えます。大切なわが子が自分の体を傷つける姿を見れば、一日も早くその行為がなくなってほしいと願うのは、親として自然な感情でしょう。
しかし、説明会に参加された親御さんからは、こんな声も聞かれました。
「リストカットを繰り返すたびに、親の気持ちも振り出しに戻ったようになる」
福田はこの“ぶり返し”について、こう語ります。

リストカットを「やめること」だけを目標にすると、どうしても再開するたびに一喜一憂し、親御さんの気持ちも消耗してしまいます。
では、福田が示すゴールとは一体何なのか。

例えば、子どもが親に相談できるようになることや、柔軟に考える力が身につくこと。これらは、精神的な成長の表れだと語りました。

ピンチは子どもの成長につながるチャンス
事例紹介のケースでも、カウンセリングを重ねるうちに、様々な変化が訪れます。良い変化ばかりではなく、時には親御さんの心が揺さぶられるような出来事も起こりました。
しかしそんなピンチでも、親子の絆を深めるチャンスにもなり得ます。当センターでは、ピンチを子どもの成長につなげていくための関わり方についてもお伝えしています。
事例のご家族も「落ち着いたように見えても、またぶり返すことがある」という福田の言葉があったからこそ、心を保てたのだといいます。そうして波のように揺れながらも、少しずつ落ち着いた日々が増えていき、ほどなくしてリストカットは止まりました。


そう語る福田の言葉には、確信が込められていました。
「リストカットやオーバードーズをしていると、親御さんは悪いことばかりに意識が向きがちです。でもだからこそ、目の前の行為だけで判断するのではなく、お子さんが『心の力をつけている』サインとして現れる、小さな変化に目を向けてほしいと思っています」
親御さんが一人で背負い続ける必要はありません。伴走者であるカウンセラーとともに歩むことで、回復への道を着実に進むことができる——福田の力強い言葉で、事例紹介は締めくくられました。

子どものリストカットやオーバードーズに悩む親御さんのQ&A

説明会の後半では、参加者の皆さんから寄せられた質問に福田が答えました。リストカットやオーバードーズに向き合う親御さんたちのリアルな悩みと、それに対する具体的なアドバイスをご紹介します。
Q1. リストカットをしたくなる時、何かで気を紛らわせることはできないでしょうか。
臨床心理士・福田俊介の回答
一時的に気を紛らわせるには、冷たい水を飲み、その刺激で気持ちを落ち着ける方法などがあります。でも、切りたくなるのは、いろんなストレスが溜まり、対処法が見つからないからです。普段からストレスが蓄積しない生き方を覚えられるのが理想ですね。
Q2. 子どもからカッターや刃物を取り上げることは正しいのでしょうか。
臨床心理士・福田俊介の回答
これはお子さんによって正解が違います。親が取り上げても、子どもさんが自分のお小遣いで買ってしまうなら、当然意味はありません。取り上げたことで関係がこじれることなく、自分で新しいものを買ってこないのであれば、今の段階では取り上げておいていいでしょう。ただし、それで関係がこじれそうになったら、再検討する必要がありますね。
Q3. 推しのイベントに連れて行くなど、本人が望むことを叶えるのは甘やかしすぎでしょうか。
臨床心理士・福田俊介の回答
方向性としては、そのほうがリストカット治療とうまくかみあいます。これが一生続くわけではありませんから、治療期間中だけは少々甘やかすぐらいの対応のほうが治療効果も出やすいといえます。そして、せっかく楽しいことをしたなら、ぜひ感想を話してもらって下さい。それがきっかけとなって、本音が出てくるかもしれません。
Q4. 親として何をポジティブに捉えて、何をネガティブに考えればいいのでしょうか。
臨床心理士・福田俊介の回答
お子さんが成長している目安には、以前と比べて口数が増えた、落ち込んでも気持ちを立て直すまでにかかる時間が短くなった、などがあります。ぜひ親子の会話を大切にし、子どもの変化をキャッチできるようにして下さい。
Q5. 学校をやめて環境を変えたらリストカットは止まりますか?
臨床心理士・福田俊介の回答
ストレスが減ったら、一時的には止まるかもしれませんね。でもリストカットする人はとても繊細なので、新しい環境に移っても別のストレスが生まれます。だから、一時的には止まりますが、そこで安心してはいけません。先ほどもお話ししたように、大切なのは心の成長を伴って止まっているかどうかです。
2時間の治療説明会を終えて
約2時間にわたる説明会を通じて、福田が繰り返し伝えたメッセージ。
それは「リストカット解決の鍵は、子どもの精神的な成長」ということでした。
リストカットという行為そのものを止めることに囚われるのではなく、子どもが親に相談できるようになること、つらさを言葉にできるようになること、嫌なことに「ノー」と言えるようになること。そうした心の成長こそが、本当のゴールです。
説明会に参加された親御さんたちは、誰にも打ち明けられなかった悩みを初めて口にし、一人で背負い続ける必要はないということを知りました。
ここに、参加者の方からの感想を一部紹介させていただきます。
具体的な事例紹介がとても参考になりました。親としての接し方に不安がありましたが、子どもとどう関わっていけばいいか、大まかな方向性が見えてよかったです。
高校生の娘さんを持つお父さん
リストカットとオーバードーズにどう対応していけばいいのか、家族でずっと考えて説明会に参加しました。とても勉強になりました。
中学生の娘さんを持つお母さん
子どもの変化を具体的にどう捉えるかが理解できました。ただリストカットはすぐに終わらないこと、親の忍耐が必要ということもわかりました。
高校生の娘さんを持つお母さん
これまでも自分なりに寄り添ってきたつもりでしたが、正しい関わり方や、変化に気づくポイントがわかり参考になりました。
大学生の息子さんを持つお母さん

担当ライターの感想
説明会から1ヵ月が経った今も、「成長したうえでリストカットが止まったなら、それは本物です」という福田の言葉が強く印象に残っています。
説明会が始まる前は不安そうな面持ちだった親御さんたちも、福田の言葉に耳を傾けるうちに表情が和らいでいったのも印象的でした。最後の質疑応答では、時間いっぱいまで質問が途切れることなく続きました。
『一人で悩まなくていいんだ』
説明会に参加された親御さんたちの表情から、そんな安堵が伝わってきました。子どもさんのリストカットやオーバードーズという深刻な悩みも、専門家という伴走者がいれば、少しずつ前に進むことができる。そんな希望を感じられる場所が、ここにはあります。
センターで勤務してまだ日は浅いですが、この説明会のレポートが悩みを抱える親御さんのもとへ一人でも多く届いて欲しい。そんな思いで、この記事を書きました。
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