
心身の健康を害するだけでなく、命に関わる場合もある摂食障害。
皆さんは、摂食障害の治療についてどのように捉えられていらっしゃいますか?
過度な食事制限や運動、過食嘔吐、極端な体重減少、生理が止まる・めまいを起こすなどの身体的異常など、心を痛める出来事が繰り返される日常の中で、子どもさん(もしくはパートナーの方)の摂食障害を治すために「食のコントロール」に一生懸命取り組まれているご家族がたくさんおられます。
「食のコントロール」は、摂食障害治療において大切なポイントの1つではありますが、その1点だけでは完治が難しい病気でもあります。
また、摂食障害は心の健康状態と密接に関わっている病気でもあるのですが、悲しいことに、そのご本人の心の状態について、ご家族の理解を得られないことも多くあります。
どのように心の健康状態と関わっているのか、ご本人の心の健康状態を改善するにはどのような方法が効果的なのか。
まずは、ご家族がご本人の心の状態について理解してあげる努力からはじめることが拒食症治療では大切だと淀屋橋心理療法センターでは考えています。
今回は、摂食障害の中でも拒食症治療に重点をおいて、ご家族にご理解いただきたい3つのことと治療のための4つのポイントを前編・後編の2回に渡ってご紹介します。
※この記事は、2025年1月27日に淀屋橋心理療法センターで行われた拒食症治療説明会を基に執筆しております。
目次
摂食障害 拒食症・過食症とは
一般的に摂食障害とは、食事の量や食べ方などの食に関する異常な行動や、体重や体型に対する過度なこだわりにとらわれてしまい心身の健康を蝕んでいる状態のことを示します。
摂食障害は、拒食症と過食症という種類に大きく分けて認識されていることは多くの方がご存知だと思いますが、拒食症治療のポイントをお伝えする前に、まずは摂食障害の基本的な情報をご説明します。
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摂食障害は、主に以下のように分類されています。
主な種類
神経性やせ症(拒食症)
体重増加を極度に恐れ、食事制限や過度な運動によって体重を減らし続け、低体重を維持しようとする病気です。明らかな低体重・低栄養状態にも関わらず、患者はその重篤さを認識できません。
- 食事制限型:食事の量を極端に制限するタイプ
- 過食・排出型:食事制限に加え、過食と嘔吐や下剤の乱用を繰り返すタイプ
神経性過食症
過食とその後の代償行動(嘔吐、下剤や利尿剤の乱用、過食時間以外の極端な節食など)を繰り返す病気で、体重増加への恐怖や体型への過度なこだわりが見られます。
過食性障害
短時間に大量の食べ物を摂取する過食を繰り返しますが、神経性過食症とは異なり、嘔吐や下剤の乱用などの代償行為は伴いません。肥満やそれに伴う健康問題のリスクがあります。
回避・制限性食物摂取症
食物摂取の回避または制限によって、必要なエネルギーや適切な栄養の摂取を満たすことができず、著しい体重減少、栄養欠乏、経口栄養補助食品や経管栄養への依存、健康障害や心理社会的機能障害を来すものです。神経性やせ症とは異なり、体重や体型へのこだわりは見られません。
(出典:摂食障害全国支援センター)
摂食障害の症状
摂食障害の主な症状には、以下のようなものがあります。
- 体重の極端な減少または増加
- 食事量の極端な制限または過食
- 嘔吐や下剤の乱用
- 体重や体型に対する過度なこだわり
- 気分の落ち込みやイライラ
- 集中力の低下
- 睡眠障害
- 月経不順(女性の場合) など
摂食障害の一般的な治療方法
摂食障害の治療は、専門的な医療機関での治療が不可欠です。
一般的な治療として、以下のような治療方法があります。
- 精神療法:認知行動療法、家族療法など、心理的な問題を解決するための治療が行われます。
- 栄養療法:適切な食事指導や、必要に応じて入院して栄養管理が行われます。
- 薬物療法:抗うつ薬や抗不安薬など、症状に合わせて薬が処方される場合があります。
(出典:摂食障害全国支援センター)
摂食障害の原因
摂食障害の原因は複雑で、単一の原因で発症するものではありません。様々な要因が重なり合って発症すると考えられています。
- 心理的要因:自己肯定感の低さ、完璧主義、ストレス、過去のトラウマなどが関係している場合があります。
- 社会的要因:痩身を理想とする社会風潮、メディアの影響、周囲からのプレッシャーなどが関係している場合があります。
- 生物学的要因:遺伝的要因や、脳内の神経伝達物質の異常などが関係している可能性も指摘されています。
(出典:摂食障害 – 慶應義塾大学病院 KOMPAS – Keio University)
拒食症治療のためにご家族に理解してほしい3つのこと
淀屋橋心理療法センターでは、治療を開始する前に、解決したい問題や問題を抱えるご本人の心の状態について、ご家族に理解を深めていただくことが大切だと考えています。
拒食症は、思春期特有の一時的にかかる病ではなく、歳を重ねてからも抜け出すことができずに、長年に渡り患い続けることの多い病です。
まずは、拒食症発症の背景には何があるのかを、理解することからはじめましょう。
1.心の辛さを無自覚に溜めてしまう傾向がある?
摂食障害の原因でお話ししたとおり、摂食障害の原因は複雑で、様々な要因が重なり合って発症すると考えられています。
自己肯定感の低さ・完璧主義・トラウマなど、根深い心理的な要因や、痩身を理想とする社会風潮や、周囲からのプレッシャーなどの社会的要因など…
これらの要因が複雑に絡まり合った環境で毎日を過ごしていれば、辛くならない人はいないでしょう。
「辛い」と思った時に、小さな「辛い」を少しずつ吐き出すことができれば、辛さをある程度和らげることができます。けれども、小さな「辛い」を吐き出すことが簡単ではない(知らず知らずのうちに小さな「辛い」を我慢してしまっている)性格の人はどうでしょう?
きっと、無自覚に小さな「辛い」を溜め続けているのではないでしょうか。
当センターの所長であり、精神科医・福田俊一は、「拒食症患者の多くが、周りの人への気遣いを最優先にして、自分の気持ちを後回しにする傾向がある」と、多くの症例から分析しています。
日々、自分の気持ちよりも周囲の人への気遣いを優先している人は、きっと、小さな「辛い」を無自覚に溜めやすい性格の持ち主でもあるでしょう。
2.心の辛さがどうして拒食症に結びつくのか
たとえ、無自覚に溜めた「辛さ」だったとしても、「辛さ」を無限にため続けることができる人はいません。いつかは、心が悲鳴をあげてしまいます。
心が悲鳴をあげるほど辛い状況になれば、誰でもその辛さから逃げたくなりますよね。
心が辛い時、どうやってその辛さから逃げたらいいでしょう?
何か、心の支えになるものがないと、逃げることも難しいのではないでしょうか。
「痩せて、素敵な自分になれば、楽になれるかもしれない…」
「痩せたら、辛い毎日から解放された気がした」
きっかけは、ほんの些細なこと。
けれども、ご本人にとっては大きな心の救いになったこと。
それがたまたま痩せることだった。
はじめは、痩せることが小さな心の支えだったのに、
いつの間にか、ご本人の中で唯一無二の大きな存在に成長していて、
痩せれば幸せ、太れば地獄と極端に感じるようになっていく…
“痩せて素敵な自分になる”ということ自体は、度を越えなければ素敵なことですが、その行動が度を越してしまった場合、大きな健康被害をもたらします。
淀屋橋心理療法センターでは、悲鳴をあげている心を救うための行動が、食や体重の減少への強いこだわりとなって現れた状態が拒食症(摂食障害)であると考え、ご家族にもご理解いただいた上で治療に臨んでいます。
3.拒食症は自己コントロールの成功?
摂食障害の症状の中でも、“重症化すると命の危険がある”というイメージが強いのが拒食症ですが、前章でご説明したとおり、拒食症患者ご本人にとっては、痩せることは心の支え。
周囲の人が「このままでは命の危険があるのではないか」と心配するほどに痩せてしまっていたとしても、拒食症を患っているご本人は、痩せることに成功し続けている自分の姿に自信と喜びをひそかに感じている場合が少なくありません。
拒食症患者の多くは、痩せることを心の支えとして生活していくうちに、体重減少や食事制限を「自己コントロール」と考えるようになり、そこに強いこだわりを持つ場合が多いのです。
体重が減少していっている状態を「自己コントロールの成功」、体重が増加してしまった状態を「自己コントロールの失敗」と感じ、「自己コントロールの失敗」への強い抵抗感から、極端な食事制限や運動を緩和・中止することができません。
ご本人にとっては「極端に痩せてしまっている状態=自己コントロールの成功」というわけですから、家族や知人から治療を勧められたとしても、素直に受け入れられないことが多いのです。
ここが拒食症治療の難しさであり、ご家族に一番ご理解いただきたい部分でもあります。
拒食症治療を成功させるためには?
それでは、どのように拒食症治療を進めていけば、治療成功の可能性があるのでしょうか?
治療成功の最大ポイントは、
誰かの説得ではなく、ご本人自身で「自己コントロールの成功(痩せること)への強いこだわりから離れること」です。
これは、ご本人が自分自身で気づくまで、何もせずに待つという意味ではありません。ご本人にとって自然な流れで自覚することができるようなご家族の支援が必要です。
自分自身で「極端に痩せているのは自己コントロールの成功ではない」と自然な形で気付くことができれば、拒食症治療は成功したと言っても過言ではないでしょう。
『後編:拒食症治療で大切なポイント』ではこんなことをお話しします
自分自身で「極端に痩せているのは自己コントロールの成功ではない」と自然な形で気付くようにするには、何が必要?
どうすれば、そんな力をつけることができる?
後編 : 拒食症治療のために大切なポイントでは、治療開始から完治まで、実際に当センターでご家族に実践していただいているポイントを4つご紹介します。
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摂食障害(過食症・拒食症)
拒食症のカウンセリングを有効に活用するコツ
カウンセリングで治療する摂食障害(拒食症・過食症)/ 生きづらさも克服
◆ 【摂食障害】著書のご紹介 ◆
淀屋橋心理療法センターの所長であり、医師の福田俊一の著書をご紹介します。数多くの臨床経験から、摂食障害を克服するヒントをお伝えしています。治療説明会に来られる方からも「本を読みました」と、嬉しいご感想などもいただいています。
タイトル
母と子で克服できる摂食障害――過食症・拒食症からの解放
概要
摂食障害(過食症・拒食症)の背景には、母と娘の愛憎ドラマが多く見られます。二人がカウンセラーの導きや父親のサポートを得て葛藤を乗り越え、分かりあい支えあう関係に生まれ変わることで、驚くほど症状は良くなっていきます。
本書では、こじれる前の初期段階の事例から始まり、早く手を打てば良くなる段階の事例、そして長期化していても克服できることを示す事例を紹介し、症状レベルに合わせた適切な対応やアドバイスをまとめています。長い年月摂食障害にかかっていても、治る可能性は十分にあるのです。
タイトル
克服できる過食症・拒食症―こじれて長期化した過食症・拒食症でも治る道はある
概要
「あきらめたらあかん!過食症・拒食症にかかったことは、自分の本質に気づき、能力を伸ばすチャンス!」。あくまで前向きに、本人の可能性や家族の力を信頼し、治療を進めていくセラピストたち。「両親のみでも治療をスタートできる」という画期的な治療を行ない、重症化した数多くの患者を快方へと向かわせている。新たな治療の可能性を示した、本人、家族、治療関係者必読の書。
タイトル
過食・拒食の家族療法
概要
「子どもがやせ衰えていく」「娘がかくれて盗み食いを」「食べ出したら自分でも止められない」。過食症・拒食症を抱える本人とその家族の悩みは深い。一見簡単にコントロールできそうなこの問題は、実は本人の生きづらさ・自分さがしというこころの深層に根を張る、成長の節目に待ち受ける落とし穴。本人と家族がともにその節目を乗り越え、新しい自分になって歩き出すために、本人と家族のもつ力を信じ、支える家族療法。