不登校事例 学校に行けるようになったその後 〜継続して登校できるように〜

<21才男性 大学中退後、専門学校に入学>

タカヒロさんは21才。専門学校に入学したばかりです。学校には通えているのですが、ご両親が淀屋橋心理療法センターに相談に来られました。「また登校できなくなってしまうんじゃないかと不安で」と親御さん。お話をお聞きすると、タカヒロさんは大学2回生の時に学校に通えなくなったそうです。学校に通っているフリをしていたのですが、先生からの連絡で学校に来ていないことを親御さんが知ることになりました。実は高校生の時も精神的にしんどくなって、学校に通えない時期があったそうです。高校でも大学でもあまり友達はいませんでした。大学中退後、実家で数カ月過ごした後、親御さんの勧めもあり専門学校に入学されました。

<面倒くさいが口癖で、人の目が怖い>

家では自室にいることが多く、親御さんとの会話はほとんどありません。「面倒くさい」が口癖で、親御さんが頼んでも家事を手伝ってくれることはありません。また、「人の目が怖い」と言い、スターバックスなどのカフェには1人で入れません。専門学校に行く以外で外出はしないようです。

<ただ見守るというのがしんどいんです>

「見守ることが大事ですとよく言われるのですが、ただ見守るというのがしんどくて。何か親にできることがないかと思って相談に来ました」とお母さん。 「見守ることは大事です。それに加えて親御さんにできることがまだあります」とお伝えしました。タカヒロさんへの対応を工夫して頂くと、様々な変化が起こってきました。

<変化① 母親との交流が増えて来た>

「私が職場から帰宅すると、2階の自分の部屋から出て来て『おかえり』と言ってくれるようになりました!」とお母さん。また、以前だと食後はすぐに自室に戻っていたタカヒロさんでしたが、食後もリビングにいる時間が増えてきました。リビングでは母親の背中に柔らかいボールを軽く投げて「ハハハ」と笑ったり、母親の肩をポンポンと軽く叩く等、ふざけたり、ボディタッチをするようになりました。「なんだか以前より息子が心を開いてくれているように感じます」とお母さんが仰いました。

<変化② 行動が活性化してきた>

「面倒くさい」が口癖だったタカヒロさん。ところが、「回覧板を回してきて」と頼むと、「仕方がないなー」と文句を言いつつも、やってくれる日が増えてきました。また、以前だと、髪の毛が伸びて来ても、なかなか散髪には行かず、親御さんが何度も髪の毛を切ってくるように促して、ようやく散髪に出かけるタカヒロさんでした。しかし、この時期から自分で髪の毛を切りに行くようになり、服装も気にするようになりました。さらに、親御さんが大きな変化だと感じられたのは、タカヒロさんが「面倒くさい」とあまり言わなくなったことです。

<変化③ 学校帰りにケーキを買って来てくれた>

この日のカウンセリング。開口一番、「息子が学校帰りにケーキを買ってきてくれました。ビックリしました!」とお母さんが仰いました。タカヒロさんが親御さんの為に何かを買って来てくれたのは初めてのことでした。普段は口数の少ないお父さんも「親の為に何かを買ってきてくれたのは初めてのことで驚きました」と柔らかい表情で仰ったのが印象的でした。

<変化④ 同級生と楽しく過ごしている>

「昼休みにみんなで卓球してるねん」
「友達の家で3時間飲んでてん」
「今度はみんなでカラオケに行くねん」
などとスマホの写真を見せながら、親御さんに楽しそうに話をするようになりました。家庭での口数が増え、行動も活性化してきました。「息子が変わってきました。以前とは雲泥の差です」とお父さんが笑顔で仰いました。

〜〜〜〜 ピンチ 学校に行かなくなった 〜〜〜〜

「息子が学校に行ったフリをして、先週から行ってませんでした。リビングにもほとんど降りてこなくなりました。」と親御さん。タカヒロさんは朝「行ってきます」と出かけるのですが、どうやら外で時間を潰し、夕方になると帰宅していたことが判明しました。親御さんのお話を聞いていくと、タカヒロさんへの対応が以前の状態に戻っていることが分かりました。「息子の調子がとても良くなってきていたから、前と同じように(当センターに来る前と同じように)接してしまっていました」うつむいて仰る親御さんに、「では、対応を戻してください。落ち着いて対応して頂いたら、また調子が戻ってくるでしょう」と伝え、この日のカウンセリングを終えました。

〜〜 学校に再び行き出した 〜〜

その後、親御さんは不安な中でも落ち着いた対応を続けられました。その結果、タカヒロさんがリビングで再び笑顔を見せるようになり、しばらくして登校できるようになりました。「以前と違って調子の悪い期間が長引かなかくて、ホッとしました」とお母さん。「親御さんは落ち着いてうまく対応されました。しかし、まだまだ安心できませんよ。また油断してしまったら、彼が学校に行けなくなるかもしれません。」とお伝えしました。

<その後、さらに行動が活性化してきた>

再び学校に行けるようになったタカヒロさん。次の関門は、専門学校在学中に取らないといけない資格の試験です。この関門を突破できず、再び学校に行けなくなるのではないかと親御さんは大変心配されていましたが、無事に合格することができました。資格試験に合格したことが自信になったのでしょうか。 専門学校の卒業には必要がないのに、なんと英検の本を自ら買ってきました。以前は人の目が気になって入れなかったスターバックスで勉強する日も出てきました。

また、もう1つ親御さんがとても心配されていたのは、学校での人間関係。ところが、学校帰りに同級生と遊びに行ったり、楽しんでいるようです。カラオケに行った翌日は、「歌い過ぎて声が出ない」と言うなど、元気に過ごしています。「息子が元気になってきて、家庭が明るくなりました」初めてお会いした時よりも、ずっと柔らかい表情でお母さんが仰いました。

*この記事は、当センターにご相談に来られた複数のケースを基に書いており、個人が特定されないようにしております。

2019.12.27  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊介

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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