焦らずスモールステップ

「1月は行く、2月は逃げる、3月は去る」など昔から言われているように、この時期はあっという間に過ぎていく気がします。長い冬が終わり、もうすぐ春が訪れる。ワクワクする気持ちの人と、そうでない気持ちの人がいると思います。春になると、進学や就職など新しい環境での生活を始める人が多くいますね。その様子を見て「他の人はどんどん未来へ進んでいるのに、私は何も決まっていない。私はダメな人間だ」と、自分を卑下する気持ちになってしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか?

かく言う私自身がそうでした。そして焦る気持ちばかりが募って、極端に高い目標設定をしてしまって、自分を追い詰めてしまう。その目標を棒高跳びの選手のように、ポーンっと飛び越えられたら良いけれども、それが難しいことも本当は分かっている。でもやっぱり焦る気持ちに追い立てられて、落ち着いて考えられなくなってしまうのです。

そんな時は“スモールステップ”でいきましょう。目標までの道のりを小さな階段に分けて、とにかく分けて、一段ずつ進んでみてほしいのです。「そんなにちょっとずつしか進まなかったら、いつまで経っても目標を達成できないじゃないか!」とお怒りの声が聞こえてきそうですが。実は、焦って高い目標をいきなりクリアしようとすることと、小さな階段を少しずつ進んでいくこと。振り返ってみると、そのスピードに大きな違いはないと思うのです。

一見すると、達成したかのように見せることはできるのですが(例えば学校に再登校する、就職先を見つけて働くなど)、その状態をキープし続けることはなかなか大変です。なぜなら駆け上がった一段の高さがとても高いですよね。もし「あれ?やっぱりちょっとしんどいかも」と感じても、ちょっと一段だけ下がるということができない。下がることは振り出しに戻るようなものだからです。だから心や身体が声をあげても聞こえないフリをして、また無理をしてしまう。でも、小さな一段を下がるだけだったら、そこまで追い詰めないはずです。一段下がっても振り出しに戻るわけではないので「ちょっと休憩して、それからまた進んだら良いや」と心に余裕を持って考えられますよね。

スピードに大きな違いがない理由は、そこにあります。高い一段を登って、絶対に下がれないと自分に無理をさせて、実際に下がってしまうと「もうダメだ、もうこんな高い一段なんて登れない」と思い詰めるよりも、小さな一段を少しずつ進んで、疲れたら一段下がってと、行きつ戻りつする。その方が費やす時間が短くて、「私はここまで来られている、だから大丈夫」と落ち着いて過ごせるように思うのです。

何よりも、一歩一歩踏みしめながら小さな一段を進む度に、自分を褒めてあげてほしいと思います。「よく頑張っているね、すごいよ!」と心の中で声をかけてあげて下さい。そうすれば「あれ?気づいたらこんな所まで進んでいた」と驚くあなたに会えるはずです。

2021.03.01  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》池尾有希子

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

シリーズ記事

2021.07.14

1.摂食障害の治療法 解決のカギは“食”以外のところに目を向けること

― 摂食障害(拒食・過食)を乗り越えるための親御さん向け勉強会を開催しました! - 梅雨の晴れ間の6月25日(金)に、摂食障害を乗り越えるための親御さん向け勉強会を開催しました。 プログラム 所長 福田俊一(医師)からの […]

2021.06.01

2.増加する【子供から親】への家庭内暴力のご相談

「そちらでは家庭内暴力の相談はできますか?」 というお問い合わせが増えてきています。 考えてみると、 当センターのホームページでは家庭内暴力のチェックリストは以前からあるのですが、家庭内暴力に特化して記載したページを作っ […]

2021.05.28

3.妹にはたくさん食べさせようとする、拒食症の大学生

6月25日金曜日に、親御さん向けの摂食障害勉強会を開催いたします。 前回の摂食障害勉強会では過食症を克服された方のケースを発表いたしました。 今回の勉強会では過食症だけではなく、拒食症を克服された方のケースも発表予定です […]

2021.05.21

4.不登校の子に未来が明るく見えてきた

親御さんにお子さんの性格に合った対応をして頂くと、 まずお子さんが家の中で元気になってきます。 学校に行く事ができなくても、 家の中での今現在の過ごし方が元気になり、 目の前が明るく見えてくると、 将来も明るく見えてくる […]

2021.04.20

5.Instagram始めました

いつもホームページをご覧いただき、ありがとうございます。 実は淀屋橋心理療法センター、Instagramもやっています。当センタースタッフが撮影した季節のすてきな写真を掲載するアカウントは以前からあったのですが、この度ス […]

2021.03.23

6.「不登校を乗り越えるための親御さん向け勉強会」を開催しました!

桜が咲き始め、少しずつ春らしくなってきましたが、コロナの不安も拭えないこの頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。 当センターでは去る3月2日(火)に、「不登校を乗り越えるための親御さん向け勉強会」を開催しました。 勉強会は、 […]

2021.03.01

7.焦らずスモールステップ

「1月は行く、2月は逃げる、3月は去る」など昔から言われているように、この時期はあっという間に過ぎていく気がします。長い冬が終わり、もうすぐ春が訪れる。ワクワクする気持ちの人と、そうでない気持ちの人がいると思います。春に […]

2021.02.05

8.「過食」という強者

当センターには、過食の治療のために通われ、やがて卒業してゆく方々が多くいらっしゃいます。中には「とにかく今すぐに過食を治したい、過食を治して早く普通の生活を送りたい」と焦るかたも少なくありません。過食に限らず、自分の病気 […]

2021.01.23

9.軽い気持ちでダイエットが拒食症に

コロナの影響で、学生のお子さんは、1学期の大半という長い間、自宅待機を余儀なくさせられました。 ずっと自宅にいる中、(これといってやることもないなぁ・・・そうだ、今度みんなに会ったとき「やせたね~!」って言われるようにダ […]

2021.01.15

10.令和3年みっつの明かり

当センターでは、治療を進めていく中で親子の相性が良くなることは大切な要素のひとつです。 親子関係がうまくいき始めると、その過程で子供には色々な良い変化が起こってきます。 新年はじめは、3組の親子の明るい笑いをお届けしたい […]

関連記事

2015.01.27

不登校 進学校の挫折 高校の保健室からの相談で

保健室の先生からご相談を受けたK君のケースです。第一志望の進学校に見事合格したK君。意気揚々と高校生活をスタートさせたのですが5月には「もう辞めたい」と相談にきました。あれほど憧れ目指していた高校ですが、いざ入学してみる […]

2023.08.28

保健室の先生(養護教諭)向け 不登校とリストカット勉強会レポート

令和5年6月24日(土)淀屋橋心理療法センターにて保健室の先生(養護教諭)を対象とした勉強会を開催しました。 勉強会前半 福田俊介による事例発表 勉強会では、不登校とリストカットの事例を発表しました。 不登校の事例ではど […]

心身症タイプの不登校

「心」のストレスが「身体」にでる「心身症」 古くから「病は気から」と言われるように心と身体は密接に結びついていて、互いに影響を与えあっています。では、心のストレスが身体の症状となって現れる心身症はどうして起こるのでしょう […]

記事一覧へ