筋肉が弱り、痰をきることができない
面接室でまっている明子の様子がおかしい。息をするたびに「ヒー、ヒー」と音を出している。まるで喘息の子が発作をおこしたときのようだ。「きょうはどうされましたか。なんだか苦しそうですね」「はい、ちょっと風をひきまして。痰がのどにひっかかってるんですけど、とれないみたいで」「いつごろからこんな様子ですか」「きのうの朝から。だんだんひどくなってくるみたいで心配です」。母親との会話をかわしてセラピストは明子の様子を観察した。体重がまた減ってどうやら35キロを切ったようである。
「今すぐ病院のほうへ行ってください。とりあえずこの近くにM病院がありますので、そちらの先生に連絡をいれておきます」。面接もそこそこに明子と両親は荷物をまとめて病院に向かった。診察の結果は「拒食症のため、筋肉がかなり弱っている。そのせいで自力で痰をきる力がない。吸引で痰をひいて取る必要があるので、即入院です」と、申し渡されたと母親より報告がはいった。
拒食症はやせがひどく体力面に限界が
拒食症の人は過食症の人とちがって、外出できないといった外での活動は苦にならない人が多い。しかし極端なやせのため体力的にかなりの注意を要する。標準体重の20%やせが危険域の目安になっているのだが、もうとっくにそのラインを超えているクライエントもいる。両親も心配して「あれ食べ、これ食べ」としつこくせまるが、本人は頑として受け入れない。自分が決めた食物とカロリーしかとらないのだ。それどころか「お母さんは私の全てを監視している」と、警戒色を強めるだけである。どんどんやせていく娘の体を心配しながら、親はなにもできない状態が続く。
拒食症は内科医との連携が不可欠
明子の入院生活がスタートした。ドクターとこちらの担当セラピストとの打ち合わせを随時はさみながら、治療はすすめられる。ドクターから「30キロにならないと外出禁止です。32キロになったら、退院してもいいことにしましょう」と、言われた。さすがの明子も担当医との約束を破ることはしない。それより「早く退院して家に帰りたい。よし、32キロまで体重を増やそう」と、自分で目標にむかって体重を増やそうとする。
誰がなにをいっても、食べることに関しては頑として聞き入れなかった明子だが、こうしてドクターとの約束を通して自ら食べ出すのである。体力面での危機的状態を乗り切るためには、内科医との連携が欠かせない。