母と子で克服できる摂食障害―過食症・拒食症からの解放

執筆を終えて

■ 福田俊一(所長、精神科医)

我々は毎日摂食障害の解決のために、たくさんのクライアントの方々とともに戦っています。そのなかで重要なポイントは、その人本来の持ち味と今の生き方のギャップです。そしてそのギャップを埋めて行くのに一番効果があがる方法が、子どもにとって身近な母親との関係なのです。母と子の関係のなかには、解決のための糸口がいっぱいあります。またここがこじれると、なかなかうまくいかず症状がこじれることもあります。

そこで今回はズバリ、「母と子の関係」に焦点を絞って本書を執筆しました。

「母と子の関係」は非常にデリケートな問題です。子の立場にたつと「親が悪い」ということになりがちだし、親の立場にたつと「子どもに問題があって、そこをなんとかしないと・・」となります。本書の執筆にあたっては、片方に偏らないように気をつけて書きましたが、簡単なことではありませんでしたし完全にうまく書けたとも言い切れません。

この本が摂食障害(過食症・拒食症)でお困りのご本人や家族の方々、また治療の現場に携わっておられる関係者の皆様のお役に少しでも立てたらうれしく思います。

■ 増井昌美(摂食障害専門セラピスト)

本書のテーマを企画発案し、執筆を始めてから二年がたちました。発売日の1月20日過ぎ、「並んでるでるかな?それともまだ・・」と内心ドキドキしながら紀ノ国屋書店に歩を早めました。「ありました!」心理のコーナーにオレンジ色の表紙の「母と子で克服できる・・」の本書が平積みにされてありました。「やれやれ、やっと一冊の本を出すことができたんだな」と、正直ホッとしました。

摂食障害の症例は当センターにおいては、年々急上昇といってもいいくらいクライアントの数が増えています。カウンセリングで治療を進めるプロセスで、本症が抱えるトラブルが次々と浮き彫りにされてきます。多くの症例のなかからテーマを絞り込み、それに合った資料を収集し執筆へと駒を進めていきます。今回は摂食障害によくみられる「母と子の間によく起こるトラブルと解決へのヒント」を集めてみました。

「子どもが摂食障害になるのは、母親が悪いからですか?」という質問を受けることがよくあります。が、決してそうではありません。本書をお読みいただけたらおわかりになることでしょう。

摂食障害に悩む人たちや関係者の皆様に本書をお読みいただだき、立ち直るヒントをつかまれたらこれほど嬉しいことはありません。

摂食障害は治る

症状レベルごとの事例と対応アドバイス

序章 摂食障害(拒食症・過食症)とは?

1章 はじめが肝心、早期解決をめざそう
   (初期:発症~2年目くらいまで)

2章 「少しこじれだしたな、はやくなんとかしなければ」
   (中期:3~5年目くらいまで)

3章 こじれて長期化していても適切な対応で克服できる
   (長期化:6~10年以上)

摂食障害(拒食症・過食症)の背景には、母と娘の愛憎ドラマが多く見られます。二人がカウンセラーの導きや父親のサポートを得て葛藤を乗り越え、分かりあい支えあう関係に生まれ変わることで、驚くほど症状は良くなっていきます。

本書では、こじれる前の初期段階の事例から始まり、早く手を打てば良くなる段階の事例、そして長期化していても克服できることを示す事例を紹介し、症状レベルに合われた適切な対応やアドバイスをまとめています。長い年月摂食障害にかかっていても、治る可能性は十分にあるのです。

(本書の帯と表紙裏より)

子どもの心を育む教師と親のために

摂食障害には、体型へのこだわり、ストレス、家族関係ほか、いくつかの背景があるといわれる。本書では、母娘の関係に焦点を当てて過食・拒食を理解するとともに、症状レベルごとに事例をあげて、対応方法を紹介する。摂食障害の最終的な目標は「将来への生きがいさがし」にあると本書は説く。そのプロセスを母と娘が共に支え合って歩んでいけるような、「親子関係の再生」をどう図るか。本人と家族の抱える葛藤に寄り添うカウンセリングの実際を伝える。

児童心理 2011年4月号 NO.929 child study book guide より)

「将来への生きがい探し」へのカウンセリング

近年、摂食障害には発症年齢の低下傾向があり、小学4年生以下でも発症するケースが多いのだという。また、摂食障害になる子どもは「家族思いのいい子が多い」ため、治療には身近にいる家族のサポートが欠かせないとされているが、近年の傾向はそれをより強調することになっている。

本書は、まさにこのことをテーマにした本である。

構成はシンプルだ。序章で摂食障害の説明を行い、以下、症状の程度ごとに3つに分けた章で、事例を詳細に解説する。すなわち、一章では比較的容易に治癒した初期段階、二章では、こじれ出したけれど早く手を打ったことで回復に向かう段階、三章では、こじれて長期化したけれども克服した段階の事例である。それぞれに、カウンセラーと患者、カウンセラーと親、親と子の対話を示し、子どもを接するときの具体的な対応とポイントや、立ち直りのサインが書かれている。

著者は、薬を処方せず、カウンセリングを主としたアプローチをとって27年になる治療センターで、うつや不登校を含めた心の病を治療する精神科医だ。摂食障害を、親子関係すら希薄になってきた現代社会が生み出した病理の一つとするなら、著者が指摘するように、「特に摂食障害のような家族を巻き込むことの多い複雑な症状(の治療)にカウンセリングは適している」のだろう。

本書は、親子がコミュニケーションをとっていくなかで、わかり合い支え合い、克服するまでの過程を、失敗も含めて包み隠さず事例で紹介しているが、過食も拒食も「心の不足感」からくるものであることがよくわかる。そして何より、子どもの摂食障害は親の心の問題でもあるということが浮かび上がってくる。このように感じさせるところが本書の妙であり、事例(=著者の実践)の力だといえる。

中山書店 EB NURSING vol.11 no.2 2011 Books より)


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