お母さんをノックアウトしてしまうほどの癇癪(かんしゃく)

お母さんをノックアウトしてしまうほどの癇癪(かんしゃく)

世の中には、想像もつかないほど激しい“かんしゃくスイッチ”を抱えた子供達がいます。“かんしゃくスイッチ”の入ったお子さんは、実のお母さんでも精神的に参ってしまうほどに激しく、手をつける事ができないことがあります。

世の中には、想像もつかないほど激しい“かんしゃくスイッチ”を抱えた子供達がいます。“かんしゃくスイッチ”の入ったお子さんは、実のお母さんでも精神的に参ってしまうほどに激しく、手をつける事ができないことがあります。

小学校4年生のアキラ君は、口数少なめでとても緊張しやすい男の子。普段はとっても優しい子です。ところが、親御さんから注意されたり、納得できないことがあったりすると、人が変わってしまいます。癇癪(かんしゃく)を起こし、家の物を投げたり、お母さんを叩いてきたりすることがあります。また、一度不機嫌になると機嫌が直るまで時間がかかるので、お母さんはとても困っておられました。例えば、友達とその弟と3人で遊んでいる時に、お菓子を友達の弟に食べられてしまった事がありました。それを伝えてきたアキラ君に「アキラも取られないようにちゃんと見ておかないと」とお母さんが言うと、真っ赤な顔になってお母さんの肩を叩き、「宿題しない!明日学校行かない!」と何時間も不機嫌な状態になってしまうのです。

疲れきった表情のお母さんが当センターに来所されました。
こちらのアドバイス通りに親御さんが対応を変えると、アキラ君に徐々に変化が現れ出しました。

変化① 会話が途切れなくなった

以前のアキラ君とお母さんは、会話があまり長続きしませんでした。会話のキャッチボールが3〜4往復で終わってしまうのです。それが以前よりも会話が長続きするようになってきました。

変化② タブレットで動画を見せてくるようになった

以前は自分一人でタブレットの動画を楽しんでいるアキラ君でしたが、この頃になると、「お母さん見て見て!」と自分の興味のあるトラックやトレーラーの動画をお母さんに見せてくるようになりました。お母さんは、フルタイムで働いておられて忙しい方でしたが、興味を持って一緒に動画を見るようにすると、アキラ君がお母さんの好きなイルカやシロクマの動画を、自分で選んで見せてくれるようになりました。

変化③ お母さんの顔色を見ないで話すようになった

以前はお母さんの顔色を伺いながら喋っていたアキラ君ですが、お母さんからの報告によると、顔色を見ないで自分のペースで喋るようになってきたみたいです。喋り方に、以前より少し勢いが出てきました。また、お母さんが冗談を言うと、「なんでやねん!」と明るく突っ込んでくるようになりました。その様子を見ていたお父さんが、「なんか最近、二人仲いいよな」とよくおっしゃるようになったそうです。

変化④ 友達と遊ぶ日が増加

以前は学校から帰ってきても一人で遊ぶ日が多かったアキラ君ですが、最近では友達とサッカーやドッジボールをして帰ってくることが増えてきました。「担任の先生からも『アキラ君はとても明るくなった』と言われました」と、お母さんが、カウンセラーに嬉しそうに報告して下さいました。お母さんが、「最近は、外でもよく遊ぶようになったので、泥まみれになった服を洗濯しています!」と嬉しそうにおっしゃいました。

変化⑤ 自分の意見を言うようになってきた

以前はあまり自分の考えを言わなかったアキラ君ですが、アニメを見ていた時に、「このアニメの終わり方がワンパターンやなあ。俺だったら別の終わり方がいいと思うけどな。」と言ったり、また、動画を見ていた時には、「このトレーラーの荷台の部分の色が気に入らないな。俺だったら黄色にするわ。」と、少しずつ自分の意見を言うように変わってきました。この頃から、声が大きくなり、表情に少し自信が出てきたとお母さんはおっしゃいました。

変化⑥ 店員さんに質問できるようになった

初対面の人がとっても苦手だったアキラ君ですが、ある時、おもちゃ売り場に行くと、店員さんに「〇〇はどこにありますか?」と自分で質問する事ができました。お母さんは、アキラ君がそういうことをずっとできなかったので、とても驚かれました。

変化⑦ 言いたいことが言えるようになってきた

ある時、お母さんとアキラ君が散歩していると、昔あったお店がなくなっていました。お母さんが「前のお店なんだったっけ?確か薬局だったね。」と言うと、アキラ君は「いや、クリーニング屋さんやった!」と返してきました。お母さんが「違うよ。薬局だよ!」と言うと、アキラ君が「いや、クリーニング屋さんやで!そういえば前に一度、ジャンパーをクリーニングに出したやんか。あの緑色のやつ!」と上手に言い返してきました。以前のアキラ君だったら、言いたい事が言えず、かんしゃくを起こしてお母さんを叩いたりしていたでしょう。
また、叔母さんが久しぶりにアキラ君の家を訪ねて来られた時、アキラ君の部屋の床に教科書が置いてあるのを見て、「アキラはお片づけが苦手やね」と言いました。その場にいたお母さんはヒヤリとされましたが、「ランドセルに入れてるより床に置いといた方が、教科書が見えて、宿題がんばれるねん」とアキラ君。しっかりと説明できました。

言いたい事が言えるようになると、アキラ君のかんしゃくは大幅に減り、「担任の先生から『アキラ君は、最近すごく元気です』と言われました。」「主人からは、最近の私の様子を見て『イライラしなくなったね』と言われました。」と、お母さんはとても嬉しそうにおっしゃいました。

自分の意見を言うようになってきた。言いたいことが言えるようになってきた。

※ 記事は、当センターに来所されている方々複数の事例をもとに作成しています。登場する名前は仮名であり、ご本人が特定されないようにしております。

2021.02.19  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊介 原田友美

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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