「手洗いがやめられない」から始まることが多い

強迫性障害(強迫神経症)を家族療法では、こうして治す

家庭でできる早期発見のサインは

  • 外から帰ってきたとき、手を洗う時間が長いと感じる(三十分以上)。
  • 石けんのなくなり方が早く、タオルがいつもぬれている。
  • ごまかしたりすることや、いい加減にすることができない性格だ。
  • ごみや汚れ物を目につく所においておくと「きたない」と言っていやがる。
  • 学校から帰ると、制服やかばんがきたないと言ってなんどもふく。

家庭で予防する方法は

強迫性障害(強迫神経症)のなかでは手を何度も洗う洗浄強迫、ガスの栓を三十回以上確かめる確認強迫などが代表的なものです。手を三十分以上も洗っているので、家族はつい「もういい加減にやめなさい」と言ってしまいがちです。本人もこうした行為をばかげているとわかっているのですがやめられません。それではどうしたらいいのでしょう。

この症状は「まだやってるの」とか「もうやめなさい」といった言葉がけは逆効果です。対応の原則は「せかさない、否定しない」です。しかしまずはじめは強迫性障害(強迫神経症)か否かを確かめるために「長い時間洗ってるよ。もうやめたら」と、一般的な対応をしてみるのも一つの方法です。それで子どもはやめられるかどうか。やめられなければ強迫性障害(強迫神経症)を疑って早い受診をすすめます。しろうと療法は問題を先送りするだけでなく、こじれさせる基となりますので気をつけて下さい。

かかりやすいタイプは几帳面な子、こだわりの強い子、完全主義な子、あまり融通のきかない子などです。こうしたタイプの子どもは小さな事にもこだわりを示し、納得しないと前へ進めません。そのうえ迷いやすく決断が遅く何事にも時間がかかります。どうしても他の子より何をするにも時間がかかり、後をついていく形になります。それなのに人から指示されて動くという従属的立場にたつことがいやでたまらないのです。

このようなタイプの子どもを持つ親は、特性をよく理解したうえで子育てにあたる必要があります。家族のなかにせっかちな人はいませんか。「早くしなさい。まだできないの」が口ぐせになっていませんか。せかされ続けるところへ、発表会、受験などの外部ストレスが加わった時に発症しやすくなります。

強迫性障害(強迫神経症)の事例

家族構成:卓也(本人中学一年)弟(小学五年)両親の四人家族

「ぐずの卓也」とからかわれて

「息子のことが心配で」とお母さんが相談にこられました。長男の卓也のことですが最近学校から帰ると「あいつら許せない」と、こぶしでテーブルの上をたたくというのです。聞いてみると二人の友達が定期をやりとりして、バス賃をごまかしているとのこと。「おまえら、そんなことしていんか」と、正義感の強い卓也が注意をしたところ二人から意外な言葉が返ってきました。「おまえみたいなぐずはこんなことできないだろう」「そうそう、ぐずの卓也にはできんよな」と。

工作を作るのも遅い。かけっこはいつもビリ。先生の説明もすぐに飲み込めずモタモタ。自分が他の子たちより何につけても遅いことはわかっていました。でも毎朝いっしょに通学してきた二人にこう言われ、卓也は二重のショックを受けました。「あいつらきたないことをする」と言っていたのが、いつの間にか給食がきたない、机や椅子がきたないと言い出すようになりました。学校から帰ると手を何度も洗うようになったのは、それから間もなくのことでした。

せっかちタイプは家族にいませんか?

話を聞いたセラピストは「止めてもやめられないようなら強迫性障害(強迫神経症)です。直接のきっかけは二人の不正を許せない潔癖さと、自分は悪くないのにからかわれたくやしさでしょう。しかしそれだけで強迫になるとは言えません。家族のなかにせっかちな人はいませんか」と聞きました。母親はうなずきながら「はい、私も父親もどっちかというとせっかちです。弟もそうですね。あの子だけがゆっくりで」と答えました。

これで一つ謎がとけました。この症状にかかりやすい子は物事をゆっくり考えて迷いながら結論をだすような子。納得しないと動けない子。だからおのずと時間がかかります。なにをしてもぐずになるのは自然のなりゆきということがわかります。それが家族のなかにせっかちな人がいてあせらされると、自分のゆっくりじっくりペースを崩してしまうところから、この症状がおきやすい素地となるのです。

じっくりゆっくりペースを取り戻せるかが鍵

「外であった納得のいかない体験が発症の原因と思われがちですが、これはきっかけです。お家の中で卓也君があせりを捨てて、自分のゆっくりペースを取り戻せるかが立ち直りのポイントとなります」。セラピストは両親にどうしたらいいかの説明を具体的にしていきました。「手を洗ったり、テーブルの上をふいたりということはまだ初期の症状です。これがひどくならないようにくい止めなくてはなりません。つぎにあげる点に注意してください」と、セラピストは次の三点を書き記した。

  1. 症状が続く原動力は”あせり”です。この気もちが少しでも軽くなるようにしてあげましょう。「まだ洗ってるの」と言われると、よけいあせります。「いいよ、いいよ、気のすむまで洗ってていいよ」という言葉がけが卓也君の気持ちをほっとさせるでしょう。
  2. もし卓也君が「お母さん、あれして、これして」と頼んできても、できるだけ手伝わず自分でやらせることです。手伝ってもらうとやりやすくなり、症状が増えたり長引いたりする恐れがあります。
  3. 卓也君はいろんなことを気にしているはずです。「あいつらあれで許されるんか。学校はどうなるのか。数学や英語は。クラスのみんなはどう思ってるだろう。いつまで手を洗ってるんだ」と。卓也君はおそらくそんな”気にしいの自分”がきらいでしょう。気にしていることを否定せず受け止めてあげれば、そのプロセスのなかで自分を認めていけるようになるはずです。

症状が増えてもまわりがあせらないこと

「考えられるのは症状がこれから増えていくということです。手洗いだけだったのが、ドアが汚い、お風呂のマットがきたない、畳がきたないというふうに。そのたびごとに親の心配はどんどんふくれあがります。『あそこきれいにして、ここをふいて』といった卓也君の要求に振り回されたり、逆に『いいかげにしなさい』と抑えにまわったりしてしまいます。その対応がまた症状を悪化させるきっかけにもなるのです。まわりがあわてずあせらず『いくら悪くなっても24時間以上は洗い続けることはないんだ』と、開きなおる気持ちが必要です。わかっていてもこれがなんとむつかしいことか。しつこい行為に家族が疲れはててしまうのがこの症状のつらさでもあるのです」。

限界を身をもって体験したら止められる

気になる不安を消すために手を洗うのですが、不安は消えません。これがすんでもまた次に気になる不安がわいてきます。どんどんエスカレートしていくわけですが、やがてどこかで限界を悟るようになります。「こんなことやっていてもきりがない」ということを本人が身を持って感じたとき、症状は下火になってきます。さんざん苦労して頭を打って「ああ、もう気になることを消し去ろうとしても無理なんだな。それじゃ気になることと共に生きていこう」というふうに、年貢をおさめる心境になれたらしだいに症状は消えていくのです。

「手洗いがやめられない」から始まることが多い。

* 本文は当センターから出版した『しぐさでわかる心の病気』(エール出版、福田、増井著)から、抜粋したものです。

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