(5)摂食障害(拒食症)の人は「迷いやすい」。時間はかかるが、いい判断できる

摂食障害(拒食症)のカウンセリング治療は、淀屋橋心理療法センター(大阪)の「摂食障害専門外来」で行っております。
大阪府豊中市寺内2丁目13-49 TGC8-201(06-6866-1510))
TEL: 06-6866-1510 www.yodoyabashift.com/)

目次:本文の「重要ポイント」が一目でわかる

  1. 摂食障害(拒食症)の人は「食べること」で迷いやすい
  2. 指示されるとムカっときて受け入れられない拒食症の人
  3. 「迷いやすい」という気持ちの裏には「人の目が気になる」
  4. 「迷いやすいは考える力」、もっと磨いてもっといい味だそう
  5. 「私は迷いやすいタイプなんや」と開き直ったら、決断できだした

1)摂食障害(拒食症)の人は「食べること」で迷いやすい

摂食障害(拒食症)の人の特性(持ち味)として「迷いやすい」があげられます。

「母といっしょに買い物に行くか、行くまいか」「今日はどの洋服を着ようか」など日常生活であれこれ迷います。そのなかでもなんといっても「食べること」に迷うことが一番多いようです。

いったいどんなふうに迷うのか、拒食症の人たちの迷う声に耳を傾けてみましょう。

● M美さん(28才 拒食症歴3年)・・・「ご飯は130g、いや待てよ、多い。やっぱり100gにしようか。足らないからやっぱり130gに。けどやっぱり途中でこわくなって、ごはん一口分ジャーにもどしました」。毎日こんなことで迷ってばかり。

● K子さん(17才 拒食症歴2年)・・・「食べようか、やめようか」そればっかり考えています。「誰か答えだして!」と叫びたくなったり、「それしか考えられへんのか、この私は!」と、自分を責めたり。勉強も手につかない。

2)指示されるとムカっときて受け入れられない拒食症の人

あまり迷うので時間がかかってしまい、一緒にいる人に迷惑をかけることもよくあります。K子さんは「お母さん、私が迷って決められないとき、ヨコから言ってね」と頼んでおいたのですが・・・・

そばにいる母親がちょっと後ろから背中をおす言葉をかけました。「そんなに食べられなくて迷ってるんだったら、食べるのやめといたら」。そんなにきつい言い方でもないしせかすわけでもないのですが、拒食症のK子さんの心はおだやかではありません。「私の食べることにくちばし入れんといて!」と、怒りだしてしまいました。「お母さん、ヨコから言ってね」と頼んでおいたのですが、むかつきを抑えられなかったと言っていました。拒食症の人(過食症も同じ)は、食べることにあれこれ指示されるのがたまらなくいやなんです。「食べる食べない領域は、私が女王様よ。誰がきてもぜったいゆずらないから」と強固なまでも主張してやまないでしょう。

しかし本質的には相手への気づかいに細やかな心配りができる人ですから、あとになって「私って、なんてバカなんや。せっかくお母さんが背中おしてくれてるのに。私は冷たい悪魔にとりつかれてるんとちがうか!」と、自己嫌悪に落ち入ってしまうとK子さんは話していました。

3)「迷いやすい」という気持ちの裏には「人の目が気になる」

迷っているM美さんに「なぜそんなに迷うの?好き嫌いがはっきりしないとか?」と、聞いたことがあります。しばらく考えて次のような答えが返ってきました。

「こういう選択をしたら人はどう思うだろうか?」「おかしな人だな、と思われないだろうか」。といった人の目を気にしている自分、人に気を使う自分が大きくてなかなか決められないんです。自分でもいやになることがよくあります」と、迷いやすい自分を持て余しているようでした。「後悔して引きずるからだめだなと思う。まわりの人に嫌われたくない、よく思われたい気持ちが強すぎて。迷いだすと、とことん迷ってしまうからちっとも決められない。そしてそんな自分を変えていけたらなって思います」と、自分を否定する気持ちが強いこともわかります。

このように拒食症の人は「迷いやすい」持ち味のうらで、ずいぶんしんどい思いをしているんだなとわかります。

4)「迷いやすいは考える力」、もっと磨いてもっといい味だそう

拒食症の人は周りから「はやくしてよね」「まだ、きめられないの。もう行くよ」といったせかされる場面が多くあります。「そこまで考えんでもええんとちがう」と、言っている母親の声を聞くこともあります。

拒食症の人はなかなか決められなくて迷いやすい。なにごとも時間がかかる」。これは何度も言われてきたことです。それではこのタイプの人の良い面はないのでしょうか?いいえ、そんなことはありません。テキパキさとか要領のよさはないかもしれませんが、迷うことで深く考えています。結果としていい判断ができ適切な行動がとれだすことがよくあります。ただなかなか周りのペースに合わせられないしんどさがあることは確かです。

「『いい判断ができる』ことは拒食症の人が持っている良い面です。『迷いやすいは考える力』です。もっと磨いてもっといい味出して、そうすればきっと自信がたかまってきますよ」と、カウンセリングでは語りかけています。

5)「私は迷いやすいタイプなんや」と開き直ったら、決断できだした

拒食症から回復する途上にあるA子さんがこう言いました。「私がカウンセリングを受けはじめたころ、迷ってることが多かったように思います。迷って迷って決められなくて、出て来た結論はマイナス思考ばっかりで。自分がいやになって、また迷って。でもカウンセリングで『これがあなたの持ち味です。これがあなたの良い面なんですよ。迷う自分を否定せず開き直っていきましょう』と言われて。目から鱗が落ちたみたいな気がしました」

「私は迷いやすいタイプなんや。すぐに決められないんや。これが私や、どこが悪い」と開き直ったとたん、スーッと決められるようになったといいます。

その後A子さんは「迷いながらだけど、落ち着いてゆっくりとしゃべったり考えたりしていると、頭の中が整理されてくることに気がつきました」と話していました。かの女はやがて拒食症から立ち直っていきました。

2014.07.07  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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