パニック障害とは?

パニック障害とは

パニック障害とは

予想外の出来事やショッキングなことが起きたときに、パニックに陥ることはよくあります。これは正常な心の動きのひとつであり、病的なものではありません。

しかし、このパニック状態が「何の理由もなく」「何の前触れもなく」起きることがあります。そして、この症状によって日常生活に極度な不安を感じるようになったり、日常生活に支障が出たりする状態になることもあります。このような状態にある場合は、「パニック障害である」と診断されます。

パニック障害を患う人の数は、それほど少なくはありません。170人に1人~110人に1人が、生涯に1度はこのパニック障害に陥ると言われています(※「170人に1人~110人に1人程度の人が、一生に1度はパニック発作が出る。しかしそれが継続的に続き、「パニック障害」の段階にいたる人はそのうちの3分の1~4分の1程度だ」 とする説もあります)。

パニック障害は、20代~30代に多くみられます。また、患者の男女比率は、男性が1であるのに対して、女性は2~3程度であると考えられています。

パニック障害の症状

パニック障害の症状は、「身体症状」と「精神症状」の2つがあります。それらの詳細を以下に説明します。

身体症状

パニック障害の最大の特徴の1つとして、「パニック発作を繰り返すこと」があります。パニック発作の身体症状としては、「息苦しい」「激しい動悸」「めまい」などが挙げられます。これらは何の前触れもなく、突然襲い掛かってくることがめずらしくありません。

精神症状

パニック障害の精神面における特徴として、「『またパニック障害が起きるのではないか』と不安になってしまう、それが原因でさらにパニック症状が起きやすくなる」というものが挙げられます。

上記でお話ししたように、パニック発作を起こすと急激な身体症状が出ます。「息ができない」「激しい動悸に見舞われる」などは、文字通り「生命の危機」に直結するものですから、これが出た人は非常に大きな恐怖に襲われます。

身体症状が起きたことがきっかけで精神的な恐怖感を抱くようになるのですが、たとえパニック発作自体は収まっても、この「予期不安」が残るケースもあります。

パニック障害の具体的な症状例

パニック障害を患うと、前触れなく、息苦しさや激しい動悸、めまいなどが生じます。また、異常に汗をかいたり、吐き気がしたり、本来は出ないはずの寒気が感じられたりすることもあるでしょう。場合によっては、立っていることも困難になり、座り込んでしまうことすらあります。

パニック障害による身体的な症状は、多くの場合、比較的短い時間(長くても20分程度)で収まります。また、パニック障害の発作は個々人でやや違いがみられますが、1人の人をずっと追っていくと、ある程度系統だったかたちで起きることが多いと指摘されています。

例えば、動悸を伴う重い病気として「脳梗塞」などが挙げられますが、パニック障害の場合はどれほどひどい身体的症状が起きたとしても、これ自体を原因として命を落とすことはありません。また、上記でも述べたように、それほど長く続く発作ではないため、「動悸が激しくなったり、めまいがしたり、息苦しくなったりして病院に行った(あるいは救急車を呼んだ)」という場合でも、病院に着くまでに発作が収まっていることも少なくないのです。

一方、精神的な症状についても具体的に見ていきましょう。前にも少し触れましたが、パニック障害の非常にやっかいなところは、「精神的な負担が、後にも残る可能性がある」ということです。パニック発作は、いつ・どこで・どのように起こるかわからないものです。そのため、「いつかパニック発作が起きるのではないか」と不安になるあまり、外出することにためらいを感じたり、助けが得られない状況(車に乗るなど)を避けたりすることもあります。これがさらに悪化すると、学校や職場といった社会生活を営む場所にすら足を運べなくなってしまうのです。

また、パニック障害が原因となり、ほかの不調を招くこともあります。そのひとつが「広場恐怖」です。広場恐怖とは、「すぐに逃げられない場所に対して、恐怖心を抱く状態」をいいます。なお「広場」とされていますが、実際には「広い場所」だけではなく、高速道路上やエレベーターなどの場所も対象となります。

具体的には、高速道路でドライブ中に発作が起きたことが原因となって高速道路での移動が怖くなったり、ショッピングモールで発作が起きたときに周囲の人からじろじろ見られたことが原因となって、ショッピングモールに恐怖感を抱いたりするようになります。

さらに、「予期不安」がとても顕著なかたちで残ることもあります。予期不安がひどくなると、「発作がいつ起こるかわからない」という恐怖感から、学校や職場などに行けなくなり、比較的安全であると考えられる自宅に引きこもりがちになってしまうこともよくあります。

加えて、「病院に行くころには収まっている」「命にかかわるものではない」ということから、発作が起きたときの苦しさを周りの人に理解してもらえない場合も少なくありません。「嘘つき」「構ってほしいからとあんなことを言っている」「仮病」となじられて人間関係が悪化し、ますます外に出るのが怖くなるケースもみられます。

パニック障害の恐ろしさは、身体症状そのものだけにあるわけではありません。身体症状から引き起こされる精神的な不安や周りからの心ない評価によって、日常生活が営めなくなることもまた、パニック障害の人が抱える大きな問題なのです。

パニック障害の原因

パニック障害の原因

パニック障害の原因自体は、まだすべてが解明されているとはいえません。ただ、「このようなことが原因ではないか」と考えられているものはあります。

それが、
1.脳内の神経伝達物質のバランスの乱れ
2.遺伝要因と環境要因
3.脳に強烈に記憶された不安
です。

以下に、それぞれの原因を詳しく見ていきましょう。

脳内の神経伝達物質のバランスの乱れ

パニック障害は、人間の中に存在する脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることによって起こるのではないかとする見方があります。そのなかでも、情報をコントロールする「幸せホルモン」呼ばれるセロトニンと、不安感を引き立たせるノンアルドレナリンが、パニック障害に深く関わっているのではないかと示唆されているのです。この考え方が、現在は主流になっていると言われています。

遺伝的要因と環境的要因

「パニック障害は、遺伝的要因や環境的要因が絡んでくる」とみる考え方もあります。例えば、親がパニック障害を患っている場合は、子どももまたパニック障害を患う可能性が高いとされているのです。家族のだれかがパニック障害をり患している場合、だれもり患していない場合に比べて、パニック障害に悩まされる確率は5倍ほどにもなるとされています。また、一卵双生児の片方がパニック障害であった場合、もう片方もパニック障害を患う確率は実に34%にもなると言われているのです。

さらに、子どものころに虐待を受けていたり、強いストレスにさらされていたりした場合も、パニック障害を患う可能性が高いとされています。

脳に強烈に記憶された不安

一度経験したすごい不安や心身の不調が脳に強く記憶され、いつまたそのような不安に陥るのではないかという予期不安と不安の起こりやすい状況(たとえば地下鉄の中、ひとごみ)が結びついたとき、心と体の変調が現れるのです。

パニック障害の治療法と対処法について

パニック障害の治療法と対処法について

さて、このような多くの難しさを持つ「パニック障害」ですが、パニック障害は決して「対応できない病気」ではありません。実は、パニック障害は年を重ねるごとに症状が改善していくことが多く、65歳以上になるとパニック障害に悩まされている人の割合は、1%以下にまでなるとされています。

また、積極的に治療を行った場合、治療後6年~10年が経過するころには3分の1程度が完治し、半分近くは症状が軽くなっているのです。一方、「治療をしても治らなかった」「悪化した」という人は、全体の4分の1程度だと考えられています。

パニック障害の治療

パニック障害の治療方法は、
・薬物療法
・精神療法
の2つに大きく分けることができます。

薬物療法

パニック障害の治療によく使われるのは、「SSRI“Selective Serotonin Reuptake Inhibitor”」です。SSRIは、日本語では「選択式セロトニン再取り込み阻害薬」と呼ばれます。

パニック障害の原因のひとつとして、「セロトニンなどの脳内伝達物質が関わっていること」は、すでに述べた通りです。人の心に安定感をもたらすセロトニンが足りなくなると、人間の心は不安定になり、パニック障害の症状も出やすくなります。

パニック障害を患っている人はそもそもセロトニンの量が少ないことが多いうえに、セロトニンが出てきたとしても、しばらくするとセロトニンは取り込まれて消えてしまいます。このような状態になると、症状はますます悪化します。

しかしSSRIを使うことで、この「セロトニンが取り込まれて消えてしまうこと」を防ぐことができるようになります。結果として、セロトニンがよく溜まった状態を作ることができるようになり、パニック障害が改善していくのです。

ちなみにこのSSRIはうつ病の薬としてよく知られていますが、うつ病によく使われる抗不安剤もまた、パニック障害を克服するための選択肢となり得ます。

抗不安薬(マイナートランキライザー)も即効性があり、大変症状を和らげるのに効果があります。ただ、軽度の依存性があります。心理療法と合わせて使えれば、依存状態にはなりにくくなります。

精神療法

パニック障害の克服には、「精神療法」も重要です。例えば、不安になる原因を突き止め、段階的にその原因に触れていくことで恐怖心を克服していく方法(「暴露療法」)や、ものの考え方に対してアプローチしていく方法(認知行動療法)」を通して、徐々にパニック障害を乗り越えていくことを目指します。

効果を上げるには、パニック障害の治療経験豊富なカウンセラーにつくことが大切です。

治療中の注意点

治療中の注意点

パニック障害には薬物療法と精神療法が効果的ですが、それ以外にも注目しなければならないものがあります。それが、「周囲の対応」と「生活スタイル」です。

家族や周囲の人の対処法

パニック障害に限った話ではありませんが、病気の克服には家族の理解が非常に重要です。パニック障害の場合は、「発作の期間が短い」「命に関わるものではない」ということから理解が得られにくいという特徴があります。周りの人間が、パニック障害に悩む人がまるでうそをついているように扱ってしまうと、パニック障害を抱える人は非常に生きづらくなります。

そのため、まずは「パニック障害という病気があること」「パニック障害の特徴」を理解しましょう。また、発作が起きているときには「大丈夫だよ」などという安心できる声掛けを行い、不安を和らげるようにしてあげてください。

なお、パニック障害が悪化すると、患っている人1人だけでは日常生活を営むことが難しくなるケースもあるでしょう。その際に、「大切な家族(友人)だから」とサポートするのはよいのですが、1人だけで当事者を支えようとするのは非常に大変です。場合によっては、サポートしている人の方が精神的な疲労を抱えてしまうことすらあります。

このような事態を防ぐために、サポートする側も1人だけで抱え込もうとせず、医療機関の手などを借りるようにしてください。

規則正しい生活を心がける

パニック障害に陥った場合、生活パターンが乱れがちになります。しかし、生活パターンの乱れは、パニック発作を引き起こす原因となり得ます。そのため、「決まった時間に寝て、決まった時間に食事をとって、決まった時間に眠る」という生活を意識して送るようにしましょう。

また、軽度な運動を行うこともおすすめです。運動はストレス解消法として有効ですし、眠りにつきやすくさせる効果もあります。

喫煙や飲酒はやめましょうとアドバイスする専門家もいます。「煙草を吸わないとストレスがたまる」「アルコールを飲むことでストレスが解消される」と考える人もいるかもしれませんが、これらの効果は限定的かつ一時的なものです。これらを常用することで、逆により強い不安感に襲われる可能性もあります。また、すでに薬を飲んでいる場合は、薬の効き目を阻害してしまうことすらあるので注意が必要です。

なお、カフェインに関しては「摂取してはダメ」と言うわけではありませんが、「悪化させる原因のうちのひとつではないか」との考えもあります。

パニック障害の対処方法

パニック発作が起きた場合は、まずは楽な姿勢になるようにしてください。パニック発作が起きると息苦しさを感じることが多いので、これを解消するために息がしやすい姿勢(椅子に座り、心持ち前かがみになるなど)をとるようにするのです。そのうえで、ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと息を吐くようにします。

発作を軽減する薬が処方されているのであれば、それを飲むようにしてください。ただし薬の服用方法や回数、量は、必ず医師の指導に従います。「効かないから」と勝手に量を増やしてはいけませんし、自己判断で断薬するのも危険です。

まとめ

パニック障害は、悩ましい病気であることは確かです。しかし、克服できない病気ではありませんし、対応方法がない病気でもありません。その性質や原因、治療方法や対処方法を学ぶことで、向き合うことのできる病気だと言えるでしょう。

2022.09.14  

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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