【男の子のリストカット(自傷行為)克服の事例:強迫的に頑張りすぎる子】

健太郎くんは超進学校に通う高校2年生
とても成績が良いのですが、
成績が落ちるのではないかということを恐れ、
寝る時間を削って強迫的に勉強しています。
特に、学校や塾の試験1週間前からは睡眠時間3時間で頑張り続けます。

「そんなに無理しなくていいんじゃない」
「もう寝たら?」
「少しは休憩した方が効率が上がるんじゃない?」

と、これまで親御さんは何度も伝えてきたのですが、
健太郎くんは全く言うことを聞こうとしません。

まるで何かに取り憑かれたように勉強している健太郎くん

まるで何かに取り憑かれたように勉強している健太郎くんに
お母さんは「見て。このテレビ番組面白いよ〜」
などと明るい雰囲気で話しかけるのですが、
健太郎くんは、それには乗ってこず、
食事を食べ終わるとすぐに自分の部屋に戻って勉強を始めます。

お母さんは明るく振る舞ったり、質問することで会話を広げようと
様々な工夫をされていたのですが、どの対応も健太郎くんの歯車とは噛み合ないのです。

親御さんとの会話は、全く無いわけではありません。
ただ、その会話のほとんどは試験の順位テストの話、
「同級生の誰々には負けたくない」というような内容ばかりでした。

徹夜をしている様子の健太郎くんの部屋をノックすると、返事がありません。

ある日のテスト前、
徹夜をしている様子の健太郎くんの部屋をノックすると、返事がありません。
お母さんが部屋に入ると、椅子に座って目を閉じている健太郎くん。
そして、その周りには血の付いたティッシュが散乱していました。
血の付いたカミソリが机の上に転がっています。
お母さんが健太郎くんがリストカットをしていることに気づいた瞬間です。

リストカットをしていることや、
睡眠時間を削ってまで勉強していることを問いただして良いのか?
注意した方が良いのか?
親御さんはとても対応を悩まれたそうです。

その周りには血の付いたティッシュが散乱していました。血の付いたカミソリが机の上に転がっています。

そして、リストカット(自傷行為)について相談できるところを探され、
当センターに来所されました。
カウンセラーは親子の歯車がしっかりと噛み合うように、アドバイスを始めました。

カウンセラーは親子の歯車がしっかりと噛み合うように、アドバイスを始めました。

— 親御さんが当センターに来所されて2か月経った頃 —

個人差が大きいのですが、健太郎くんの場合、
2か月ほど経った頃から分かりやすい変化が見え始めました。

夕飯の時に、いつものように勉強の話をし、
そのまま自室へ戻るのかと思ったら
健太郎くんは、少しだけアニメの話を親御さんとしてから
自室に帰って行ったのです。
この頃から、ほんの少しですが健太郎くんの表情が柔らかくなってきました。

ほんの少しですが健太郎くんの表情が柔らかくなってきました。

— 当センターに親御さんが来所されて3ヶ月経った頃 —

食事が終わってからも、
少しテレビのバラエティ番組を見て
「ハハハハ」と笑う日が出てきました。

「殺伐とした雰囲気がなくなり、
 家庭の雰囲気が少し穏やかになってきました」

とお母さんがおっしゃいました。

少しテレビのバラエティ番組を見る。

— 当センターに親御さんが来所されて4ヶ月経った頃 —

健太郎くんの同級生で、成績が学年トップクラスの武田くんという子がいます。
「武田みたいに上手く力を抜いて、でも成績はトップクラス。
あいつみたいなやり方を真似したいな」

このように言い始めました。

これまで親御さんが「力を抜くことも大事よ」と何度言っても
一度も聞こうとしませんでした。
しかし、健太郎くんの性格だと、親が教えてあげようとするよりも、気づかせてあげる方がうまくいくのです。

健太郎くんの雰囲気が増々穏やかになり、
家庭の雰囲気が明るくなってきた頃、
親御さんがとても驚いたことが起こりました。

いとこの結婚式に行く健太郎くん。

いとこの結婚式が予定されていたのですが、
それに健太郎くんが「やっぱり行く」と言い出したのです。
親御さんが「本当に大丈夫なの?」と確認すると
「1日ぐらい勉強しなくてもどうってことないやん」
という返事が返ってきました。
これには親御さんはびっくりされたようです
“頑張り続けないといけない”という強迫観念に
圧倒されなくなってきました。

他には、学校から帰ってくると、台所のお母さんのところに寄ってきて
「今日のご飯は何?」と聞いてきたり、
食事中は「いつもと味付けが違うね。何を使ったの?」
こんな事も聞いてくるようになりました。
だいぶ健太郎くんから張り詰めた緊張感がなくなってきました。

ただ、テスト前など、頑張り過ぎた時はリストカットをするのが続いています。

— 当センターに親御さんが来所されて5ヶ月経った頃 —

朝、いつものように出かけて行った健太郎くんから
お母さんに電話がかかってきました。
「今、駅にいるんだけど、しんどい。今週は学校休んでいい?」

「今、駅にいるんだけど、しんどい。今週は学校休んでいい?」との電話。

親御さんは健太郎くんがこのまま学校に行かなくなってしまうのでは
と心配されましたが、「いいよ」と返事。
でも、とても心配で、親御さんから当センターに電話があり、
その日の晩に緊急面接を実施しました。

親御さんは学校に行けるのか心配でしたが、
翌週の月曜日は、学校に行くことができました。

自ら“休む”と決断できたのは成長です。
また、休んでいる間に色々と考え過ぎたりした訳ではなく、
しっかりとリフレッシュして、休みを“休み”として活かせました。

これは最高のシナリオです。

自ら“休む”と決断できたのは成長です。

この日を境に、
リストカットをするということは、ほとんどなくなりました。

カウンセラーは親御さんに伝えます。
「まだまだ油断は出来ません。
今後も不安に圧倒されて無理をする。
その結果、リストカットをしてしまう可能性は十分あります。
今のうちに彼をもっと成長させましょう」

— 当センターに親御さんが来所されて6ヶ月経った頃 —

これまで同級生に悩みを相談している様子のなかった健太郎くんが、
どうやら同級生に相談していることが分かってきました。

成績がトップクラスの武田くんに勉強のやり方について相談していて、
「英語はここがポイントだから他は捨てた方がいい」
「この教科はここは勉強しなくていい」

などということを教えてもらって実践しているようです。

以前は、
同級生に対してとても強いライバル心と緊張感を持っている様子でしたが
穏やかな表情で
「◯◯高校に入って良かった。
相談したり将来のことを語り合える仲間ができて良かった」

と言い出しました。

相談したり将来のことを語り合える仲間ができて良かった。

また塾の話では、
「益子くんがね、福田さんに告白しようとしている」
「湯浅君が原田さんから LINE を聞き出そうとして失敗した」

などの恋愛話なんかについても、食事中にしゃべりだしました。
一見、何気ない会話に思われますが、
これは勉強ばかりしていた健太郎くんの視野の広がりを示しています。
また、雑談をすることで勉強のやる気が高まる性格傾向の子は少なくありません。

— 当センターに親御さんが来所されて7ヶ月経った頃 —

ある日、模擬試験前、
いつものように睡眠時間3時間で勉強するのではと、
お母さんは心配されていましたが、
案の定、健太郎くんは深夜4時になっても眠る気配はありません。
お母さんが「今日はもう寝たら」と伝えると、
最初は「いや、そんなの無理だよ」と言っていたのですが、
しばらくしたら「じゃあ、今日は早く寝るわ」と言ったのに
お母さんは驚かれました。

「じゃあ、今日は早く寝るわ」

また、第一志望の○○大学法学部は B 判定でした。
以前の彼だったら 、
A 判定じゃないということにとても落ち込んだり、
パニックになっていたかもしれませんが、
彼は「悔しいなぁ」と言って、
そんなに引きずった様子はありませんでした。

— 当センターに親御さんが来所されて8ヶ月経った頃 —

受験が近づいてくると、
健太郎君は口内炎ができたり体調を崩すことが増えてきました。
しかし、以前と全く違うのは、予定通りにならなくても、パニックになることは無くなりました。

受験前だけども、漫画の新刊が出たらそれは読んでいたり、
勉強の合間にリビングにやってきて、
ニュースに関する話題や、
「塾の池尾先生は優しい穏やかな人だけど、意外にもプロレスがメッチャ好きなんだって」とか
「塾の戸塚先生が綺麗な女の人と駅のホームを歩いているのを見た」
というような話をして、ニヤリと笑うと
トントントンと軽い足音でまた自室に戻って行きます。
「しゃべることでストレスを発散してるのかな」
お母さんは感じられたそうです。
頑張りながら、上手に息抜きできるようになってきました。

頑張りながら、上手に息抜きできるようになってきました。

—その後—

健太郎くんのリストカットが止まり、彼の精神的な成長に安心された
親御さんが当センターに来所されなくなってから、数カ月経った頃。
お母さんから電話がありました。
健太郎君が第一志望の〇〇大学法学部に見事合格したとのことでした。

第一志望の〇〇大学法学部に見事合格。

“不安に圧倒されない”“うまく力を抜く”“適切な人に相談する”
このように着実に成長した彼は、
超難関と言われる大学に入ってからも
そして、その卒業後もうまくやっていくのではないだろうかと思われます。

*この記事は、当センターにご相談に来られたケースを基に書いておりますが、個人が特定されないように書いております。

2022.06.23  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊介

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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