4.「お母さんが変わってくれたから、リストカット(自傷行為)やめられたんやで」(梨花20)

梨花の場合、リストカット(自傷行為)が止まったのは「母親との関係改善」が決めて

梨花はフリーターで働きだして3年になる。その間、何度もリストカット(自傷行為)を試みている。ひどいときはかなり深く切って、救急車で運ばれたこともある。思春期病棟に入院したとき、自分よりずーと若い子たちが、たくさんリストカットをしているのを知って驚いた。いつのまにかその子たちの「話を聞いてくれるお姉さん」になっていた。「リストカットした人にしかわからへん心の動きってあるんよね」と、梨花は口ぐせのように言っていた。

梨花の場合は家族療法のカウンセリングで、母親との関係を改善してもらい、なんでも話せる母娘関係になったことがリストカットから卒業できた決めてだった。以下に母親と梨花の会話の一部を紹介してみた。

梨花は「なやみ相談のお姉さん」みたい

梨花は若い人たちの頼れるお姉さん。でもその役割はしんどいときが多いので、母親にあれこれ話して肩の荷をおろし、エネルギーを再生産している。「お母さんに聞いてもろたら、ほんまに楽や」が、今の口ぐせである。

梨花:お母さん、きょうな由美から電話かかってきたんやで。ホラおぼえてるやろ。おんなじ病室にいた窓際のベッドの子。

母親:ああ、いたいた。あのかわいい子やろ。スヌーピーの毛布かかえてはなさへんかった子やろ。

梨花:そうそう、お母さん、ようおぼえてるな。由美な、また切ったんやて。ほんでもって私に電話してきて『どないしよう、なんとかしてー』ゆうてな。どうにもできひんやんかな。親に言えっちゅうの。由美だけやない、S子もT美もみんな悩みかかえとう。言わへんだけや。それを私にゆうてどうなるんや。そうおもわへんか?

母親:そうやな・・・しんどうならへんか?

梨花:うん、前はな。聞いてるだけでしんどかった。そやけど聞いたらんと、この子ら救われへんのや。また隠れて切りよるやろな」って思って聞いてやってた。

お父さんに叱られたとき、お母さん私のことかばってくれたやろ

梨花:お母さんがなー、淀屋橋のセンターでカウンセリング受けてから、私、しんどくなくなったわ。

母親:それはよかったなー。

梨花:入院してるとき薬ようけでたやん、おぼえてる?毎日ナースが朝昼晩と薬のんだかチェックしに来て。由美もS子もT美も、みんな薬じゃないよなー。薬だけでは治らんよな。ココロ病んでる人は、家庭環境にちと問題あり、なんやなー。

母親:うん、そうやな。

梨花:電話で「死にたーい」ゆわれても困るな。どう返事していいか、わからんかったわ。「死にたーい」ゆうてる由美の気持ちもようわかるしな。リストカット(自傷行為)は、切る体験した人にしかわからんってことあるしなー」。
私の場合は、お母さんや。お母さんが変わってくれたことが、一番やった。それでリストカットだいぶ減ったなー。「死にたーい」気持ちは残ってるけど、なんか、家でイライラすることがすくのうになったんや。

母親:そうか、お母さんもほんまにうれしいわ。淀屋橋心理療法センターで、お母さんに対応のアドバイスもろたんがよかったな。ええ具合にあんたに対応できるようになったんや。

梨花:そうやな、そのころからお母さん変わってきたよな。お父さんに叱られて、叩かれて。まえは「梨花が悪いんや。あんたが悪いからや」ゆうて、助けてくれへんかった。けどこのごろは違う。「梨花が悪いんとちがう。そんなに叱らんといたって」ゆうて、かばってくれるようになった。うれしかったわ。そんでかな、「切りたーい」思っても、お母さんが悲しむから切らんとこ」って、ブレーキがかかるんや。切るの止めるってしんどかったけど、お母さんの顔がうかんで、よう手首切らへんかったな」って思うわ。

梨花は今、病院のなかにある花屋さんでバイトをしている。「私がアレンジした花が、病気の人をなぐさめてるんやなって思ったら、この仕事やりがいあるわ」と、うれしそうに語っていた。もちろんリストカット(自傷行為)もいつのまにか、しなくなっていた。

(2008.04.30)

2008.04.30  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

シリーズ記事

2008.04.30

1.4.「お母さんが変わってくれたから、リストカット(自傷行為)やめられたんやで」(梨花20)

梨花の場合、リストカット(自傷行為)が止まったのは「母親との関係改善」が決めて 梨花はフリーターで働きだして3年になる。その間、何度もリストカット(自傷行為)を試みている。ひどいときはかなり深く切って、救急車で運ばれたこ […]

2.1.手首を切るのは「助けてほしい」心の叫び

今リストカット(自傷行為)で自分を傷つける子どもが増えている。この症状は、一人一人状況が違うのが特徴だ。ここにあげる事例もその一例としてお読みいただきたい。ここで取り上げた祐子は受験をひかえた高校三年生。「明るい素直な子 […]

3.2.手首を切るという行為の裏には山のような問題が

子どもの弱い面が家族の援助でどこまで成長できるかが鍵 子どものリストカット(自傷行為)に親は驚かされる。「深く切れてしまったらどうしよう。また切ったらどうしよう」と、不安と心配が先立ち、どうしても腫れ物にさわる対応になる […]

4.3.まじめで頑張りやさん、甘えやホッとするもの探しでリカバリー

明るく話していた有香が、手首を切った(高一) 「あのね、きょう先生にほめられたんよ。みんなの前で」と、有香はうれしそうに夕食のあと母親に話した。「数学の試験な、一番やってんて」「え、ほんま、よかったやん」「私、がんばるで […]

5.5.「お母さん、目先のことにとらわれたらダメですよ」(まさ江 24才)

娘の激しいリストカット(自傷行為)に悩まされて まさ江さんは、バーガーショップでフリーターとして働いています。仕事がシフト制で、朝早かったりお昼ごろ出勤したり。母親ともほとんど話し合う機会もないという状態でした。そんなお […]

関連記事

2010.03.30

1.「私は怠け者、なにしてるんや!リストカットで痛い目にあって罰を受けろ」

リストカットをする人はとても繊細な人が多いですね。ちょっとした言葉に傷ついたり、「自分はダメだ」と思いこんだりしてしまいます。ふだんから何事にも一生懸命と取り組んでいるので、少しでも「ダメサイン」が出ると、自分を許せなく […]

2023.08.28

保健室の先生(養護教諭)向け 不登校とリストカット勉強会レポート

令和5年6月24日(土)淀屋橋心理療法センターにて保健室の先生(養護教諭)を対象とした勉強会を開催しました。 勉強会前半 福田俊介による事例発表 勉強会では、不登校とリストカットの事例を発表しました。 不登校の事例ではど […]

2022.08.22

リストカットの意外な治し方

6月24日(金)に、 親御さんのためのリストカット治療説明会を開催しました。 リストカットは治るのでしょうか? リストカットの衝動は繰り返し起こることが多く、完治はなかなか難しいとされてきました。 治療を始めて、お子さん […]

記事一覧へ