本人の「痩せたい!」気持ちを無視しない拒食症の治し方

~6月10日(金)親御さん向け拒食症治療説明会~

「先生!こんにちは!」

後ろから、明るい声が聞こえました。
振り返ると、顔なじみの患者の女の子がニコニコ笑っています。
顔色は悪く、顔から首にかけての血管がくっきり浮き出ていて、全身は骨と皮だけのようです。

「今から運動してくるの!」

ガリガリで今にも倒れてしまいそうな見た目とは裏腹に、彼女はとても元気でした。

「先生!こんにちは!」

彼女の、このみなぎるエネルギーは一体どこから・・・!?

若いころ、大きな病院に勤めていた所長の福田は、当時のことを振り返り、そう感じたそうです。

拒食症の方は、モヤモヤした気持ちを抱え、生きる活力が湧きにくい方がいる一方で、
比較的活動的で元気、「周りの心配なんてなんのその!」といった感じで、
「痩せたい」というエネルギーに満ち溢れている明るい方も多くいます。
(※すべての方に当てはまるわけではないのですが)
このような状態から、福田は拒食症の正体についてこう語りました。

拒食症ってなんだろう?

それは、単なる「病気」だけでは片付けられないもの。

「体重を増やすことが怖い」「痩せることをやめられない」

その思いが本人の原動力となり、どんどん自分自身を追い込んでいく様子は、
「嗜癖」であり、はたまた「痩せる宗教」のようなものだと、福田は言います。

痩せる宗教のようなもの、と言うと少し驚かれるかたもいらっしゃるとは思います。
しかし、拒食症の方にとって痩せることは、
「心の拠り所」「その人の生きるための支え」「絶対的、一番のもの」
そのくらい、本人にとって人生の大きなウェイトを占めているものであり、
それは簡単に覆せるのもでもありません。
拒食症の方にとって「痩せること」は、絶対的な存在だと考える方も少なくありません。

痩せる宗教のようなもの

拒食症の方にとって「食べましょう」はなかなか難しい…?

当センターに問い合わせてこられる親御さんの中には、
「以前、子どもと一緒にクリニックを受診したことはあるが、すぐに通うのをやめてしまった」
という方が多くおられます。

それはなぜですか?と尋ねると、
「どうして食べられないの?と問い詰められた」
「いつ何を食べたか、というような、食べものの話ばかりされて嫌になった」

というような答えが、何人かの方から返ってきました。

拒食症を「病気」という視点だけで治療しようとすると、まず一番に「食べる事」に重点を置かれてしまいがちです。もちろん、拒食症は命にかかわるおそろしい病気であるため、「食べる事」もしくは「食べさせること」はとても大事なことです。

そのような正面突破のやり方で、なんとかなるのならそれで良いのですが、それでどんどん症状がこじれてしまうようなら、少し作戦を変更したほうが良いかもしれません。
拒食症の方にとって「正面突破」の治療は難しい場合がほとんどです。

拒食症を「病気」以外の視点、「嗜癖」「痩せる宗教」のような視点で捉えたとき、治療の関わり方や、ものの見方はガラッと変わるかもしれません。

熱狂的に「痩せたい!」「太りたくない!」と切実に願う本人の気持ちを無視して、「食べましょう」「体重を増やしましょう」と諭し、治療を進めることは、かなり難しいと感じることもあるのではないでしょうか。

拒食症を「病気」以外の視点で捉えたとき。

北風作戦と太陽作戦

“食べさせる“という正面突破の「北風作戦の治療法」がうまくいかないとき、
「太陽作戦」ではどうでしょう?

痩せることが生きる支えになっている拒食症の方に、
痩せることに代わる支えを作ってあげることができないか。
「食べること」を少しだけ横に置いておいて・・・
それが、当センターが考える「太陽作戦」です。

拒食症の方にとって「痩せること」に代わる支えを見つけることができたとき、
それは治療に絶大な効果を発揮します。

しかし、「痩せることに代わる支え」を見つけることは、そう簡単なことではありません。
「夢中になれることを見つけましょう」・・・
そんなアドバイスは、言うのは簡単ですが、それを実現するのは難しい。

拒食症のお子さんに「痩せることに代わる支え」を見つけてもらうために、
親御さんはどう動けば良いでしょう?何から取り組んでいけば良いでしょう?

当センターでは、お子さんに対する関わり方をアドバイスしています。

「食べること・食べさせること」に焦点を当てるのではなく、少しずらした視点から、
本人の行動や思考を変えていく。
本人の「痩せたい気持ち」を無視しない、太陽作戦のような治療法を、
長年の治療経験から日々進化させ、生み出しています。

臨床心理士 福田俊介による事例

拒食症治療説明会では、実際に当センターに通われていた方が、
どのようにして拒食症を克服していったのかを、
紙芝居形式でわかりやすくお話しています。
紙芝居の合間合間には、参加されている親御さんと一緒に考えたり、
親御さんの体験を聞かせていただいたりなど、
福田俊介と親御さんのコミュニケーションの場としても盛り上がっています。

臨床心理士 福田俊介による事例

✿今回は、その事例の一部をご紹介します✿

妹にたくさん食べさせようとする拒食症の女の子
~正反対の姉妹と、その母親~

リカさん:大学1年生 拒食症 29㎏ 
・完璧主義 ・甘え下手 ・口数が少ない 
・人に合わせる ・自信がない ・自分が嫌い
妹:ゆるい性格 甘え上手 良く喋る

お母さんは、まず始めに、リカさんとの二人だけの時間を作りました。
リカさんの変化はすぐには見られませんでしたが、カウンセラーからのアドバイスのもと、 コツコツと関わり方を学んでいくうちに、親子の会話は少しずつ長く続くように…

そして・・・お母さんの関わり方は順調のように見えました。

しかし、
ある時から急に、リカさんは、お母さんに寄ってこなくなります。
一体、リカさんとお母さんの間に、なにがあったのでしょうか・・・?

リカさんとお母さんの間に、なにがあったのでしょうか・・・?

※続きはぜひ拒食症説明会に、聞きにいらしてください

事例の物語は、リカさんの調子が上がっては下がり、また上がる・・・ という波線を描きながら徐々に拒食症の克服に向かっていきます。 やがてリカさんは、妹にたくさん食べさせて安心しようとすることもなくなりました。 そこまでの道のりの中には、お母さんの反省や、リカさんの本音など、様々なドラマがありました。

私が今回の事例で、とても心に残ったフレーズがあります。それは、 子どもを愛しているのと、子どもと歯車が合うのは違う というものです。

「親子というだけで、気が合わなければいけない」 「親子というだけで、お互いを認め合わなければならない」

そんな先入観が、どこか私にもあったと思います。そして、
「子どもをこんなに愛しているのだから、相性も良いはずだ」そう思い込んでいました。

そんな思い込みがあるからこそ、子どもとうまくいかないとイライラしてしまったり、
落ち込んでしまうこともありました。

自分の子供といえど、一人の人間です。
人間対人間の関わり合いを、「親子だから」という理由だけで安心しきってはいけないと思うのです。

どんなに親が子どもを愛していても、すれ違い、分かり合えない、歯車が合わない親子もいます。

それを認めたうえで、この事例の親御さん(そして、当センターに通われているたくさんの親御さん)のように、子どもとの関わり方をもう一度見直し、
新しく関係を築いていくことも、時にはとても大切なのだと思います。
このフレーズは、このようなことを考えさせられるものでした。

子どもを愛しているのと、子どもと歯車が合うのは違う

次回の拒食症治療説明会は8月26日(金)10:30~を予定しております。
また、淀屋橋心理療法センターでは、事前相談などもご用意しておりますので、
お子さんの拒食症で悩まれている親御さんは、どうぞお気軽にお問合せください。お子さんの拒食症で悩まれている親御さんは、どうぞお気軽にお問合せください。

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2022.07.29  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》湯浅愛美

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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