摂食障害になったのは頑張り屋の優しい女の子でした3【過食症 克服】

前回までのあらすじ

「痩せていない自分は存在する価値がない」と自分を追い込み、自信が持てない奈々子さんでしたが、
勇気を振り絞って行動した数々の出来事により、少しずつ気持ちが強くなってゆくのを感じました。
また、難しいとされる「社内昇進試験」に見事合格した奈々子さん。
同僚たちに祝福され、人の優しさに触れることの心地よさを感じます。
嫌な上司と我儘な後輩に板挟みにされ、「嫌だ嫌だ」と苦しんでいた仕事の環境は、
徐々に居心地の良いものに変化していきました。

様々なことが良い方向に進んでいるという喜びを感じるその一方で…
なぜか奈々子さんの過食の回数が、ふたたびドカンと増えはじめてしまいます。

「理由のわからない過食」だと奈々子さんは苦しみますが、
どうやらその背景には親友“ともちん”に対するわだかまりが関係しているようです。

前回のお話はこちら→

お休みの日
奈々子さんは、お母さんと一緒にお洒落なレストランへ出かけました。
扉を開けると小さな鈴がチリンと鳴り、近くに座っていた若いお客さん達や店員さんが振り向きます。
みんなに注目され、奈々子さんの顔が一瞬で熱くなりました。

(私、今日着てきた服、変じゃないかな)
(この年でお母さんと二人で出かけているなんて、友達いないやつだと思われてる?)

みんなの視線から逃げるように足早に歩き、案内された席に着きました。
しばらくすると、まつ毛の長い店員さんがやってきて、自信たっぷりな笑顔で奈々子さんに笑いかけます。

「本日のランチ、よろしければデザートもお付けしませんか?
季節のフルーツを使ったケーキ、とってもお美味しいですよ!」

店員さんから差し出されたメニュー表をしばらくじっと見つめた奈々子さんは、

「すみません・・・。
私、お料理だけでお腹いっぱいになると思うので、今回ケーキは結構です」

と、きっぱり断ることができました。

以前の奈々子さんでしたら

「断ったら店員さんに申し訳ないし…」

という理由で、仕方なく注文していたことでしょう。ケーキを食べる気が全くなくても、です。

他の人にしてみたら「どうしてそんなことも言えないの?」
と思われてしまうような小さな出来事ですが、奈々子さんにとって「NO」と伝える事は 大きな大きな一歩なのです。

そんなことが最近は、自然にすんなり出来るようになっているのでした。

今のままで、なんとかなるかな?

今のままで、なんとかなるかな?

「お母さん、私やっぱり太ったよね?」
「見た感じはあまり変わらないと思うけど…」

「うそだ!私の足、太くなったと思わない?」

「えー、そうかしら…」

以前から奈々子さんは、こんな質問をお母さんに繰り返していました。
一時期は少なくなったものの、最近はまた、質問攻めをすることが増えました。

連日やめられなくなっている過食の影響をひどく気にしているのです。

「お母さんは、一週間前の私と今の私なら、どちらが太って見える?」

「うーーん、うーーん。そうねぇ…」

お母さんはとうとう返す返事に困ってしまいました。

すると奈々子さんは、お母さんの返事を待たずにサラッとこんなことを口にしました。

「あ、話変わるけど…そういえば私、部署異動願いを出していたでしょ? あれ、ダメだったの」

奈々子さんは少し前、勤めている会社で部署異動願いの届けを出しており、 嫌な上司や、我儘でズルい後輩リカさんがいる今の部署から離れようと思っていました。

奈々子さんは、毎晩お母さんに面接官との受け答えの練習を付き合ってもらい、 気合いを入れて面接に挑んだのです。

…しかし今期の人事異動の発表では、奈々子さんの名前は挙げられませんでした。

「あら…。残念だったわね。たくさん面接の練習したのに…」

お母さんは心配そうに奈々子さんの様子をうかがいました。

しかし、そんなお母さんの心配をよそに、意外にも奈々子さんはケロッとしています。

「でも私、全然落ち込んでないの。
今は前に比べて、部署異動したいって思っていないから」

「本当?どうして?」

お母さんはびっくりした顔で、聞きました。
奈々子さんが長い間、今いる部署でストレスを貯めて悩んでいた事を、よく知っていたからです。

「まぁ、今の部署のままでも、なんとかなるかなって」

奈々子さんは笑いながらそう答えました。

「それに…」

「同じ部署の同僚が、‘奈々子さんが異動しなくて良かった’って言ってくれたの」

とも言いました。

「奈々子さんがいると楽しいし、安心して仕事ができるよ…って。
私、こう見えてみんなから嫌われていないみたい!味方をしてくれる人もいるし」

少し照れながらも、奈々子さんは嬉しそうです。

ここ最近の奈々子さんは、仕事の話で不機嫌になることが減り、笑っていることが多くなりました。

お母さんは、奈々子さんの楽しそうな笑顔を見ると
「痩せなきゃ痩せなきゃ」と自分を追いつめ苦しんでいる事が噓のようだと感じます。

お母さんは、引いては押し寄せる波のように不安定に襲いかかる奈々子さんの過食を何度も目の当たりにしては、胸をキリキリと痛めていました。
その波は、奈々子さんを強くしたり弱くしたりもするのでした。

奈々子さん、ついに本音をぶちかます!

今のままで、なんとかなるかな?

「最近はどんなことがありましたか?」

カウンセラーが尋ねると、
奈々子さんは改めて、最近あった出来事を振り返ってみました。

「最近は、自分の意見をちゃんと言えるようになってきました。
前は気を遣って我慢してばかりだったのに、今は違います。スッキリしています」

「職場の同僚達の思いやりをたくさん感じています。私は人に頼ることが苦手だったけれど、
今は素直に頼れていると思います」

「お母さんと毎晩するお喋りが楽しいです。
部署異動の面接の練習を一緒にしたときは、お母さんの面接官の物マネが面白くて何度も笑いました」

奈々子さんは楽しそうに、嬉しそうに話しました。

そして…
「この間久しぶりに、親友のともちんに会えましたし…」

ともちんのことを口に出した瞬間、奈々子さんは言葉を詰まらせました。
終わりかけた砂時計のように、笑顔がスーッと消えていきます。

一緒に遊んだあの日、
「ごめーん!友達に呼ばれちゃったから先に帰るね!」
と、奈々子さんではなく別の友達を優先し、足早に去っていくともちんの後ろ姿を思い出しました。

奈々子さんは胸の奥がギュッと苦しくなります。

私がなにより大事だと思うことは「思いやりを持つ」こと。
ともちんに優しくしたいし、不機嫌な顔を見せたくない。
それは我慢してるわけじゃなくて、ともちんに嫌な思いをさせたくないから。
なのに、どうしてともちんは、私に思いやりをくれないのかな。

***

「ともちんのことが、ストレスになっていませんか?」

カウンセラーからの問いかけに、奈々子さんは自信がない様子で「いいえ…」と答えました。

「ともちんには他に友達がたくさんいるのに、私なんかとも一緒にいてくれる。
ともちんが親友じゃなくなったら、私は友達が一人もいなくなってしまう」

奈々子さんの表情は曇っています。

「今までずっと、好きなアーティストのライブには、ともちんが連れて行ってくれたんです。
まぁ、チケットを用意するのはいつも私でしたけど」

「私は一人だと、どこにも行けないんです」

ともちんと一緒に過ごしてきた年数や、たくさんの楽しい出来事、ともちんが奈々子さんに与えてくれる明るさなどは、確かに実在します。

しかしその一方で、無責任な約束や心無い言葉で、奈々子さんを悲しませていることも事実です。

奈々子さんは、その悲しみに蓋をして自分はともちんの「親友」なんだと必死に思い込みました。

***

別の日。
カウンセラーはこんな提案をしました。

「奈々子さん、今からともちんに手紙を書いてみませんか?
ともちんに感謝していることでもいいし、ともちんにお願いしたいことでもいい。
愚痴なんかでもいいですよ!」

カウンセラーは紙を用意し、奈々子さんの机に置きました。

「えぇ!ともちんに手紙を…?書けるかなぁ」

奈々子さんは困った顔をして、机に置かれた紙をしばらく見つめました。

「奈々子さんが思っていること、この際どんどんぶつけてみましょう!」

「どうせ、出さない手紙ですよ!」

カウンセラーはニコッと笑って、部屋から出ていきました。

一人になった部屋で、奈々子さんは戸惑いながら鉛筆を手に取りました。

初めは何も書けずに手が止まったままでしたが、やがて、いつもの丁寧できれいな字で、 少しずつ文字を書き始めました。

「ともちん、私なんかと親友でいてくれてありがとう」
「ともちんは明るくて面白くて、友達がたくさんいて羨ましいな」
「ともちんといると楽しいよ・・・

***

気が付けば、奈々子さんの頭の中はともちんのことだらけになっていました。

ともちんとの様々な出来事や、今まで感じ続けてきた気持ちを、ゆっくりゆっくりおさらいしている感覚です。

十分後、
「できましたか?」というカウンセラーからの問いかけで、奈々子さんはハッと我に返りました。

きっとなんにも書けないかも…と思っていたともちんへの手紙でしたが、全くそんなことはありませんでした。

カウンセラーから渡されたA4サイズの白い紙は、ともちんに対する本音で半分以上埋まっていました

「・・・だけど、ともちん。もう少し私の気持ち考えてくれないの?

「いつもともちんは別の友だちを優先する。私は何なの?都合のいい友達?

「私は毎年ともちんにお誕生日おめでとうってLINE送るけど、
ともちんはいつも忘れてるよね」

「ともちんは自分の彼氏ののろけ話や愚痴は散々LINEしてくるくせに、
私の話は既読スルー。ぜんぜん聞いてくれようとしない!」

「ずっとLINEの返信がなかったから、心配になって‘忙しい?’と送ってみたら、
いや暇だよ〜’…って返ってきた。
時間あるなら返事すぐに送ってこい!!」

奈々子さんの感情は、感謝から怒りに変化していきました。
そしてその感情は驚くほど溢れ出して止まりません。

自分でも意外すぎるほど、思ってもみないようなキツイ言葉が思い浮かぶのです。

どうしてこんなにスッキリするのかな?

私、ともちんのこと親友だと思っていたはずなのに。

不思議な気分でした。

全てを吐き出した奈々子さんはその後、自分の意志で何かを変えることができたのでしょうか。
ともちんとのつきあい方に変化はあったのでしょうか。

***

季節は過ぎ、奈々子さんの職場は年末の締めの作業に追われていました。
どの机の上にも膨大な紙の束が積まれ、ひっきりなしに電話が鳴っています。
例の上司は、いつも以上にピリピリイライラし、奈々子さんに「早くしろ早くしろ」と催促します。

師走、ということで職場はみんな大忙しです。


部署の同僚は年末ハワイ旅行に行くそうで、
「この仕事、なんとしてでも年内に終わらせて、スッキリした気持ちで日本を飛び出してやる!」
と意気込んでいます。 その様子が微笑ましく、奈々子さんはクスクスと笑いながら、「ハワイ、いいなぁ」と言いました。

すると同僚は奈々子さんに、。

「奈々子さんは、年末年始は何かするの?」と尋ねました。

近くにいた他の同僚が話に加わり、

「奈々子さん、確か年末は親友とライブに行くって言ってませんでしたか?」

と・・・。

そうです。
年末、奈々子さんはともちんと一緒にaikoのライブに行く予定でした。


しかし、
奈々子さんが同僚に返した答えは、意外にもこんな言葉だったのです。

「今年はaikoの年末ライブに行く予定!
初めて、お一人様で参戦するから楽しみなんです!」

奈々子さんは少し得意げに、清々しく笑いました。

「奈々子さん、一人でライブに行くの?親友と一緒じゃないの?」

同僚は、不思議そうな顔をします。

「親友はね、もういいんです。今回は一人に挑戦してみようと思って!」

***

年末、寒さがより一層増してきました。

奈々子さんは自分の部屋の窓を少し開け、ちらちらと雪が降っているのを眺めます。
そして外の様子を確かめるように、大きく息を吸い込みました。
すると冷たくて気持ち良い空気が、奈々子さんの体の中に入ってきました。

年末の最終出勤日、退勤時間ギリギリに、奈々子さんは上司に「じゃあ、これヨロシク!」 と大量の仕事を押し付けられたことを思い出していました。
「さぁ、飲みに行くぞ♪」と言い、当たり前のように帰る準備を始めた上司に向かって、
奈々子さんは丁寧に仕事を突っ返したのです。

「ごめんなさい。私の仕事はもう済んでいるので帰ります。
今年は大変お世話になりました!」

奈々子さんはにっこり笑いながら、カバンを肩に掛けて立ち去りました。
その時の上司の戸惑った顔を思い出しては、胸がスカッとします。

そして、ともちんに送った最後のLINEのことも思い出しました。

「奈々子、aikoのライブチケット、私の分の用意もお願いね~♡」

ともちんは、今回も当たり前のように、奈々子さんにチケットを取らせようとしました。

奈々子さんは「うん。わかったよ!」と打った文字をしばらく見つめてから、パチパチとそれを消去していきました。
そして、新しい文字を打ち込むと、勇気を込めて「送信」ボタンを押しました。

「ともちん、チケットを取るのっていつも大変なんだよ。
私、ともちんの便利屋さんじゃないよ」

・・それきり、ともちんからの返信はありません。

奈々子さんは、それ以上のLINEは送らずに、ともちんと少し距離を置く事に決めました。

もちろん自分が一人ぼっちになってしまう不安もあったのですが、

しかし奈々子さんは、それで良いと思ったのです。

今年も色々あったし、過食もまだ完全には治っていません。
だけど、ともちんとの関係を見直してから過食はあきらかに減っていきました。

なかなか良い一年だった。
自分の気持ちを大切にできた一年だった。

奈々子さんは、一人分のライブチケットを大事にバッグの中に大切にしまい、玄関から大きく声を出しました。

「お母さん、私行ってくるね!」

奈々子さんは新しく買ったレモン色のコートを羽織り、おしゃれして出かけて行きました。

END

***

【・・・epilogue・・・】

「奈々ちゃん、この小鳥の絵、色遣いが可愛いね!」
「そうかな?まだまだへたっぴだよ~」
奈々子さんは最近通いはじめた絵画教室で隣の席の女の子と意気投合しました。
そして教室が終わると、カフェで夜な夜なお互いの絵や趣味のことを語り合うことが日課となりました。

奈々子さんは以前のように「これを言ったら嫌われないかな」「変じゃないかな」と不安になりながら話してはいません。

「あれ?こんなに長時間人と話していたのに、私、全然疲れてない」
…と奈々子さんが自分で気づくのは、もう少しです。

その半年後、奈々子さんの過食は完全に治まりました。

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2021.08.31  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊介
構成:湯浅愛美

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