
今回ご紹介するのは、約10年にも及ぶひきこもりを克服した30代後半のあやさん(仮名)のお話です。
- 20代後半から実家にひきこもる
- 親に暴言を吐いたり、物を投げたりする
- 娘のことを心配したお母さんが淀屋橋心理療法センターでカウンセリングを開始
- お母さんがカウンセリングを受け、あやさんは徐々に回復
- 元気になったあやさんは社会との繋がりを求め始めるようになる
- あやさんは自分の好きなことを武器に社会復帰を遂げる
今回の事例紹介では、家族療法の専門機関「淀屋橋心理療法センター」の臨床心理士・福田俊介の解説を交えながら、ひきこもりに悩むご本人の変化、さらには、カウンセリングを受けたお母さん自身の変化も一緒に追っていきたいと思います。
◆ 講師プロフィール ◆

カウンセラー
福田俊介(ふくだ しゅんすけ)
臨床心理士・公認心理師(国家資格)
オレゴン大学卒業(University of Oregon Bachelor of Science)
自動車関連会社勤務後、兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 人間発達専攻 臨床心理学コース卒業
不登校・過食症・リストカット
で高い治療成績を上げています。
大阪府公立学校スクールカウンセラー
目次
ひきこもりの大人 人数はどれぐらい?

出典:https://hikikomori-voice-station.mhlw.go.jp/information/
今回の事例で登場するあやさんは30代後半の女性で、ひきこもり状態になって約10年になります。
あやさんと同じようなひきこもり状態の方は、現在どれぐらいいるのでしょう。
厚生労働省のサイト『まず知ろう!「ひきこもりNOW」!』によると、ひきこもり状態に該当した人は、15〜64歳では50人に1人程度。

15~39歳のひきこもりのなかで、「ひきこもり状態になってからの期間」が7年以上に及ぶ人の割合は21.5%にものぼります。
ひきこもり(ニート)
ひきこもりの大人 親がカウンセリング開始

あやさん(30代後半)はこだわり気質でマイペース。人とコミュニケーションを活発にとるほうではなく、動物や植物を愛する繊細なタイプです。外に買い物に出かけたり、歯医者に通院したりと外出はできますが、働いたのはひきこもる直前の20代半ばが最後。
あやさんがひきこもりになった明確な原因をご両親はわかりません。
長引くひきこもりであやさんは疎外感があるのでしょうか。苛立つと同居するお母さんに対して怒鳴ったり、モノを投げたりすることも。

お母さんは年金を受給する年齢に差し掛かっており、体力・精神的にもしんどい状態でした。

お母さんはそんなあやさんの今後を憂い、淀屋橋心理療法センターに来所されました。
ひきこもりの「五段階」
ひきこもり問題を抱える親子の様子
父)「あや、今後お前はどうやって生きていくんだ。俺たちは先に死ぬんだぞ」
あや)「………」
お父さんは心配のあまり、ひきこもる娘に対して焦る気持ちをぶつけてしまいます。
母)「あや~。薬飲んだ? 薬は棚の上に置いておくからちゃんと飲んでおくのよ。あ、それと夕ご飯はね、お鍋にしようと思うの。大きな白菜がスーパーで安くてねぇ……〇×▼※♨…」
あや)「………(不機嫌そうな顔)」
お母さんは会話の結論をすぐに喋ってしまうので、娘と会話している、というよりも一人喋りをしているよう。もともと口数が少ないあやさんは、出る幕なしといった感じです。

一見、よくある母と娘のやりとりのようですが、このシーンであやさんがみせた表情に注目してみましょう。

そう、不機嫌なんです。あやさんはお母さんとの会話に何か不満があるようです。 そんなご両親とあやさんは、ちょっとした会話をすることはあっても、深い話をするようなことはありませんでした。
このように、ガタガタと嚙み合っていない親子の歯車が上手に噛み合うように調整するのが当センターの腕のみせどころ。
さて、あやさんとご両親は当センターのカウンセリングを通してどのような変化を遂げていくのでしょうか?

ひきこもりの大人 親がカウンセリングを開始~3カ月

カウンセリング開始~3カ月が変化が出始める勝負の時期だと当センターのカウンセラーは言います。

お母さんは正直費用の心配もありましたが、「今こそ私の人生をかけて勝負すべき時なんだ!」と腹をくくりました。

当センターでのカウンセリングをはじめて3カ月が経とうとする頃、お母さんはあることに気が付いたのです。
「娘は私に意見を求めていると思っていたけど、ただ話を聞いてほしかっただけなんだ」
お母さんがそのことに気が付き、ご自身の対応を注意深く変えていったところ、あやさんに徐々に変化が現れ始めました。
ひきこもりの大人 親がカウンセリングをはじめて3~6カ月
朝起きたら、あやさんが自ら「おはよう」とあいさつをしてくれるようになりました。
そして、「背中に湿布貼ってくれない?」と、お母さんに頼みごとをしてくるようになりました。
次第に、「昔勤めていた職場に、遠回しに嫌味を言ってくるような人がいた」など、あやさんが心のうちをほんの少し告白するようになってきました。

お母さんはあやさんのことを「口数が少なくて子どものころから何を考えているのかよくわからない子」だと思っていました。しかし、親子の会話が増えるにつれて「あやってこういう風に物事を考えるんだ」と、もやがかっていた娘の姿が徐々に鮮明に見えるようになってきました。
あやさんがよく笑い、冗談を言うようになってきたこともあり、お母さんのなかに「娘が可愛い」という感情も芽生えてきました。

「30代後半になる娘でも、親は可愛いと思えるんだな」。私は素直にそう思いました。親にとって子どもはいくつになっても子どもなんですね。
親御さんがお子さんに合った対応ができるようになってくると、親子の関係が表面的なものではなくなり、お子さん本来の姿が見えてきます。
お子さんがひきこもってしまったら、冷静でいられる親御さんはそう多くはありません。
そんな親御さんの代わりに俯瞰して物事を見定め、解決に向けた複雑な道のりをガイドしていくのが私たちカウンセラーの役目。一人で抱え込まず、一緒に頑張っていきましょうね。
ひきこもりの大人 親がカウンセリングをはじめて6~10カ月

「気になることを質問して相手がイヤそうな反応をしたらどうしようとか今まで考えていたけど…。まぁ、どう思われてもいいか」。
「私、気になることがあると不安になっちゃって、いつまでもそのことばかり考えてしまうんだけど、何か問題が起きたらそのときまた考えればいいか」──────。
こだわり気質で繊細なあやさんがこのような発言をするのは、以前では考えられないことでした。
当センターに来所した際、お母さんは
「娘と初めてちゃんと向き合っている気がする」
とカウンセラーに話しました。
あやさんは以前に増してお母さんと深い話をするようになり、当初は一方通行のようだったお母さんと娘の関係性は、会話を通して大きく変わってきました。

ひきこもりの大人 親がカウンセリングをはじめて約1年

あやさんはお母さんがカウンセリングを受ける前とは打って変わり、自らよく喋るようになりました。 過去に学校や職場で受けた嫌がらせをはじめ、言いにくいであろう心のモヤモヤも、お母さんにはどんどん打ち明けてくれるようになりました。
お母さんがカウンセリングを受けていくなかで、あやさんのお父さんにも変化が現れました。
以前は口を開ければ「将来、どうするんだ」とあやさんに語りかけていたお父さん。 そのお父さんが、あやさんの話に興味を持っている様子で「へぇ~、そうなんだ」とあやさんの話を否定せずに聞くようになったのです。
あやさんとお母さんだけでなく、お父さんも感化されていい方向に変わってきたようです!


カウンセリングを受けているのはお母さんだけなのに、お父さんにも変化が現れてきました。理由として考えられるのは
・お母さんの成果を目の当たりにして「娘がこんなに変わるんだ」と心が動いた
・あやさんの態度が柔らかくなったことでお父さんも変わってきた
元気になってくると、「苦手だったお父さんとも会話できるようになってきた」というお子さんは多いんですよ。
ひきこもりの大人 親がカウンセリングをはじめて1年3カ月~1年5カ月

「私、バイトしようかな」
あやさんが発したこの一言に、お母さんは雷に打たれたような衝撃を受けました。
ひきこもりのあやさんが、ついに社会との繋がりを求め始めたのです。
しかし、お母さんは喜びと不安が入り混じった複雑な気持ちでした。

「もしバイトの面接に落ちたら、ショックを受けてひきこもりが悪化するんじゃないか─────」
ひきこもりの娘がいよいよバイト面接へ
お母さんの心配をよそに、あやさんは求人サイトでバイトを探し、面接へ。
「あやが受かりますように…」

お母さんはあやさんに余計なことは言わず、心の中で祈り続けましたが、残念ながら結果は不採用でした。
しかし、驚いたことに当のあやさんはケロッとしている様子でした。
「不採用なのはしょうがない。私、ブランクがあるからなぁ」
と発言したのです。
あやさんの精神的な成長を、お母さんはハッキリと感じました。

あやさんは自分に自信がついてきて、心が強くなりました。また、自分のことを客観的に分析できていますね。
当センターが行っている“家族療法”では、「家族との雑談」が治療のカギとなります。雑談は、人間関係の基礎部分ともいえるとても大切なものだと私は思っています。
「話す」という行為には、深い人間関係を築き上げる力はもちろん、話しているご本人を成長させられる力が秘められています。
この件についてもっと詳しく聞いてみたい…と思われた方は、当センターで月に2回行っている治療説明会にぜひ参加してみてくださいね。
淀屋橋心理療法センターによる親御さん向けの治療説明会の詳細はコチラ
ひきこもりの大人 親がカウンセリングをはじめて1年7カ月

バイト不採用にもへこたれず、もともと動物が好きだったあやさんは、今度はホームセンターのペットコーナーのバイトに応募してみることに。
すると、今度は見事採用されたのです!
昔のお母さんだったら「採用おめでとう! お店はどこにあるの? これからどうするの? ▲×〇※~~~」と質問攻めにしていたことでしょう。
しかし、お母さんは変わりました。マイペースで口数の少ないあやさんに合わせ、ちょうどいい距離感で会話します。
あやさんも、ひきこもり当時は2階の自室にこもりがちでしたが、今ではお母さんと話すためにわざわざリビングへ降りてくるほど。自分の言葉で自分らしく、いろんなことを話すようになりました。

ひきこもりの大人 親がカウンセリングして見えた成長

10年もの間、実家でひきこもり状態だったあやさん。お母さんが当センターに通い始めて1年7カ月で社会復帰を遂げました。「1年7カ月」という数字だけを見るとものすごく長い年月のように見えますが、ひきこもりだった「10年」や、「人間の一生」という尺度で見たら、いかがでしょうか。
ひきこもりが改善された背景にあるものは「成長」

あやさんがペットショップで働くなかで、イヤなお客さんが来ることもあれば、先輩から理不尽なことを言われることもありました。 昔の彼女だったら、イヤなことがあったら逃げてしまったかもしれません。
しかし、あやさんは逃げません。
イヤなことがあったらバイト先の先輩に話を聞いてもらっているようで、「先輩を頼るのって大事だよね」とお母さんに話したそうです。
あやさんは自分が好きな動物とふれあいながら、楽しくバイトを続けられています。


あやさんは家族の会話を通して成長し、自分の悩みを解決するために職場の先輩に相談するなど、自分で考え、自分から行動することができるようになりました。
当センターでは、「ひきこもりを解決する」というよりは、その先にある「ひきこもらずに生きていけるようにご本人を成長させる」ことを見据えてカウンセリングを行っています。
ひきこもりを克服した30代女性の事例、いかがでしたでしょうか。
お母さんは最後のカウンセリング時に「福田先生に娘への対応を指摘されるのが悔しかったから、絶対にあきらめないでやり抜いてやる! と思っていた」、「カウンセリングを始めたときは、こんなによくなるとは思っていなかった」とカウンセラーに語りました。

なお、後日談ですが、あやさんはバイトで得た給料でお母さんをレストランへ連れて行き、ごちそうしてくれたそうです。
すべてのひきこもり問題がこのようにきれいに解決するとは限りませんが、あきらめずに頑張りぬいた親御さんだけが到達できるゴールはあります。
この記事が新たな一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
最後に、関連記事のご紹介です。
淀屋橋心理療法センターのカウンセリングに通われている方はもちろん、初めて当センターのサイトをご覧になった方も、ぜひのぞいてみてくださいね。
「カウンセリングへの理解が深まる! ひきこもりの解決に役立つ」記事はコチラ
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ひきこもり解決に向けて親御さんができること
ひきこもりの解決はカウンセリングにあり・家族療法でひきこもりを克服したケース
ゲームに過集中し、自室にひきこもるお子さんの対応
※この記事は、当センターにご相談に来られた複数のケースを基にしていますが、個人が特定されないように書いています。

