4.問題家族はこんなところに気もちが届いていない(ひきこもり4年 26才女)

来所するお母さん方に一枚のアンケート用紙を書き込んでもらった。多い順番に並べるとだいたい次のようになる。

質問1:「あなたは小、中、高校と、子どものどこに関心をもってきましたか」

  1. 学校や塾の成績
  2. 交友関係
  3. 規則(約束)を守る
  4. 思いやりの心
  5. 身だしなみ

確かに成長の途上において、大切なポイントである。しかしどこでどう道がそれてしまったのか、「ひきこもり」という症状ゆえに来所しておられる。どこからみても大事なポイントを守って育ててきたのに、どこが足らなかったのだろうか。症例の中からその点を感じさせる部分を拾いだしてみた。

問題家族はこんなところに気持ちが届いていない(ひきこもり4年26才女)。

症例:意外なところに落とし穴が

優子は専門学校をでて、タイピストとしてある商事会社に勤務していた。ふだんはおだやかな性格でなんの問題もないのだが、なにかゆきづまるとカーッとなる。「頭の中が真っ白になって、何をしているかわからなくなるんです」と、優子は言う。上司から注意を受けると「すみません。気をつけます」と素直に言えばすむのに、気がついたら大声で言い返してしまっていた。

なんどかそうしたことを重ね、出勤できなくなり、とうとう退社に。それから優子のひきこもりが始まった。母親の車に乗せられて来所した優子は、面接室で担当セラピストとカウンセリングを重ねていく。そのなかから、優子がひきこもりに追い込まれていった背景の一つが浮かび上がってくる。その部分を紹介しよう。子どもの成長に本当は何が大切なのであろうか。

セラピスト:いつもはお母さんと二人で家にいるんですか。

優子:はい。なんかそれがしんどくて。

セラピスト:どうしてしんどいの?

優子:私、昼頃起きるから。もっと早く起きろとか。なんせ「人なみに」ゆうんが口癖で。

セラピスト:商社に勤めてたんですか。英語やタイプが得意なんですね。タイプは速い方ですか?

優子:はい。私が一番速いくらいでした。仕事はできるほうだと思います。でも –。

セラピスト:お母さんからお聞きしました。人間関係がダメとか。上司の人ととけんかしたんですか?

優子:けんかではないんです。お母さん、そんなことを。

セラピスト:職場であったトラブルを家で聞いてもらいましたか?

優子:お母さんは私の話を聞いてくれない。いや聞いてるんだけど、右から左で。そのあいだに自分なりの解釈を加えるんです。自分の都合のいいように。

セラピスト:どんなふうに?

優子:たとえばね、「きょうはお隣さんがお休みでね、タイピングの量が多くて、肩こっちゃった」と言いますね。そしたら「ぐちをこぼしてばかりいると、いやがられるよ。量が多くてもこなせるように頑張るのが、いい社員なのよ」とか。

セラピスト:それは正論だけど、聞いていてしんどいですね。優子さんはきっと「そら疲れたでしょう。肩もんだげよか」とか、言ってほしかったんじゃないですか?

優子:そうそう、そうなんですよね。肩もんでくれなくてもいいから、熱いお茶くらい入れてほしい。それなのに「こんな景気の悪いときに働く所があるだけでも感謝しなくちゃね」って。もう母にはなんにも言う気がしなくなってしまうんです。

セラピスト:小さい頃からそんな体験はありましたか?

優子:いっぱい。試験の点とか塾の成績とかにはずいぶん関心があって、いい成績をとったときだけ喜んでいました。私が風邪を引いててもそれだけの関心もってくれないくせに。

セラピスト:そうですか。もっとあなた自身のことに関心はありましたか?たとえば「あら、ピンクのセーターよく似合うね」とか。「え、こんな本すきなんか」とか。「優子のすきな歌手、歌うまいね」とか。あなた自身のこまかなことについては?

優子:いいえ、そんなことには関心があるようには思えません。最大の興味をよせてくれたのは、進学する学校と就職先くらいで。

セラピスト:それはいけませんね。親がそこのところを、学んでいかないと。そんな細かなところに関心を寄せてもらって、はじめて子どもはのびのびしてくるもんなんですよ。

優子:それじゃ、私が学校や職場で人間関係でしんどい思いをしてきたのもなにか関係があるんでしょうか?

セラピスト:おおありです。子どもは親に小さなことを認められ、関心をもたれ、肯定のメッセージを与えられることで自信がもてだすんです。そこからどうふるまったらいいかとか、どう言ったらいいかも見極められるようになります。

優子:そうですか。そう言ってもらってちょっと安心しました。私が今こうして社会に出る気がなくなってしまってるのも、自分が悪いからと自分ばかりを責めていましたけど、なんかわかるような気がします。

セラピスト:問題点がみえてきましたね。もっと日常的なことで、親御さんにお話することが必要だとはっきりしてきました。

関連記事

2014.04.24

「寝落ち」するまでネットやスマホに依存する「不登校」の子の心理とは

朝起こしに行ったらパソコンをつけっぱなし。おまけにパソコンの前でうつ伏せで寝ていた。 子どもの布団をはいだらスマホを持ったまま寝ていた。 このような状態を「寝落ちする」と言います。ネット用語としても広く使われているようで […]

2013.10.08

2.過食症を克服し就職できた!摂食障害専門外来の力は大きい(過食症歴6年 29才)

過食症を発症して6年がたつ。淀屋橋心理療法センターにある摂食障害専門外来でカウンセリング治療をスタートして、 2年後には過食症も嘔吐も止まり就職することができた。症状が重かったわりには、比較的早く過食症克服への道を歩めた […]

無断キャンセルはしないでね

事前予約の方が、おみえにならない 今日、一時からの予約クライエントAさんをお待ちしています。 *ほんとうは一時から昼食休みに入るのですが、一時間早めてとることにしました。 *先週、別のクライエントで不安神経症に悩む方から […]

シリーズ記事

1.淀屋橋心理療法センターにおける「ひきこもり」の解決率は98%

親の熱意とねばりが解決にこぎつけるひきこもりの治療にかんしては、親が熱心に淀屋橋に通うことができ、こちらのアドバイス(そんなに難しいものではありません)にしたがうことができ、ねばり強く通っていただければ、たとえ本人が来れ […]

2.1.母親との会話にリズムがでてきたら変化のきざし(24才 ひきこもり4年・男)

お母さんとの掛け合いがリズミカルに健司(24才)は、ほとんど自室にこもったままで一日を過ごす。こんなひきこもり生活がもう四年になる。食事も家族とは食べない。すきなときにラーメンを作ったりしている。テレビを見たりマンガを読 […]

3.2.子どもの要求を否定せず、会話のチャンスに

「あれ欲しい、これ買ってくれ」この時親子で話し合いを息子(雄一、20才)が、ひきこもりはじめて二年になる両親が来所した。高校はなんとか卒業したけれど、そこでつまづいた。大学には進学せず、さりとて職を探す意志もない。「その […]

4.3.親の主張よりも、もっと子どもの声に耳を傾けて(ひきこもり4年、23才男)

健治がひきこもりだしたのは、大学二年生のころからだ。あれから4年がたってしまった。母親はいろんな病院や相談機関へ出向いたが、状態は変わらなかった。友人の紹介で当センターへ来所。カウンセリングを通して母親の話しをきくうちに […]

5.4.問題家族はこんなところに気もちが届いていない(ひきこもり4年 26才女)

来所するお母さん方に一枚のアンケート用紙を書き込んでもらった。多い順番に並べるとだいたい次のようになる。 質問1:「あなたは小、中、高校と、子どものどこに関心をもってきましたか」 学校や塾の成績 交友関係 規則(約束)を […]

6.5.就職でのつまづきを、親に問いつめられて自室にこもってしまった勇樹(27才)

大学をやっと卒業。しかしその後部屋の戸を閉めたまま勇樹(27才)が「大学でたんやから、ちょっと好きにさして」と、言ってきたのが5年前。「え、大学でたらどっかへ就職して働くんがあたりまえやで」と、母親は言った。父親も「なに […]

コラム一覧へ