摂食障害・過食の費用がだんだん増えてきた。どうしたらいいの?(百合大学二年生 摂食障害・過食症)

過食症の食材を買うお金って、みんなどうしてるのかしら

過食症の食べ吐きについやす金額は「一日1000円」と決めていても、毎日のことだけにばかにならない。やりくりの仕方は人それぞれだが、おおまかに分けると次の三つのパターンにわかれるようだ。

パターン1

高校生や大学生に多いパターンで、バイトをして稼ぐというもの。全額自分でまかなうことはむつかしいので、親に足らない分をだしてもらう。なかには家にある食材を自分で料理して過食のたしにしている人もいる。

パターン2

社会人として働きながら毎月のお給料を過食の費用にあてている。この場合、完全に費用にかんしては自立していると言える。

パターン3

かなり重症の人によくみられるパターンで、費用的には完全に親に依存している。知らず知らずのうちに増えてくる過食の量と回数にさいなまされ、体重が少しづつ増えていく。そして「こんな太った体をみんなに見せたくない」と言って、外に出ようとしなくなってしまう。そして過食用の食材まで親に「アイスクリームとチョコレート、それに菓子パン買ってきて」と頼んだりする。

「過食の費用は一日1000円」という決め事で

当センターで過食症の治療をしている百合の場合をお話しよう。百合は現在大学二年生で、過食は高校三年生からはじまった。来所してまもなく母親からこんな相談をうけた。「過食の費用がバカにならないんです。いまに家計を圧迫するんじゃないかと心配で」と。

百合の過食の費用については母娘で話し合い、一日1000円と決まっていたそうだ。自分のバイト料から500円、家計のほうから500円をだして、一日1000円でまかなう。それ以上食べたくても我慢してしのぐ、という約束ができていた。この約束が最近あやうくなってきたという。百合から「お母さん、おこづかいの前借りしていい?」と聞いてきた。「うん、いいよ。なにか買う物でもできたの?」と、気軽に聞いていた母親。「うん、あのね、美咲の誕生パーティによばれたの。プレゼント、なにがいいかな」という百合の返答。まさかこの費用が過食の食材に消えるとは思ってもみなかった。「あれ、このごろずいぶん食べ吐きが増えたな」と、思っていたやさき、百合からこんな訴えが出された。「お母さん、私ね、もうこれ以上バイトできない。しんどくて。こんな太った身体、他の人にみられるのいやなの。過食代、1000円にして」と。

「一月にすると約3万円の出費か。ま、この範囲までならなんとかやっていけるかも」と、母親は頭のなかで計算をした。しかしその計算もあやうくなってきた。ついさいきん「オヤッ」と思うことが二つほどあったからだ。

燃えないゴミのなかにこじ開けられた貯金箱が

母親は台所の棚のうえに、赤いポストの貯金箱をおいていた。それが見あたらない。 「あれ、どこにいったのかな」と思った。「置き忘れたのかな。ま、そのうち出てくるでしょう」と、それほど深刻には受けとめなかった。それがある日燃えないゴミを整理していたとき、出てきたのだ。底が缶切りでこじ開けられていた。もちろんなかは空っぽ。母親はすぐに百合だと直感した。おこづかいは前と同じなのに、最近過食の量が増えてきたと感じていたからだ。「どこからお金を調達してるのかしら」と、疑問に思っていたという。

母親:百合、ポストの貯金箱あけたの?

百合:えー?知らないよ。

母親:燃えないゴミのなかにね、あったのよ。底が開けられてね。

百合:あー、あれね。開けたよ、私。

母親:お金、かなりたまってたでしょう?

百合:うーん、そうかな。だいぶ前だから忘れた。

こんな簡単な会話がかわされて、そのままにになっている。母親も過食のためとわかっているので、それ以上追求するのはやめた。母親は500円硬貨が手に入ったらポストへと貯めてきたのだが、その楽しみが消えてしまった。そんなことよりも「百合の過食が増えていっている。家のお金にこっそり手を だすようになってきた。このままエスカレートしたらどうしよう」という不安のほうが大きかった。

「財布のなかみが三千円足らない」が来所の決意

「きのう千円の物を買うのに一万円札だしたんです、だから財布のなかに九千円あるはずなのに、六千円しかなくて」と、母親は話しだした。どうやら過食の誘惑にまけて百合が持ち出したようだ。いままで心療内科で診てもらっていたが、本人と10分くらいの会話があり薬がでるだけ。「お母さんは待合い室でお待ちください」と言われ、親へのアドバイスはほとんどなかった。「これではいけない。なんとか親に指導をしてくれる所をさがさなくては」と、母親はインターネットでさがしてみてたどりついたのが、当センターだったという。

「一緒に対応策を考えていきましょう」

この問題は過食症の子どもをもつ親にとってはよくある悩みの一つである。子どもが要求するまま過食の費用を上げるのもよくないし、厳しく抑え込むのもよくない。その家庭の経済状態も考慮にいれなくてはならない。 子どもの性格や年令にもよるであろう。いろんな視点を視野に入れその家族にあった対応策を、親とセラピスト(カウンセラー)は話し合いながらたてていく。「過食の費用」というテーマを機会に、親と子が話し合えるようになったり、子どもが家庭のやりくりに関心をもつようになったりすることもある。家族が直面するピンチを、親子で乗り越えていくチャンスにしながら当センターの過食症のセラーピー(カウンセリング)はすすんでいく。

2019.04.17  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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