
過食症になってしまった娘(紗月さん)とお母さんが二人三脚(カウンセラー含め三人四脚!?)で乗り越えたカウンセリング治療体験手記 第3章。
紗月さんの段取りに合わせること
紗月さんの好きな話題に興味を持って聞くこと
紗月さんの性格に合わせた対応をお母さんがすることで、流れは好転していきます。
そんな時、誰しもが思わずしてしまうのが ”油断”。
油断してしまったお母さんの口から溢れたある言葉で、事態は急変していきます。
【登場人物】
紗月さん
過食症に悩む20代の女性
会社員をしながら小説を書いている
お母さん
紗月さんの母親
紗月さんの過食症をなんとか治したくて、
淀屋橋心理療法センターへ相談する
俊介先生
淀屋橋心理療法センターのカウンセラー(臨床心理士)
紗月さんの兄たち
右:長男 亮介さん
左:次男 陽介さん
紗月の祖母
タエさん
Vol.2「娘にうまく対応するのは難しい・・・」は、以下からお読みください。
油断は命取り
6月21日、ジムから帰宅後、
紗月の回復が嬉しい私はついつい調子に乗ってしまい、
「あんたせやけど、昔ほんまに顔色悪くて
老人みたいなしわしわの体つきでどうしようと思ったけど、
この頃生活リズム整って、ちょっとふっくらして、顔色も良くなったなぁ」
と紗月にポロリ。
この一言が命取りでした。
「今太ったって言うたなあ!」紗月の目つきが変わりました。
私:言うてへん、健康的になったって言うた。
紗月:同じことや!やっぱり太ったんや、太いんや!
(紗月は泣き出す始末、どうしよう・・・)
紗月:もう信じられへん!
おかん、大阪(淀屋橋心理療法センター)に何しに行ってるの!?
先生が、痩せにこだわることは宗教みたいなもんですって言わはった、言うたやろ。
私にとってこれは宗教やねん。人生で一番大事なことやねん!
もういい、もういいわ、もうおかんとは喋らん!
(ああ、やってもうた。終わった、どうしよう。)
いくら謝っても紗月は許してくれません。
その後、落ち着きを取り戻した紗月は、
「怒ってないよ、怒ってない。落ち込んでるだけやから」とフォローしてくれました。
けれど、それが怖い…。
カウンセリングでのアドバイス|クーラーボックス作戦
次の日はカウンセリングの日。
大阪行きたないなぁ、やってもうたしどうしよう…。
でもあかんあかん!
こういう時こそ、ありのままの状況を書き、先生にFAX して、カウンセリングに行こう!
面接室では意気消沈の私。
「ああ、やってしまいました。もうよう来ん(もう行けない)と思いました」
「よく来てくださいましたね」
先生のねぎらいの言葉は心に染みました。
気い抜いたらあかんと身に染みました。
カウンセリングを終えて恐々家に帰ると…。
紗月の機嫌はなおっていて、夕方はジムに行き、理想の男性像について話してくれました。
・・・よかった。
けれど、母の考えは浅はかでした。
それからというもの、紗月は私に隠れて食べては、
「おかんが食べ物買い過ぎるから!」
「おかんが夕食に油使ったから!」と責め続けました。
悪いのは全て私のせいです。
そんな状態が1カ月ほど続いたと思います。
先生に相談すると、
「それなら、とにかく食べるものを隠してください」とアドバイスしてくれました。
私は朝起きると、おばあちゃんの食事分だけを家に残し、
他の食材はクーラーボックスに詰めて職場へ持っていくことに。
上司に事情を話して、倉庫の奥に保管させてもらえることになったので、
徹底的に食べ物を隠す作戦に出ました。
私が帰るまでは食べ物が家にないので、紗月の隠れ食べは少し治まりました。
けれど、毎日これではたまったものではありません。
長男に電話してボヤいたボヤいた。
「おかん、言うたやろ!」2回目のピンチ
長男と次男は「おかんの性格やったら、人の話しだけ聞いて、自分の意見言うの我慢するなんてたまらんやろうから、ぼやき LINE 作ったろ」と、私がぼやくためのLINEグループを作ってくれました。
しかし紗月との約束で、紗月の過食や感情のコントロールがうまくいっていないことについて、次男には言わないことになっていたのです。
ある日、気を使った次男が、
「お前、おかんをあんまり困らすな」と紗月に LINE したことが発端となり、
「おかん、陽介(次男)に言うたやろ!
私はお兄(長男)には病気の時お世話になったから、弱いとこ見せられるけど、
陽介とはずっと一緒の、RADWIMPSファンの元気な私でいたいねん。
陽介にはこんなとこ見せたないねん。
言わんといてって、あれほど言ったのに!
なんなん、全部私が悪いんか!?もう信じられへん!」
そう言って、紗月は車のキーを持って出て行きました。
夜中の1時頃だったと思います。
慌てて追いかけて、外に出て止めようとしました。
けれど、紗月は車には乗ったものの、車を動かす気配はなかったので、ひとまずは安心。
ただ、放っておくことはできなかったので、外で蚊に食われながら、紗月を見張り続けました。
3時頃、紗月は家に戻り、寝ましたが、次の日は誰とも口を利かず、着替えて仕事に行きました。家出ではないことに、ちょっと安心しました。
上司からのアドバイスと紗月からの手紙
私も仕事に行きましたが、全く手につかず、ミスばかりしているので、「どうしたの?」と上司から声をかけられました。
私は一部始終を話しました。
「それはあんたが全面的に悪い。
陽介君(次男)に言うなら、先に紗月ちゃんに断ってから。
了解してもらってからしか、言うたらあかん。
今日帰ったらな、ちゃんと紗月ちゃんに謝り。
そしてな、大好きやでって言うて抱きしめてあげ。
紗月ちゃん末っ子で、十分甘えさせてやってるってあんたは思ってるかも知らんけど、
おばあちゃんいて、兄2人いて、お父さんいて、
それ全部終わってからしか、自分の番回ってこないって思ってるかもしれへんやろ。
ちゃんと向き合って、大好きやでって言うたげ!」
上司からのアドバイスでした。
それを聞いていてもたってもいられず、「本当に申し訳なかった」と紗月にLINEで謝りました。
仕事を終えて、家に帰ったのは夜中。家族はみんな寝ていました。
紗月をしっかり抱きしめて、
「大好きやで。ほんまに大事やと思ってるで」と伝えると、涙が出てきました。
紗月も腕の中で泣いていました。
紗月は私が一人になった時に「読んでー!」と手紙をくれました。
手紙には『おかん大好きやで。おかんの子どもでよかった』と結んでありました。
またまた涙が出てきました。
この後、紗月の過食は少し変化を遂げます。
兄たちの帰省と嵐の予感
長男が帰省。
土日には次男も帰り賑やかになり、紗月の過食に少し変化が出てきました。
今までは「料理に油を使うな!」などと怒ってばかりいたのに、
「お兄がいるときは一緒のものを食べる」
「お兄と一緒にいるの楽しい」と言い、
「我慢せんと食べることにする」「後悔しない」と言い始めました。
7月25日〜30日の6日間、よく食べ、よく喋り、兄も交えて3人でウォーキングに行き、
兄が帰った後は、引き締めのために残った食材はクーラーボックスに詰めて母が職場へ持っていく。
うまくいきそうでした。
一緒に映画を観に行く約束もしました。
この頃の先生のアドバイス
「紗月さんの状態は良くなってきましたね。
お子さんの状態が良くなってきた時に親御さんは油断してしまいます。
もう油断しないでくださいね」
先生の言葉を聞いて、過去に私がしてきたたくさんの油断を思い出し、反省しました。
反省しましたが、凄く良くなってくると気を抜いてしまう、懲りない母なのでした。
2回目のデート|映画を観に行って3度目のピンチ
8月1日、映画を見に行くことにしていたのですが、
おばあちゃんが「ひとりにせんといてくれ、わしも連れて行ってくれ」と言い出しました。
紗月は「絶対、嫌だ!」と言ったのですが、
「そんなこと言わんと、ほっとかれへんから」と、
なんとかゴリ押しして一緒に連れて行きました。
紗月は最初から不機嫌。
「あんたらとは違う席に一人で座るからな」と言い、
案の定、一番のクライマックスで「トイレに行きたい!」とおばあちゃんが大声で叫び、車椅子を借りてトイレへ。
帰ってきた時には映画は終わっていて、紗月はめちゃめちゃ不機嫌。
「気分なおしにケーキを買う」と言って、ケーキを大量購入。私が「そんなに買うん?」と言うとまた怒り出す。
とりあえず二人を車に乗せ、無言で帰りました。
帰ってから、雰囲気を何となく察したおばあちゃんが、紗月のご機嫌をとろうと話しかけたのですが、靴をぶち投げ、足を踏み鳴らし、台所の椅子を振り回して大暴れ。
「なんや、怖いわぁ」と言うおばあちゃんに、
「ほっとき。もう寝とき。疲れたやろ」と寝床へ連れて行き、
ひとまずおばあちゃんを寝かせてから戻ってくると、
「ほっときって何よ!ほっときって!全部私が悪いんか!」と、
紗月は台所で暴れまくり、私は為す術もなく、ゴミ袋を持って家の外へ逃げました。
このままほんまにどこかへ逃げたいわ・・・そんな気分でした。
けれど、紗月から逃げていてもどうしようもないので帰りました。
帰ってみると、紗月はカッターナイフを取り出して「リストカットするぞ!」と言います。
紗月:なんでほっとく言うた!?
この前「紗月が一番や」言うて、私が欲しい言葉言うてくれたのに。
大好きって言ってくれたのに。なんでほっとくんよ。私はいらん子か!?
いつも私は後回しや。今日かっておばあちゃん連れてったら、ただの介護やないの。
せっかく楽しみにしてたのに、そんでほうっとくって何よ!?
それで、紗月に今日の一部始終を話しました。
私:お父さんが寄り合いで酔って帰ってきた時に、ばあちゃんと一悶着あって。
そんな状態で、お父さんとばあちゃんをふたりきりにするとヤバいことになる。
救急車か警察のお世話にならなあかんかもしれん状態やって。
だから、しょうがなかった。ほんまにごめん。
紗月:それなら事前にちゃんと言うて。
いつも自分で決めて、自分で動いて、私はほったらかし。
後付けでそんなこと言われても、言い訳にしか聞こえへん。
私:そうやな、ほんまにそうやなあ。
せっかくの映画やったのにな。悪かったな、ごめんな。
紗月:もういい、分かったから。小説書くわ。
紗月はそう言って自室に入ってしまいました。
いつもはこれで終わるのですが、今日はこれで終わったらあかんように思いました。
私は紗月をほったらかしにしてはいない。それどころかほんまに今までの人生の中で一番努力してる。分かってほしい。
でも、おばあちゃんに関してはどうすることもできない。
けれど、それを紗月に言うと「言い訳や」と言われるし、私の理屈を押し付けてしまう。
でも紗月とはもっと近づいておきたい。「あんたを支えてる」ってちゃんと言いたい。
どうしたらいい?
小説や!紗月の小説を見せてもらおう!
紗月の小説を読む|紗月との時間
紗月は昼間、会社員として働いていて、夜はネット小説を書いています。
2年ほど前、その小説に人気が出たので「本にしないか」と出版社から声をかけられ、
単行本を出してもらったのですが、
私は「これはな~…」と小説の内容に興味を持てなかったのです。
これをちゃんと許してもらっておかないと、
「私はいらん子」という思いが、紗月からずっと消えないような気がしました。
「なあ、紗月」
私が小説の話しを紗月に振ってみると、
「私のはまだ見せる気にならんけど」と言いながらも、照れながら何冊か貸してくれました。
深夜2時まで一気読み。みんな切ない話でした。
私:えーやん。みんな心模様が繊細や、繊細。よう描けてるな。綺麗やし。
紗月:そうやろ。
少し心を開いてもらえたような気がしました。
この日、紗月は過食をしませんでした。
うまくいくかと思いました。
仕事の愚痴と過食
8月になり、紗月の仕事は繁忙期で休日がありません。
帰ってくるなり、「腹立つ!」と仕事の愚痴。
ウォーキングに誘って話を聞きました。
何しろ買い食いが増えて、やけ酒ならぬ、やけ甘酒にやけ間食。
紗月は「これが食べずにいられるかい!」と開き直って食べ、その後はものすごい不機嫌と落ち込み。
ついつい、「職場で何言われたん?」「何で過食したん?」と次々質問しまくる母。
「気になってたくさん質問してしまうのは分かりますが、ここは我慢して聞きましょう」と俊介先生からアドバイスしてもらいました。
お盆の間、紗月の過食は止まらず。
ジムが休みということもあり、悪いサイクルに引き戻されそうでしたが、ウォーキングに誘っては、会社の悪口を聞き、なんとか持ち堪えました。
紗月は、
「上司と気分屋の先輩に振り回されているから、食欲が湧かず、昼食が食べられない。
帰ってきた途端にお腹が減って、家にあるもの全部食べてしまう」
「上司に対して何言っても受け止めてもらえない。
言うたらもっとえらいことになる。
だから思いっきり食べて運動して、頭の中をクリアにして、また仕事行くんや」
と、話してくれました。
カウンセリングでその話をすると俊介先生は、
「仕事で自分を抑えていますね。
仕事でも我を出せるようにならないと過食が止まりません。
上司に対して『ここをこうしてみたらどうですか?』というような、やんわりと我を出せる場面が出てきたらいいですね」
と言ってくださいましたが、私には、それはまだまだ遠い夢のような気がしました。
母、我慢の限界で、ついにブチギレる
お盆が終わり、紗月は4日間の夏季休暇をもらいました。
私は一緒に休暇をとることができず、仕事です。例によって食材を担いで。
ところが、
「この牛乳うますぎる。全部飲んだから、もっとまずい牛乳にして」
「ばあちゃんの友達が来て、お菓子くれた」
「仏さんのお供えもの、目立つから全部食べた。あんなとこに置いとくな!」
・・・ついに我慢の限界。母、ブチギレる。
「えーかげんにせんか!仏さんに謝れ!あんただけ生きてんのちゃうぞ!
みんなおいしいもん食べたいんや。ほんまにええ加減にせえ!」
子どもの話しを聞いてあげる、なんてどこへいったのやら。
怒りが沸点に達し、母、今日という今日はほんまに怒りました。
次の日、私は仕事で出張。
どうしても休むことのできない重要な出張の予定でした。
その前日に紗月と大喧嘩・・・あー、やってもうた。
ゆっくり紗月のフォローができる時間はありません・・・。
「私なんか、手かかる子やからおらんほうがええんや。
出張でもどこへでも行ったらええんや。帰ってきたら死んでるかもしれん」
小さく低く紗月が言いました。
(どうしよう…。これ、先生に相談したほうがええ?でもあかん、今この場を離れたり、電話したりすると余計火に油や、どうしよう…。)
その中、ハッとひらめきました。
(前に紗月は「もう体型のこと、あんまり気にならんようになった。1位ではないなあ」と言ってたな。紗月にとって大事な小説のことを言ってみよう!)
「ええかげんにせんか!
あんたな、たかだか体重とか見てくれとか、
そんなしょうもないことのために死んでもええんか?
あんたの人生はそんなもんか。そんなもんやないやろ!」
小説書き!小説!
大手の出版社から本にしてやろうなんて、そうそう言うてもらえるもんやないやろ。
あんたはその才能をもって生まれてきたんやで。
普通の人と同じような人生送れんかもしれんけど、
しんどい人生になるかもしれへんけど、
そのしんどさやモヤモヤは書くことにぶつける。
表現していく能力があんたにはあるんや。
あんたにはあんたにしかできんことがある!小説書きよ小説!
私はずっとずっとあんたを応援してる!
あんたが『おかんもうええで』って言うまでずっとずっと応援し続ける!
あんたをずっとずっと見てるから!」
ふて寝している紗月に、一生懸命思いを伝えました。
「うん」
紗月はスッと立って、「小説書く‼︎」と部屋に入ってきました。
その目には、何か決意のような、憑き物が取れたような、まっすぐな光が宿っていました。
しばらくして部屋から出てきた紗月。
紗月:おかん、私の小説読むか?
私:読む読む!
紗月は、小説の設定の説明をいろいろしてくれました。
小説は切ない言えない想いがいっぱい詰まった、ハッピーエンドの物語でした。
この小説の中で、人に言えない色々な思いを昇華してるのかな。そんな感じでした。
これが、紗月の最後の大荒れでした。
「私、小説書いてるけど、おかんに色々言われたり、お兄に色々言われたら嫌やから、内緒で一人で書いてた。
本出しても、褒めてもらっても、家族には何も言えへんくて辛かった。
でももうおかんが味方になってくれる。それがわかったから頑張れる。
おかん、明日出張行っても大丈夫。頑張れると思うわ」
次の日、
「頑張ってるよ。過食してない。小説書いてる。おかん、早う帰ってきてね」と 紗月からLINEメッセージが送られてきました。
【予告】摂食障害カウンセリング治療体験談 繰り返す過食が止まるまで| vol.4 親子和気あいあい
「私これ治ってるんちゃう?」
もうカウンセリングに行かなくてもいいと言う紗月。
けれども、俊介先生からは「カウンセリング卒業」の言葉はありません。
「母親の私から見ても、紗月は良くなってきているように見えるけれど、どうしてだろう?」
俊介先生が「カウンセリング卒業」と言わないのには、大切な理由がありました。
摂食障害カウンセリング治療体験談 vol.4 親子和気あいあいは、こちらから↓ (2025.10.31 掲載予定です)