拒食症といじめによる不登校を乗り越えた高校生の回復事例
~「私、何とかなる精神で行くねん」~

拒食症といじめによる不登校を乗り越えた高校生の回復事例~「私、何とかなる精神で行くねん」~

今回ご紹介するのは、摂食障害(拒食症)といじめによる不登校を克服したさくらさん(仮名)のお話です。
通信制高校の入学式を目前に控え「これからどうなってしまうのだろう・・・」と心配されたお母さんが当センターに来所されました。

本記事では、このカウンセリングが上手く解決したポイントや、拒食症のカウンセリングの流れ、臨床心理士 福田俊介がこのカウンセリングで注目したポイントをお伝えします。

< この相談が上手く解決したポイント >

  1. カウンセラーがアドバイスしたことをお母さんが身につけるのが比較的早い方だった。
  2. お母さんに適度な緊張感が保たれていた(不安が高すぎても上手くいきにくいし、低すぎると気が緩んでしまいやすく、継続してカウンセリングに取り組めない)。
  3. お母さんがお子さんの小さな変化を見逃さずに見る事ができていた。又その変化を喜ぶことが出来ていた(最初はお子さんの良くない部分に意識が集中していたが、徐々に良い変化も見れるようになった)。

初回のカウンセリング <自分の事が大嫌い!>

さくらさんはもうすぐ高校1年生。身長は158㎝、体重は37kg。とても細いのですが「自分は太っている」と体形をとても気にしています。
以前、通院していた病院で、摂食障害の拒食症と診断されています。
さくらさんは、食べたものを全て記録し、カロリー計算をしているのですが、食事量は少なく、しかもほとんど野菜です。それにも関わらず「こんなに食べて大丈夫かな?」と何度も何度も母親に尋ねます。「また太っちゃった・・・肉々しい体が本当に嫌、自分のことが大嫌い」などと言って、2~3時間も泣いて酷く落ち込む時がしばしばあります。

中学2年生の時にクラスメイトからいじめられ仲間外れにされた事をきっかけに人が怖くなり、以来一度も登校できないまま中学を卒業しました。しばしば「人が怖いよ」「自分が嫌いなの」と訴えます。

人目が気になり、外で運動することはできません。深くはないものの、手首を切る時もあります。生理は1年近く止まっています。
さくらさんは口数が少なく、何かを嫌だと感じても自分の気持ちに蓋をしてしまい、それについて怒ったり不満を言ったりすることはありません。

さくらさんご本人は一度も当センターには来所されず、お母さんにカウンセリングを実施し、さくらさんへの対応方法を中心にアドバイスさせて頂きました。

「こんなに食べて大丈夫かな?」

カウンセリング【3週間後】 <娘は、変わりません>

    

心配していた通信制高校の入学式には無事出席。さくらさんの学校は登校する必要があるのは週2回なのですが、登校を続けており、宿題も遅れずに提出できています。家では「学校でこんな子がいるんだよ」という話をよくしています。今のところ、学校に関しては良いスタートを切りました。通信制高校が彼女には合ったのでしょう。

しかし、お母さんは「娘は、変わりません」「毎日2~3時間、泣いて落ち込んでいます」と浮かない表情です。カウンセラーは「すぐには効果が出ません。最低3ヶ月は続けて下さい。学校に行けている事で新しい経験が増え、話題が増えています。これは摂食障害の治療上、チャンスです」とお伝えしました。

カウンセリング【2ヶ月後】 <カウンセリングへの疑惑>

カウンセラーが面接室に入ると、暗い表情のお母さんが座っています。「さくらが『食べる事を我慢できなかった。食べる事がみっともない』と言って泣いているのを見るのがしんどくて」と仰います。暗い雰囲気でカウンセリングが始まりました。

カウンセリングの後半。お母さんの気持ちが落ち着いてくると、さくらさんの良い変化も話してくれるようになりました。以前よりも「私って太ってる?」と聞くことが減ってきて、生理も1年ぶりに戻ったそうです。

また、不満を伝える事が苦手だったさくらさんが「分かるわ~」が口癖の叔母に対して「本当は分かってないでしょ、それを言われたくないの」としっかりと主張することができました。

カウンセリングの終盤、お母さんは「私、娘に余計なことを喋り過ぎているのに気づいた」と反省されています。カウンセラーは「いや、それに気づけたことに価値があります」とお伝えしました。
「お母さんは、頑張っておられます。さくらさんは恵まれてますね」とカウンセラーはねぎらいの言葉をかけました。

しかし、お母さんには響いていないようです。鋭い目つきでカウンセラーを見て「表面的な言葉って、分かってしまうんですよね」。この時のカウンセラーは、まだお母さんから信用を得る事ができてなかったんでしょう。

カウンセリング【3ヶ月後】 <トラウマの亡霊>

カウンセラーが面接室に入ると、またしても暗い表情のお母さん。「さくらが、また落ち込んで」と肩を落とされています。
さくらさんが夜にお母さんの寝室に入って来て「寝ようとしたら、過去のトラウマが蘇ってきて眠れないの」と泣いていたそうです。

カウンセリングの後半になると、お母さんの頭が整理されたようで、良い変化も話してくださいました。食事量が増えて体重も40kgと少し増えてきたのです。カロリー計算もしなくなりました。
「太るのは怖いけれども、ご飯が美味しいのが勝ってきている」と言ったそうです。拒食症の人がなかなか言えない言葉です。

学校には休まず行けているし、いじめの被害にあってから人が怖かったのに、クラスメイトに自分から話しかけることができています。

カウンセリング【4ヶ月後】 <楽になってきました>

さくらさんの学校生活は順調で「中学時代は上辺だけ“みんな仲良く”という感じでしんどかったけど、今はしんどさが減ってきている」と言い、元気な様子です。

カウンセラーが「そういえば、さくらさんは今回落ち込みましたか?」とお聞きすると「ああ・・・あったとは思うんですけど。短かったです。気分の波はあるものの、切り替えが早くなりました」と仰いました。

カウンセリング開始から5ヶ月後、6ヶ月後。まださくらさんが落ち込むときはありますが、状態は徐々に良くなってきました。

さくらさんの学校生活は順調で「中学時代は上辺だけ“みんな仲良く” という感じでしんどかったけど、今はしんどさが減ってきている」

カウンセリング【7ヶ月後】 <何とかなる精神>

ある日、学校で嫌な事があり、帰宅してからブワーっと猛烈に怒りましたが、吐き出したら楽になったようです。お母さんは「娘が怒りを表現できるようになって良かった」と仰います。摂食障害の人にとって貯めこむことがなくなってきたのは素晴らしい変化です!

「今回はさくらさん、落ち込みましたか?」とお聞きすると「そういえば、無かったです」カウンセリング開始から4ヶ月以降は、さくらさんは以前のように深く落ち込むことはなかったようです。

ある時、さくらさんは「私は深く考えすぎて病んじゃうから、何とかなる精神でいくねん」と言ったそうです。摂食障害を克服するうえでとても大事なことに気づいたようです。

また他にも嬉しいことが起きてきました。学校にあやかちゃんという友達ができたのです。中学生の時にいじめられてから人が怖くなり友達との交流がなかったさくらさん。「高校に入ったら何でも話せる友達が欲しい」と言っていたのですが、実現しました!

<何とかなる精神エピソード>

さくらさんはとても不安が強いため、慣れない土地に行く時、どこで電車を乗り換えて何番出口で出るのか、何度も何度も確認してから出かけていたのですが、ある日、お友達と待ち合わせする事になった時「何番出口か分からんけど、とりあえず行ったら何とかなるかなあ」と言い、下調べせずに出かけました。

以前はとてもとても心配性で行動するのに時間がかかったさくらさん。これぞ、何とかなる精神ですね。

何とかなる精神

カウンセリング【9ヶ月後】 <バイト、始めました>

さくらさんは、元気で活動的です。アルバイトも始めて、学業と両立できています。アルバイト先には気の合わない先輩も居るのですが、辞めずに続ける事ができています。「〇〇さん、機嫌悪い時に八つ当たりしてくるのがメッチャうっとおしいわ」という風に、家でしっかりと不満を言えるようになったからだと思われます。これも摂食障害を克服する上で大事な変化です。

「最近、太っていてヤバイ」と言う時はあるものの、10分もしたら機嫌が直っていて、引きずりません。「食べても大丈夫かな?太らないかな?」と聞いてくるのも無くなりました。

「趣味をいっぱい持ちたい」と意欲が高まってきており「不安だけど、海外に行ってみたい」と言い「テストも何とかなるわ」と楽観的です。とても心配性だったさくらさんが、不安に対してずいぶんと強くなってきました。

お母さんは「前が嘘だったみたい。娘はだいぶ変わりました」とおだやかにおっしゃいます。

カウンセリング【10ヶ月後】 <元気になり、痩せる事に執着しなくなりました>

学校は春休みに入り、レポートは全て提出できました。体重は45kgになりましたが、それほど不満げではありません。それよりも趣味であるダンスやメイクの方に関心が向かっていて、とても元気です。

お母さんは「さくらが2~3時間落ち込んでいたあの頃が懐かしい」と仰います。この言葉はカウンセラーにとって、とても印象的でした。辛かったことも懐かしいと思えるのですね。

カウンセリングはここで一旦終結となりました。カウンセラーが「お母さんは頑張って下さいました。さくらさんは恵まれてますね」と言うと、今回はにらまれることなく、お母さんは目に少し涙を浮かべ「ありがとうございます」と頭を下げて面接室を出て行かれました。おそらく、カウンセラーのことを信用して下さったのでしょう。10ヶ月、よくぞ頑張って通ってくださいました。

お母さんが継続してカウンセリングに通われ対応方法を工夫された結果、顕著な改善が見られ、本当に良かったと思います。今後のご活躍を心よりお祈りしております。

<担当カウンセラー(臨床心理士)より このケースを振り返って>

解決するのに苦労した事例も、文章にすると、とても簡単に解決したように見えてしまうようです。しかし実際は、このカウンセリングの中で何度もピンチが訪れました。

まず最初は、さくらさんが2~3時間も泣いたり落ち込んだりするので、お母さんの意識がそこに奪われ、さくらさんに起こっている小さな良い変化が見えなくなってしまっていたことです。

実は、少しずつ良くなってきていたさくらさん。しかし、それに気づけないお母さん。
何度も「先生、娘の様子は変わりません」と暗い表情で仰るお母さんがカウンセリングに継続して来て下さるか、そこが勝負所でした。

次に気を配らないといけないのが、お母さんの気持ちのゆるみです。一番しんどかった時期を通り越し、さくらさんの状態が落ち着いてくると、本当はまだ解決したと言えないレベルなのに、一見解決したように見えてしまうのです。
「最近、私の仕事が忙しくなってきて」「親の介護が」「もうこの辺でカウンセリングを卒業したいのですが・・・」と仰るお母さんに「もう少し通って頂いた方が再発しにくくなりますよ」というやり取りが何度かありました。

まだカウンセリングの途中という段階で来所されなくなってしまう親御さんもいらっしゃる中、頑張って私についてきてくださいました。お子さんの成長を喜び、お子さんとの交流を途中から楽しんでおられたのも良かった。さくらさんのお母さん、本当にお疲れ様でした。(福田俊介)

2024.01.24  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》益子玄一郎 福田俊介

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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