
「まだ汚れている気がする……」
強迫性障害の手洗いは、何回洗っても、どれだけ時間をかけても不安が消えないのが特徴です。
洗っている最中に、水はねで汚水が手についてしまったのではという恐怖から、さらに洗い続けてしまうケースも多く見られます。
なかには、水道代が月5万円を超える場合も。
この記事では、実際のカウンセリング事例(24歳・女性)をもとに、強迫性障害にかかりやすい人の特徴やご家族の対応方法、ご本人の心境の変化を、具体的にお伝えします。
手洗いを止められない原因や、ご本人に寄り添う関わり方を探している方の参考となれば幸いです。
「こんなあほなこと、なんでしてるんやろ」と思っても手洗いを止められない
強迫性障害で一番よく知られている症状は「手洗い」です。アヤカさん(仮名・24歳)もその一人でした。
外から帰ったら、手が汚れているようで気になって仕方がなく、洗って洗って30分たち「もうきれいになったやろ」と思ってひと休み。
新聞を読んだりしているうちに急にまた手の汚れが気になりだし、洗い出します。
「もういいかげんにやめたら?」と、家族の人に言われても、まだ汚れているような気がして、洗うのを止められません。
1時間以上たち、自分でも「こんなあほなこと、なんでしてるんやろ。ええかげんに止めんといかんわ」と思うのですが、止めることができません。
▶強迫性障害の種類や症状など、詳しくはこちらのページをご覧ください。
食事前の手洗いがやめられず、父親が一喝
ある日の夕食前のことです。
「アヤちゃん、いつまで洗ってるん?お父さん、ご飯食べるん待ってはるよ」
と、母親が洗面所にやってきました。
「はーい、すぐ行きます」と返事をしてから、また10分。
それでもやって来ないので、とうとう父親が…。
「いったい何分待たせるんや。アヤカ、ええかげんにせんか!」と、怒りだしました。
叱られたアヤカさんは、濡れた手を拭きもせず、胸のあたりでぶらぶらさせながらやってきました。
「お母さん、手洗うのやめられへんのや。汚れてへんか、見て!」と、泣きながら両方の手を差し出します。
その手は洗いすぎて赤くなり、いまにも皮がむけそうです。
「これはいかん。単なるきれい好きやない…。なんかの病気とちがうか?」と、その様子を見て、母親はもとより、父親も不安でいっぱいになりました。
2年前から「手洗い」の兆候があった
淀屋橋心理療法センターには、来所が可能な方に限り、本格的なカウンセリングをスタートする前の「事前相談」というシステムがあります。
こちらに予約され、ご両親が相談に来られました。
「実は、おかしいなと思いはじめたのは、ずーっと前からなんです」と、母親が話し始めます。
2年前、アヤカさんが大学を卒業して初めて仕事にでるようになった頃のことだというのです。
「あれ、なんかよう手を洗うな」と母親は不思議に思ったのですが、休まず出勤するし、明るい感じで家でも生活上の支障はみられませんでした。
職場も初めは楽しそうだったのですが、
「先輩のキョウコさんがいじめるねん。つらいから行きたくない」と言って、行きしぶる日もでてきました。
それでも頑張り屋のアヤカさんは、仕事を休んだり遅刻したりすることは、一切ありませんでした。
「なんやその頃からでしょうか、手洗いが長くなったなと感じはじめたんは…」と、母親は記憶をたぐりよせるようにつぶやきました。
▶事前相談システムについて、詳しくはこちら
アヤカさんは強迫性障害にかかりやすいタイプ
話を聞いたカウンセラーは、
「まだ手洗いだけですね、ご心配な点は」
「“汚い”が、お風呂のマットとか椅子とか、他の物に広がっていないようですね」
「これは、たいへん重要なポイントなんです。今のうちになんとか手をうちましょう」
と伝えました。
そして、強迫性障害にかかりやすいタイプについて、次のように説明しました。
- こだわり性で、納得しないと動けないタイプの人が多い(本質的には頑固)
- 几帳面なところがあり、なんでも完璧にしないと気がすまない
- 人から『ああしろ、こうしろ』と指示されて動くのがきらい
- 何事にもゆっくりじっくりと取り組むので、時間がかかる
カウンセラー:
「どうですか?アヤカさんにあてはまるタイプはありますか?」
母親:
「はい、ぴったしです」
「小さい時から、なんでもこだわって納得するまで動きませんでした。それと完璧にしないと気がすまないというとこですかね、お父さん?」
父親:
「そうやな、確かにそんなとこがあるなあ。そやから、何をしても時間がかかって困っていました」
「子どもさんのタイプとか持ち味は、とても大事なポイントです。症状の善し悪しにも、影響を与えることがよくあります」
「さあ、それではこういう持ち味の子どもをどう扱えばいいのか、それについてお話ししましょう」
と、カウンセラーはご両親へのアドバイスに進みました。
▶強迫性障害のチェックリストは、こちらのページをご覧ください。
【母親の実践】3ヶ月後、アヤカさんの手洗いが減ってきた
母親はカウンセラーからもらったアドバイスを項目別に書き出し、うっかり忘れないよう自分の手帳の内側に貼っておきました。
そして開け閉めの度に見て、言い聞かせていました。
- アヤカは、こだわり性で納得しないと動けないタイプ。
- ゆっくりじっくり、ペースを尊重してやる。
- せかしたり、焦らせたりしないように気をつけること。
- 手を洗いだしたら、「気のすむまで洗ったらええんやで」と言ってやる。
- アヤカの話はできるだけ聞いてやり、口をはさまないよう気をつける。
- 本人の言う通りにしてはいけないこともある。その都度カウンセラーに報告し相談しながら、慎重に進めていく必要がある。
こうしたアドバイスは簡単なようで実際にやろうとすると、なかなか難しいものです。
毎日のさりげない場面で出てくるので、余計に「ついうっかりやってしまった」と思うことが、よくあります。
手帳など目にする機会の多い場所に貼りつけておけば、毎日何度も眺められるので、すぐ思い出せます。
小さなことの地味な積み重ねですが、お母さんのこの努力は、大きな変化をもたらしました。
それから3ヶ月後、アヤカさんの手洗いはだんだんと減ってきました。
手の汚れが気になって1時間洗っても止められない状態だったのに、今では30分ほどで切り上げられるようになってきました。
「お母さん、きれいになった?見て見て!」と、確認してもらわないと気がすまなく、しつこく母親につきまとっていたのに。
これらの行為も次第に少なくなってきたのです。
「気がすむまで時間かけて洗ったらええんやで」と母親
「この調子で続けてください。こんな地味な積み重ねが、長い目でみると効果がありますのでね」と、カウンセラーは励ましました。
手洗いに関しては「洗いたかったら、好きなだけゆっくり洗ったらええわ」という気持ちで。
母親もいつのまにか「まだ洗ってんの」とか「もうええ加減に洗うのやめたら」は、言わなくなっていました。
「アヤちゃんの気が済むまで、時間かけて洗ったらええんやで」と、カウンセラーにアドバイスを受けたように対応しています。
「自分のペースでいい」って思うと自然に止められた
アヤカさんはそんな母親について、こう話しました。
「前は『早くしなさい』とか『もうええ加減に手洗い止めたら』とか言われると、『あ、いかん、また長いこと洗ってる。もう止めなあかん』と、あせってしまって」
「それで、余計止められんようになってしまってました。けど『ゆっくり気がすむまで洗ったらええんやで』って言われると、気持ちがスーッと落ち着いてきて」
「『あ、そうか自分のペースでええねんな。そしたらそろそろ終わりにしよか』と、自然にやめられるようになってきました」
人に言われてやめるのは、やめたことになりません。
それどころか「やめさせられた」というイライラ感が残り、余計洗いたくなる気持ちにとらわれることがあります。
洗うのもやめるのも自分の意志でできるようになると、少しずつ「手を洗う」というこだわりから脱出できるようになるでしょう。
文章で書くとすんなりいくように思えるかもしれませんが、本人にとっても家族にとってもここまでくるのは長い辛抱の道のりでした。
(注:ここに書いてあることは、カウンセリングの中のほんのひとコマのアドバイスです。自己判断で、この部分だけやってみてもうまく行かないときもあります。そんなときはすぐに専門家に相談することをおすすめします)
▶関連記事:強迫性障害(強迫神経症)自己臭のケース
“`

