いじめ不登校

「長いものには巻かれろ」

ひと昔前ならクラスに一人二人は「正義の味方」がいたものです。それが今では「長いものには巻かれろ」主義が横行し、いじめられた子をかばうとその子までがいじめられてしまう世の中になってしまいました。「見て見ぬフリ」「ことなかれ主義」が世渡りの原則になりつつあるわけです。

いじめがもたらす弊害

いじめの種類は恐喝・リンチなど大胆なものから、仲間はずれ・無視など目の届きにくいものまで様々ですが、その弊害が実に深刻なのです。自殺はもとより、不登校、家庭内暴力、人間不信、果ては対人恐怖といった後遺症となり、十年以上も引きずってしまう人もいます。

「誰にもわかってもらえない」

子どもさんが一番つらい思いをしているのは「孤立感」です。「自分は悪くない。犠牲者だ」という気持ちも強いはずです。つまり、子どもさんの心の中は「つらさ」だけでなく「腹だたしさ」「怒り」「くやしさ」「寂しさ」などの感情で満ちあふれているのです。そして、にぎやかなクラスの中で孤立しているとその温度差(自分と他人の雰囲気の高低差)の違いでいっそう孤立感が強まってしまいます。同様のことが家庭内でも起こります。明るい家庭ほど「いじめの話をすると雰囲気をこわしてしまうんじゃないか」と考えがちです。また、「親に余計な心配をかけてしまわないかな」「どうせ言ってもわかってもらえないだろうな」など、色々と気をまわしすぎて自分自身でブレーキをかけてしまうこともあります。学校でも家庭でも孤立する。これがいじめの「赤信号」です。

良かれと思ってとった解決策が裏目に

自分の子ども(自分が担任をしている子)がいじめられているとわかった時、その解決策は慎重に考えなければなりません。「いじめた子を注意する」「いじめた子の親に注意する」「本人をはげます」「本人の尻をたたく」など、一般的な対応は裏目に出ることが多々あります。特に、本人がいじめの事実を打ちあけるとすぐに教師や親が解決策に走ろうとすることがありますが、そこは要注意。本人は解決を望む以上に「失敗したくない」「仕返しが恐い」など、かなりデリケートに悩んでいるはずです。「言うとすぐに動かれてしまう」という不安が、せっかく開いた本人の口を閉ざしてしまいかねません。「気にするな」「もっと強くなれ」なども同様です。本人の感情が表面化するかどうか、これが解決の重要なカギを握っているわけです。

アドバイス編

先生へ:まずは家族の言葉をうけとめて

いじめ不登校は親も子も不安でいっぱいです。そんなとき「頼りになる先生」をお願いします。先生の一言に家族は一喜一憂します。それほど先生の影響力は大きいのです。初期段階で必要なことは、「それは大変ですね」「すぐに調べましょう」と家族の訴えを重要視するなど誠実な対応をとっていただくことです。逆に、安心させようと思い「その程度ならまだマシですよ」「気にしすぎじゃないですか」といった対応は逆効果です。家族は先生までも敵にまわした気分になります。それほどいじめ問題は当事者間だけでなく、学校との信頼関係にまで波及しやすいのです。問題をこじらせないようにしつつ、プロへの相談をお勧めいただくことも必要です。

親御さんへ:子どもさんの気持ちになって「聞き役」を

子どもさんにとって一番身近な存在は親御さんです。いじめ問題だけでなく「何でもよく聞いてくれる親御さん」をお願いします。ただ、最初からいじめの話ばかり出てくるわけではありません。日常の話題の中から批判や不安が出てきて、それを聞いてもらえるうちに安心感をおぼえるのです。「聞き出す」よりも『聞いてー聞いてー』をねらって下さい。また、本題のいじめの話が出てきても解決策は慎重に。「○○したら」と言いたい気持ちをぐっとガマンし、同調しながらじっくり聞いてあげて下さい。やがて「よし、こうしよう」や「お母さん○○して」といった解決策を自分で考えられることもあります。子どもさんが納得できる解決策が何より大切です。

学校+家庭:チームワークが大切です

いじめ不登校の解決に両者のチームワークは欠かせません。しかし、初めから解決策ばかり話し合っているとどうしても意見のぶつかり合いが起こりがちです。そこでおすすめなのが「事実でつながる」ことです。先生はその日学校であったことを親に、親は家での子どもの様子や会話を先生に、互いに伝えあって下さい。こうすることで、いざ担任の先生が子どもと話しあうときでも「○○が好きなんだって」と話が弾みやすくなり、親にとっても学校の話題を推測だけでなく、状況を頭にうかべて話すことができるようになります。

いじめ早期発見のサイン

子どもさんは学校でいじめられていても、なかなか家では言いません。そのため、親御さんは子どもの普段の様子からいち早く状況をつかむことが大切です。当センターで一月に出版しました「しぐさでわかる心の病気」の中にも、いじめ不登校の早期発見のサインを掲載しています。

最近食欲がなく、ぼんやりしていることが多い

「学校」「いじめ」といった言葉を口にすると、びくっとして顔をこわばらせる

登校時間になると腹痛や頭痛を訴えて、うずくまってしまう

学校の持ち物(カバン、ノート、けしゴム、うわばきなど)がよくなくなる

制服に泥がついていたり、足あとらしきものがついていたりする

青あざや擦り傷がついているが、「こけて自分でつけた」という

人の気配や物音など、以前はどうもなかったのにやけに恐がる

2019.04.17  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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