かんしゃく治療と子どものしつけ:激しい癇癪を解決するために必要なこととは?

かんしゃく治療と子どものしつけ:激しい癇癪を解決するために必要なこととは?

9/26(火)お子さんの激しい癇癪(かんしゃく)を解決する家族療法説明会を開催しました!

目次

癇癪(かんしゃく)を起こしやすい年齢と発達障害

◆ 癇癪はお子さんが小さな頃だけの行動ではありません ◆

癇癪とは、
「大きな声を上げる」「手足をバタバタさせて暴れる」「物を投げつける・壊す」など、
感情の爆発を伴う行動のことです。
子どもの性格や環境・言葉の発達スピードなど
癇癪を起こすのには、さまざまな要因が関係しています。

癇癪は、子どもの成長過程でよくあることです。
一般的には、幼児期(5歳頃)を過ぎると癇癪は落ち着く傾向があると言われていますが、
中には児童期、思春期や大人になってからも続く(もしくは再発する)こともあります。

癇癪は、子どもの成長過程でよくあること

◆ 癇癪と発達障害は関係があるのか ◆

癇癪をよく起こす、もしくは幼児期や児童期を過ぎても続いている場合、
発達障害と関連づけて考えられる場合があります。
実際に、癇癪と発達障害には深い関わりがあるのは確かですが、
発達障害とは関係なく、ご本人の気質・性格や生きづらさからくる癇癪も少なくありません。

また、“わがままな子のどうしようもない怒りの行動”のようにも見られてしまいがちですが、
ご本人の気質・性格や生きづらさからくる癇癪などの場合、
単なるわがままな行動として、親御さんがお子さんの気持ちを押さえつけるように対応されると、 ひどく悪化してしまうことがあります。

一般的な癇癪(かんしゃく)の治療方法とその効果

インターネット・専門書・Youtubeなどでは、
(てんかんや脳腫瘍などの脳の器質的障害がない場合においては、)
・「〜しようね」などの優しいことばがけ
・「こうしたかっんだよね」など、本人の気持ちを理解・代弁する
・必要以上に構わず毅然とした態度をとる、子供の要求に屈しない

という対応方法をよく目にします。

そういった対応を試みられた親御さんも少なくないのではないでしょうか。
これらの対応で、お子さんの癇癪が軽くなったというご家庭もあれば、
全く上手くいかなかったというご家庭もあるでしょう。

当センターに相談に来られる親御さんの多くは、
これらの対応方法をたくさん試されて、上手くいかなかったため、
その後のお子さんへの対応に悩まれて来所されています。
お話を伺うと、ほとんどの親御さんがお子さんのために一生懸命頑張っておられました。

なぜ、うまくいかなかったのでしょう。

その答えは、お子さん(癇癪をおこしているご本人)の性格にありました。

《 臨床心理士 福田俊介によるケース紹介 》
「今すぐ出て行け!」とご両親を家から追い出した
小学3年生の男の子

◆ 家ではわがまま/学校では良い子な男の子の激しい癇癪(かんしゃく) ◆

小学3年生のシュウヤ君は、頑固で気難しい性格の男の子

地頭が良く、家族以外の周囲の人の目を気にする性格のため、
学校では“特に問題のない、いい子”と評価されていました。
「家ではわがままを言うけれど、学校では特に問題もなさそうだし、楽しく過ごしているだろう」
と、親御さんは思っておられたそうです。

しかし、ある日、「もう学校に行きたくない!」
シュウヤくんは、突然学校に行かなくなってしまいました。
自室にiPadを持って引きこもり、YouTubeやアニメなどを見て過ごし始めるように・・・

食事やトイレ・見たいテレビ番組が放送される時などはリビングに出てきますが、
少しでも気に食わないことがあると、
親御さんが手のつけられないような癇癪を起こすようになりました。

シュウヤくんの大好きなコーラやお菓子が家に無ければ、
たとえそれが真夜中だったとしても
「今すぐ買ってこい!!」

思っていたのと違う夕食のメニューを出されて
「今すぐ作り直せ!」

いつもは定位置にあるはずのテレビのリモコンが見当たらず、
見たかったTV番組の放送時間に間に合わなくて
「お前ら(ご両親)のせいだ!どうにかしろ!!責任とれ!」

親御さんとひどい言い合いになってしまった時は、
「今すぐ家から出ていけーーーーー!!!」
と、親御さんを家から追い出してしまうほどでした。

自分の要求を親御さんがのんでくれるまで、
ワー!ギャー!!とご近所に響き渡るような大声で泣き叫び続けるシュウヤくん。
親御さんがご近所の人と家の外ですれ違った時に白い目で見られたり、
苦情を言われたりすることもありました。

親御さんは決して弱気な性格ではなく、
シュウヤくんに対して毅然とした態度を取れる、
どちらかと言えば、厳しめの教育方針の親御さんです。
ですが、シュウヤくんの起こす癇癪はあまりに激しく、ご近所からの目も気になることから、
シュウヤくんの要求をのまざるを得ない状況になることも少なくありませんでした。

そんな日々が続いたある日、
「もう一度、しっかりと躾をしなおさなければ、大人になってからが大変だ」
と思われた親御さん。
インターネットや専門書などで独自に勉強され、
ご両親が問題だと思った行動などは、しっかりとシュウヤくんに注意し、
シュウヤくんの言いなりにはならないように気をつけられたそうです。

しかし、事態は悪化する一方・・・
癇癪を起こす頻度は増え、シュウヤくんの親御さんへの要求は止まりませんでした。

心も体も疲れ切ってしまった親御さんがたどり着いたのは

◆ 心も体も疲れ切ってしまった親御さんがたどり着いたのは・・・ ◆

「シュウヤの将来を思えば、わがまま放題を許すわけにはいかない。
けれど、このまま厳しく躾けようとしてもきっとうまくはいかない。
一体どうすればいいのか・・・」

なすすべのないご両親は心身ともに疲労困憊の状態。
そんな時に、インターネットで当センターを見つけられたのだそうです。

カウンセラーは、シュウヤくんの現状を聞き、
シュウヤくんという人物を作り上げている、彼が生まれ持った性格を詳しく分析しました。
すると、“厳しく躾ける”という行為が、
シュウヤくんには合っていないということがわかりました。
さらに、カウンセラーは、
親御さんにシュウヤくんの性格に合った対応方法をアドバイスしていきます。

そこで、親御さんに大切にしていただいたのが、
親御さんとシュウヤくんとの他愛無い会話(雑談)の時間でした。

「一見、なんということもない雑談には、とても大きな可能性があります」
と臨床心理士の福田俊介は語ります。
ケース紹介では、実際に親御さんにアドバイスした内容と、
その後のシュウヤくんの変化を見ていただきながら、
雑談がどのように癇癪治療で重要なのかをお伝えしました。

臨床心理士の福田俊介

淀屋橋心理療法センターの考える癇癪治療

◆ お子さんに頑張らせるのではなく、まずは親御さんが頑張ること ◆

当センターの癇癪の治療で一番大切なのは、
カウンセラーがお子さんの性格をしっかりと分析・見極めた上で、
お子さん一人一人の性格に合った、
治療的に効果のある対応の仕方を親御さんに身につけてもらうことです。
治療的に効果のある対応方法は、日常の他愛無い会話(雑談)のなかで、
日々、お子さんに対して練習と実践を繰り返すことで身につけることができます。

お子さんの癇癪を治したいのに、
なぜ、親御さんが練習と実践を繰り返さなければいけないのでしょう?

それは、お子さんに対して「こうした方がいい」「ああしようね」などのアドバイスをして、
お子さん自身に頑張ってもらう(頑張らせる)ような直接的な働きかけでは、
癇癪持ちのお子さんの心には届かず、
親御さんの言葉を全く聞き入れてもらえない精神状態であることが多いからなのです。

それならば、
親御さんが癇癪治療に効果的なお子さんへの対応方法を学ばれ、身につけられる方が、
とても効果的であると当センターでは考えています。

臨床心理士の福田俊介

医師・福田俊一が疑問や不安にお答えします

当センターでは、勉強会に参加していただいた方々の声をとても大切にしております。
どの勉強会の最後にも、
親御さんの疑問にお答えできるようにQ&Aコーナーを設けておりますが、
毎回、親御さんのお子さんに対する熱い思いと共に、非常に盛り上がるコーナーでもあります。

そのほんの一部をご紹介させていただきます。

Q:
癇癪(かんしゃく)って、子どもが自分の言いたいことをちゃんと言えていないから起こるのですか?
質問
所長・医師 福田俊一
A:
それに近いです。
お子さんにも、それぞれに自分の段取りがあって、それが上手くいかなかった時に、どうしようもない憤りのような気持ちに囚われてしまうことがあります。
その気持ちがお子さんの中では抱えきれず、爆発してしまった状態が癇癪であると考えられます。
ですが、癇癪の原因がそれだけとは限りませんので、慎重に見極めていく必要があります。
Q:
本人(子ども)の性格に合った対応をするというのは理解できたけれども、
子どもが将来困らないように、躾けることも大切だと思っています。
子どもへの躾について、先生はどのように考えておられますか?
質問
所長・医師 福田俊一
A:
状況によっては、厳しく言わなければいけないこともあるでしょう。
けれども、親御さんがお子さんを厳しく躾けるということを常態化してしまうのは、あまりおすすめできません。

大切なのは、
普段の親子のコミュニケーションを
いかに質の高いものにしておくか
です。

人生の中で、お子さんは大小様々なピンチに直面するでしょう。
それを親御さんが取り除いてあげたり、全てを避けて通るというのは不可能に近いことです。
お子さんがピンチに直面した時に、それを上手に乗り越えていける力をつけることがとても大切です。
それは、普段の親御さんとの会話の中で、いかにお子さんの思考力や能動性を育めるかにかかっていると私は思っています。


躾けることへ意識を向けるのではなく、お子さんの思考力や能動性を育むためには、お子さんとどのようなコミュニケーションをとっていくべきかに注力された方が、お子さんの将来にとって、より良い結果につながるのではないでしょうか。

思考力と能動性を育む癇癪(かんしゃく)治療
お子さんの将来のために

◆ 躾(しつ)けるのではなく、成長させることの大切さ ◆

親御さんがお子さんの将来を思って、
「しっかり躾けなければ」と一生懸命になられる気持ちはとてもよくわかります。

「もっとしっかり躾けた方がいいんじゃない?」
「〇〇さんのお家の〇〇くんは、本当に良い子なのに・・・」など、
周りの人からのお子さんに対する厳しい意見なども、
親御さんにはとても大きく影響するでしょう。
けれども、一生懸命躾けようとしても、お子さんの心に届いていなければ、意味がありません。

躾けることも時には必要なことですが、
自分で考え、行動していく力を育むことは、躾けることだけでは難しいように思えます。

お子さんが自ら考え、感じたことを言葉に出して表現する。
それを親御さんが否定せずに、味方になって聞いてあげる。
とてもシンプルなことですが、
実際にご家庭で実践しようと思っても、なかなか上手くできないことでもあります。

私は治療説明会を通して、お子さんの心の成長という大きな成果を出すには、
専門家のノウハウと親御さんの辛抱強さが求められるのだと感じました。

聞き分けのいい子に育てようとするのではなく、
一見、協調性が無く自己主張が強すぎる子だったとしても、
その中に隠れてしまっているお子さんの優しい一面や才能を引き出して育んであげられたなら、
お子さんだけでなく、親御さんの心も健やかに前向きに毎日を過ごすことができるのではないでしょうか。

次回は、
激しい癇癪(かんしゃく)や感情のコントロールが苦手なお子さんを成長させる家族療法説明会として、
癇癪だけでなく、感情のコントロールが苦手なお子さんを
お持ちの親御さんも対象とした勉強会を、
11月28日(火)に開催予定です。

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2023.11.25  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》原田友美

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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