
心身の健康を害するだけでなく、命に関わる場合もある摂食障害。
皆さんは、摂食障害の治療を成功させるためには何が大切だと思いますか?
摂食障害は、心の健康状態と密接に関わっている病気です。どのように心の健康状態と関わっているのか、心の健康状態を改善するにはどのような方法が効果的なのか。
まずは、ご家族に拒食症患者ご本人について理解していただき、ご本人の心に寄り添いながら、適切な対応を心掛けていくことが大切です。
今回は、前編:拒食症治療のために理解してほしいことを踏まえ、
後編として、治療を成功させるために大切な4つのポイントをご紹介します。
※『前編:拒食症治療のために理解してほしいこと』 はこちら↓
目次
拒食症を完治に導くのは 自主性?
前編では、
拒食症患者ご本人にとっては、痩せることは心の支え。
痩せることを心の支えとして生活していくうちに、体重の減少や極端な食事制限をすることを「自己コントロール」と考えるようになり、そこに強いこだわりを持つ場合が多い。
ご本人にとっては「極端に痩せてしまっている状態=自己コントロールの成功」というわけなので、家族や知人から極端に痩せてしまった状態の改善(体重を増やすこと)を勧められたとしても、素直に受け入れることは難しい状態。
ここが、拒食症治療の難しさであり、拒食症治療に臨もうとされているご家族に一番ご理解いただきたい部分でもあります。
と、ご説明しました。
そして、治療成功の最大ポイントは、
誰かの説得ではなく、自分自身で「極端に痩せているのは自己コントロールの成功ではない」と、自然な形で気付くことである。
ともお話ししました。
ご本人が自分自身で、「極端に痩せているのは自己コントロールの成功ではない」と、自然な形で気付けるようになるには何が必要でしょう?
それは、自分の抱える問題に自ら向き合い、「極端に痩せているのは自己コントロールの成功ではない」という答えを自分自身で導き出せる力をつけることです。(*1)
どうすれば、そんな力をつけることができるでしょう?
当センターでは、ご本人の自主性を伸ばすことで、自分自身で答えを導き出せる力をつけることができると考えています。自主性とは「誰かの指示がなくても、やるべきことに対して自ら行動を起こす性質のこと」ですよね。
自分が何を感じ、
何を思っているのかを整理し、
本当はどうしたいのか・どうすれば良いのかを考え、
誰かの指示ではなく、自分の意思でやってみる
誰かに説得されて出した答えよりも、自分で考え、納得した上で出した答えの方が、抵抗なく受け入れることができます。
自分自身が何を感じ、何を思っているのかを整理するのは、自分で考え、答えを導き出すための第一歩。心から納得のいく答えを出すための基礎づくりです。
そのために効果的なことが話すことであると当センターでは考えています。
*1 淀屋橋心理療法センターでは、ご本人に直接アプローチするのではなく、ご家族にご本人の性格に合った対応方法をアドバイスすることで、ご本人が無理な意識や努力をしなくても「自分自身で答えを導き出せる力」をつけられるような治療方法を採用しています。
会話から生まれる好循環
何か悩み事を抱えている時、何か嫌なことがあった時、お母さんやお友達に話してみたら、自分の気持ちが整理されて、どうすべきか、どうしたいのかがはっきりとした経験はないでしょうか?
「どうすべきか」「どうしたいか」がはっきりすれば、「じゃあ、こうしてみよう!」と自ら行動にうつしやすくなります。
会話には、とても大きな力があります。
淀屋橋心理療法センターでは、ご本人が自分自身のことを理解し考えるための会話をすることで、さまざまな好循環が生まれ、客観的に自分自身を見て、分析・実行する力(自主性)が身に付き、それが治療に大きな効果があると考えています。
実際、数多くのカウンセリングで、当センター独自の会話法は、拒食症治療においても大きな治療効果があることを実証してきました。
拒食症治療でご家族に意識してほしい大切な4つのポイント
自主性を育てるための会話の舞台はご家庭です。ご家族に意識していただきたいのは、拒食症のご本人が自分の話したいことを気持ちよく自由に話せる環境づくり(治療に効果的な会話ができる環境づくり)。
当センターでも、治療開始から完治まで、実際にご家族に実践していただいているポイントがいくつかあります。その中でも、特に大切なポイント4つをご紹介します。
1.ありのままを認めてあげる心構え
まずはじめは、ご家族がご本人のありのままを認めてあげる心構えです。
「どんどん痩せ細っていく子ども(やパートナー)のありのままを認めるなんてとんでもない!」と思われる方はたくさんいらっしゃると思います。
ここでの「ありのままを認める心構え」とは、「ありのままをただ受け入れる心構え」ではありません。
「ご本人が大切にしていることを極端に否定しない」
「ご本人の気持ちに寄り添ってあげる」など、
ご本人の気持ちをありのまま優しく包み込んであげる心構えをするという意味です。
ご本人の大切にしていることを理解し、優しく包み込んであげる気持ちがご家族になければ、きっとご本人は心を開いてはくれないでしょう。そうなってしまうと、治療に効果的な会話ができる環境づくりはできなくなってしまいます。
ただし、はじめから、完璧な心構えを持つ必要はありません。
たとえ小さな心構えだったとしても、まずは心に抱くことが大切です。
その小さな心構えを、カウンセラーと少しづつ大きくしていきましょう。
2.ご本人が居心地のいい環境づくり
拒食症治療のための小さな心構えができたところで、次に大切なのが、ご本人が居心地のいい環境づくりです。その環境は、職場や学校でもなく、友人関係の中でもなく、まずは家庭に必要です。
それはなぜか。
拒食症治療に共に臨むご家族と過ごす場であり、拒食症治療に効果的な自主性を育む大切な会話が生まれる場だからです。
淀屋橋心理療法センターの拒食症治療は、ご本人とご家族の日常のコミュニケーションを、治療効果の高いコミュニケーションへと発展させることで完治を目指しています。
治療効果の高い家族のコミュニケーションを育むためには、まず、居心地のいい家庭環境という土台作りが大切です。
居心地のいい家庭環境というのは、ひとり一人違うので、ご本人の性格を分析した上で、カウンセラーと微調整していく必要があります。
けれども、1つだけ、共通して気をつけていただかなければいけないことがあります。
それは「できないことを求めない」ということです。
3.できないことを求めない
ここで言う「できなことを求めない」とは、
- ご本人が望んでいないのに食べさせようとしない
- 無理な運動を止めようとしない
- 無理に病院に入院させようとしない(命の危険が発生している場合を除く)
- 本人のこだわり(痩せたい願望など)を捨てさせようとしない などです。
拒食症患者にとって、これらは「やろうと思えばできるけど、やりたくない」ことではなく、「自分でもそうすべきなのはわかっているが、どうしてもできない」ことなのです。
ご本人の心がついていかない状態で、できないことを求めるのは逆効果。
「自分のことをわかってもらえない」と、ご家族に心を閉ざしてしまい、治療に大切な会話が途切れてしまいかねません。
ご本人がどんどんイキイキと話せるようになることが、当センターの治療の重要な部分なので、ご家族には、できるだけ「できないことを求めない」対応をお願いしています。
拒食症を発症している方は、痩せること(自己コントロールに成功していること)で、壊れてしまいそうな心の状態をなんとか保っている状態なのだということをご理解ください。
けれども、心配のあまり、どうしても言ってしまいたくなるご家族の切実なお気持ちも、とてもよくわかります。カウンセラーもそれを承知していますので、ご家族の気持ちを無視して、「できないことを求めない」を完璧にこなして欲しいと無理に押し通すようなことはしません。
あくまでも、ご本人がイキイキと会話ができる環境作りを目標として、ご家族が無理をしすぎない範囲で「できないことを求めない」努力をお願いしています。
拒食症治療で、ご本人の心の状態が快方に向かえば、食べられないことは自然と食べられることへ変わっていきますので、このことについても、事前に心に留めておいてくださいね。
4.どんなに些細なことでも良い変化を喜ぶ
拒食症治療において、ご家族が気になって仕方がないのはご本人の健康状態でしょう。 極端な体重減少や極端な栄養不足による健康状態の悪化が起これば、心配と不安で頭がいっぱいになってしまうのは自然なことです。
けれど、心配と不安にご家族が支配され、心に余裕がない状態では、拒食症を快方に向かせることはできません。ご家族が心に余裕を持って治療に取り組むことは、治療成功のための大きな力となります。
心の余裕はどうしたら持てるのか?
それは、どんなに些細なことでも、ご本人に現れた良い変化を喜ぶことです。
「子どもやパートナーが元気だったり、イキイキしている姿を見たら、なんだかこちらもパワーが沸いてきた!」なんて経験ありませんか?
それは、拒食症の治療中も同じこと。
治療を通して、少しずつ現れる良い変化を見逃さずにキャッチし、その喜びを治療へのモチベーションやパワーに変えていくことが、拒食症完治までの道のりを進むためには大切です。
ご本人にとって最適な治療を進めていれば、小さな変化は必ず現れてくるものですが、はじめはほんの些細な変化であることが多く、ポイントをおさえて探さなければ、気付くことすら難しい変化かもしれません。淀屋橋心理療法センターでは、カウンセラーと一緒に小さな良い変化を見つけ、共に小さな喜びを感じながら、治療を進めていきます。
はじめはほんの些細な変化だったとしても、それを見つけ、その小さな小さな変化をたくさん集めながら治療を進めていくと、次第に小さな変化は中くらいの変化に成長し、最終的には「拒食症完治」という大きな変化へ進化していきます。
小さな変化の一例
今は、しっくりとこないかもしれませんが、
以下のような出来事も、小さな変化のひとつです。
もしよろしければ、治療開始前に、心のすみに置いておいてくださいね。
- 今までは「食」についての話しばかりだったのが、ニュースやその日あった出来事の話しも増えてきた
- 思い出話しをある時しはじめて、どんどん話し続けた
- 自分軸ができてくる(人の目を気にせずに自分を出せるようになってきた)「これは好き」「これは嫌い」「この人は信用できるできない」と、自分の考えを言えるようになってきた
- 太る痩せる以外でレシピのことについて熱く語る
拒食症治療説明会のご案内
前編を含む本記事では、拒食症治療のためにご家族にご理解いただきたいことと治療のためにご家族に意識していただきたい大切なポイントについてお話ししました。
定期的に開催している『拒食症治療説明会』では、参加者の方々のお気持ちに寄り添いながら、実際に当センターで解決に至った事例を解説しながら、具体的にどのように治療を進めていったのかを、臨床心理士・福田俊介監修のもとご紹介しています。
また、治療説明会の後半には、精神科医である所長・福田俊一によるQ&Aコーナーを設けており、毎回、参加者の方々にご好評いただいております。
ご興味を持っていただけましたら、ぜひご参加くださいね!
開催の日程などの詳しいお知らせは、HPや淀屋橋心理療法センター公式LINEでお知らせいたしますので、登録していただけると便利です。淀屋橋心理療法センター公式LINEでは、その他さまざまな講演会のお知らせや、HP最新記事のお知らせなども配信しております。
拒食症の治療の注意点 病院との連携の大切さと淀屋橋心理療法センターの治療方針
淀屋橋心理療法センターでは、基本的には薬を使わないカウンセリング治療で摂食障害を解決することを目指しています。 しかし、拒食症の場合は、患者ご本人の身体の健康状態が悪化してしまう(病院での治療が必要になる)可能性を考慮して治療を進めていかなければいけません。当センターでは、以下のような理由で、病院との連携が必要と判断する場合があります。
- 身体的な原因が他にないか、鑑別が必要な場合
- 当センターのカウンセリングをスタートして、大きく効果が出るまでに数ヶ月かかることがあり、それまでに体重が大幅に現象した場合には、入院治療も必要になることがあります
- 体重、血圧、心電図、肝機能等、身体の状態を定期的に把握しておく必要があります
いざという時に頼ることのできる、拒食症治療に対応している(入院等ができる)病院を見つけておくことはとても大切です。
特に拒食症治療では、心と身体の健康状態をバランス良くケアしていく必要があります。個人の判断で「カウンセリングで治療する」「病院で治療する」と決めてしまうのではなく、カウンセリング専門機関もしくは病院で、心と身体の健康状態についてしっかりと診断後、摂食障害治療の専門家と一緒に治療の方向性を考えていくのが良いでしょう。
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摂食障害(過食症・拒食症)
拒食症のカウンセリングを有効に活用するコツ
カウンセリングで治療する摂食障害(拒食症・過食症)/ 生きづらさも克服
◆ 【摂食障害】著書のご紹介 ◆
淀屋橋心理療法センターの所長であり、医師の福田俊一の著書をご紹介します。数多くの臨床経験から、摂食障害を克服するヒントをお伝えしています。治療説明会に来られる方からも「本を読みました」と、嬉しいご感想などもいただいています。
タイトル
母と子で克服できる摂食障害――過食症・拒食症からの解放
概要
摂食障害(過食症・拒食症)の背景には、母と娘の愛憎ドラマが多く見られます。二人がカウンセラーの導きや父親のサポートを得て葛藤を乗り越え、分かりあい支えあう関係に生まれ変わることで、驚くほど症状は良くなっていきます。
本書では、こじれる前の初期段階の事例から始まり、早く手を打てば良くなる段階の事例、そして長期化していても克服できることを示す事例を紹介し、症状レベルに合わせた適切な対応やアドバイスをまとめています。長い年月摂食障害にかかっていても、治る可能性は十分にあるのです。
タイトル
克服できる過食症・拒食症―こじれて長期化した過食症・拒食症でも治る道はある
概要
「あきらめたらあかん!過食症・拒食症にかかったことは、自分の本質に気づき、能力を伸ばすチャンス!」。あくまで前向きに、本人の可能性や家族の力を信頼し、治療を進めていくセラピストたち。「両親のみでも治療をスタートできる」という画期的な治療を行ない、重症化した数多くの患者を快方へと向かわせている。新たな治療の可能性を示した、本人、家族、治療関係者必読の書。
タイトル
過食・拒食の家族療法
概要
「子どもがやせ衰えていく」「娘がかくれて盗み食いを」「食べ出したら自分でも止められない」。過食症・拒食症を抱える本人とその家族の悩みは深い。一見簡単にコントロールできそうなこの問題は、実は本人の生きづらさ・自分さがしというこころの深層に根を張る、成長の節目に待ち受ける落とし穴。本人と家族がともにその節目を乗り越え、新しい自分になって歩き出すために、本人と家族のもつ力を信じ、支える家族療法。