【親子関係の修復】不登校の高校生息子が母親を避け続けて心を開くまで
〜カウンセリング成功事例〜

更新日:2025.05.30
【親子関係の修復】不登校の高校生息子が母親を避け続けて心を開くまで〜カウンセリング成功事例〜

今回お届けするカウンセリング成功事例は、高校1年生の不登校のお子さんです。タクミくん(仮名)は、中学受験をきっかけにお母さんと不仲になり、高校1年生で不登校になりました。

3年間、お母さんと全く口を聞かず、学校にも行けなかったタクミくん。そんな深い母子断絶状態から、どうやって回復の道を歩み出すことができたのか?
カウンセリングでどのように変化していったのか?
臨床心理士・福田俊介が語る、不登校回復の裏にあった“親の覚悟と工夫”とは?カウンセリング成功事例の一部をご紹介します。

不登校の解決をさまたげたのは「母親への強い恨み」だった

タクミくん(仮名)は有名中高一貫の私立高校に通っていましたが、高校1年生の時に不登校になりました。このタクミくんはお母さんと全く喋りません。タクミくんは、「中学受験を無理やりさせたのはアイツだ」と言ってお母さんを恨んでいます。

タクミくんが小学生の時、模擬試験で悪い点数を取ったらお母さんにリモコンで頭を何度も殴られたようで、非常にお母さんのことを恨んでいます。
この3年間、お母さんとは一言も口を聞いていませんし、同じ部屋にふたりが一緒にいるということもありません。

タクミくんはお母さんの作ったごはんも食べなくなりました。食事は、冷凍食品やカップラーメンを食べて過ごしています。

お父さんとはまだ少し会話ができるようです。しかし、それでも用件のみを伝えるだけのコミュニケーションです。
このような複雑なケースでも、淀屋橋心理療法センターのカウンセリングで、親御さんの対応を変えていただき徐々にタクミくんが変わっていきました。

カウンセリングを開始

カウンセリングを開始

タクミくんはお母さんのことを恨んでいますが、淀屋橋心理療法センターに来所されたのは優しい雰囲気のお母さんでした。 当センターでは親御さんに、タクミくんとどう関われば良いかのアドバイスをお伝えしました。それを親御さん(主にお父さん)がご家庭で実践してくださると、タクミくんに少しずつ変化があらわれました。

変化① 父の帰宅を待つようになった息子の小さな変化

変化①  父の帰宅を待つようになった息子の小さな変化

カウンセリングを開始し、親御さんがタクミくんへの対応を工夫していくと、小さな変化が起きてきます。

はじめに、お父さんが仕事から帰ってきたらタクミくんがリビングに降りてくるようになりました。
最初は偶然を装って、たまたまお父さんと時間がかぶったという感じで降りてきて、ぎこちない感じで少しだけ雑談をするようになりました。

その後、カウンセラーのアドバイス通りの対応をお父さんに続けていただくと、お父さんが仕事から帰ってきたら、タクミくんは「待ってました!」と言わんばかりに、ドンドンドンと階段をかけ降りてきて、お父さんと喋るようになりました。

元々お父さんは、リビングにあまり居るタイプではなく、自室でリラックスすることが多い方でした。しかし、カウンセラーのアドバイス通りに、仕事から帰宅すると意識してリビングに長くいるように工夫されました。

変化②「帽子買って」と甘える気持ちが芽生え始めた不登校の息子

変化②「帽子買って」と甘える気持ちが芽生え始めた不登校の息子

タクミくんは今まで親御さんと一定の距離を保っていましたが、タクミくんにとって居心地のいいものに変化したからか、お父さんに甘えて来るようになりました。

例えば、お父さんに「帽子を買ってほしい」と言って少し甘えてきました。
今まで何か買って欲しい物があっても、甘えることはなかったのですが、素直に自分の気持ちを伝えることができ、帽子をネットショッピングで買ってもらいました。

お子さんが自分から話しかけてきたり、「~を買って欲しい」など、素直な自分を出せるようになったことは、小さな変化のひとつです。
これらの小さな変化を見つけて、成長させていくことで自主性の芽がどんどん伸びていきます。

変化③ 父と外出するようになった!不登校からの前進

変化③ 父と外出するようになった!不登校からの前進

カウンセリングを続けていく中で、以前は塞ぎこんでいたタクミくんがお父さんと外出するようになりました。

ショッピングモールに行き、ダウンコートを買ってあげたら、タクミくんが「やったー!」と、とても素直な態度を見せました。

それまでのタクミくんは、親御さんに対してとても警戒した表情を見せていました。お父さんに対しては、かなり心を開いてきたと言えます。

カウンセリングにはご両親が来られていたのですが、ある時お母さんがこのようにおっしゃいました。
「夫と息子がどんどん仲良くなっていっているのは分かるのですが、私との関係は一切変わっていっていません。本当に私とも喋ってくれるようになるのでしょうか?」 お母さんが涙を見せました。

変化④ 母への怒りを“言葉”で吐き出すプロセスの意味

変化④ 母への怒りを“言葉”で吐き出すプロセスの意味

過去にこんなことをされた、こんな酷い仕打ちをされたなど、お母さんの愚痴をお父さんに語るようになったのです。 面接室で「もう妻の前では言えないぐらいひどいような言葉を延々と聞かされます」 しんどそうにお父さんがおっしゃいました。

カウンセラーは、「タクミくんが溜まっているものを吐き出すまで、もう少し頑張って愚痴を聞いてあげて下さい」と伝えました。

それから2ヵ月程度、タクミくんがお母さんの愚痴を言う状態が続きました。

お母さんへの長年抱えてきたモヤモヤや怒りを愚痴を通して“言葉”で表現できるようになったタクミくんです。
愚痴を言わせてそのお子さんの感情を吐き出してあげることはとても大切なことです。
たかが愚痴、されど愚痴?この言葉で感情を吐き出すことも、親子関係修復、また 不登校克服のために重要なプロセスなのです。

変化⑤ 母の手料理をこっそり食べた息子に起きた心の変化

ある日、お父さんが面接室に来られると、あまり落ち込んだような表情ではありません。

「そういえばタクミくんのお母さんへの愚痴は続いていますか?」とカウンセラーがお聞きすると、お父さんが「あ。そういえば、最近妻への愚痴はほとんど言わなくなったな」とこういう風におっしゃいました。

またここでもお母さんが尋ねられました。「夫と息子の関係はますます良好です。でも、息子が私に対して話しかけてくるようになるなんて信じられないです。本当にそんな日がくるのでしょうか?」と、不安そうなお母さん。

カウンセラーが「ほんの少しでも、何かお母さんに近寄ってきているなぁという所はありませんか?」とお聞きすると、お母さんがハッとした顔で「そういえば、私が作ったカレー鍋からカレーがちょっと減っていました。

カレーを作った日は、夫は出張で東京にいたので・・・。
うちは3人家族だから息子しかいないと思います。もしかしたら息子が食べたのかもしれません!」とおっしゃいました。

するとお父さんが「あ!そういえば、あいつ何かこの間、お前が作ったミートローフをちょっと食べていたぞ」と、こういう話が出てきました。
どうやらタクミくんは、お母さんのごはんを少し食べるようになってきたみたいでした。

変化⑥母が家にいても逃げなくなった|家庭内の距離が近くなった

変化⑥母が家にいても逃げなくなった|家庭内の距離が近くなった

お母さんはパート勤務なのですが、お母さんが家にいる時は、タクミくんは公園やマンガ喫茶に行っていました。
できるだけ家にいないようにしていたのですが、この頃になるとお母さんが家にいても、タクミくんは2階の自室で過ごしているという時間が増えてきました。

また、階段を登る時やドアを閉める時の「ドン」という音が静かになってきました。

変化⑦ 母が飼う猫にエサを…無意識の「関わりたいサイン」?

変化⑦ 母が飼う猫にエサを…無意識の「関わりたいサイン」?

お母さんは猫を飼っているのですが、タクミくんはこの猫を毛嫌いしていました。「こんなヤツ!!」という風に。

ところが、ある日の面接でお母さんがおっしゃいました。
「もしかしたらタクミが猫にエサをあげているのかもしれません」と。

なぜそう思われたのかをお聞きすると、ある時、タクミくんが1階のトイレから出てくると、あの懐いてなかったはずの猫が、彼の足にスリスリしたのだそうです。

もしかするとタクミくんは、家族に隠れて猫のことを可愛がりだしたのかもしれません。

次の変化として、お母さんの大切にしている猫ちゃんにエサをあげていたとのこと。
これは小さな変化に見えますが、とても大きな心の成長サインです。

タクミくんはまだお母さんと関わるのはためらいはあるけれど、猫を通じて、お母さんの「大事にしているもの」に関わることで、少しずつお母さんに心を開いてきた様子がうかがえます。
お母さんも、猫の様子に気付けたことが素晴らしいです。
このように、カウンセリングを通して小さな変化を見逃さず、大きな変化へとつなげることが大切なのです。

変化⑧「ごちそうさま」の一言が親子関係修復の扉を開いた

変化⑧「ごちそうさま」の一言が親子関係修復の扉を開いた

ある日、お母さんがパートに行ったけれど忘れ物に気づいたので、帰宅されたそうです。
するとなんと!キッチンで、タクミくんがお母さんの作った食事を食べていました。
ふたりの間に流れる空気がとても気まずくなったのですが・・・。

しばらくの沈黙のあと、タクミくんは照れくさそうに「ごちそうさま!」と言って、2階の自分の部屋へ階段を駆け上がっていきました。

その日以降、少しずつタクミくんとお母さんが喋るように変わっていきました。

*この記事は、当センターにご相談に来られたケースを基に書いており、個人が特定されないようにプライバシーに配慮して作成しております。

臨床心理士・福田俊介の見解|母子断絶状態からの回復を支えた“父の覚悟”

臨床心理士・福田俊介の見解|母子断絶状態からの回復を支えた“父の覚悟”

淀屋橋心理療法センターのカウンセリングでは、日頃からお子さんと多く関わっている親御さんを対象に、お子さんとの関わり方についてアドバイスを差し上げています。

今回のタクミくんは、お母さんのほうがタクミくんといる時間は多いケースでした。

しかし、母を拒絶してしまっている状態でした。
そのため、おもにお父さんへカウンセリングすることにより、タクミくんの対応についてのアドバイスを差し上げました。

担当カウンセラーである福田俊介から、この親子関係が回復したポイントをお伝えいたします。

父親がカウンセリングの“キーパーソン”になった理由とは?

このご相談は、タクミくん(仮名)とお母さんの接点が全くないため、キーパーソンはお父さんでした。
カウンセラーが心配したのは、お父さんがタクミ君に対してうまく対応できるか?というところでした。

なぜならば、父親は母親に比べお子さんとの接点が少ない方が多いので、カウンセラーが差し上げたアドバイスを習得するのに時間がかかる方が多いからです。

ところが、この事例に出てくるお父さんは、こちらのアドバイスを早い段階で身に付けてくださいました。

もともと、 お父さんの対応がうまかったということもあるかもしれません。ですが何よりも一番の理由は、「息子と妻の接点が全くないので、俺がなんとかするしかない」という、お父さんの決意の強さにあると考えています。

夜型生活に合わせた“会話のチャンスづくり”が功を奏す

夜型生活に合わせた“会話のチャンスづくり”が功を奏す

夜型で、マイペースなタクミくんは、 夜の11時から12時くらいの間に、自室からリビングへやってきます。
ここが最初の頃の、お父さんとタクミくんが会話をする唯一のチャンスでした。

次の日、仕事で朝早く起きないといけないお父さん。
面接室で私に、「朝、眠いです」とおっしゃりながら頑張って夜遅くまで起きて、タクミくんに付き合ってあげていました。

この対応がとても良かったですね。そのおかげで、その後は、どんどんタクミくんに良い変化が出てきて、とても良いスタートをきりました。

息子の愚痴を受け止める…2ヵ月間の“試練”を超えて

息子の愚痴を受け止める…2ヵ月間の“試練”を超えて

しかし、ピンチが訪れます。

事例の「変化④母への怒りを“言葉”で吐き出すプロセスの意味」のところです。
お父さんにはタクミくんの愚痴を聞く対応をしていただくのですが、
タクミくんから発せられる言葉が荒々しく、しかも延々と愚痴を言い続けるのでその話しに付き合ってあげるお父さんはだんだんと、しんどくなってきたのです。

面接室でお父さんを見ると、とても辛そうな表情でした。

「お父さん、もう少しです。タクミくんが愚痴を吐き切ったら、お母さんに対する認識が変わっていくはずです」と、カウンセラーはトンネルの先に希望の光が見えていることを伝え続けました。

猫との関わりに見えた「心のやわらかさ」のきざし

猫との関わりに見えた「心のやわらかさ」のきざし

お父さんにとって、しんどくて長い2ヵ月が過ぎました。

さてどうなったか。やはり愚痴を出し切ると、恨みは薄れていきました。
タクミくんの態度がやわらかくなっていきました。
面白いこともありました。「変化⑦母が飼う猫にエサを…無意識の「関わりたいサイン」?」のところです。

お父さんの前では、猫を可愛がっているそぶりを全く見せません。むしろ嫌っているような態度をします。

ところが、タクミくんにどんどん猫が懐いていくのです。

あるとき、部屋でタクミくんが猫とおもちゃで遊んでいたのでは?という形跡がありました。
リビングにやってきたタクミくんに、猫が擦り寄ってきた。
その様子を見ていたお父さんと目が合うと、タクミくんがバツの悪そうな照れた表情を見せた。

このお話を聞いたときは、面接室で私とご両親の3人で、大笑いしました。

“関わる父”と“見守る母”、両親の役割分担が良かった

このケースがうまくいったもう1つの理由は、両親の役割分担がうまくできていたことです。

お父さんがタクミくんと、“関わる”。
その一方でお母さんは、タクミくんの良い変化を確認しながら、“見守る”。
お母さんはいつも、隣の部屋から2人の会話を聞いておられたのです。

そして、カウンセラーに「声が大きくなってきました」、
「言い方にとげがなくなってきました」
「私が仕事から早く帰ってきても、以前のように床をどんどんとしなくなりました」と、
タクミくんの変化をしっかりと報告してくださいました。

半年間のカウンセリングで見えたこと 「本当は優しいお母さん」

この事例を読んでいただくと、これだけ恨まれる母親は一体どんな母親か?と思われる方も多いのではないでしょうか?

お互いを思い合っている親子でも、ふとしたことでこじれると、ややこしくなってしまうことも結構あるのです。

私が約半年間のカウンセリングでお話してきたお母さんは、子どもの小さな良い変化に気づき、それを喜ぶことができる、子ども思いで、笑顔の優しいお母さんでした。

臨床心理士・福田俊介

不登校のカウンセリングについて

不登校のカウンセリングについて

ここまで高校生の不登校、タクミくんのカウンセリングの一部をお伝えしました。このように、母子関係が極端に悪化してしまったケースでも、家庭内の対応次第で不登校は改善の道をたどることができます。

今回のカウンセリングでは、「父親が主役となり、息子との関係を築く」「母親は変化を焦らず見守る」という役割分担の工夫が功を奏しました。

また、お父さんがタクミくんの愚痴を受け止める姿勢を持ち続けたり、生活リズムに合わせて関わったりしたことが、信頼の土台を作った要因です。

大切なのは、“子どもの小さな変化”を見逃さず、その変化を喜びながら次のステップへとつなげていくことです。

不登校や家庭内での断絶に悩むご家庭でも、淀屋橋心理療法センターのカウンセリングでは解決する方法があります。

今まで多くの不登校の問題を解決に導いてきた熟練したカウンセラーがいるからです。

お子さんの性格に合ったアドバイスによって大人の対応を変えることで大きな変化へと繋げていくカウンセリングを当センターは行っています。

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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