2.「頑張りすぎ、むりをしすぎ」に気がついて、リストカット(自傷行為)が止まった

智子(高校二年生)、一月に三回ほどリストカット(自傷行為)をする

「リストカットが止まらないんです」と、緊急電話が

淀屋橋心理療法センターの電話がなりだしました。会議がおわり、外来受付の時間になったとたんのことです。「たいへんです。佐智子がまた手首を切ったんです。先生、おられますか」と、あわてたような母親の声が聞こえてきました。

佐智子さんは主訴がリストカット(自傷行為)で、ひと月ほどまえからカウンセリング治療をスタートしたケースです。「これで三度目か。だいじにいたらなければいいんだが」と、担当のカウンセラーは電話に応対しました。「朝早くに切ったみたいで。部屋をのぞくとまだ血だまりが乾いてなくて。主人といっしょに病院へつれていきました」。どうやら応急の処置はしてもらえたようです。カウンセラーに事の次第を話して、お母さんはようやく一息つかれました。

勉強もできるし、クラブも休まない頑張りやさん

佐智子さんは高校での成績も良く、クラブ活動のバトミントン部では副部長を勤めていました。「お宅の佐智子さん、勉強もおできになるし、運動もすばらしいご活躍で。文武両道ですわね」と、同級生のお母さんからうらやましがられていました。「いいえ、かなり無理をしてるんですよ。ときどきプチッと切れて私にあたりちらすんです」と、お母さんは返します。遠慮ではなく、本気でお母さんは娘の頑張りすぎを心配していました。

先日も「お母さん、見て、中間テストの成績がでたんよ。私、学年で3番やったんよ」と、うれしそうに話しかけてきました。「ウワーすごい、いい成績でよかったね」と、母娘二人でよろこびあったばかりです。

その翌朝、また佐智子さんはリストカット(自傷行為)をしました。あんなにきげん良く家族と夕飯食べて、笑って自分の部屋へもどっていきました。こんどは傷も深く10針も縫いました。「元気そうだったのに、あんなに笑っていたのに、なんでこんなことをするのかわかりません」と母親は、カウンセリングで涙をふきながら話しはじめました。「私が見つけたときは、放心したような目をしてました。『なんで手首を切ったりするの?』と聞いても、『わからない。だって衝動的にしてしまうんだもん』と言うばかりなんです」。

お母さんと一緒に病院へかよう時間を生かしましょう

緊急カウンセリングをもったり、対応のアドバイスをだしたり、緊迫した月日が流れました。「たしか傷口を消毒しに、毎日病院に通われてるんでしたね。母娘二人だけの時間を大切にしましょう。どんなふうに過ごせば、佐智子さんの一番気に入る時間になりそうですか。お母さん、一度考えてみてください」という課題をだしてみました。お母さんは仕事をもっているし、佐智子さんは勉強やクラブ活動に忙しいし、この時間帯はめづらしく二人っきりです。そこで考えついたのが、英語のクロスワードパズルでした。初級のやさしいものからはじめました。佐智子さんは、楽しみながら次々と単語をあてはめていきます。「お母さん、これ面白いね。私、英語ってテストのためにするもんだって思ってたけど、楽しいこともあるんやね」と、ホッとしたような目をして言いました。

傷が癒えて病院通いは終わりました。佐智子さんのようすが小康状態を続けている間に、お母さんはカウンセリングにかよって対策のアドバイスをうけていました。「晴れ間の洗濯がとてもだいじなんですよ」と、カウンセラーはわかりやすく対応のこつを話していきます。リストカットがそうそうすんなり減るということはなかなかありません。「いつまた切るかもしれない」といった不安に耐えながら、地道な努力をつみあげることが必要です。

無理をしなくなり、リストカット(自傷行為)が止まった

リストカット(自傷行為)に振り回されていたころから半年がたちました。佐智子さんのようすにも変化がでてきました。ひと月に2~3回もリストカットをしていましたが、最近ではほとんどなくなりました。たまにあっても「お母さん、ほら、切ってしまったんやで」と見せにきます。母親へのへんな警戒心は、だいぶ減ってきたようでした。
  クラブの活動も、最近はまえほど熱心に行かなくなり「お母さん、きょうなんかしんどいから、クラブ休んで帰ってくるよ」と、ブレーキがかかります。友だちと話していても、「私ね、笑いたくないときは、笑わなくてもいいんやね」と、言ったりしています。「佐智子さんは、このごろ無理をしなくなりましたね。これはとてもいいことですよ」と、カウンセラーは言いました。

試験はおちたが、「また次頑張ればいいんや」と切り替えられて

佐智子さんは先日学校から帰ってきて、落ち込んでいました。「いやー、またリストカット(自傷行為)するんちがうかな。大丈夫かしら」と、お母さんはひやひやしながら見守っていました。すると「お母さん、聞いてくれる」と佐智子さんは話しはじめました。どうやら英語検定の試験で準一級をおちたようなんです。「あかんかった。落ちてしもた」と、言ったとたん泣き崩れてしまいました。「落ちたんか。つらかったやろね」と、お母さんはやさしく背中をなでてやっていました。「そしたらね先生、佐智子がわーっと泣きながら抱きついてきたんです。びっくりしました。いままでそんなとこなかったもんで」と、お母さんはほっとしたようなうれしそうな表情で話していました。

思いっきり泣いて「試験やもん、落ちるときは落ちるし、受かるときは受かるんや。また次頑張ればいいんや」と、すっきりした顔でお母さんに言ったそうです。「佐智子さんは、ほんとうに無理をされなくなりましたね。リストカットをせずにお母さんに泣きついて、なぐさめてもらってすっきりする。また次頑張ればいいんやと切り替えられるところなんか、ずいぶん成長されたように思います」と、カウンセラーはコメントを伝えました。

症状を克服、良くなった姿

2019.04.17  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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