臨床心理士が伝えたい保護者カウンセリング成功の秘訣は
「油断しないこと」

更新日:2025.09.16
臨床心理士が伝えたい保護者カウンセリング成功の秘訣は「油断しないこと」

親御さん向けのカウンセリングで、もっとも残念に思うことがあります。

それは——
お子さんの状態がようやく良くなってきた時、親御さんの気が緩んでしまうこと。
その結果、それまでうまく進んでいたカウンセリングが、急に悪い方向へ転がってしまうのです。

それまでうまく進んでいたカウンセリングが、急に悪い方向へ転がってしまう:カウンセリング成功の秘訣

【事例①】 中学3年生の娘さん・リストカットと受験
(仮名:あやかさん)

あるご家庭は、中3の娘さんのリストカットのご相談で淀屋橋心理療法センターに通ってこられました。

カウンセリングを重ねる中で、リストカットの頻度は大きく減少していきました。
そんな中で、親御さんからこんな相談がありました。

「娘が『高校受験をしたくない。通信制高校に行きたい』と言ってます。私たちとしては、まずは全日制高校を受験し、それがしんどくなった時に通信制に変更してほしいのですが…」

カウンセラーの私は伝えました。
「今は6月。まだ時間があります。まずは“全日制に行きたい”という意欲が出てくる可能性に期待しましょう。」

高校受験をしたくない。:カウンセリング成功の秘訣

——しかし、7月になっても8月になっても、あやかさんの口からは

「努力したくない」「楽したい」「通信がいい」

といった言葉ばかり。
親御さんは「勉強しなさい」と言いたい気持ちを何度も堪えてくださいました。

そして9月。
文化祭で、ダンスを上手に踊ることができた 翌日。あやかさんがふとこう言いました。

「やっぱり私、受験することにする。頑張ってみようかなって思えてきた」

リストカットも2カ月ほど止まっており、親御さんはとても嬉しそうに報告してくださいました。

私は伝えました。
「ここからが勝負です。くれぐれも油断なさらないように」

親御さんは笑顔で「はい、頑張ります」と言ってくださいました。

ここからが勝負です。くれぐれも油断なさらないように:カウンセリング成功の秘訣

ところが——
その2週間後、次回予約のキャンセルの連絡が入りました。理由は「急に仕事が入ったので」とのこと。

それから数カ月後の1月。
急遽、お父さんだけが来所されました。

「年末に娘と妻が激しく揉めて、娘が2週間部屋から出てきませんでした。
ナイフでシーツをズタズタに切っていたようで…。
今は出てくるようになりましたが、もう高校には行かないと言っています」

これが最後の面談になりました。

これが最後の面談になりました。:カウンセリング成功の秘訣

【事例②】アルバイトを始めた20代男性のケース

高校生の頃から引きこもっていた20代の男性が、カウンセリングを開始して数カ月後、ついに人生初のアルバイトを始めました。
すると、その日を境に親御さんが来所されなくなりました。

数カ月後、再び連絡が入りました。

「息子が人間関係で悩み、バイトを辞めてまた部屋にこもってしまいました…」

息子が人間関係で悩み、バイトを辞めてまた部屋にこもってしまいました:カウンセリング成功の秘訣

チャンスが「近づいてきた時」にこそ、注意が必要です

チャンスがまだ遠くにある時、多くの親御さんは本当に頑張ってくださいます。

しかし、チャンスが“手の届きそうな距離”に来た時、親御さんは2つのタイプに分かれます。

「よし、ここからが正念場!」と気を引き締める親御さん

「なんとかなりそう」と、気を緩めてしまう親御さん

せっかくここまで頑張ってきたのに、最後にチャンスを逃してしまう。

それは本当にもったいないことです。

チャンスが“手の届きそうな距離”に来た時、親御さんは2つのタイプに分かれます:カウンセリング成功の秘訣

だからこそ、「油断しないこと」がカギになります

「油断しないこと」がカギになります:カウンセリング成功の秘訣

いい兆しが見えてきたとしても、“もう少し”お子さん自身をパワーアップさせなければ、本当の解決や安定にはつながりません。
先ほどの2つの事例はお子さんを成長させきれなかったことから、まるで砂のお城のように波が来たらせき止められず、崩れてしまいました。

私たちカウンセラーは、繰り返しこうお伝えしています。

「ここからが本番です。油断せず、もう一歩だけ頑張りましょう」

それでも、油断してしまうのが人間。

だからこそ、万が一お子さんの状態が悪化した時は、なるべく早い段階で相談にいらしてください。

万が一お子さんの状態が悪化した時は、なるべく早い段階で相談にいらしてください。:カウンセリング成功の秘訣

私たちカウンセラーは、親御さんのなかに「頑張りたい」というお気持ちさえあれば、喜んでお手伝いさせていただきます。

まとめ

チャンスが見えた時に、気を抜かないこと:カウンセリング成功の秘訣

カウンセリング成功の秘訣は——
「チャンスが見えた時に、気を抜かないこと」

最後の一歩、力を抜かずに踏み出せるかどうかが、未来を大きく変えます。
               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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