摂食障害(拒食症・過食症)とは

摂食障害(拒食症・過食症)とは

摂食障害(拒食症・過食症)とは

食事行動を中心に、様々な問題が生じることで知られる摂食障害。現在の日本では、約1,000人に1人の割合で有病率が報告されており、誰でも陥る可能性のある身近な疾患だと言われています。特に、若い女性の有病率が高い点が特徴ですが、適切な治療を行えば緩和、回復、完治が期待できる精神疾患です。この記事では、摂食障害について詳しく解説します。

摂食障害の種類とは

摂食障害は、主に「神経性過食症(過食症)」と「神経性食欲不振症(拒食症)」の2つに分けることが出来ます。神経性過食症は、食欲のコントロールを失うことで短時間のうちに大量の食事摂取を行ってしまうものです。逆に神経性食欲不振症は、低体重であるにも関わらず自分自身の体型を太っていると認識してしまい、歪んだ認識のもと食事を摂取することが出来なくなるものです。どちらも心理的な要因が根底に生じているという点では同じですが、症状の現れ方や原因が異なります。

神経性過食症(過食症)の症状

神経性過食症は、短時間のうちに大量に食事摂取をするということが代表的な症状です。いわゆる「むちゃ食い」とも呼ばれ、通常の食事の量よりもはるかに多い食事を一気に摂るという特徴があります。また、3時間もかけて食べ吐きを繰り返す人もいます。

しかし、神経性過食症の人は、太ることへの恐怖心も大きいのです。そのため、摂取したカロリーを排出する代償行為として、自分で意識的に嘔吐して食事を戻してしまったり、下剤などで無理に痩せたりするような行動を行います。その他に、うつ病を併発する場合もあります。

神経性食欲不振症(拒食症)の症状とは

神経性食欲不振症は、自分自身の体型に対して歪んだ認識を持っている場合がほとんどです。そのため、標準体重で決して太っていない体型だとしても、本人はまだまだ太っていると認識してしまうことが多く、極端に体重を減らそうと食事を拒んでしまうという症状が現れます。食事摂取が適切になされなくなるため、生理がある女性の大半は生理が止まってしまうという症状が現れます。また、血圧や体温も低くなりがちで、臓器の機能障害(肝臓・心臓)を引き起こすケースも多いです。

神経性食欲不振症の人は、食事摂取量が極端に低いことに加え、活動量を増やして体重を減らそうとする傾向にもあるため、一見元気そうに見えます。ただし、生命の基本的な維持すら危ない状況であるケースが少なくなく、6~13%の死亡率が発表されています。

摂食障害の原因について

摂食障害の原因の1つとして、心理的な要因や文化的な要因があると言われています。しかし、様々な要因が複雑に絡み合っていることも多いです。例えば、現代の日本においては「痩せ願望」を持っている若い女性はめずらしくありません。そのため、まわりの友達などと自分の体型を比較してダイエットを始めることも少なくないのです。バレエ・陸上・体操・フィギュアスケートなどの部活で、顧問から体を絞るように指示され、それがきっかけで、食べることへの恐怖心が加わり、摂食障害を発症してしまうケースがあります。

また、ダイエットだけではなく、思春期に受験で失敗したり、失恋など心理的にダメージを受ける出来事が重なったりすることで、大きなストレスや負担がかかり摂食障害へと繋がるケースもあります。このように、摂食障害の発症には様々な原因が潜んでいるとされています。

生き方としては、相手の気持ちに敏感で察知することが得意、その場を和やかにしたり、ソフトな雰囲気を保つことを得意とする人が多く見られます。

これは、生きていく上では有効な方法なのですが、思春期を迎え、自分の我が育ってくると、この生き方が知らず知らずのうちに、気づかないストレスとして溜まっていくのです。

多くの人はそれでも対人スタイルを変えようとしませんが、たまたまダイエットを始めたときなどに、尋常でははいハマリ方をしてしまうのです。それはストレスを抱えている人が、周りからどんなに止められようともカルトに身を投じるのとよく似ています。

摂食障害はどのような人がなりやすいのか?

先ほども触れましたが、摂食障害は心理的な要因が発症原因に深く関わっていると言うことが出来ます。ただし、ストレスに影響を受けやすい人やストレス発散が苦手な人、外見に対してコンプレックスを持ちやすい人なども、摂食障害になる可能性が高いです。さらに、もともと自己肯定感が低く自分自身に自信がない人も、痩せることで自分の存在価値を見出すケースが多く、摂食障害に陥る危険性があるでしょう。

気遣いのライフスタイルが染み込んでいて、そのストレスに気づかない人たちも予備軍と言えるでしょう。

摂食障害が引き起こす問題とは

次に、摂食障害に陥ることで、どのような問題が引き起こされるのかについて見て行きましょう。

摂食障害は、嘔吐を伴うことが多いです。嘔吐の二次的な症状としては、嘔吐によって胃酸が唾液腺に流れ込み腫れるというものがあります。また、嘔吐時の胃酸で逆流性食道炎になったり、体のミネラルバランスが崩れたりすることで、不整脈や心臓への負担が大きくなるケースも考えられます。さらに、胃酸の影響で歯のエナメル質が溶けてしまい、虫歯のリスクも高まります。

そして、極度の低栄養や低体重による二次的な症状としては、筋力の低下や皮膚の乾燥・変色、生理が止まる、骨粗鬆症などのリスクが挙げられます。また、精神症状としては、気持ちの落ち込みや集中力の低下、希死念慮や薬物への依存、リストカット(自傷行為)などが生じます。

摂食障害は、本人の認識のゆがみから引き起こされるものでもあるため、本人にとっては終わりがなく、常に食に対して怯える状態が続くことになります。それが結果的に、摂食障害以外の症状を引き起こしてしまう原因に繋がるのです。

摂食障害が疑われたら、何科を受診したらいい?

摂食障害が疑われたら、何科を受診したらいい?

摂食障害が疑われたら、一般的には精神科や心療内科で相談するのが良いでしょう。精神科や心療内科では身体的な症状に加えて、心理的な部分へのアプローチも行うので、自傷行為などが現れている場合は、特に早期の受診をおすすめします。ただし、摂食障害や自傷行為の相談に対応していないクリニックもあるので、事前に電話などして確認すると良いでしょう。

また、内科で最初に見てもらうのも良いでしょう。例えば、脳の腫瘍で似たような症状が出る場合があるのです。診察をして、医師が必要と判断した場合は、そこから治療に繋げるための適切な病院へ紹介してもらうことも可能です。何も問題がないとわかったら、精神科や心療内科に相談するのが良いでしょう。もし、病院へいきなり受診するのは気が引けるという人の場合は、地域の保健所や精神保健福祉センターに相談することも出来ます。

摂食障害の検査方法や診断

内科系の病気の可能性を除外するために、MRIなどの検査を行うこともありますが、摂食障害が確定した後の検査方法では、問診と血液検査が中心です。本人が抱えている悩みや考え方を把握していくことで、医師が総合的に判断し、診断することになります。

・問診

摂食障害の診断は、詳細な問診が非常に重要です。問診では、主に生活歴や体重増加に関する本人の認識、普段の食行動などを確認していきます。また、その時に体重と身長から「体重・体格指標」を計算し、摂食障害であるか否かの判断がなされます。

・各種検査

身体的な状況を確認するために、血液検査も行われます。血液検査では、電解質の異常や肝機能・腎機能障害が起こっていないか、低血糖などの有無も調べます。循環系の機能を調べるために、血圧測定や心電図検査も行います。また、甲状腺機能や自己抗体の測定なども行われ、摂食障害に隠れている病気がないかも同時に確認することが大切です。それらの疾患が見つからない場合には、最終的に摂食障害の診断が決定します。

摂食障害の治療方法

摂食障害の治療においては、症状に応じて異なるアプローチ方法が行われます。しかし、神経性過食症と神経性食欲不振症どちらの治療にも当てはまるのが、認知の歪みを修正していく以下のような方法を取ります。

・認知行動療法

一般的によく使われる心理療法は、認知行動療法です。摂食障害は心理的な要因が原因になっている場合が多く、まずは本人の認知のゆがみを直していくことが重要です。考え方の偏りを修正しないまま治療を行っても、また同じようなきっかけがあれば摂食障害を引き起こしてしまう可能性が非常に高いからです。認知行動療法は、医師やカウンセラーなどのもとでグループや個人で4~5ヶ月間行われます。ほとんどのケースでは、週に1~2回程度のセッションが一般的です。

認知行動療法には、主に下記のようなプロセスがあります。

① 低栄養の状態や下剤の乱用、嘔吐に対する医学的なリスクを学ぶ
② 規則正しい食生活で食行動をコントロール出来ることを学ぶ
③ 現在の状態を正しく把握し、将来像とのギャップを知る
④ ストレスに対する食以外の対処法を学ぶ
⑤ 考え方の偏りを理解して、日常生活に活かす

このように、本人が気づかないうちに歪んでしまった認識に気づくきっかけを作り、徐々に食に対する考え方の偏りを理解していくことで、通常の日常生活に近づけていく過程が治療の柱となるのです。

・家族療法

認知行動療法にも限界はあります。

① 成果が出るまで、本人が努力、辛抱しなければいけない。
② 食べる事に対する認知の歪みを治していくのでかえって食べる事を意識してしまい、辛くなる場合がある。
③ 重要な影響力を持っている身近な家族の悪影響を排したり、温かい家族とのかみ合ったサポート関係を構築することが手薄になる。

上記のような問題が出ているような場合には、家族療法が有効です。
但し、家族関係を良くしたり、コミュニケーションをよくするということだけでは、摂食障害は変わりません。摂食障害解決に特化した家族療法が必要です。

詳しくは、当センターの摂食障害のページへ
https://www.yodoyabashift.com/symptom/anorexia/

・薬物療法

摂食障害を根本的に完治させる薬は、現在のところ開発されていません。そのため、治療の中心は摂食障害の発症に大きく関わっている認知の偏りの修正となります。しかし、異常な食行動の影響で確実に体にも影響が出ていることが多いため、補助的な治療方法として必要に応じて薬物療法も並行して行われる場合がほとんどです。

主に、不安感や抑うつ症状が強い人の場合は、抗不安薬や抗うつ薬などを処方し、不眠に悩まされている人には、睡眠薬などが使用されることもあります。

・神経性食欲不振症の場合は体重の回復

3つ目は、神経性食欲不振症の場合の体重回復です。神経性食欲不振症の場合は、極端に体重が落ちているケースが多く、症状が重い場合は生命の危機に陥っている場合も少なくありません。そのため、認知の歪みを修正するよりも先に、体重の回復を優先させることもあります。入院治療が必要となる場合もあります。

例えば、低体重で低血糖を引き起こしているような場合は、精神状態も不安定になりがちです。このようなケースにおいては、まずは体重を増やし、必要な栄養を身体に取り入れることから、治療へと結び付けていきます。

摂食障害の予防方法

摂食障害の予防方法

摂食障害に陥る人の多くは、認識の歪みに気づいていないことが多く、本人というよりも家族やまわりの人が早期に気づくことが予防に繋がります。例えば、家族と一緒に食事を摂ることを避けるようになったり、食事の量を少なくしてほしいなどの要望が生じたり、異常に体型を気にする発言が増えたりすることもサインの1つです。

また、トイレの回数が極端に増えたなど、一緒に生活している家族なら気づける物事が多くあります。このような小さなサインを出来るだけ早く察知し、治療へ結びつけることが摂食障害を悪化させないための方法となります。

摂食障害で受けることのできる支援とは

それでは最後に、摂食障害の人が受けることのできる支援についてご紹介していきます。摂食障害の人は、治療が始まると長期的に通院することになるので、それらを支援してもらえる制度が設けられています。

・自立支援医療(精神通院医療)

まず1つ目は、自立支援医療です。これは、摂食障害を治療するための通院にかかる費用を抑えることが出来る制度です。この制度を利用することで、病院の治療費や薬代の負担が3割から1割に軽減されます。さらに、世帯収入に応じて自己負担額に上限が設定されており、市区町村の障害福祉課などの窓口で申請することが出来ます。

ただし、自立支援医療は精神科や心療内科の外来通院のみで使用できる制度で、入院治療の際は適用しませんので、注意しましょう。

・高額療養費

2つ目は、高額療養費です。これは、1ヵ月の間に医療機関や薬局で支払った医療費が、一定の額(自己負担限度額)を超えた場合に、その超えた分の金額が払い戻されるという制度です。所得や年齢によって自己負担限度額は異なりますが、このような制度も利用することが可能です。

・障害福祉サービス

3つ目は、障害福祉サービスです。障害福祉サービスは、日常生活や就職に関する必要な支援を受けられる制度で、市区町村の障害福祉課などの窓口または指定相談支援事業所に相談すると、利用することが出来ます。

まとめ

摂食障害は体型に悩みやすい思春期の若い女性に多い疾患と言われており、摂食障害を発症していても最初のうちは本人は気づかないケースが多いものです。

神経性過食症では、まわりから見ると食欲旺盛に食べているだけだと思われることが多く、食事の後に本人が嘔吐していたり、下剤を使用していたりすることに気づかれにくい場合がめずらしくありません。また、神経性食欲不振症では、低体重への異常なこだわりから、活動量が増える人も多く、なかなか周囲からは違和感を持たれないこともあります。

しかし、どちらの場合も放置していると体の機能が異常をきたし、生命の危機に陥る可能性が非常に高いため、出来るだけ早く治療に結びつけることが重要です。

2022.11.23  

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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