事例 高校生のスマホ・ゲーム依存と家庭内暴力

タケル君は高校1年生

学校に行けなくなり、家でゲームばかりしています。食事中ですら、スマホを手放せずに動画を見ています。ほとんど外出はせず、たまにコンビニに行く程度。親御さんとの会話はあまりありません。不機嫌なことが多く、ゲームでうまくいかないと叫んだり、物を投げたりします。また、髪の毛を掴んだり、お母さんに暴力を振るいます。飼い犬のチャロの世話も全くしなくなりました。

当センターに初めて来所された日。1人で相談に来られたお母さんの髪の毛は整っておらず、メイクもほとんどされていません。うつむいてタケル君の状況を説明されました。お母さんは腕の袖をめくり、アザを見せて、仰いました。

「暴力さえ、暴力さえなくなってくれれば」

その日以降、お母さんお一人で当センターのカウンセリングに通われた結果、親子のコミュニケーションが増え、タケル君がイライラすることが大幅に減り、家庭内暴力が完全になくなったのですが、彼がどう変わっていったのか。少し具体的に変化を見ていきましょう。

<カウンセリング開始:家庭内暴力に耐え、変化のなかった1か月間>

家庭内暴力がおさまらない中、お母さんは当センターで受けたアドバイス通りにタケル君に対応されていました。タケル君が「家にいろ!」とキツく言うので、スーパーに買物に出かける時がお母さんの唯一の息抜き。どうしてもしんどくなった時は、親戚の家に避難されていました。

<変化① ゲームの話が続くようになってきた>

当センターでアドバイスを受けて、約1か月経った頃。まだ暴力は続いているのですが、タケル君の変化にお母さんが気づかれました。ゲームの話が以前よりも長く続くようになってきたのです。

また、ゲームのキャラクターや武器の説明をお母さんにするようになったのですが、表情が以前よりも穏やかになってきました。

<変化② 荒れるが、母親に危害を加えなくなった>

お母さんにゲームについて熱心に説明する日も出てきました。「俺がこっちの方向に動いたのは、相手が東側から攻めてきたからで〜〜〜〜〜〜」と自分の作戦について語ります。この頃はまだ、ゲームでうまくいかないと、床をドンドンしたり、夜中でも叫ぶのは続いています。しかし、以前と大きく違うのは、お母さんを実際には殴らずに、殴るフリをするようになったことです。また、物を投げる時は、柔らかい物を選ぶようになりました。

他の変化としては、その日の気分にもよりますが、飼い犬のチャロに餌と水をあげるようになりました。

<変化③ ゲーム以外の話題も話すようになった>

まだゲームで負けると荒れるのは続いています。以前との大きな違いは、タケル君の口からゲーム以外の話題もチラホラと出て来るようになったことです。ネットニュースで知った芸能人の結婚•離婚や事件•事故などに関してです。また、機嫌の悪い時間が以前より格段に短くなり、「ハハハ」と笑う場面も増えてきました。「前ほど息子と過ごすのがしんどいと思わなくなりました」涙をぬぐいながら、以前よりもずっと落ち着いた表情でお母さんが仰いました。

<変化④ スマホを触るのを我慢できた>

お母さんとの間で、ゲーム以外の話題も盛り上がるようになってきました。 

そんなある日、タケル君のおじいちゃんが突然、家に訪ねてこられました。久しぶりのことです。おじいちゃん、お母さん、タケル君の3人で40分ほど会話をしたのですが、なんと、その間にタケル君はスマホを全く触りませんでした。また、おじいちゃんが帰った後に、タケル君が「なんで勝手に家に連れてきたんだ!」と荒れるかもしれないとお母さんは思っておられました。しかし、その日、タケル君は荒れることなく、穏やかだったそうです。

<変化⑤ イライラした時に、自分でゲームを止めることができた>

ある日、ゲームをしているとタケル君の目つきが険しくなってきました。「また荒れるんだろうな」とお母さんは今迄の傾向から察知されました。ところが、タケル君が自分でゲームを止め、お母さんに言いました。「イライラしそうになったから止めた」。面接室にて「ビックリしました」とその時の状況を興奮気味にお母さんがカウンセラーに伝えてくださいました。

また、もう1つお母さんの印象に残った出来事がありました。ある日、タケル君がチャロの餌やりを忘れていました。それをお父さんが「チャロに餌やるの忘れてるぞ」と指摘しました。お父さんの発言を聞いて、お母さんはタケル君が荒れることを覚悟しました。ところが、タケル君は「ごめん」と言って、すぐに餌を与えに行きました。彼が親御さんに対して自分のミスを認めて謝ったのは不登校になってから初めてのことです。

<変化⑥ ほとんど荒れなくなり、現実に向き合い始めた>

この日の面接室には、お化粧して、綺麗なお母さんが座っておられました。今迄とは別人のようです。この1か月間、タケル君が荒れることが一度もなかったそうです。

また、お母さんとタケル君の会話の話題はゲームかネットニュースで得た情報に関してでしたが、ある時、「(同級生の)上田は今ごろ、テスト勉強頑張ってるんかな」とタケル君が言ったそうです。ついに、現実で知っている人の名前が彼の口から出てきました。不登校になってから初めてのことです。

さらに、お母さんが「すごい進歩だな」と仰ったことがありました。それは、ゲームに負けた時のタケル君の発言。「ゲームで負けたんは俺が下手やからや。人のせいにしても何も変わらん」

この後、ゲームでうまくいかずに荒れることは大幅に減り、家庭内暴力は完全になくなりました。また、現実の世界(学校の人間関係など)についてお母さんに少しずつ話し出しました。

*この記事は、当センターにご相談に来られた複数のケースを基に書いており、個人が特定されないようにしております。

2020.04.17  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊介

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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