「ゲーム依存症」講演会報告-カウンセリング・治療の現場から

「ゲーム依存症」講演会報告-カウンセリング・治療の現場から

淀屋橋心理療法センターでは、2023年11月25日に大阪市立大宮小学校で講演会「ゲーム依存治療の現場から」を開催しました。参観日の昼休みに行われ、約40名の父兄にご参加いただきました。

この記事では、講演会から、ゲーム依存症の回復ケースや所長のQ&Aコーナーなどをご紹介します。ゲーム依存症をこじらせないために何ができるのでしょうか?こじらせたらどう対応するか?ご一緒に考えていきましょう。

ゲーム依存症・ネット依存症とは

講演者 淀屋橋心理療法センター 臨床心理士  福田 俊介(ふくだ しゅんすけ)

まず、臨床心理士の福田俊介がそもそもゲーム依存症とはどういうものなのかご説明しました。

ゲーム依存症の正確な患者数は不明ですが、厚生労働省の調査によると、中高生の「ネット依存症」が疑われる人の数は、2012年に52万人だったのが、2017年は93万人と、増加傾向にあります。「ネット依存」者の多くがゲーム依存でもあると推測されています。

※ 一般的には「ゲーム依存」や「ゲーム依存症」と言われていますが、正式な病名は「ゲーム障害」です。

世界保健機関(WHO)は2019年、ゲーム障害を新たな病気として「国際疾病分類」(ICD-11)に記載しました。

ゲーム依存症の診断基準

WHO(世界保健機構)が定めたゲーム障害の診断基準があります。

「ゲーム障害」診断基準(ICD-11)

☑ ゲームをする頻度や時間を自分でコントロールする事ができない。

☑ ゲームをする事が最優先になり、他の事に関心が無くなる。

☑ 問題が起きているにもかかわらず、ゲームを続ける。または、エスカレートする。

☑ 日常生活(人間関係・家庭・学校・仕事)に支障が出ているほどの重症度である。

(出典:WHO)

以上の4つ全てが1年以上続く場合、ゲーム障害と診断される可能性があります。

グループディスカッション

そもそもゲーム依存症がどういうものかご説明した後は、3人ずつグループになって頂き、ゲームをなかなか止めないお子さんに対して各ご家庭でどのような対応をとられているか話し合っていただきました。まずは親御さん同士の自己紹介から始めていただくと、明るい雰囲気でグループディスカッションが盛り上がりました。

一般的なゲーム依存症のお子さんへの対応

① ゲームをする時間などについてルールを作る

② ゲーム機やスマホを取り上げる

ディスカッションの内容を聞いていると、やはり、最も一般的な対処方法は、ゲームをする時間や時間帯、場所などについてルールを作ることです。ルールを作る際は、親が一方的に決めず、親子で十分に話し合う必要があります。また、話し合うタイミングも重要です。お子さんが親の話をきちんと聞ける状態になっている必要があります。

強制的にゲームを取り上げることもしばしば行われますが、強引な対応すると余計にこじれたり、暴力に発展する場合もあるので注意が必要です。

以上の対応は、ゲーム依存症が軽症の場合は有効ですが、重症の場合は解決につながらない可能性が高くなります。

親が一方的に決めず、親子で十分に話し合う

ゲーム依存症のカウンセリングケース紹介【臨床心理士より】

ゲームでイライラすると暴言や暴力を振るう中学生男子

ショウゴ君(仮名)は、元々は優しくて親と良く会話する子でしたが、ゲームに没頭するに従い、次第に口数が減り、会話が無くなってしまいました。そのかわりに「お前のせいでゲームに負けたんや!」「今すぐコーラ買ってこい!」などと母に対して暴言や要求ばかりになってしまいました。

そしてある時期から、ゲームで負けたりガチャで欲しいアイテムが出なかったりすると、大声で叫んだり物を投げつけたりする事が始まり、遂には親を殴るまでになりました。そして、中学2年生の時から不登校になりました。

ショウゴ君のお母さんが疲れ切った様子で来所されました。腕には目立つアザがあります。お母さんは「ショウゴが暴れるから、胸がドキドキして、夜、寝れないので、精神安定剤を飲んでいます」と肩を落とされていました。

カウンセリングを始めて4ヶ月後、紆余曲折はありましたが、ショウゴ君の暴言や暴力は完全に無くなりました。ゲームも適度な時間で切り上げる事ができるようになりました。そして、暴力が完全に止まってから2ヶ月後、中学校に再登校を開始しました。

重症化を防ぐポイント

親子のコミュニケーション、特に雑談を大事にする

当センターの臨床経験では、親子の雑談の少ない家庭ほどゲーム依存症が重症化しやすい傾向があります。「お子さんの口数が減っている」「会話の内容が用事ばかり」、「話題が減っている」場合は注意が必要です。
親子のコミュニケーションを増やすテクニックは細かいものを含めると色々ありますが、特に効果的なものを3つご紹介しました。

親子の雑談が十分に出来ている場合は重症化しにくいので、引き続き雑談を大事にしましょう。親子でしっかりと話し合ってゲームについてルール作りをするのが有効なのは、まだ重症化していないケースです。重症化した場合は専門家に相談されることをお勧めします。

親子の雑談の少ない家庭ほどゲーム依存症が重症化しやすい

ゲーム依存症についてのQ&A 【医師】

回答者 淀屋橋心理療法センター 所長・精神科医 福田 俊一(ふくだ しゅんいち)

質問:子どものゲームの話しが多い

Q. 子どもが家で2時間位、ずっとゲームをしています。普段、ゲームの話が多いので心配しています。

A. 会話がゲームの話題ばかりだと視野が狭くなるかもしれませんが、それ以外の話題もあるのならそれほど心配ないと思います。2時間ゲームを続けられるというのは、ある意味では「集中力がある」とも言えますので、その集中力をどう磨くかが、親御さんの腕の見せ所です。

親がスマホを触る姿は、子どもに悪影響ですか?

Q. 自分は、子どもの前で寝転んで長時間スマホを触っている事が多いのです。仕事のやりとりをしていてゲームをしているわけではないのですが、子どもに悪い影響を与えないか、心配です。

A. 特に問題は無いと思います。それを心配するよりも、お子さんと会話する機会を大切にしてください。お子さんが話しやすい時間はいつか。上手にコミュニケーションが取れる時間はいつか。そのゴールデンタイムを見つけて、コミュニケーションを増やす事が重要だと思います。

皆様の感想

・ケース紹介がとても参考になりました。事例に父親があまり登場しなかったので、父親の人柄や、子どもにどのように対応していたのか、知りたいと思いました。

・時間が短かった。もっとお話を伺いたかったです。

・親子のコミニケションを増やすテクニックの中でも、あえて知らないふりをするというのは家に帰ってぜひやってみようと思いました。

講演会を振り返って

いつも講演会では、参加してくださった皆様に、できるだけ沢山のものを持って帰って頂きたいと思っております。そのため、柔らかい空気作り、参加者の皆様が発言しやすい雰囲気を作ることを心がけています。

実際そうなるか少し不安でしたが、グループディスカッションは大いに盛り上がってくれました。後半のQ&Aのコーナーでも、皆さん積極的に質問してくださいました。質問しやすい空気が出来上がっていました。

今回の反省点ですが、参加者の方から「事例に父親があまり登場しない」というご指摘を受けました。早速、資料に父親に関する情報を追加させて頂きました。次の講演会に活かしたいと思います。非常に鋭い指摘をいただき、感謝しています。

講演会でお話しさせていただくことは、我々にとって、とても良い刺激となっております。このような機会を与えていただいた大宮小学校の先生方、本当にありがとうございました。

(臨床心理士 福田俊介)

2024.03.07  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》公認心理師 益子玄一郎

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

シリーズ記事

シリーズ記事は見つかりませんでした。

関連記事

2021.11.25

親御さんが、お子さんの不登校をピンチからチャンスに変える!

― 不登校を乗り越えるための親御さん向け勉強会を開催しました - 11月5日(金)に、不登校を乗り越えるための親御さん向け勉強会を開催しました。 プログラム はじめに 所長 福田俊一(医師) ・不登校と発達障害 ・不登校 […]

2022.07.04

ゲームをうまく利用した、ゲーム依存症の治し方

— 視点を変えることでお子さんは成長できます ― 5月27日(金)に、 ゲーム依存でお困りの親御さんへの勉強会を開催しました。 今や一般的に知られるようになった“ゲーム依存”は、 2019年、WHO(世界保健機関)により […]

2022.05.26

ゲーム依存の子供たち
何かに執着することは病気ですか?

~3月25日(金)ひきこもり・ゲーム依存を乗り越えるための親御さん向け勉強会~ 医師・福田俊一が伝えたいこと はじめに… 今回の勉強会で私が強く感じた、医師である所長・福田が一番伝えたいこととはなにか。 ここ […]

記事一覧へ