1.「私は怠け者、なにしてるんや!リストカットで痛い目にあって罰を受けろ」

リストカットをする人はとても繊細な人が多いですね。ちょっとした言葉に傷ついたり、「自分はダメだ」と思いこんだりしてしまいます。ふだんから何事にも一生懸命と取り組んでいるので、少しでも「ダメサイン」が出ると、自分を許せなくなるようです。

ここで紹介する美香は大学3年生。リストカットのカウンセリングに三ヶ月前から通っていました。就職活動もはじまりそろそろ友だちのなかには内定をもらった人も出てきている頃です。「私だけまだ決まっていない。どうして?!」というあせりから、夜にリストカットをしてしまいました。次にあげる会話はカウンセリングにやってきた美香と母親、そしてカウンセラーの会話です。(文中カウ=カウンセラー)

カウ:(手に包帯を捲いている美香を見て)またリストカットをしたんだって? あー、だいぶ切ったみたいだね。

美香:はい、えっと、きのうの夜、またちょっと手首切ったんです。

母親:それだけとちがって、頭、壁にぶっつけたりしまして。先生、三ヶ月まえからカウンセリングをしていただいて、だいぶ落ち着いてきたと安心してたんですが。

カウ:えー、切るだけと違って、頭ぶつけたりしたんですか。うん。それは、どんな気持ちの中で手首切ったか、覚えてるかな?

美香:えっとー。就職がまだ決まらなくて・・・

カウ:あせってイライラっとしてたんかな?

美香:イライラっていうよりも・・もう絶望的っていうか、投げやりっていうか。

カウ:うん。うん。なるほどな。うん、そうか。で、その友だちって内定が決まったの?

美香:はい、愛ね、英語が生かせる職場だって喜んでるの。それでうれしそうにペラペラしゃべってて。「へー、よかったね。おめでとう」って言ってたんですけど、なんかだんだん気分わるくなってきて。

カウ:あ、そうか。ちょっと自分と比べてしまったんかな。

美香:自分にすごい苛々して。私は怠け者、なにしてるんや!リストカットで痛い目にあって罰を受けろ!こんな気持ちに追い立てられたみたいになって。

カウ:それで大分やばかった?ドバッと切って血が出ましたか?

母親:今回は5針縫いました。まえは10針でしたけど。

カウ:そうですか。痛かったでしょう。自分に罰ですか。罰を与えないといけないってことないでしょう。いつも一生懸命、取り組む人なのに。

美香:いいえ、ちがいます。私が怠けてるから、ダメなんです。血を見てホッとしました。「あー、これで私は許されるんだわ」って思いました。

美香さんと友だちの愛さんは二人ともESSサークルで、英会話を楽しみながらブラッシュアップしていました。頑張りやの美香は誰にも負けないくらい上達して。「私のほうが愛ちゃんより上手に話せるわ」と、仲良しの愛には負けないぞという気持ちが強かったようです。その愛ちゃんが先に決まってしかも英語を生かせる職場ということで、美香はショックを受けたようです。

一つの理由として言えることは、リストカットから治る道筋を歩みはじめたころは、感情の波が激しく非常に不安定になりがちです。今日いいことがあってうきうき気分でも、次の日ちょっとでもひっかかることがあると、ガクッと落ち込んでしまいます。まわりの人間はびっくり仰天で振り回されますが、本人はそこまでの自覚はなくその場その場の気分に左右され、通常では考えられない「手首を切る」という衝動的な行為にでてしまうようです。

家族の人は、本人が明るく話すからとかリストカットしなくなったからといって、安心しないよう気をつけて見ておくことが大切です。

2010.03.30  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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2010.03.30

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