男性の摂食障害 男性も「太りたくない」気持ちからダイエットにはまる

さっぱりとしたスポーツマンタイプの彼が過食症

3ヶ月で10Kg減量に成功

小学生からぽちゃっとした体型だった。中学になって、それが気になりだしたという。陸上競技部にはいって、必死で走って走って。3ヶ月で10Kg減量した。「食べても走ればだいじょうぶ」。はじめはこのくらいの気軽な気持ちだった。それがゆきづまったのは受験期を迎えてから。

走れないから、太るのが心配

食べることが大好き。おかずもご飯もみんな大好き。好き嫌いがないので「守はほんとうにいい子やね」と、お母さんに言われていた。いっぱい食べて、しっかりと運動して、勉強も手をぬかず上位にいる。親からみれば自慢の息子だった。その様子が変わってきたのは受験勉強が本格的になった10月頃のこと。

三年生になってからもう運動部の活動は終了。二年生に全てを明け渡して受験に専念する。守もその一人だった。しかし心中はおだやかでなかった。「どうしよう。走らなければ太ってしまう。食べるのを抑えようか、それともーー」。だんだん食事の時間が苦痛になってきた。お風呂に入るまえはかならず体重をはかってみる。50g増えたや減ったがやけに気になる。「ごはんですよ」と呼ぶ母親の声がうとましく感じられる。「もっと食べないと、体がもたないわよ」。夜おそくまで勉強をしている守の体を心配して母親は声をかける。「ほっといてくれ。うるさいな」と、守は払いのけるように母親の声を封じるようになった。

アルコールを飲んで、吐くことを覚えて

中学生でお酒をのむというのも、本当はいけないことなのだが、運動部なかまで集まったときビールを誰かが持ち込んでいた。守も好奇心から飲んでみた。体調もよくなかったのか、その夜帰ってから吐いた。苦しい体験だった。しかしこれが一つのひらめきにつながったのだ。「そうだ、食べても吐けば太らない」。守はパーッと目の前が明るくなったような気がしたという。

それからまた守は母親からみた良い子にもどっていった。いっぱい食べて、しっかりと勉強する息子に。

食べても食べても太らない?

「おかしい。食事のあともなにか食べているわ。それなのになんであんなにやせているんだろう。受験勉強のせいかしら」と、母親はふしぎに思っていた。夜も帰りが遅くなってきたし。おかしいな。

守は夜コンビニでバイトをしていた。過食の費用を稼ぐため。母親にわからないように、かせいだお金で食べ物を買っていた。吐くのも家でばかり吐かず、帰り道公園や駅のトイレで吐いたりもした。吐けば食べてもやせていられる、この事実がだんだんと守を過食症のあり地獄にはめていった。

男性の過食症も女性のそれとおなじ

過食症になりやすい人のタイプについて話しをすすめていくうちに、男性にも女性とおなじ特徴がみられることに気づいた。ポイントをまとめてみよう。

  • 人にはおとなしいとみられるが、本質は激しい面をもっている。
  • 家族やまわりにいる人の気持ちを優先して自分を抑えている。
  • 人一倍気を使う。それでくたくたに疲れてしまう。
  • 友だちのなかではムードメーカーの役割をかってでて、好かれている。
  • 人の言うことを聞かない、がんこなところがある。
  • 主導権をにぎれるところではゆうゆうと動けるが、握れないとひっこんでしまう。

「どうしたら治るでしょうか。」と不安げに守は尋ねてみた。「そうですね、食べる食べないことばかりに焦点をあてていると治りが遅くなります。それよりも、自分にとって何がストレスになっているのか、それはどの程度なのかに気づいていくことです。それと自分は何が好きで、何がきらいか、あわせるばかりでみえなくなってしまった自分をしっかりとつかむこと。生き方再点検といったことをやっていくのがいいでしょう。」

2019.04.17  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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