子どもの癇癪の治し方|不登校・強迫性障害を抱えた小学生と、両親が歩んだ回復の記録

更新日:2026.05.10
子どもの癇癪の治し方|不登校・強迫性障害を抱えた小学生と、両親が歩んだ回復の記録

「どう対応すればいいのか、もうわからない」
「こんなに頑張っているのに、なぜ良くならないんだろう」
「私が何か間違えたのかな……」

子どもの癇癪や不登校に向き合うとき、親御さんの心には、怒りや悲しみ、自分を責める気持ちが一度に押し寄せてくることがあります。そんな毎日を、誰にも話せずに抱えていませんか。

今回ご紹介するのは、不登校・強迫性障害・激しい癇癪を抱えた小学3年生のサキちゃん(仮名)のケースです。

担当カウンセラー
カウンセラー:福田俊介(ふくだ しゅんすけ)
福田俊介(ふくだ しゅんすけ)
臨床心理士・公認心理師(国家資格)。家庭内暴力をはじめ、不登校・過食症・リストカットにおいても高い治療成績を上げる。大阪府公立学校スクールカウンセラーとして現場に立ちながら、養護教諭や行政機関の専門職向けに研修・講演も精力的に行っている。

「今すぐアイス買ってこい!!!今じゃなきゃ嫌だ!」

深夜0時過ぎ。サキちゃん(仮名・小学3年生)の叫び声が、静まり返った家中に響き渡りました。

暴れてメチャクチャになったリビング。散らばったクッション、倒れた椅子。娘をどうにかなだめようとするお父さん。そして壁にもたれ、もう立ち上がる力も残っていないお母さん。

サキちゃんの家では、このようなことが日常的に起こっていました。

4月から突然学校に行けなくなり、外出も怖がる。
昼夜逆転の生活。親への暴言・暴力。そして、長時間の手洗いや壁や床がびしょびしょになるほど消毒スプレーをまきまくる強迫行動……。

家族の関係が限界に近いところから、ご両親がどのように力を合わせて回復の糸口をつかんでいったのか。約半年間のカウンセリングの道のりを、一緒にたどっていきましょう。

サキちゃんとご家族のこと

「幼稚園のころから育てにくい子だった」サキちゃんのお母さんがはじめて当センターのカウンセリングに来られた時の言葉。:カウンセリング(子どもの癇癪)

「幼稚園のころから育てにくい子だった」

これは、サキちゃんのお母さんがはじめて当センターのカウンセリングに来られた時に語られた言葉です。

サキちゃんは、細かいことが気に触っては癇癪を起こす子でした。自分のルーティンは絶対に崩したくない。少しでも自分のペースやこだわりから外れると、パニックになって暴れる…。

それでも何とか小学校に通えていましたが、2年生のころから「朝起きられない」「行きたくない」という日が増えていきました。そして小学3年生の4月、ついに学校に行けなくなってしまいます。

家ではYouTubeとゲームに明け暮れ、話しかけても返事はありません。

イライラしやすく、お父さんやお母さんを叩いたり蹴ったり、物を投げたりすることも日常になっていました。

「何も楽しいことがない。死にたい」——ある日のサキちゃんの言葉です。

「何も楽しいことがない。死にたい」——ある日のサキちゃんの言葉:カウンセリング(子どもの癇癪)

お風呂には2週間入らず、歯磨きもほとんどしない。夕食は夜中の12時ごろ、就寝は深夜1時、起床は翌日の昼1時。家族の生活は完全に昼夜逆転していました。

サキちゃんは一人っ子で、小学3年生とは思えないくらい、どこか大人びたところがありました。「私は先回りされるのが嫌なんだ」と自分でちゃんと言葉にできる子でもありました。

大人びた性格からか、外では気を遣う優等生、その反動で家では激しく暴れる——典型的な「内弁慶」の姿がありました。

ご両親2人で通い始めたカウンセリング

ご両親2人で通い始めたカウンセリング:カウンセリング(子どもの癇癪)

サキちゃんのことを心配するご両親と、カウンセラーを含めた3人でカウンセリングが始まりました。

お父さんは、サキちゃんのためならどんな治療方法でも頑張ってみたいと意欲的。

お母さんも、サキちゃんのために頑張りたい気持ちはお父さんと同じ。けれど、サキちゃんの教育のことで義両親から色々と指摘をされていて、その教育方針とは対極的な当センターのやり方に、最初は少し戸惑いを感じておられる様子でした。

ご両親の治療への考え方に少し差があることが、このケースの難しさでもありましたが、カウンセラーは、まずサキちゃんの性格を整理することから始めました。

初回カウンセリングでのカウンセラーからご両親へのアドバイス

臨床心理士:福田俊介

「サキちゃんは、こだわりが強く、自分の弱いところを見せることが苦手な子ですね。批判したり不満を言葉にする力をしっかり育てていくことが、回復の鍵になります。まずは雑談を伸ばすことから始めましょう」

「幼稚園のころからの生きづらさですから、治るまでには時間がかかります。数カ月はかかるでしょう」

お父さんはとても勉強熱心で、カウンセラーの言葉にすぐに気づきを見出す方でした。

お母さんもお父さんと比べたらカウンセラーの説明を理解するのに少し時間がかかっているようでしたが、すぐに実践しようとしてくださいました。

治療への考え方に多少の違いはありますが、2人で話し合いながら、少しずつサキちゃんへの関わり方を変えていこうと努力される姿に、カウンセラーは希望の光を見出したのでした。

カウンセリング1カ月後|小さな変化が積み重なって

カウンセリング1カ月後|小さな変化が積み重なって:カウンセリング(子どもの癇癪)

お父さんはカウンセリングのたびに、サキちゃんの小さな変化を丁寧に教えてくださいました。

お母さんも「最近こんなことができるようになった」と小さな変化を報告してくださるようになり、2人で変化を見つけ合う習慣が生まれていきました。

ご両親が見つけたサキちゃんの変化:

  • 「ごはんできたよ」と呼ぶと、素直にリビングにくることが増えた。
  • お菓子を持っていくと黙ってひったくっていたのが、「ありがとう」と言える時がでてきた。

ご両親が関わり方を変えたことで、サキちゃんとお母さんが会話できた日も生まれました。サキちゃんはお母さんをずっと避けていて、会話をすることがほとんどありませんでした。少しずつ話せるようになってきたのです。

カウンセラーはこの時期、ご両親にこうお伝えしていました。

「最初の3カ月はどうしても波があります。良くなったり、また荒れたりを繰り返すものです。焦らず、諦めずに続けていきましょう」

臨床心理士:福田俊介
「最初の3カ月はどうしても波があります。良くなったり、また荒れたりを繰り返すものです。焦らず、諦めずに続けていきましょう」

カウンセリング2〜3カ月後|試練と揺り戻し

カウンセリング2〜3カ月後|試練と揺り戻し:カウンセリング(子どもの癇癪)

順調に見えた回復に、大きな揺り戻しが訪れました。

お母さんが義両親から「過保護をやめなさい」「子どものいいなりになったらいけない」「毅然とした態度をとれ」と言われ、サキちゃんの要求を全部断るようにしたところから、状態が急激に悪化したようでした。

落ち着いていた強迫症状も悪化。「家中が汚い!」と言い、壁や床、ドアノブなど、家の至る所をびしょびしょになるまで消毒スプレーをまきまくる。親御さんがそれを拭き取ろうとすると癇癪を起こす。テレビのリモコンなども、ゴム手袋をしないと触ることができなくなっていました。

消毒スプレー:カウンセリング(子どもの癇癪)

癇癪は1時間以上続くことも。壁を蹴り、自分の髪を引っ張り、扇風機をガシャーンと投げ倒したりすることもありました。

この時期は、お父さんもお母さんも、来所するたびに疲れ果てた表情をされていました。

「娘のことも大変。夫婦でも意見がぶつかることがある。どうしてもネガティブ思考になってしまう」とお母さんはおっしゃいました。

それでもお二人は、お互いを責め合うことなく、「どうすればサキちゃんのためになるか」を話し合い続けていました。その姿に、カウンセラーはご両親の底力を感じていました。

カウンセラーは、ご両親にこう伝え続けました。

臨床心理士:福田俊介
「サキちゃんの話す力が伸びてきたら、癇癪の頻度も程度も必ず軽くなってきます。今はしつけは後回し、治療を優先してください。今はしのいでもらうしかない時期ですが、しのいだ先にサキちゃんの成長はきっとあります!」

転機|お母さんが迷いを断ち切った日

転機|お母さんが迷いを断ち切った日:カウンセリング(子どもの癇癪)

転機は、お母さんが迷いを断ち切ったことで訪れました。

義両親から「過保護はやめなさい」「しっかりしつけなさい」と言われ続けるなかで、お母さんは「淀屋橋心理療法センターのやり方で本当にいいのか」と悩んでいました。

しかし、当センターのやり方を続けていくにつれて、どんどん良い方向に変わっていったサキちゃんを目の当たりにして、お母さんの中で何かが吹っ切れたのだそうです。

お父さんの「俺は淀屋橋のやり方でやる。一緒に頑張ろう」という心強い言葉も後押しになり、お母さんはついに当センターのやり方一本でいくことを決めてくださったということでした。

その日以降、サキちゃんにも良い変化が再び現れ始めました。

ご両親が見つけたサキちゃんの変化:

  • サキちゃんが荒れる頻度が減った。
  • 消毒スプレーをまく頻度が少し減った。
  • 1階のトイレも使えるようになった。
    (今までは、サキちゃん自身のこだわりと強迫性障害の影響で、1階のトイレは使いたがらず、2階のトイレばかりを使っていました)

その後、サキちゃんとの関係が悪化した時期について、お母さん自身がこう振り返ってくださいました。

「あの頃は私の気分が落ちていました。娘に関わるのを避けてしまっていました」

その正直さに、カウンセラーは大きな可能性を感じました。

カウンセリング4〜5カ月後|お母さんの変化がサキちゃんを変えた

カウンセリング4〜5カ月後|お母さんの変化がサキちゃんを変えた:カウンセリング(子どもの癇癪)

お母さんの迷いが消え、精神的に安定してきた頃から、サキちゃんの変化は加速しました。その変化は、サキちゃんとの会話の様子にはっきりと表れていました。

お母さんのサキちゃんへの否定的な言葉が減り、前よりも落ち着いて話を聞けるようになっていたのです。

お父さんも「最初は私の方が、サキに対してうまく対応できていると思いましたが、今では妻の方が上手いくらいですよ」と笑いながら話してくださいました。

サキちゃんの様子も、目に見えて変わっていきました。

「数カ月間ずっと2階の自室にひきこもっていたのに、日中の8割をリビングで過ごすようになりました。家族と一緒に食事をする日が増え、「ごちそうさま」と自分から言えた日が2回ありました」とお父さんは報告してくださいました。

お母さんのことを強く避けていたサキちゃんでしたが、「3人で寝よう」「3人でカードゲームをしよう」と、お母さんを含めたメンバーで何かをしようと言い出したのはこの時期です。

サキちゃんがトランプを切って配り、家族3人でババ抜きをする——数カ月前には想像もできなかった光景だったとお母さんが話してくださいました。

家中に消毒スプレーをまきまくる強迫行動もほぼなくなりました。料理を手伝ったり、「ちょっと外に出ない?」とお母さんが声をかけると少しの間だけ外出できるようにもなってきました。

会話の中に見えてきた、サキちゃんの本当の言葉

会話の中に見えてきた、サキちゃんの本当の言葉:カウンセリング(子どもの癇癪)

お父さんが話してくださるサキちゃんの家での様子には、サキちゃんの豊かな言葉が増えてきていました。

「学校に行ったらみんなから『あれしよ』『これしよ』って言ってきて振り回される。それでメンタルがやられるねん」

「学校で『好きなテーマで自由に作文書いてね』って言われたんだけど、『自由にして良いよ』って言われてもどうしたら良いのかわからなくなって困るねん」

「こういう生活を1年も続けようとは思わない。でも今は休憩やねん」

※小学校3年生にして、このような大人びた考えができるのも彼女の生きづらさかもしれません。

怒りをぶつけることで精一杯だったサキちゃんが、自分の気持ちを言葉にし始めていました。

カウンセリング終結に向けて

カウンセリング終結に向けて:カウンセリング(子どもの癇癪)

カウンセリング開始から半年が過ぎた頃、お父さんからこんな言葉がありました。
「怖いほど順調なので、また落ち込むこともあるだろうとは覚悟しています」

この言葉には、カウンセリング開始当初の焦りや不安とは全く異なる、静かな落ち着きがありました。嵐の中を一緒に歩いてきたからこそ生まれた、本物の覚悟です。

お母さんも「サキが良くなるかどうかは、結局私たち次第ですよね」と、ご自身への信頼を口にされるようになっていました。

カウンセラーはお二人にこう伝えました。
「お父さんとお母さんが、サキちゃんの心を回復させるために、家族以外の誰かに頼ることを恐れず、2人で支え合いながら動き続けてきたことが、今の結果につながっています」

その言葉を聞いたお父さんは、隣のお母さんと顔を見合わせ、「ありがとうございました。あとは自分たちだけで大丈夫そうです」とおっしゃいました。

サキちゃんはまだ、学校に行けるようになったわけでも、すべてが解決したわけでもありません。
それでも——深夜に叫び声が響いていたあの家に、今は家族3人の笑い声が戻っています。

子どもの癇癪でお悩みの親御さんへ|このケースから見えてきたこと

子どもの癇癪でお悩みの親御さんへ:カウンセリング(子どもの癇癪)

サキちゃんのケースを通じて、回復に欠かせない3つのことが見えてきました。

1. 癇癪の「その瞬間」への対処より、日常の関わり方を変えることが本質

癇癪の「その瞬間」への対処より、日常の関わり方を変えることが本質:カウンセリング(子どもの癇癪)

残念なことに、子どもが激しい癇癪を起こしたとき、その癇癪を一瞬でおさめるような魔法の言葉はありません。

大切なのは、日々のさりげない雑談の積み重ねです。「この人には気持ちを話せる」という安心感が育つことで、子どもは少しずつ怒りを言葉に変えられるようになっていきます。

2. 親御さん自身の「心の余裕」が、子どもの回復を動かす

 親御さん自身の「心の余裕」が、子どもの回復を動かす:カウンセリング(子どもの癇癪)

今回のケースでは、お母さんが自分自身のカウンセリングを通じて心に余裕を取り戻した途端、サキちゃんのほうから歩み寄るようになりました。

子どもは親の心の状態に敏感です。お子さんのためにできる大切なことのひとつは、親御さん自身の心を健やかに保つことかもしれません。

3. 両親が「同じ方向を向くこと」が、子どもに安心感を与える

両親が「同じ方向を向くこと」が、子どもに安心感を与える:カウンセリング(子どもの癇癪)

このケースで特に印象的だったのは、意見の違いがあってもお互いを責め合わず、「どうすればサキちゃんのためになるか」を話し続けたご両親の姿です。

もちろんはじめからご両親で連携が取れていたわけではありません。最初は教育方針の違いから、夫婦で激しく衝突することも多かったそうです。そこからお互いが、サキちゃんのためにお互いを責め合わなくなったのが素晴らしいと思いました。

両親が足並みをそろえることは、子どもにとって何よりの安全基地になります。

親御さんの頭を悩ませる激しい癇癪ですが、癇癪の裏側には子どもが発しているSOSのサインが隠れている場合があります。その声に寄り添うために、何かできることはないか、一緒に考えてみませんか?

*この記事は、当センターにご相談いただいたケースをもとに執筆しています。個人が特定されないよう、内容の一部を変更しています。

ご両親が同じ方向をむいてお子さんの治療に臨むことは、とても大切なことですが、淀屋橋心理療法センターのカウンセリング治療では、「必ずしもご両親が同じ方向をむいて治療に臨まなければいけない」わけではありません。
「子どもの心をどうにか救ってあげたい」と強く思っておられるお母さんもしくはお父さんどちらかお一人でも、お子さんが回復したケースはたくさんあります。

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記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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