
前編では、リストカットをして、”世界が滅べばいいのに”などとノートに殴り書きしていた中学生の千春さん。
この中編では、自己主張が苦手だった彼女が、少しずつ自分の気持ちを言葉にできるようになっていく一方で、「言い方がキツイ」という新たな問題にも直面します。
果たして、この後起こる深夜の家出という大きな出来事を乗り越えた千春さんは、どのように変わっていくのでしょうか。

目次
- 1 自己主張が苦手だった千春さん|元気になってもリストカットや家出につながる出来事が起こる
- 2 家出した千春さんが夜になっても帰らない|「どうか命がありますように」と祈った両親
- 3 カウンセリング開始から8カ月後|自己主張が苦手だった千春さんが「ちゃんと言葉にしないと伝わらない」と気づく
- 4 カウンセリング開始から9カ月後|「私、コミュ力上がったよね?」
- 5 カウンセリング 開始から1年|「言っている内容が正しくても、言い方も大事」と気づいた千春さん
- 6 カウンセリング開始から1年2カ月後|リストカットが止まり、相手に伝わる自己主張ができるように
- 7 中編まとめ|自己主張が苦手だった千春さんが、相手に伝わる伝え方を身につけるまで
自己主張が苦手だった千春さん|元気になってもリストカットや家出につながる出来事が起こる

お母さんが接し方を変えてあげると、自己主張が苦手だった千春さんも、少しずつ自分の気持ちを言葉にできるようになってきました。
どんどん元気になり、感情を以前よりも上手に言葉で表現できるようになると、リストカットをする頻度が下がってきました。
しかし、主張する力が伸びてくると、ご両親に対して偉そうな態度が増えてきました。
「娘の言い方がキツいんです」
とご両親は心配されます。
また、千春さんがどんどん元気になってきていた時に、吹奏楽部の人間関係で嫌なことがあったようで、深く切って救急車で運ばれました。
重症ケースの場合は、一直線に解決しないこともあるのです。
その後も、千春さんは精神的に成長していきます。
家出した千春さんが夜になっても帰らない|「どうか命がありますように」と祈った両親

ところがある日、テスト勉強に取り掛かかるのが遅いことをお母さんが何度も注意すると、千春さんは家を飛び出していってしまいました。
辺りはどんどん暗くなっていきます。夜になっても帰宅せず、ご両親が警察に通報しました。

「どうか、命がありますように……!」
親御さんの頭に、不安がよぎります。
夜11時になり、警察官に補導されて千春さんが帰ってきました。自宅から15km離れたところまで、歩いて行っていたそうです。

ご両親は、本当は千春さんに言いたいことがたくさんあったでしょう。
「こんな遅くまでどこに行ってたの?」
「心配したんだよ、どうして連絡しなかったの?」
そんな言葉が、頭の中によぎったかもしれません。それでも、言いたい言葉をグッとこらえ、カウンセラーから事前にお伝えしていた通り、
「よく帰ってきたね」
と、叱るよりも千春さんを優しく迎えてあげたようです。
もともと感情的になりやすい面があるお母さんなのですが、あれほど心配な状況のなかでも冷静に対応された様子を聞いて、「お母さんもすごく強くなられたな」とカウンセラーは思いました。
また、お父さんが「これからも何か起こるかもしれないが、夫婦で支えあっていこう」と仰ったのも、とても素敵だと思いました。
後日、面接室にて。
カウンセラーからお母さんに、「お母さん大変でしたね。しかし、ピンチを乗り越えたことで親子の絆が一層深まったと思います」とお伝えしました。
カウンセリング開始から8カ月後|自己主張が苦手だった千春さんが「ちゃんと言葉にしないと伝わらない」と気づく

これまで映画の感想を聞いても「良かった」としか言わなかった千春さんが、アニメ『ハイキュー!』の映画を見た時に、長々と感想を語ったそうです。

「最初はただのバレーの話かなと思ってたけど、見てると“自分の気持ちをどうやって出すか”の話だなって思った。
日向(アニメの登場人物)って思ったことすぐ言うし、やりたいこともはっきりしてるじゃん。ああいうのって、できる人には簡単なんだろうけど、できない人からしたら結構怖いことだと思う。
でも影山(アニメの登場人物)とかも最初はうまくいってなくて、ちゃんと人に伝えないと、どれだけ思ってても伝わらないんだなって思った。
なんか、”分かってくれるだろう”って思ってるだけだと、相手って全然分かってくれないんだなって思ったし、ちゃんと言葉にしないとダメなんだなって」
思っていることを言葉にするのが上手になりました。
またある日。
吹奏楽部の同級生の絵里子ちゃんのことを、
「絵里子ちゃんって自分の考えてることとか気持ちを言うのが苦手なんだよね。言わないと伝わらないからちゃんと言えばいいのに」
と言ったそうです。千春さんが同級生のことを批判するのは珍しいことです。

「心の中で、『それってあなたも同じでしょう』と思いながら聞いてました」とお母さんは少し笑いながら仰いました。
以前は正論を言うことが多かったお母さんが、ますます、千春さんに対して冷静に対応ができていらっしゃいます。
また、「同級生のことを批判した」という変化にちゃんと気づけているお母さんが素晴らしいなと、カウンセラーは思いました。
「本当に人間って、自分のことは分からないものなんですね」とお母さんが仰いました。
カウンセリング開始から9カ月後|「私、コミュ力上がったよね?」
その後数カ月間、リストカットをしている様子はありません。
ノートにも殴り書きは増えていないようで、「最近はノートを見ていません」とお母さんが仰います。

以前は猫のキキちゃんを避けている様子でしたが、キキちゃんを抱きかかえて、
「かわいいね~」
と千春さんが自分の顔をキキちゃんの体にスリスリした日もありました。また、
「私コミュ力上がったよね?」、「メンタル強くなったよね?」
と千春さんが言い出しました。同級生相手に、以前よりも言いたいことが言えているようです。
家庭の中でしっかりと主張ができるようになると、少し遅れて、学校でも主張できるようになっていきます。
おそらく千春さんは、これまで相手の気持ちを損ねてしまわないように、言いたいことを我慢してきたことが多かったのだと思われます。
我慢してきたのはとても偉かったですが、これからは主張していくことも大事ですね。
カウンセリング 開始から1年|「言っている内容が正しくても、言い方も大事」と気づいた千春さん

お母さんと買い物からの帰り道、歩きながら千春さんが突然言いました。

「前に自転車で逆走するなって急に怒鳴られて怖かったけど、あれよく考えたら私も悪かったな。確かに逆走をしてたもん。
でも、急に怒鳴られたら、怒鳴られたことで頭がいっぱいになって、自分が悪かったとか思えないよね。言っている内容が正しくても言い方も大事だよね」

子どもが「考えていること・思っていること」を言語化し、それを親御さんがうまく聞いてあげると、子どもは気づくことが増えていきます。
千春さんの主張する力が伸びてきた頃、言い方がキツくなってきたことをお母さんは心配しておられましたが、
この頃になると、以前のように「パパ、牛乳飲んだら、コップ洗ってよ!!」というキツイ言い方ではなく、「パパ、牛乳飲んだらコップ洗って欲しいな~」と言い方が変わってきました。
お子さんの主張する力が伸びてくると、言い方がキツくなってくることがよくあります。ここから、
- とてもわがままになるのか
- 主張する力がとても上手になるのか
――どうやって舵を取るかが、カウンセラーの腕の見せ所です。

カウンセリング開始から1年2カ月後|リストカットが止まり、相手に伝わる自己主張ができるように
もうリストカットは何カ月もしていません。主張する力が伸び、うまく伝えることができてきました。
ある時、仕事から帰ってきたお父さんに、

「パパ、お仕事お疲れ様。昨日買ってきてくれたお土産のどら焼きも美味しかったよ。あと……さぁ、トイレの便座なんだけど、開けたら閉めてくれない?」
お父さんは不機嫌になる訳でもなく「ごめんごめん」と言い、便座を閉めに行きました。
お母さんが、
「千春、今の言い方がすごくうまかったね」
と言うと、「相手に指摘する時は最初は良いことを言わないといけないでしょ」と千春さんが得意げに言ったそうです。
面接室でお母さんから報告を受けて、
「すごいですね。中学生がこんなこと言いましたか!」
とカウンセラーは興奮しました。面接室にカウンセラーとお母さんの明るい声が響きました。
千春さんはずいぶんとコミュニケーションがうまくなりました。自分の思いが相手に伝わるようになれば、生きやすいですね。

また、ここにきて、お母さんから予想外の報告がありました。

「実は、私は夫との関係があまり良くなかったんです。夫のことを見るとすごくイライラしてしまって。
夫と千春は、性格が似てるんです。マイペースなところとか、少しガンコなところが。
実は、千春に対してやってる対応を夫にもやってみたんです。そしたら夫とも最近付き合いやすくなってきました」
と笑顔で仰いました。

子どもと配偶者の性格が似ている場合、同じ対応をすると、配偶者との関係も良くなり、家族全体の雰囲気が和らぐことがよくあります。
中編終了
中編まとめ|自己主張が苦手だった千春さんが、相手に伝わる伝え方を身につけるまで
家出をきっかけに、優しく対応してあげたことで、さらに親子の絆が深まった、千春さんとご両親。
自己主張する力が伸び、これまで映画の感想を言うことがなかった千春さんが、しっかりと感想も言えるようになりました。
これまでの人生で、主張することが少なかった千春さん。
そのため、自己主張が上手ではなく、キツい言い方になってきたことをご両親は心配されていましたが、ある時、
「主張する内容が正しくても、言い方がキツいと相手に伝わりにくい」ということに、千春さんが自分で気づきました。
そこから、上手に主張できるようになってきました。「相手に指摘をするときは、まず褒めないとね」というような内容のことも言い出しました。
これには担当カウンセラーの私も、面接室で大笑いでした。

次回、
お母さんの前で自分をどんどん表現するようになり、悩みを話せるようになった千春さんは、ある日、過去の辛かった出来事を語り始めます。
お母さんが、初めて知る話です。
この出来事でさらに成長する千春さんに、部活の人間関係という大きな壁が立ちはだかります。さて、千春さんはどうなるのか?
いよいよ、最終編です。
▶前編はこちらから
「自傷行為をして、世界が滅べばいいのにと殴り書きしていた中学生【前編】」



