1.「ダイエットして体重減ったって喜んでいた娘が、最近おかしいんです」と気づいたお母さん(英子さん 20才 大三)

ダイエットで体重が減って、とてもうれしそうな英子さん

「娘がダイエットをやりだして、体重減ったって喜んでいたんです。でもそのやり方がだんだん極端になってきて心配なんです」と、お母さんが相談に来所しました。どうやら英子さんのダイエットがかなり激化してきたようです。カロリーの低い食べ物しか食べようとしないし、朝食はリンゴ半分とヨーグルトだけとか。「お母さん、夕飯は酢の物と焼き魚にしてね」と注文がきます。そしてほんの少しのご飯だけ。

たしかにやせてきました。「お母さん、このごろ5キロやせたのよ。ほらみてみて」とくるっとまわって見せます。ウエストや胸のあたりの肉がおちて、スマートになっています。英子さんはとてもうれしそう。それから間もなくでした。お母さんが「おや、このダイエットのやり方って、だいじょうぶかしら?」と思いだしたのは。

「やせる喜び」がだんだん強くなって、ダイエットがエスカレート

英子さんの喜びは、だんだんお母さんの心配に変わってきました。「一日にね、摂取するカロリーを決めてるの。1000キロカロリー以上はとらないのよ。だからお母さんも献立に協力してね」と、かなりきっぱり口調で言います。キッチンの棚にはお料理の本といっしょに、最近では食材のカロリーの本がならぶようになりました。

「ほら、これ買ってきた。これからはこれで計るわ。そしたらより正確に何グラム、何カロリー食べたかってわかるのよ」。キッチンテーブルの上には四角い箱がおいてあり、そこからは電子ばかりが出てきました。「英子ちゃん、あなたもう十分スマートよ。それ以上細くなったら、体に悪いわ」とお母さんは言ったのですが、電子ばかりに目を輝かせている英子さんの耳には入らなかったようです。

一生懸命食材のグラム数を計っている英子さんをみて、お母さんは「ダイエットのやりすぎじゃないかしら」と心配になり当センターに相談にみえました。

専門家から「英子さんは拒食症に落ち入るおそれがあります」と言われて

「毎日1000キロカロリー以下ですか。それでやせて喜んでおられるんですね」と話を聞いたカウンセラーは、詳しく状況を聞いていきます。聞くと体重ははじめは50キロあったのですが、今では43キロになっているそうです。(カウ=カウンセラー)

カウ:7キロやせて、そりゃスマートになるでしょう。問題はそこからですね。極端なダイエットは摂食障害に落ち入りやすいんです。拒食症の疑いがありますので、その点を確認させてください。娘さんは『私これだけやせたから、もうこれくらいでいいわ』と、言っていますか?それとも『もっとやせなきゃ。まだこのあたりにお肉ついているし。やせるって最高にうれしい』とか言っていませんか?

母親:先生、後のほうです。やせるのがうれしくてたまらないみたいです。目を輝かせてダイエットしてます。

カウ:お母さんが「ダイエットはもうそれくらいにしといたら。十分細くなってるよ」と言われたとき、どうですか?「7キロもやせたもんね。しばらくダイエットはお休みにしよう」と言われますか?それとも「何言ってるの。私のダイエットに口をはさまないで!」と、怒りますか?

母親:先生、それも後のほうです。英子にすごいにらまれました。それで私心配になって、相談にこさせてもらいました。

カウ:それはいけません。娘さんは拒食症のうたがいがありますね。

母親:え、拒食症?!やっぱり。それが心配だったんです。
先生、どんな点に注意すればいいでしょうか?

母親が気をつけて見ておくポイントを具体的にアドバイス

お母さんの話を聞いてカウンセラーは「娘さんのダイエットは、摂食障害に落ち入る心配がありますね」と言い、説明を続けました。

カウ:ダイエットで食べるものを制限して頑固に守っているうちに、食べることを拒否する拒食症になる人もいます。かと思うと反対に突然切れたみたいにワッーと食べだす過食症になる人もいます。英子さんのダイエットは拒食症とか過食症まではいっていないようです。が、その恐れがあるということを頭にいれておいてください」。

母親:先生、どんな点に注意してみていればいいでしょうか?」

カウ:今のダイエットのやり方がだんだん厳しくなっていくかどうかが、一つのポイントです。それと『やせてうれしい』ということが、体の心配がでるくらいになっていかないか、気をつけてみておいてください。様子が改善しない場合と、おかしいなと思うことがあったら、すぐにカウンセリングにおいで下さい」。

カウンセラーはお母さんにアドバイスとを出して、様子をみることにしました。

専門家の適切で具体的なアドバイスを得てホッとしたお母さん

お母さんの心配は的中していました。早めの対応で専門家の具体的なアドバイスを得られ、心配ななかにもホッとするものがありました。

「ダイエットのやり方がだんだん厳しくなっていくか」「やせたことで、体の不調がでてはいないか」この二点に注意しながらみていき、英子さんの様子からやはりカウンセリングをスタートしたほうがいいと決心しました。

2012.09.20  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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