リストカットを克服した女子中学生の事例(自傷行為)~パパ活とリストカットと退学と~

更新日:2025.12.08
リストカットを克服した女子中学生の事例(自傷行為)~パパ活とリストカットと退学と~

今回ご紹介するのは、リストカットを克服した中学2年生の花子さん(仮名)のお話です。

  • パパ活が学校側にバレたことで退学処分
  • リストカットのみならず、深夜徘徊、オーバードーズ(OD)する
  • 困り果てたご両親が淀屋橋心理療法センターでカウンセリングを開始
  • わずか3カ月でリストカットが止まり、急激に状態がよくなる

すべての症例が今回のように短期間で解決するわけではありませんが、本記事ではリストカットを短い期間で解決へ導くためのポイントを臨床心理士・福田俊介の解説を交えて、淀屋橋心理療法センタースタッフの徳島がお伝えします。

◆ 講師プロフィール ◆

カウンセラー

福田俊介(ふくだ しゅんすけ)

臨床心理士・公認心理師(国家資格) オレゴン大学卒業(University of Oregon Bachelor of Science) 自動車関連会社勤務後、兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 人間発達専攻 臨床心理学コース卒業 不登校過食症リストカット で高い治療成績を上げています。
大阪府公立学校スクールカウンセラー

リストカットにパパ活。花子さんはどんな子?:カウンセリング(リストカット)

リストカットにパパ活。花子さんはどんな子?

花子さんは14歳の中学2年生。
周囲にとっても気を遣う子で、友達の悪口は一切言いません。ネイルやファッションが好きでSNSにも詳しい、今どきの女の子です。

心のもやもや、空虚感:カウンセリング(リストカット)

心のもやもや、空虚感を埋めるべく手を染めてしまったパパ活が、通っていた私立中学校にバレてしまったことで、徐々に花子さんに暗い影が忍び寄ります。

SNSを通して知り合った成人男性と会っていた:カウンセリング(リストカット)

SNSを通して知り合った成人男性と会っていたことが通学していた私立中学校で広まってしまった花子さん。まもなく退学に追い込まれてしまいます。

そして花子さんは現在、公立の中学校に通っています。
習い事にも学校にも問題なく行けているものの、退学後からリストカットをする姿が見られるようになりました。

中学生といっても、まだ14年しか生きていない子供です。大人だって時には正しい判断に迷うことがあるのですから、パパ活をしてしまった花子さんを自業自得、と突き放すのはなんだか可哀相な気がします。

花子さんの中にある後悔や辛い気持ち:カウンセリング(リストカット)

花子さんの中にある後悔や辛い気持ち。これらの感情が処理しきれずぐちゃぐちゃに混ざり合った結果、彼女は自傷行為であるリストカットに傾倒していったのかもしれません。

カウンセリングを始めた理由:カウンセリング(リストカット)

カウンセリングを始めた理由

そんな花子さんと親御さんの仲はどうなのかというと、「コンビニのこのスイーツ、おいしいよね~」といった日常会話がお母さんお父さん双方とでき、関係は良好です。
しかし、

「なぜパパ活をしたの?」
「なぜリストカットをしたの?」

といった肝心なことには、貝のように口を閉ざしてしまいます。
花子さんのお母さんは、自身の母親とは激しい言い合いをして育ってきたため、本音を言おうとせず、肝心な話題からは避けようとする娘の花子さんのことが理解できずにいました。

臨床心理士:福田俊介臨床心理士:福田俊介からの一言
子ども時代に自分の母親と激しい言い合いをして育ってきたというお母さん。
相手の感情を高ぶらせて本音を引き出そうとする手法を無自覚に使っているかもしれません。
お母さんはその会話方法がご自身に合ったのでしょうが、おそらく、花子さんには合わないのでしょう。
たとえ親子でも、考え方やとらえ方は違います。
子どもは自分とは違う生きものなんだ、と再認識してみて。

リストカットの頻度は徐々に増えていく:カウンセリング(リストカット)

リストカットの頻度は徐々に増えていき、そんな花子さんとどう接したらよいのかわからなくなったご両親。
近所の他機関へ行ってみるもうまくいかず、悩んだ末に、ご両親で淀屋橋心理療法センターに来所されました。

カウンセリング1カ月目:花子さんに変化は見られず、トラブルも

花子さんに変化は見られず、トラブルも:カウンセリング(リストカット)

ご両親は2週間に1回の頻度で当センターに通い始めました。
親子の仲はいいものの、「整形したい」、「進学したくない」、など親が心配するような発言を連発する花子さん。
また、リストカットだけでなく、深夜徘徊にオーバードーズ(OD)とさまざまなトラブルが続き、当センターに通い始めたころのご両親は明らかに疲弊されていました。
カウンセラーは花子さんの性格を分析したうえで、どういったアプローチの仕方が花子さんにはいいのか、具体的にアドバイスしていきます。

さぁ、これから花子さんはどのように変化していくのでしょうか?

ご両親の対応の変化から、徐々に花子さんにも変化が...?:カウンセリング(リストカット)

カウンセリング2カ月目:ご両親の対応の変化から、徐々に花子さんにも変化が…?

お母さんが花子さんと話す話題としてもっとも多いのは、勉強の話。

花子さんが「勉強、いやだなぁ~」とつぶやくと、「今度の期末テストの勉強はどこまで進んでるの?」、「この前の英語のテストは何点だった?」と、お母さんは気になってたくさん質問してしまいます。

中学生ともなれば、高校進学も控えています。親としては勉強に関して言いたくなる気持ちもわかりますが「こういうときこそ雑談も大事にしてくださいね」と臨床心理士・福田俊介はお母さんに伝えました。

また、花子さんがお父さんにニュースの話題について語ったときのこと。
「それは違うよ」とお父さんは花子さんの間違いを指摘して「これはこうだからこういう意図があって~~~~…」と説明を始めました。お父さんは娘の意見を聞いてあげよう、というよりも、正しい情報を伝えたい!という気持ちが強いようです。
さて、花子さんの反応はというと…。

花子さんの反応はというと...。:カウンセリング(リストカット)

臨床心理士・福田俊介から一言臨床心理士:福田俊介からの一言
お父さんとお母さん、とても真面目な方なんですね。
お子さんに対して真面目に返しすぎです。お子さんの「〇〇がイヤだな」には「イヤだねぇ」と共感し
てあげてください。
また、お子さんが間違えたことを話していたとしても、即座に訂正せず、「そうなの〜」と聞いてあげるだけでもいいのです。
「子どもを賢くしなければ」、「いい知識を吸収させなければ」などと考えすぎず、子どもとの会話をもっと気楽にとらえてみましょう。

当初は花子さんが「……」となってしまう対応を繰り返していた真面目な親御さんだったのですが、一歩下がって二歩下がるを繰り返し、カウンセラーのアドバイスを着実に実践していきました。

すると、自分の人生に投げやりだった花子さんに徐々に変化が!

花子さんの変化①:リストカットが止まった

カウンセリングを始めて2カ月目以降、ご両親が心配していた花子さんのリストカットが止まったのです!不安げな表情やしぐさも減ってきて、情緒が安定してきました。

臨床心理士・福田俊介から一言臨床心理士:福田俊介からの一言
もともと楽しく日常会話ができるほど親子仲がよかったこともありますが、
なによりご両親がカウンセラーのアドバイスを素早く理解し、花子さんに合った対応を毎日コツコツと高い精度で積み重ねた結果だと私は分析しています。
子どもへの対応が中途半端だと、おそらくここまで早く成果は出なかったでしょう。

花子さんの変化②:体育祭のリーダーとして頑張った

珍しいことが起こりました。体育祭のリーダーに花子さんが立候補したのです。後輩たちの面倒をよく見ているようでした。そして、自分がどういったことを頑張っているのかをお母さんによく話してくれていました。

その際に、
「リーダー仲間が口ばっかりなんだよ。全然準備を手伝ってくれない」
「私だったらもっとこうするのに」
と、愚痴をこぼす一面も。

周囲に気を遣い、人の悪口を言わない花子さんが愚痴をこぼすのは、とても珍しいことでした。

臨床心理士・福田俊介から一言臨床心理士:福田俊介からの一言
カウンセリングを通して親御さんとお子さんの⻭車がかみ合ってくると、「実は私、あのときスイミングスクールを辞めるのがイヤだったんだよね」、「私、本当はあのときムカついたんだ」など、お子さんが今まで親御さんに打ち明けてこなかった自分の愚痴や本音をポロリとこぼす、といったことが増えてきます。
リストカットやパパ活など、親御さんが本当に聞きたい肝心な話には相変わらず口を閉ざしたままですが、花子さんが本音をこぼすようになったということは、とても大きな変化なんですよ。

体育祭で頑張る花子さん。「自分ならできる」と自信をにじませる場面が徐々に増えてきました。

花子さんがリストカットもしなくなり、学校行事も頑張るようになってきたと、カウンセリングで来所されたお母さんは嬉しそうにお話されていました。

さて、ひとつ問題が落ち着くと、ほかのことが気になってしまうものです。
お母さんが「あの子、勉強をまったくしないんですよねぇ」と、今度はリストカット以外の部分が気になってきたご様子。

さて、花子さんにお母さんの「勉強してほしい」という願いは伝わるのでしょうか?

花子さんの変化③:勉強を頑張るようになった

先ほどお母さんが悩まれていた勉強面。お母さんが当センターに通い始めた当初は「花子はどこの高校へ行きたい?」とお母さんが花子さんに聞いても、「私、勉強は頑張れない。通信制でもどこでもいい~」と話し、投げやりな態度でした。

しかし、リストカット・深夜徘徊が落ち着いたころ、なんと!「私、高校受験のために勉強頑張ろうかな」と発言し、ご両親を驚かせます。そして、自ら通っていた塾の自習室へ通うようになったのです。

「私、高校受験のために勉強頑張ろうかな」:カウンセリング(リストカット)

お母さんの願いを聞いた、というより、花子さんに体育祭のリーダー経験を通して自信がつき、さらにご両親の寄り添った対応が功をなし、「頑張ろう!」という気持ちが花子さんの中で自然と芽生えたのではないかと思います。

ご両親の寄り添った対応が功をなす:カウンセリング(リストカット)

カウンセリング3カ月目:花子さんが心を開くようになった

カウンセリング初期は不安定な様子だった花子さんですが、リストカットをする様子はまったく見られなくなりました。
勉強にも体育祭にも前向きに取り組んでいるようです。

また、カウンセリングを始めて3カ月目の終盤。
以前は2階の自室にこもりがちでしたが、ご両親としゃべるためにリビングに降りてくるようになりました。
先月のように学校や塾の愚痴を言うようになったほか、

「小さいころお母さんがよく作ってくれていたあのクッキー、食べたいな」
「お父さん、小学生のころ好きだったあの本、読んでほしい」
と、甘えるのが苦手だった花子さんが、ご両親に甘える姿も見られるようになってきました。

臨床心理士・福田俊介はご両親に言いました。
「いいですね。この調子で頑張りましょう!でも、調子が良くなってきているときこそ油断しないで同じ対応を続けてくださいね」

カウンセリングの終わりは突然に…

そんな花子さんの嬉しい変化の報告があった矢先、ご両親の来所はプツッと線が切れたようになくなってしまい、カウンセリングは約90日で唐突に終わってしまいました。

自傷行為がなくなり、勉強も頑張るようになったのだから、ご両親にとっての「問題」はなくなりました。だから、カウンセリングは終了でいいのでは? 

そう思われる方も多いと思います。
しかし、臨床心理士・福田俊介によると、人間の心の状態は下記の波線のように変化していくのだそうです。

人間の心の状態は下記の波線のように変化していくのだそうです:カウンセリング(リストカット)

良くなっては悪くなってを繰り返して、徐々に悪かった状態の底が上がっていくイメージです。

花子さんの状態は確かによくなってきていて、ご両親にも本音を少しずつ言えるようにはなってきていました。ですが、肝心なことにはまだ口を閉ざしたままでした。

もう少しだけカウンセリングを通して、花子さんがちゃんと自分の気持ちを言語化できるようになるまで成長していく様子を見届けたかった、というのがカウンセラーの正直な気持ちです。

お子さんはもしかしたら、ぐらぐらの本棚状態かも?:カウンセリング(リストカット)

お子さんはもしかしたら、ぐらぐらの本棚状態かも?

リーズナブルな大手家具店に、自分で組み立てる本棚が売っています。ネジを7割ほどしめて「もういいか」と完成させた本棚はどうなると思いますか?

本や雑貨を収納してどんどん負荷がかかってきたら…。ぐらぐらと不安定な状態になり、しまいには壊れてしまうでしょう。

察しのよい方ならお気づきかと思いますが、この本棚のお話は、まさしく問題を抱えているお子さんの状態に当てはまります。

お子さんの心を強く、しっかりと成長させきれなかった場合。

お子さんの心を強く、しっかりと成長させきれなかった場合:カウンセリング(リストカット)

心に負荷がかかった際に、このゆるいネジの本棚のようにゆらぎ、もろく崩れてしまうかもしれません。

今回の事例では、ご両親がお子さんに合った対応をいち早く身につけて実践されたことで、わずか3カ月という早さで花子さんのリストカットは止まり、勉強への意欲も増して、症状はみるみるよくなりました。 ただ、カウンセラーとしては花子さんの症状が安定するためにも、もう少し通ってほしかったというのが本音です。

お子さんをちょっとやそっとで崩れないような頑丈な本棚にしたい場合、良い兆候が現れてきたとしても、しばらくはぜひカウンセリングに通い続けてみてください。 「しっかりしたな」「安定したな」という手ごたえを感じたときが、本当のカウンセリングの卒業です。

*この記事は、当センターにご相談に来られた複数のケースを基にしていますが、個人が特定されないように書いております。

淀屋橋心理療法センター リストカットのページはこちら

リストカット(自傷行為)

淀屋橋心理療法センター リストカット治療説明会体験レポートのページはこちら

リストカット(自傷行為)・オーバードーズ治療説明会 体験レポート~治療のゴールは「リストカット・オーバードーズをしなくなること」ではない?~
               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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