
この事例では、警察沙汰になるほどの家庭内暴力や不登校の問題を抱える翔くんとご家族の、
カウンセリング開始から終了までの経過を記しています。
カウンセリングの経過で注目していただきたいのは、
少しずつ出始める翔くんの「小さな変化」です。
この「小さな変化」に親御さんが気づけるかどうか?
それが子どもの問題解決や、心の成長につながる大きなカギとなります。
翔くん(仮名)
〈カウンセリング開始当時14歳 中学2年生〉
カウンセリング開始当初の翔くんの状況
ほぼ部屋に引きこもり、四六時中スマホを触っている翔くんは、 学校にはほとんど行けていません。
プライドが高く家族に弱みを一切見せない、気に入らないことがあれば家族に暴言暴力を振るう…そんな翔くんに、お母さんはとても心を痛めていました。
家族に暴言暴力を振るう翔くん
「なんで起こさなかったんだよ!!!」
翔くんを起こさなかったお母さんに対し、大声で怒鳴りつけ、壁を殴ったり蹴ったり…。
部屋の中はめちゃくちゃです。
「翔、もうやめて、おねがい!」
どんなに止めようとしても、翔くんは暴れ続けます。
お母さんは耐えきれずに、とうとう警察を呼びました。
また、お父さんとスマホの事で揉めた時には、激しい取っ組み合いになりました。
その場は一旦治まり、翔くんはスッと自分の部屋に戻っていきました。
しかしその後、翔くんの部屋から「ドンッ!ドンッ!」という謎の大きな音が響き始めます。
両親が恐る恐る部屋をのぞくと・・・。
翔くんは金属バッドを振り回し、自分の机と椅子を粉々に叩き割っていました。
翔くんは眠る時も、この金属バットを腕に抱えたまま離しません。
家族に対して異常なまでの警戒心があることがわかります。
「もっと頭のいい親の元に生まれたかった!」「俺の方が偉いんだから敬語を使え!」
プライドが高く、親に対してとても偉そうに振る舞う翔くん。
「キモい!」「死ねよ!」
翔くんは、甘え上手の妹の事が大嫌いで、顔を見るたびに暴言を吐き、いじめます。
「俺はおまえたち家族を殺して自分も死ぬ」
当時の翔くんの言葉です。
部屋に閉じこもる翔くん
翔くんはほとんど中学校に行けておらず、部屋にこもって四六時中スマホばかり触っています。
また、お風呂の時間・トイレの時間がとても長い。
お風呂では、ボディソープを一回で容器半分くらい使ってしまったり、シャワーを何時間も出し続けているようなこともあります。
また、同じ下着を一か月以上履き続けるということも…。
「潔癖のような行動をとるの。に、不潔なところもあるし…?」
このように、家族にとって不可解な行動がいくつかありました。
カウンセリング開始から2・3か月経った頃の「小さな変化」
大きな変化(暴言暴力や不登校の解決)につながるような、小さな変化が少しずつあらわれ始めます。 ここでは、その事例を4つ、イラストを交えてご紹介します。
焦らず、小さな変化に目を向ける
カウンセリングを開始し、親御さんには翔くんへの対応の仕方を意識して接していただきました。 (こだわりが強い、マイペース、神経質、気性が荒い…など、お子さんにはそれぞれの性格・性質があります。一人ひとりに合わせ、お子さんを成長させるための対応の仕方も変わります)
また同時に、翔くんの「小さな変化」に目を向けることも意識してもらいました。
カウンセリング開始から3か月くらい経った時点では、暴言や暴力、不登校などの大元の問題は解決に至らないことが多いです。しかし、それで焦ってはいけません。
この頃から、小さな変化はあらわれ始めます。
親御さんが「小さな変化」に気づくことは、子どもの「前進」に気づくことと繋がります。
子どもの「前進」は、今親御さんのやっていることが間違っていないかどうかの道しるべにもなりますね。
翔くんの親御さんが気付いた「小さな変化」の一部をご紹介します。
小さな変化その1 親の声を受け入れる
親の意見には絶対に従わなかった翔くんでしたが…。
不機嫌な態度は変わらないものの、お願いしたことを受け入れてくれました。
小さな変化その2 親に触れる
親を避け、触れるどころか近寄ることさえしなかった翔くんでしたが…。
お母さんが疲れてリビングで横になっていると、毛布を持った翔くんが隣にやってきて背中をくっつけて寝ていました。
変化その3 兄弟と笑う
妹を嫌い、妹が言ったこと、やったこと、すべてを否定し暴言を吐く翔くんでしたが…。
妹が観ていたテレビを一緒に観て、笑うことができました。
変化その4 家族と行動する
基本的に家族とは別行動、写真に一緒に写るなんてありえませんでしたが…。
「一緒に撮ろう」とお父さんが誘うと、嫌々ながらも(?)入ってきてくれました。家族四人で写真を撮ったのは何年振りでしょう。
「変化」と気づかずに見過ごしてしまうような出来事でも、目を凝らして気づくことが出来れば、それは子どもをよく知るきっかけとなり、親御さんにとっても励みとなります。
カウンセリング開始から約半年~1年後
小さな変化を積み重ね、変化は少しずつ大きくなっていきます。親御さんには引き続き、変化を見逃さないよう注意してもらいました。
学校と部活に顔を出す
中学3年生になった翔くんは、ほとんど行かなくなっていた学校に、月に4回…5回…と、少しずつ行くようになりました。
また、所属している美術部にも顔を出し、コンクールに出すための絵を描き始めました。
「部活に行くの面倒くさいけど、まぁ、楽しかった」
相変わらず、お風呂やトイレの滞在時間は長いし、話がうまく嚙み合わないときは衝突もします。 だけど親御さんは翔くんの「小さな変化」を見つけ、前進を感じていました。
話し方が変わる
この頃の変化として感じたのは、翔くんの何気ないお喋りです。
以前はほとんどありませんでしたが、お父さんやお母さんに対してよく質問したり、テレビを観てコメントすることが増えました。
「お母さんは人生後悔してることってある?」
「ねぇ、僕のこと、どうなって欲しいと思って育てたの?」
「(テレビのニュースを見て)この犯人、暇人やなぁ。他にやることないのかよ」
以前は「死にたい」と言っていた翔くんでしたが、
「僕は生き続けたい。あがいてでも生きたい」そんなことも言いました。
また、4月の予定をカレンダーに書きながら「4月は結構忙しいな」と言いました。
忙しく生きる未来を、想像することができたのでしょうか?
カウンセリング開始から一年が過ぎ、高校生になった翔くん
この頃になると翔くんの変化はすさまじく、カウンセラーから見ても「もうそろそろ卒業かな?」と考える時期でした。しかし、ご両親はカウンセリングの継続を希望されたため、カウンセラーは翔くんの更なる成長を見届けることができました。
高校生活とアルバイト
専門的な学科のある高校に進学し、それと同時に、ファーストフード店でのアルバイトも始めました。
見るもの聞くもの、全てが新しい世界でのスタートです。
翔くんは親御さんの心配をよそに、学校もアルバイトも休まず行くことが出来ていました。
カウンセラーから、親御さんには以下のことを気にかけてもらいました。
「新しい生活が始まり、新しい話題が増えることはチャンスです」(淀屋橋心理療法センターHPには、親子の会話の重要性についての記事がたくさんあります。ぜひご覧ください)
「最初は順調に進んでも、そのうち調子を崩す可能性はあります」
翔くんは、学校生活についてこのように話しています。
「担任の先生は、話を頷きながら聞いてくれるし、目を見て話してくれるんだ」
「今度イベントの実行委員を友達とやることになった。周りのみんなに、翔は仕事早いって言われる!」
ついこの間まで自分の部屋にひきこもっていた翔くんですが、今では人との関りの中で生きているとわかる言葉です。
もちろん良いことばかりが続くわけではなく、しんどい様子を見せることもありますが、親御さん達は「翔くんが調子を崩す可能性」を頭に置きながら、落ち着いて関わることが出来ていました。
余裕ができても、小さな変化を見つめ続ける
この頃になると、家族に対する暴言や暴力はなくなり、学校やアルバイトについて楽しく話してくれることが増えました。
親は心に余裕ができると、つい油断してしまうものと思うのですが…
親御さんは、翔くんの調子が良くなってきても「小さな変化」を見逃さず、目を向けてくださいました。その一部をご紹介します。
後半の変化その1 家族に譲る
以前は、家族が困っていてもお構いなしに長時間にわたり風呂・トイレを占領する翔くんでしたが…
お父さんが「お腹の調子が悪い」と言うと、すぐにトイレから出てくるようになりました。
また、お風呂に入る順番も「僕は長風呂だから一番最後に入る」と他の家族に譲ってくれるようになりました。
後半の変化その2 家族に冗談で返す
以前は、家族が少しでも癇に障るようなことをすると、キレ散らかす翔くんでしたが…
妹が翔くんをじっと睨むような仕草をしても「そんなにお兄ちゃんのことが好きなの?」と冗談を言うようになりました。
また、外見をとても気にする翔くんでしたが、お父さんが翔くんのニキビをからかった時には「人間だもの、ニキビくらいできますよ♪」と軽く受け流しました。
毎日を積み重ねていくと「小さな変化」に感じられますが、カウンセリング当初の状態と比べると、もはや「大きな変化」と言ってもいいですね。
カウンセリング卒業へ、高校2年生になった翔くん
家族を警戒し、金属バットを離さなかった中学2年生の翔くんは、「僕は家族に愛されてると思う」と自信満々に発言する高校生になりました。
「これから何があろうと、精神がズタボロになる気がしないんだよ
多分、何があっても大丈夫
僕は、世界中の人間に嫌われても何も思わないや、自分を信じてるし
なんだかんだで、僕は家族に愛されてると思うから」
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